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おしまい

5章以降の話しを荒々しくまとめました。

 レゲネラツィのリーダーから告げられた通り、多種族国家ル・ジに訪れたエフィム達。鬱蒼とした密林と、ならず者が多い土地をカイムの案内で進むと、不可視の結界の奥にある集落に辿り着く。

 人目を憚って存在する集落で、エフィム達は魔女アスラ・デマレールと、彼女に憑依しているバフォメットと会合する。

 カイムの具現水晶魔術の師匠でもあるアスラから水晶を補給し、バフォメットをルシファーの支配下に戻したところで集落に騒動が起きる。

 魔女の家から出て目にしたのは、宙に浮かぶ青年と、彼の持つ大剣に斬殺される人々の姿だった。青年は自身をガブリエルと名乗り、邪な術である魔術を使用する魔女が住む集落を滅ぼしに来たことを告げる。

 大剣と水の聖術、更に神の言葉と呼ばれる特殊な力を使うエフィム達であったが、バフォメットの魔術、アスラとカイムの具現水晶魔術の協力を経て撃退に成功する。

 壊滅した集落では生活も儘ならず、結界も破られた土地では士師団から身を隠す事もできないため、アスラを仲間に加えたエフィム達はル・ジを後にするのだった。




 ル・ジを出たエフィム達は北へと向かい、近未来的国家ジャ・ポスへと辿り着く。高層ビルが乱立する都市の中心地には天にも届く棟が立っており、ルシファーより棟の中から悪魔の気配がすると聞かされる。

 棟の中に入ろうとしたところで、クオリアと合流し、棟では人工的に術の才覚を開くための実験が行われていること、クオリア自身が棟の出身であり数少ない成功例であることを知らされる。

 エフィムは悪魔の回収、クオリアは施設の破壊を目的にし棟の攻略に挑むが、上階へと進むには施設内にある二つのセキュリティを同時に破壊する必要があった。

 二手に分かれてセキュリティを破壊し、合流したエフィム達は上階へと進むが、そこでは子供たちに対して凄惨な実験が繰り広げられていた。設備諸共に子供たちへ魔術を放つクオリアを止めようとするが、部外者のエフィムには止める資格がないと思い知らされる。戦意を失いかけるエフィムであったが、ネイトの励ましとルシファーの叱咤により立ち直り、悪魔アシュタロスの気配を辿って最上階へ向かう。

 アシュタロスを憑依させられ、幾度となく実験の対象とされた少年は既に自我を失っており、寝ている間以外は暴走状態に陥るため、職員の手で眠らされていた。しかし、エフィムの侵入で混乱した職員の手により眠りから目覚め、職員を抹殺、エフィムへと襲い掛かる。

 少年の怒涛の攻撃により何度も窮地に陥るが、バアルを取り込んだことで得た人類へ捧ぐ蛇の輝きインドゥクセロ・ウィズドムによる再生能力で長期戦を仕掛ける。結果、少年の体は強大過ぎる力に耐えきれず自壊。放出されたアシュタロスを回収した。だが、激闘によりエフィムの体も限界に達しており、戦闘終了と共に気を失ってしまっていた。




 エフィムが目を覚ますと、見覚えの無い施設にいた。状況を確認しようと部屋を出たところでロザリアと出会い、レゲネラツィの本拠地であることを知らされる。

 ロザリアに案内された部屋では仲間達と、レゲネラツィのリーダーであるシュバルツが待っていた。

 シュバルツより、レゲネラツィは訳あって信仰心を無くした人間達を集めて出来た組織であり、現在は人間が神の手を離れて自力で生きる為に活動していることを知らされる。が、これにカイムが激昂。シュバルツが我欲の為に利用していることを糾弾する。

 突然の事態に困惑するエフィム達だが、ここでカイムとシュバルツが旧世界の生き残りであることを打ち明かす。

 旧世界の最期。あらゆる生物が死に絶える中でも人間は争いを止めなかった。カイムは政府軍として、シュバルツは反乱軍として幾度となく対峙した関係であった。もはや反乱を起こすまでも無く壊滅が見えていた政府であったが、シュバルツは己の戦闘欲を満たす為に戦いを起し続けた。戦いによって得られたのは、人類滅亡を早めたという結果だけだった。

