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DTED・乙女戦士(ヴァルゴファイター)  作者: カタリノ
苛つきは乙女の天敵です☆
16/61

第1話 同族嫌悪

童貞という単語が連発します。

そして童貞を馬鹿にするような発言が多く出るので注意。


「おいちゃーん。これ食べる?」

『ええんか、おいちゃんもらって』

「はい、どーぞ」

「きゃー、おいちゃんかわいい!」

「頬袋すごくない?」


 クラスの女子たち数人に囲まれ、おいちゃんは特大サイズ飴玉を頬張っていた。女子たちはキャッキャ言いながら、おいちゃんの頭をなでたり、頬袋を指でつついたりと楽しそうだ。カケルはそれを見ながら右のこめかみを押さえていた。


「馴染みすぎだろ、あいつ。いいのかこのクラスそれで」


 重くなる頭は一向に回復がみえなかった。

 そんなカケルの前の席に男子生徒Aが座る。本来の席の生徒ではないが、座る際にその生徒に男子生徒Aが借りる旨を告げているので問題はない。


「大地はよーさん。相変わらずしかめっ面だよな」

「で、安倍川は何の用だよ」

「用がなかったら話しかけちゃいけないわけじゃねぇだろ。なはは」


 男子生徒Aもとい安倍川は、声をあげて笑う。カケルはどう反応すべきかわからず、不機嫌そうな顔のままでいた。今までクラスでは他人と距離をとっていたので、関わり方を忘れてしまっていた。

 思わずつっけんどんになってしまっているが、安倍川はそんなカケルの態度すら楽しんでいた。おいちゃんがクラスに現れ、しかもカケルがおいちゃんによって一生童貞の呪いをかけられたと知ってからは、安倍川は気楽にカケルに話しかけるようになった。安倍川もおいちゃんと女子たちの集まりを見ると指さして笑う。


「にしてもおいちゃん、すげぇ馴染んでるよな。このクラスのマスコットだぜ」

「得体の知れない生物が普通に生活するこのクラスがおかしいだろ」

「まぁ、いいんじゃね。おいちゃん来てから水原のやつも機嫌いいし。ってか何で水原はおいちゃんに友好的なんだ?」

「猫好きの猫アレルギーだって」


 カケルの言葉に安倍川は納得したようにうなずいた。担任の水原は学校におけるおいちゃんの預け場所であった。朝のHRで没収され、放課後に生徒指導室で返される。そんな毎日が続いていた。その間は、おいちゃんは水原にとてつもなく可愛がられている。その名の通り猫可愛がりだ。いいのかそれで、とカケルは何度もこのクラスにツッコミをいれたが、まあ平和なのでいいらしい。ちなみに授業中にエビルが出たときは「呪いを解くための試練に行く」という嘘で通しているため、テレポートで姿が消えてもクラスメイトは心優しくカケルを見送っている。

 おいちゃんもこんなにも協力的な環境は初めてらしい。カケルは思った。解せぬと。


「ところでさ、大地くんにお願いがあるんだけど」

「くん付けすんな。どうせ英語か、古典の和訳だろ。言っとくが間違ってても文句言うなよ」

「やってあるだけ全然オッケーだっての。助かるわー」


 カケルがノートを渡せば安倍川は軽い調子でそれを受け取った。どちらも先の授業だから後で写すつもりなのだろう。そのまま席に残っている。授業までに帰ってくれば問題ないのでカケルも文句は言わなかった。





「おい、あいつだろ。一生童貞ってやつ」

「らしいよな。ダッセェ」

「俺だったら恥ずかしくて死ぬって」


 ギャハハハハ、と下品な笑いが廊下から響く。クラス中がそちらに視線を向ければ、別のクラスの3人の男子生徒がカケルを見て嘲笑していた。無駄に着崩された制服から素行の悪さが窺える。誰が見ても気分のいいものではない。安倍川もムッとにらんでいた。

