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一口惚れの恋の味  作者: 猫塚ルイ


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第十二話 真実の独白

数日が過ぎ、私の心も体も、乾いた砂のように崩れかけていた。


あんなに大好きだった料理を作る時間も、今はただ苦痛でしかない。


味覚は死に絶え、何を作っても灰を噛んでいるような心地だった。


鏡に映る自分は、幽霊のように青白くやつれ、瞳からは光が完全に消え失せている。


そんな私たちの、あまりにも歪な断絶を見かねたのだろう。


鳳凰館の女将さんが、強引に煌様を奥の控え室へと連れ込み、私をその中へ押し込んだ。


「話が終わるまで、誰一人としてここを通らせませんし、開けさせませんからね」


冷徹な響きを含んだ声と共に、ぴしゃりと襖が閉められた。


外からガチャンと閂が下ろされる音が響き、密室が完成する。


狭い室内には、私と、煌様の二人きり。


沈黙が澱んだ水のように重く沈殿する。


私は膝を抱えて俯き、肩の震えを止めることができなかった。


煌様は何も言わず、ただ無力に立ち尽くしている。


その沈黙が「拒絶」に感じられて、私は耐えきれなくなった。


煌様が私に背を向ける


「……煌、さま……っ」


その背中に、なりふり構わずしがみついた。


煌様の腰を、折れんばかりの力で抱きしめる。


軍服の分厚い生地越しに、私の熱い涙が一点に集中し、じわじわとあの方の肌にまで染み込んでいくのが分かった。


「お願いします……っ、どうか、そんなに冷たく、しないでください……っ。私、なんでもしますから。お掃除も、お料理も、もっと……もっと煌様のご期待に沿えるように頑張りますから!」


「だから、嫌いにならないでください………っ」


声が次第に乱れ、息がうまく吸えなくなる。


喘ぐような悲鳴を上げながら、私は必死に懇願した。


「なんでもしますから」──


その言葉を口にした瞬間、煌様の体が凍りついたように強張ったのが分かった。


あの方は軍人としての仮面をかなぐり捨てるようにして、振り返ると同時に私を正面から抱き寄せた。


「雪、落ち着け。……すまない、なんでもするなんて言わないでくれ…君は十分してくれてるんだ…全部、私が間違っていた。だから…泣かないでくれ」


折れてしまいそうなほど細くなった私の背中を、あの方は何度も、何度も、祈るように優しくさすってくれた。


激しい呼吸が少しずつ整い、嗚咽が静まるのを待ってから、煌様は私の濡れた頬を大きな両手で包み込み、堰を切ったように真実を語り始めた。


「……君の過去の話を、女将から聞いたんだ。君の髪のこと、そして……かつての軍人の男のことを」


煌様の腕の中で、私の心臓がドクリと跳ねた。


全身が、獲物のように強張る。


「そのときに、君と距離を置くように女将に言われたんだ」


「女将さんが……?」


「だが、私の意志の元だ。私の存在が、君を再び汚れた噂の的にしていると知った。私のせいで君が『泥棒猫』などと罵られ、仲間外れにされているのが耐えられなかった」


「……軍人である私が側にいれば、君の過去の傷を無遠慮に広げるだけだと思ったんだ。君をこれ以上汚さないために、私が君の視界から消え、冷徹な客を装い線引することだけが、唯一の守り方だと信じ込んでいた」


あの方の、独りよがりで、あまりにも不器用な告白。


それを聞いて、私は大きな瞳からさらにポロポロと涙を零し、子供のように顔を歪めて泣きじゃくった。


「そんなの……あまりにも寂しすぎます…っ。煌様がいなくなることが、私にはどんな噂よりも、一番の傷つくんです…」


「雪…っ」


「本当に私を守ってくださるなら……どうか、お側にいてください……っ」


私の慟哭に、煌様は苦しげに顔を歪めた。


あの方は私を壊れ物のように、それでいて決して離さないという執念を込めて強く抱きしめ


私の耳元で必死に言葉を重ねた。


「すまない、雪。本当に……愚かな真似をした。だが、今、公式に私たちが親密であることを示せば、君が鳳凰館での居場所を完全に失ってしまうのも事実だ」


「…そんな……っ」


「……だから、お願いだ。今はまだ、表向きだけは距離を置かせてくれ。君を蔑む奴らを黙らせ、君を公式に、軍の権力をもってしても手出しできない存在として守り抜くための力を、盾を用意する時間を私にくれ」


一人の男としての、魂を削るような説得。


私はしばらくの間、あの方の胸に顔を埋めて震えていたけれど


やがて小さく、微かな、けれど確かな声で答えた。


「……分かり、ました…煌様の、おっしゃる通りにします。煌様が私のために戦ってくださるなら、私は……」


「ああ。だが約束しよう。誰の目もない、この二人きりの時だけは……私は君のものだ」


私は、あの方の苦渋の決断を、唇を噛み締めながら受け入れた。


廊下の向こうには依然として、私を追い詰める冷たい視線と悪意が溢れているだろう。


けれど、私たちの間には、誰にも知られてはならない


そして誰にも壊せない「秘密の協力関係」が結ばれた。


繋がれた手のひらの熱だけが、偽りの断絶という長い冬を耐え抜くための


たった一つの、けれど消えることのない灯火だった。


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