 死に際の二人に神の声が届いた。旧世界末期、生物は例外なく死に際に神の慈愛を授かることができた。

 カイムは何も望まなかった。穏やかな死も、転生も、死後に親しい者と出会うことも。

 シュバルツは我欲のままに望んだ。生を、悦を、争いを、神の地位を。

 二人の望みに嘆いた神は、カイムには不老不死の祝福を、シュバルツに不老不死の呪いを与えた上で、現代に転生させた。

 現代に転生したカイムは長い葛藤の末、輪廻の外に出ることで実質的な死に至れると結論付け、旧世界の汚物であるシュバルツを探していていた。その途中でエフィムとルシファーと出会い、悪魔の力を利用して輪廻の外に出ることを考えたことを告げた。


 話し終えると静寂が訪れるかと思われたが、シュバルツは「過去は過去にしかすぎない」と不敵に笑い飛ばしながらもカイムが言ったことを肯定した。その上で、先ほど伝えた目的が本心であることを伝え、ルシファーの目的が果たされることを望み、協力することを約束する。その証にシュバルツは自身に宿っていたメフィストを無条件に差し出した。

 シュバルツを不信に思うエフィムだったが、妹のマルカの名前を出され、ルシファーからも尻を叩かれては断ることは出来なかった。

 カイムの忠告を聞きつつも、レゲネラツィ協力の下、群島国家シホンにある人獣の里を訪ねることになる。





 ロザリアとアメリ―はレゲネラツィ本部に残り、少なくなった人数でシホンに辿り着いたエフィム達を待ち受けていたのは、人獣族と士師団の抗争だった。

 エフィム達の介入によって士師団を退けた後、族長の娘である狐の少女アヅチ・コセンより、抗争の理由が天使が宿る首飾り——神器を巡ってのことであることを知らされる。士師団側が保管を目的とするならば人獣族側が反対する理由はないが、士師団は邪教と謳って虐殺を始めたのだ。

 ルシファーにより神器に宿っている天使の名前がネビロスであり、悪魔であることを説明されると、コセンを含めた人獣族はエフィム達に激しい罵りを浴びせる。神器を持ってシホンから出て行けと憤怒する民に成すすべなく国を出るエフィム達。その直後、抗争で重症を負っていた族長が「たとえ神器が無くなろうとも、士師団が一度敵対した者をタダで済ます訳がない」と諭す。

 絶望に打ちひしがれる中、コセンは一つの決意をする。それは里に伝わる神秘の力、空狐の力を継承することだった。強力な神通力を得られるが、継承には強靭な精神力が必要とされ、継承に失敗して廃人となる例も少なくない。それでも一族を守るためと覚悟を決め、空狐の儀式を受けたコセンは辛くも継承に成功。直後に攻めて来た士師団を圧倒する。だが、継承して間もないコセンでは歯が立たない存在が現れる。天使ラファエルだ。

 あらゆる術を無効化し、あらゆる傷をたちどころに治してしまうラファエルに、人獣族は徐々に押されてしまい、コセンも負傷してしまう。士師団の凶刃がコセンの首を捉える瞬間、エフィム達が介入。形勢を押し返す。

 ほぼ全ての悪魔を取り戻し、アシュタロスと共に取り戻した超攻撃型の力、赤き竜の七つの光シングム・ペースクティオンを発動させたルシファーを止められる者はおらず、接近戦が得意でないラファエルも例外ではなかった。術を突破され、あわや、という所でウリエルに割って入られる。

 ウリエルごとラファエルを倒そうとルシファーだが、ウリエルは全く取り合わず、ラファエルを連れて天界へと転移した。

 幹部の半数を失った士師団は、屍の山を作った張本人であるエフィムを悪魔と呼び、逃げ帰っていく。

 感謝と憎悪、二つの感情が籠った瞳に見据えられたエフィム達は、何も言う事なくシホンを後にするのだった。




 最後の悪魔を探す度に出るエフィム達に、シュバルツから連絡が入り、竜人国家ラーカプムへ向かうよう指示を受ける。

 ラーカプムへ着くとアイラの様子に異変が生じ、原因を探る為、アイラの指示の下ラーカプムを旅する。

 辿り着いたのは険しい山脈の麓の村。旅の疲れを癒すために宿で寝ていると、アイラは自意識の無いまま山へと入り、洞窟に囚われていた一人の竜人と出会い、直後、二人の体は内側から噴出した黒い泥に飲まれた。囚われていた竜人はアジ・ダハーカを宿していたのだ。

