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『心の底で、もう一人の自分が待っていた』


白い光に包まれた瞬間、 カズマの足元がふっと消えた。


落ちていく―― どこまでも、どこまでも。


音も、風も、感覚もない。 ただ、胸の奥だけが痛む。


(……また、ここか)


視界がゆっくりと開ける。


そこは、 前にも来た“真っ白な空間”だった。


床も壁も天井もない。 ただ、静寂だけが広がっている。


カズマは息を呑んだ。


「……また……落ちてきたのか……」


その時。


「遅かったな」


背後から声がした。


振り返ると―― そこにいたのは “猫の姿をした未来の自分” ではなかった。


今度は、 “人間の姿のカズマ”だった。


しかし、 その表情はどこか冷たく、 瞳の奥には深い影が沈んでいた。


「……お前……誰だ?」


もう一人のカズマは、 ゆっくりと歩み寄りながら言った。


「俺は“スルーを失った未来のカズマ”。 お前が“選ばなかった未来”の……残骸だ」


カズマの胸が強く痛む。


「……残骸……?」


未来カズマは笑った。 その笑みは、どこか壊れたように見えた。


「スルーがなくなると、 世界は……うるさすぎるんだよ」


その瞬間、 白い空間に“音”が流れ込んだ。


怒号。 嘲笑。 舌打ち。 深夜の蛍光灯の唸り。 誰も助けてくれなかった部屋の記憶。


カズマは耳を塞いだ。


「やめろ……!」


未来カズマは首を振る。


「やめられない。 これは“お前の心”だ。 スルーが揺らげば、全部戻ってくる」


カズマは震える声で言った。


「……僕は……もう……あの頃には戻りたくない……」


未来カズマは静かに言った。


「戻りたくないなら―― “見ろ”。 お前がずっとスルーしてきたものを」


白い空間に、 黒いひびが走った。


そこから、 過去の自分が現れた。


膝を抱えて震える少年。 机の下で息を殺す自分。 誰にも気づかれず泣いていた自分。


カズマは息を呑んだ。


「……やめてくれ……」


未来カズマは言う。


「スルーは“逃げる力”じゃない。 “守る力”だ。 でも―― お前はいつの間にか、 “全部を見ないための壁”にしてしまった」


カズマは拳を握った。


「……僕は……逃げてたのか……?」


未来カズマは頷いた。


「逃げていい。 逃げなきゃ死んでた。 でも―― “逃げ続けたままじゃ、未来は変わらない”」


白い空間が揺れた。


遠くで、 白雪の声が聞こえた。


「佐藤さん!! 聞こえますか!!」


レオンの泣き声も聞こえた。


「おにぃさん!! 帰ってきて!!」


セツナの声も。


「……カズマ……戻れ……!」


未来カズマは静かに言った。


「聞こえるだろ。 お前には“守りたい未来”がある。 俺には……なかった」


カズマは顔を上げた。


「……僕は……戻りたい。 みんなのところに……戻りたい」


未来カズマは微笑んだ。


「なら―― “スルーしないで見ろ”。 お前の心の底を」


白い空間が光に包まれた。


カズマは目を閉じた。


(……僕は……逃げてた。 でも……もう逃げない)


光が弾けた。


そして―― カズマは“心の底”へと、さらに深く沈んでいった



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