 そして彼らの暴言を受けたであろうカケルはスマフォを取り出す。



「んで安倍川。お前が勧めたアプリゲーム、これどうやって攻略すんの?」


 完全スルーに徹した。急に話を振られた安倍川はきょとんとするが、すぐにそれに対応する。


「あ、ここ初心者は詰まるんだよな。俺有効なモンスター持ってっから、それサポートに使えよ」

「やっぱりこういうゲームって慣れないんだよな。悪いけどすぐやめるかもしれない」

「ああ、気にすんなって。紹介特典でレアモンスター手に入ったし、俺としてはそれで十分十分」


 3人の男子生徒の言葉など、なかったかのように2人は会話する。気にくわないのは無視された3人だ。1人が苛立ちながら壁を蹴り飛ばした。廊下側の席に座る生徒がビクッと驚いた。さらに別の2人が大声がわめき出す。


「無視してんじゃねぇよ! うっぜぇな、てめぇはよ!」

「一生童貞なんだから、せめて会話ぐらい成立させろよな」


 ギャーギャーと、それこそ会話が成立していないからかいがカケルに投げかけられる。カケル自身はどこ吹く風状態だが、安倍川は3人に鋭い目線を向ける。嫌悪感が顔全面に現れている。クラスの生徒たちはカケルをチラチラと見つつも、無視を決め込んでいるカケルに彼らも我関せずを通した。

 安倍川がちょいちょいとおいちゃんを手招きする。呼ばれたおいちゃんは不思議そうに安倍川へと近づいた。安倍川はおいちゃんの後頭部を掴み、3人に向かって投げつける。



『むんぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおお』



 奇声を発しながらおいちゃんは3人めがけて飛んでいく。3人ともギョッと目を剥き、そして真ん中の男の鼻っ柱に直撃した。真ん中の男はおいちゃんの尻尾を摘み、鼻を押さえ安倍川に怒鳴りつけた。安倍川も席を立って応戦する。


「安倍川テメェ何すんだ! 殴られてぇのか!」

「打出、お前わざわざ別のクラスからうるせぇんだよ! 低レベルな悪口ばっか言いやがって!」

「そいつが何も言い返さねぇからだろうが! ってか安倍川がしゃしゃり出んじゃねぇし!」

「大体言っとくけどな、それが見えるってことはテメェら全員童貞だからな! 大地のこととやかく言えねぇだろうが!」


 おいちゃんを指しての発言に、打出と呼ばれた男のみでなく他の2人も口を閉ざす。カケルが安倍川の服を掴んで止めようとするも、安倍川は3人を見たまま鼻で笑う。打出がそれに向かっ腹を立てクラスに入って安倍川に近づいた。


「つまり安倍川も童貞ってことだろうが。一生童貞のやつと傷の舐め合いってやつか、気持ち悪ぃ」

「気持ち悪いのは自分も童貞のくせにそれをネタにするテメェらだろうが。大体打出は双子の妹が人気読者モデルのくせに、その兄が童貞でかつそれをネタに人を貶すとかダサすぎてそっちのが笑えるわ」


 その言葉に打出は顔を真っ赤にして安倍川の胸ぐらを掴んだ。クラスの女生徒が悲鳴をあげる。喧嘩が起こりそうな状況に、カケルも立ち上がった。

 しかしカケルが何をするよりも先に、教室から冷たい声が放たれる。



「何をしている」



 教室に入りながら、水原が冷たい視線で暴動の中心を見つめていた。


「HRを始める。別のクラスの生徒はとっとと自分のクラスに戻りなさい」

「ああ? 指図してんじゃねぇぞ」

「指図じゃない。至極当然の指導だ。時間を守るのは一般常識だぞ」


 水原がそう言い放つと同時に学校のチャイムが鳴る。それが聞こえると、打出は舌打ちをして水原をにらみクラスを出る。そして他の2人とともに自分のクラスへと戻っていった。水原は教卓に立つと生徒たちに席に着くよう促した。

 自分の席に戻ろうとする安倍川の手をカケルが掴んだ。びっくりした安倍川にカケルは謝罪をしようとするが、すぐにそれを飲み込み代わりの言葉を発した。


「ありがとう。助かったわ」


 安倍川はニンマリと笑ってVサインを作った。







 放課後。生徒指導室で毎度のように水原からおいちゃんを返してもらった。


「大地、あまり学校内で騒ぎを起こすなよ」


 朝のHR前に起きたことを言っているのだろう。カケルは素直に頭を下げた。


「俺は関わらないようにしようと思ってます。面倒なことにしかならなそうですし」

「その通りだ。お前の真面目な授業態度とそれなりの成績があるから、授業の急な途中退出も他の先生方に目を瞑ってもらっているんだ。問題事があれば庇いきれないぞ」

「肝に銘じておきます」


 この放課後のやりとりで、カケルの水原に対する印象はかなり変わった。

 厳しさは相変わらずだが、それ以上に生徒のことを深く考えてくれている。そう理解できた。おいちゃんをこれでもかというぐらい可愛がっているので、アニマルセラピー的な要素も否定できないが。