 黒い泥は山を溶かし、崩れた土砂をも自身の一部としながら村を襲う。騒ぎを聞いて目を覚ましたエフィムは、数えきれない触手を生やした獣の泥を目にする。

 ルシファーより、かつて倒した筈の絶対悪——アンラ・マンユが完全体となって復活したと知らされ戦慄するが、その間にも際限なく流れ出る泥は村を、土地を蝕んでいく。

 兎にも角にも逃げるしかないと判断するエフィムであるが、ネイトよりアイラが居ないことを知らされ、直観的にアンラ・マンユに取り込まれたと悟る。

 撤退を強調するルシファーに反し、エフィムは光りをもたらす者チェージディ・アルチェンズィを展開。アンラ・マンユとの戦いに挑む。だが、完全体となったアンラ・マンユの泥は全てを蝕む。瞬く間に光りをもたらす者チェージディ・アルチェンズィを剥がされてしまうが、即座に人類へ捧ぐ蛇の輝きインドゥクセロ・ウィズドムを展開。もう引けないと覚悟したルシファーは、自信と部下の力を全て人類へ捧ぐ蛇の輝きインドゥクセロ・ウィズドムに注ぎ、エフィムの腐り落ちる体を超速で再生しさせる。


 泥を渡り切り、アンラ・マンユ本体に取り付いたエフィムはそのまま体内へと侵入。何度も全身が解ける苦痛を受けながらも、気を失っているアイラに手が届く。アイラを起こすことに成功するが、アイラに触れた右腕が肩から腐り落ち、再生すら不能に陥る。

 狼狽するエフィムに、アイラはただ謝罪の言葉を叫ぶだけで、このままでは二人とも完全に絶対悪に堕ちてしまうかと思われた瞬間、アイラの身に着けていたブローチから双子の妹——マユラが精神体となって姿を現した。マユラはアイラを泣かしたことを罵るが、本気で助けてくれようとしたことに礼を言ってアイラに目配せした。

 双子だからか、それともブローチを通じて意思が共有されたのか、アイラは一瞬驚きこそしたが、直ぐに悟ったような表情で頷く。そして、自身とブローチを破壊してほしいとエフィムに頼む。

 何を馬鹿な、と叫ぶエフィムに、アイラは穏やかに自分の体の状況を告げる。泥に囲まれて見えないが、既に四肢は飲み込まれてしまっており、全身が、意識が飲み込まれてしまうのも時間の問題だった。

 絶望するエフィムに、アイラは自由が利かない体を賢明に動かし、額を重ねる。そしてアイラとマユラ、二人の意思がある間、絶対悪はまだ完全に存在を確立できていないこと、存在を確立するには制御体であるアイラとマユラの魂を体内で融合させ、核にする必要があることを教える。つまり、アイラとマユラは絶対悪を封じるための制御体でありながら、絶対悪の存在を現世に確率させる核であったのだ。


 それでも、と叫ぶエフィムであったが、覚悟を決めて寄り添う双子、決断を急かすルシファー声に、自身の中にあった希望や可能性を全て捨て去った。同時に声を、感情を捨て、赤き竜の七つの光シングム・ペースクティオンを展開。自身の体が腐り切る前に力を集中させ、爆発を引き起こした。

 消し飛ぶ景色の中、アイラは泣きながら笑い、マユラは悔しそうに笑い、そして二人は声を重ね「ありがとう。妹さんを大切にね」と残して消失した。エフィムの絶叫は誰にも届かなかった。





 次にエフィムが目を覚ますと、随分と懐かしい天井が視界に映った。自宅だ。自室の天井だ。

 茫然とする意識の中、今までのは全て夢だったのかと思いながら体を起こそうとして、右腕の異変に気付いた。腕はある、動かすのも問題ない。けど、どうしたことだろう、神経が通っていないかの如く何も感じないのだ。

 焦りながら袖を捲ると、指先まで綺麗に包帯で巻かれている腕があった。恐る恐る包帯を取ろうとしたが、一瞬早くドアが開かれ、妹のマルカが現れた。

 何故自宅に帰って来ているのか状況が分からないレイホを置き去りにして、マルカは「お兄ちゃんが起きたー!」とはしゃぎながら抱きつき、一頻り体温を堪能した後、家中に知らせ回った。

 家に居た仲間はネイトのみで、家族に無事を伝えた後でこれまでの経緯の説明を求める。アンラ・マンユを倒した後、腐りかけたまま気絶したエフィムの体はルシファーが代わりに人類へ捧ぐ蛇の輝きインドゥクセロ・ウィズドムを展開して再生させた。意識までは戻らなかったが、あのままラーカプムに滞在していては竜人に捕まって処刑される可能性があった為、北に位置する国、エウメプへと逃げついでにレイホの故郷まで帰って来たのだそうだ。

 アイラとマユラの最期を思い出して泣き出すエフィムを、ネイトは優しく慰めた。

 エフィムは落ち着いてから自身の右手について聞くが、明確な答えは帰って来なかった。黒い泥のような腕が取り付いているが、それが何なのかは誰も分からないのだ。

 包帯を取って見ると、ネイトの言う通り黒い泥の腕があり、試しに色々と動かしてみると感覚が無いだけで問題なく動いた。左手で触れると、ゼリーのような弾力があったが、崩れることは無さそうだ。

 ネイトに包帯を巻きなおして貰いながら、この右手はアイラとマユラが付けてくれたのだと思い込み、心の中で感謝の言葉を述べた。


 それから数日はこれまでの戦いが嘘だったかのような平穏が訪れた。最後の悪魔を探さねばならないと言うのにルシファーが急かして来ないのは、アイラとマユラの件で精神的に深い傷を負ったのを気遣ってのことだった。

 ある日、町に宿を取っているカイムの元へ行き、鈍った体を動かして家に帰ると、玄関を跨いだ瞬間に張り詰めた表情のマルカが駆け寄って来て、追い出されてしまう。

 何が起きたか分からないが、状況はエフィムの理解を待ってはくれない。激しい爆風が全身を襲い、吹き飛ばされた。その瞬間、体の制御をルシファーが奪い、空中で受け身を取る。普通の人間ならば意識を失う、もしくは死に至っていたが、エフィムの体は右腕の包帯が焼け落ちたのと、幾つかの掠り傷程度に済んでいた。

 体の中で意識だけ存在するエフィムが視覚を通じて見たのは、燃える瓦礫と化した自宅だった。

 意識だけのエフィムは体を動かすことも、声も出せなかったが、それでも喉が張り裂けるほど叫んだ。

 嘘だ、嘘だ、と。家族の名前を。言語化できぬ叫び声を。生きているかもしれない、早く家に行け、とルシファーに縋り付くが、帰って来たのは「余計苦しくなるぞ」という冷静過ぎる言葉だけだった。

 泣き叫ぶエフィムを置き去りにして、天から一人の男が舞い降りる。天使ウリエルだ。

 ウリエルは「惜しかった」と、マルカの介入を意外半分、憎さ半分といった感情で口にした。

 ルシファーが怒号と光線を発しながらウリエルに突撃するが、突然体の制御が効かなくなった。かと思えば赤き竜の七つの光シングム・ペースクティオンを展開し、ウリエルに殴りかかる様を三人称として見ていた。そう、体の制御をエフィムに奪い返されたのだ。本来、悪魔であるルシファーが奪う事はできても人間のエフィムが奪い返すことはできない筈なのに、だ。


 叫ばず、涙だけを流しながら連打を浴びせるが、その攻撃は直線的過ぎた。ウリエルには見切られ、反撃まで許す。組み伏せられ、腹に地面が陥没する程の衝撃を受けた。赤き竜の七つの光シングム・ペースクティオンが解除され、激痛で全身がバラバラになりそうになったが、エフィムは咆哮を上げて右手でウリエルの右腕を掴んだ。するとどうだろうか、かつて自分の右腕がそうなった様に、ウリエルの右腕が腐り落ちた。

 流石に驚愕を隠せないウリエルは後退するが、痛覚も恐怖も忘れたエフィムは尚も悪魔の力を攻撃に全振りし、再展開不可能になった筈の赤き竜の七つの光シングム・ペースクティオンを右腕意外に纏わせたのだ。