 少なくとも水原が担任でよかったと、カケルは心底思っている。




 生徒指導室を出れば、側で安倍川が待っていた。カケルが出たのに気づくと片手をあげてカケルに近づく。


「今日は一緒に帰ろうぜー」

「急にどうした?」

「ほら朝のことがあるだろ。何もないと思うけど念のため」

「俺の家、ここから近いぞ。安倍川は電車だから駅とは逆方向だろ」

「だから念のためだって。何かあったら、お前逃げられないだろ」


 安倍川は言い辛そうにカケルの右膝を見る。カケルが右膝を故障して走れないことはクラス中の人が知っている。体育の授業があるのだからそれは仕方ないと、カケルはまったく気にしていない。むしろ自分のことを気にして心配する安倍川に、逆に申し訳なさがあった。ただ謝るのも違うと思い、安倍川の考えを受け入れる。


「それなら俺の家寄るか? 遊び道具何もないけど」

「いいのか!? 行く行く!」


 代わりの提案に安倍川はガッツポーズをして喜んだ。あまりの喜びように、カケルも思わず吹き出した。ココロ以外とこんな風に関わるというのが、久しぶりに感じた。


(シュンヤとも仲良くなったけど、今あいつ寮生活で会えないだろうからな。乙女戦士(ヴァルゴファイター)になって胸揉ませろとしつこいから、しばらくは疎遠でいいけども)


 再び仲良くなったシュンヤを思い浮かび、カケルはふと疑問が湧く。


「そういえば安倍川は今朝のアイツらと知り合いとか?」

「2人は知らねぇけど、打出とは同中なんだよ。中学の途中まではあんなんじゃなかったんだけどな。口は悪かったけど、あんな他人を貶すようなやつじゃなかったんだよ」


 安倍川が過去を思い出しながら話を続ける。


「打出は中学野球部のエースでさ。俺の中学野球部それなりに強かったのに、1年からエースになるほど上手くてよ。でもさ中2の終わり頃に右肩壊して野球やめてからあんなんになっちまってさ。同情はするけど八つ当たりされるこっちとしてはたまったもんじゃねぇよ」


 その内容にカケルは足を止める。

 まるで自分のことを言われているようで、顔を歪めて下を向く。安倍川は振り向きカケルの表情に、思わずぎょっと固まった。


「え、俺何か大地に悪いこと言った?」


 そして尋ねる安倍川に、カケルは誤魔化そうとして、それをやめた。

 無理矢理口端を上げて安倍川を見る。


「俺もさ、中学陸上部で右膝壊したんだよ。自分が馬鹿やって壊したってのに、周りに当たり散らして。今でもあのときの自分をクソだと思ってるよ」

「え、あ、ごめん。俺そういうつもりじゃなくて」

「いや、改めて自分馬鹿だったなって反省したよ。それとそんな状態の俺を支えてくれた人と、全部俺が悪いのに距離をとったことを悔やんでる友人がいて、人に恵まれてるって実感した。ありがとな」


 胸に手を当てながら、カケルは充足感でいっぱいだった。

 一瞬地雷を踏んだかと焦った安倍川だったが、カケルの台詞に少々照れる。

 今まで黙っていたおいちゃんがカケルの顔の横で、腕を組み深くうなずいた。


『カケルもオトナになったのう』

「・・・・・・頼むからお前は黙ってろ」


 思わず拳を握るカケルだった。

 安倍川は未だ気まずさが抜けないようで、人差し指で頬をかいた。


「大地がそういうならいいけどよ。それじゃあ、打出のこともあんまひどく言えないか。同情心とかあるんじゃね?」

「同情心? まさか」


 はっと鼻で笑うカケル。





「同族嫌悪で反吐が出る」


 そう吐き捨てた表情に、思わず安倍川もおいちゃんも後退った。

登場すると無駄に話が長くなる登場人物

ココロ

おいちゃん

安倍川←new

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