 目の前の現実に圧倒されるルシファーだが、このままでは戦いが終わると同時にエフィムの体が壊れてしまうことを危惧し、どうにか体の制御を奪おうと試みる。しかし、今のエフィムの精神には一部の隙すらない。家族の仇であるウリエルを殺すまで止まらない。悪魔の中でも上位であるバアルとアシュタロスが不安を漏らすが、どうすることもできないのだ。


 片腕を失っても冷静さを失ってはいない。ウリエルの戦法は空から聖術に変わるが、人外の動きをするエフィムを捉えることは難しく、上手く誘導したとしても例の右腕に術が腐らせてしまうのだ。

 イレギュラーな事態に、単体では対処が困難だと判断したウリエルは天界へと撤退するのだった。

 翼を持たぬエフィムではウリエルを追撃することは叶わないかに思えたが、右手を天にかざし、天を腐らせ始めたのだ。

 初めてウリエルが狼狽したが、エフィムの行動はネイトの抱擁によって止められ、腐りかけた天はどうにか平時の通りに戻った。そして、怒りの対象を失い、人の温もりで正気を取り戻したエフィムは気を失うのだった。




 意識を取り戻したエフィムはアイラとマユラに続き、家族を失ったことで抜け殻のようになったが、辛うじて残っていた、ネイトへの感謝と謝罪によって精神の崩壊は免れていた。けれど、その体は首元と胴体の右半分が黒い泥に侵食されていた。

 やろうと思えばルシファーが体を動かすことはできたが、流石の悪魔の王でもそれは憚られた。

 放心気味のエフィムの元に、シュバルツがツァピン司祭を連れて現れる。そして、失ったものを取り戻す手段として、輪廻を回すことを提案する。これにルシファーは激しく反対するが、シュバルツは「ルシファーがそのまま目的を果たしても問題はない」と言い切る。思考能力が低下しているエフィムに意味は分からなかったが「家族を、不幸な姉妹を取り戻すことができるなら」と力ない声であったが、先に進む意思を示した。

 エフィムの意思を尊重し、ツァピン司祭は持ってきた箱から羅針盤——神器を取り出し、宿っていたルキフグスをルシファーへ返した。

 全ての悪魔を取り戻したルシファーだが、その顔は明るくない。そのことに理由を含めて知っていたのはシュバルツだけだが、彼は触れずに話しを進めた。

 ルキフグスの能力により、天界へ続く道——旧世界の奇跡の在り処が判明し、向かう際はシュバルツ含めレゲネラツィ総出で協力すると約束した。カイムはシュバルツの本心を聞き出そうとするが「口から出た言葉が本心」と返され、取り合っては貰えなかった。


 暫しの休息の後、エフィム達はレゲネラツィ協力の下、教会国家ゴードヴィッドを襲撃した。レゲネラツィの構成員が各地で騒動を起こし、エフィム、ネイト、カイム、アスラ、シュバルツ、クオリア、アメリ―、ロザリア、ヘルムートで大聖堂に侵入。士師団の残りの幹部を撃破し、地下にある大迷宮はルキフグスとメフィストの導きにより容易に突破。ついに旧世界の奇跡のある祭壇まで辿り着くが、待ち構えていた大司教がその身を捧げて天使ケルビムを本来の姿で現界させた。

 九人での突破を目指すかと思えば、シュバルツが「ここから先はこの時代の子達に任せませんか」とカイムに提案。二人がケルビムを押さえている内にエフィムら七人はネイトの聖術によって旧世界の奇跡を起動。天界へと向かった。

 カイムと二人、ケルビムと対峙することになったシュバルツは戦闘狂としての本性を露わにし、カイムへ「あの日の続きだ。どうせ死なねぇんだ、この世界が廻るまで楽しもうぜ」と襲い掛かった。憤慨するカイムであったが、自衛しない訳にはいかない。他に誰もいない大迷宮で、三つ巴の戦いが始まるのだった。


 雲の上の様な天界に着いたエフィム達は、ルシファーの案内で果ての無い道を進んで行く。すると、四大天使——ミカエル、ガブリエル、ラファエル、そして隻腕のウリエルが往く手を阻んだ。ミカエルは「エフィムとルシファーを差し出せば他の人間の罪は不問にする」と条件を示したが、ヘルムートが言葉の途中でウリエルに斬り掛かった為に交渉の余地など無かった。

 ヘルムートは自身の妹も悪魔を宿してしまったが為にウリエルの手で殺された経緯があった。エフィムと何度も対峙した存在であるが、今はエフィムの怒りの代弁者となっている。道中、本人は「俺の方が先に借りが出来てんだ」と言ってウリエルの相手を譲らなかったが、ウリエルに向けられる怒気には間違いなくエフィムの分も乗せられていた。

 始まった戦いはもう止められない。天使対人間と悪魔の、最後の戦いが始まったのだ。

 人数では勝っていても、自力は天使の方が上である。主にルシファーがミカエルを、ヘルムートがウリエルを、ロザリアがラファエルを、アメリ―がガブリエルと対峙し、クオリアとアスラが全面的な後方支援を行っていたが、じわじわと押されて来ていた。

 ネイトは天使に聖術が効かない事と、他の仲間よりも近接能力に劣っていることから、味方の回復以外ほとんど戦いに参加できていなかったが、焦れて何かしようとすれば、それを起点に均衡はあっという間に崩れ去ることも理解していた。


 私怨があるということでミカエルの相手をルシファーに任せていたが、光りをもたらす者チェージディ・アルチェンズィ人類へ捧ぐ蛇の輝きインドゥクセロ・ウィズドム赤き竜の七つの光シングム・ペースクティオンの三つの能力を行使できるようになった今でも攻めあぐねいていた。

 精神体となったエフィムが周囲に意識を向けると、次第に傷付いていく仲間達が目に映った。

 これじゃ駄目だ。また失ってしまう。

 無意識の内にエフィムはルシファーと入れ替わり、右腕の力を使った。ミカエルの左腕を、三対の翼の内半分を次々と腐らせ、自身の体も同時に蝕まれていく。ミカエルの劣勢を悟ったラファエルとガブリエルが援護に走るが、ミカエルの傷は癒えず、エフィムの腕は斬っても直ぐに再生した。それどころか、落ちた右腕が触手となってガブリエルに襲い掛かり、その頭部を貫き、傷口から体内をに侵入して腐らせた。そして、腐ったガブリエルの死体は崩れ落ち、腐りは天界を蝕んで穴を開けた。

 誰も彼もが驚愕する事態であったが、一人、復讐心のままに刃を振るう戦士が居た。ヘルムートだ。彼の斬撃はウリエルを袈裟に斬り裂き、よろめいたウリエルの体に蹴りをぶち込んだ。そして、開いたばかりの穴に堕ちていくウリエルへ、親指を下に向けながら「天国は妹達のためのもんだ。畜生は地獄に堕ちな」と吐き捨てた。


 四大天使が半数になってしまい、ミカエルはラファエルの手を借りて穴に落ちないよう、飛翔する。魔術で空を飛べるのクオリアが追撃しようとしたが、エフィムが静止する。それどころか「もう大丈夫だから。ありがとう」と撤退するように告げた。

 意義を唱える仲間に証明すべく、エフィムは右腕を経由して背中に意識を集中させると六対の翼を生やした。これに驚愕したのは他ならぬルシファーだ。部下である悪魔が一体殺されてしまったため、その姿に至ることが出来ないと思い込んでいたのだから当然である。尤も、翼は生命を宿した物ではなく、その逆、万物を朽ちさせる為の物だ。

 半身が黒い泥に侵食されたエフィムは仲間達へ振り返り、何かを言おうとして……諦めた表情をした。そんなことで仲間達が納得する筈はなかったが、ネイトの説得によって渋々ながら撤退を受け入れる。各々がエフィムへ激励を放ち、最後にネイトが「あなたがあなたでなくなっても、また会いましょう」とぎこちない笑顔で告げて行った。

 声を発せぬエフィムは心の底から「ありがとう」と思い、空で漂っている天使を見上げると、穢れを撒き散らしながら羽搏いた。


 ミカエルが逃げるように叫ぶが、理解の及ばぬ事態に硬直するしかないラファエルは動かない。

 二体の眼前に迫ったエフィムは、左腕を振り上げ、ありったけの力を籠めてラファエルを殴り、ミカエルを蹴り飛ばした。

 ラファエルは硬直した表情のままミカエルを手放し、穢れで開いた穴に堕ちて行ったが、ミカエルはエフィムの左足を掴んでいた。そして「我らが滅びようとも、ルシファー、貴様だけは……貴様だけは神にさせるわけにはいかない」と吼えた。

 エフィムが蹴り落とそうとして右足を上げた時だった。エフィムの体から何かが抜け落ちる感覚と共にミカエルが落下して行ったのだ。エフィムは目を見開き、同じ顔をしたルシファーを視線を交わした。

 手を伸ばすルシファーを追って降下するが、ミカエルが聖術で邪魔をし、遂に二体は穢れの穴に堕ちていった。穴の中に入ろうとしたエフィムだが、直観が警鐘を鳴らした。この先に行ったら戻って来れない、と。ルシファーの姿が見えなくなる直前「行くな」と叫んでいたが、ルシファーと悪魔の力が全て抜けたエフィムに戻る力は残っていなかった。

 穢れの翼を操って天使が塞いでいた道の先を進むと、不可視の扉を見つけた。不可視の物を見つけたと表現するのは適切ではないかもしれないが、少なくともエフィムは見つけたのだ。


 扉を押し開けた先にあったのは、ただの白い空間だった。そこではすべての物が白い空間。人の体も、穢れも、全てが白。

 白くなっていく意識と視界の中、エフィムは「これが神様の姿なんだ」と悟り、孕んでいた怒りも、憎しみも、その身に宿した穢れも、全て白に還った。





 穏やかな陽光に照らされ、エフィムは目覚める。眩しくて目をこすりながら意識を覚醒させていく。

 体は硬い木の上にあるのに、頭は柔らかく、心地良い温かさを感じる。


「目が覚めましたか」


 頭上から降って来た声に、視線を公園で両親と遊んでいた双子の姉妹から、恋人のネイトへと移した。いつもの半眼に見下ろされると不思議な安心感がある。

 ネイトとは高校の同級生として出会い、愛想があるわけでも口数が多い訳でもない彼女をにどうして好意を持ったのか……エフィムがぼんやりと考えていると、ネイトが顔をあげ、入れ替わるように妹のマルカの顔が間近に表れた。


「わっ!」


「うわ!」


「あっはは! お兄ちゃん、予想通りの反応ありがとう! そんで昼間っからネイトさんとイチャラブごちそうさま」


「イチャラブって……」


 ネイトの膝枕からようやく離れ、体を起こす。


「イチャラブじゃん。彼女に膝枕してもらうなんて!」


 反論してもマルカを楽しませてしまうだけなので溜め息だけ吐く。


「はぁ…………」


「なーに? 見つめるのは隣りの人でしょ」


 言われるがまま、ネイトを見つめる。


「あぁ……幸せだな」


 無意識の呟きに、ネイトは半眼をちょっとだけ開いて頬を染める。


「うひゃぁ、アツいアツい。お兄ちゃん、流石に妹の私でも恥ずかしくなるよ」


「あれ、なんでだろ……こんなこと言うつもりじゃなかったんだけど……ネイトとマルカの顔を見てたら、つい」


「えっ、私も!?」


 どうしてだろうと捻った首で、楽しそうに遊ぶ姉妹を見る。


「……ま、幸せならいっか」


「えぇ……ネイトさん、こんなお兄ちゃんですが、どうか愛想尽かさないでやってください」


「はい。大丈夫です。……今のエフィムさんが、私の好きなエフィムさんですから」


 まさかネイトからも惚気発言が出るとは思っていなかったのだろう。マルカは「ひゃ~……お邪魔しました」と小さい悲鳴を上げて立ち去って行った。「夕飯までには帰って来るよーに!」と残して。

 嵐が去って茫然としていると、ネイトが「本当に、お疲れ様でした」と言って凭れ掛かって来たので、「マルカの相手を」って意味として捉える。


「お互い様だよ」


 平穏な日々は緩やかに過ぎて行く。

 それはきっと今日も明日も変わらないだろう。

 けれど、退屈だとは思わない。

 隣りに寄り添う人がいるから、というのは間違いじゃないけど、多分、俺は…………

 この世界が好きなんだと思う。



そのうち活動掲示板で書きます。

3月27日、記述しました。

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