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第2部 第23話:『届け、心の叫び! 過去を粉砕する筋肉と科学の鉄槌!』

「――佐藤君! 猫ちゃん! 目を覚ますんだッ!!」


マッスルマートの店内に、店長の悲鳴が響いた。


カズマと猫の周囲には、デストロイヤー《ソウル・シュレッダー》が展開した漆黒の精神結界が渦を巻き、近づく者すべてに“過去の絶望”を強制的に追体験させる負の波動を撒き散らしていた。


「……フン、無駄だ。この結界は彼ら自身の“心の傷”でできている。外部からの物理的な力など、すべて――」


ハキダメが勝ち誇ったように笑った、その瞬間だった。


「ヌンッ!! 筋肉に、物理の限界など存在せぬわッ!!」


駐車場のコンクリートが爆ぜ、大家・轟さんが咆哮と共に突っ込んできた。


上半身は血管が浮き出て発光し、まるで生命エネルギーそのものが筋肉に宿ったような《極限バルク・オーバーロード》状態。


「佐藤よ!! お前の過去がどれほど暗かろうと、私の大胸筋が放つ“生命の輝き”がお前の闇を照らし出してやるッ!!」



ドゴォォォォン!!



轟さんが結界に渾身の《ラットスプレッド・タックル》を叩き込む。


精神的な結界のはずなのに、あまりの筋圧に「メリメリ」と音を立ててひび割れていく。


「……バ、バカな!? 精神エネルギーを純粋な質量で押し潰すだと!?」


ハキダメが目を剥く横で、白雪がガントレットを最大出力で起動した。


「カズマ、今助けるわ! 大家さんがこじ開けた隙間に、私の“ポジティブ波動”を叩き込む!」


白雪の瞳が光り、科学の力が筋肉の突破口に重なる。


「カズマ、今助けるわ! 私の《高次元超音波精神洗浄機》、フルパワーでいく!」


白雪がガントレットを展開し、内部のコイルが青白く光を帯びた。


そこから放たれたのは、カズマの脳に直接届く“凪原市の波音”をサンプリングした癒やしの振動。


精神結界の隙間に、優しいノイズが流れ込んでいく。


「大家さんがこじ開けた穴に、ポジティブ波動を流し込む! セツナちゃん、お願い!」


「……了解。……闇の根源……断つ」


セツナが影の中から滑り出し、カズマの意識を縛っていた“ドクダミ上司(幻影)”の喉元へ跳躍した。


手に握られているのは、彼女がいつも握っている“お裾分けのおにぎり”の真心を、なぜか物理化した刃。



スパァン。



幻影の上司が放っていた罵倒の声が、一瞬でかき消えた。


その光景は、精神世界に閉じ込められていたカズマと猫にも届いていた。


(……あ、大家さんの暑苦しい顔が見える)  (……白雪さんの変な発明の音がする) (……セツナちゃんのおにぎりの匂いがする……)


“ドクン“


凍りついていたカズマの心臓が、仲間の気配に呼応するように、力強く鼓動を再開した。


猫もまた、カズマの胸元にしがみつきながら、未来の自分と意識を同期させていく。


「……戻ってこい、カズマ。お前の居場所は、ここだ」


仲間たちの声が、結界の闇を少しずつ押し返していった。


結界の闇が薄れた瞬間、カズマの視界に色が戻った。


胸の奥で、さっき再開した鼓動がさらに強く跳ねる。


「……うるさいなぁ。もう、昔の話はやめてくださいよ」


ゆっくりと顔を上げたカズマの瞳には、さっきまでの濁りが一切なかった。


足元の猫も、カズマのズボンの裾をぎゅっと掴み、未来の自分と意識を完全に重ね合わせる。


「な……何……!? 私の精神攻撃を、自力で無効化したというのか!?」


ハキダメが後ずさる。


怒号と呪詛を重ねて浴びせるが、カズマはそれを耳の横で軽く払った。


「無能で結構ですよ。今の僕、マッスルマートの店員で、201号室の住人で……この人たちが今の僕の仲間なんで。あなたの言う“過去のゴミ”は、置く場所ないんですよ。全部スルーで」


その言葉と同時に、カズマの周囲に静かな波紋が広がった。


怒りでも、悲しみでもない。


ただ、心の底から湧き上がる“凪”の感覚。


デストロイヤーが放つ攻撃、トラウマの破片、呪詛の言葉――


それらはカズマに触れた瞬間、すべて 「ま、いいか」 という概念に変換され、無害な空気となって霧散していく。


「……バカな……! 精神干渉を概念レベルで無効化……!? そんな能力、聞いたことが……!」


ハキダメの声が震えた。


カズマは肩をすくめる。


「僕も知りませんよ。……でも、今はこれで十分です」


猫がカズマの足元で尻尾を立て、未来の自分として静かに呟いた。


『……カズマ。お前、気づいてねぇだろ。

今のお前、未来の俺より強ぇぞ』


結界の闇が、完全に消えた。


「……くそっ! ならば貴様の肉体ごと消し飛ばしてくれるわ!!」


ハキダメが本来の姿――《ソウル・シュレッダー》へと変貌し、鋭い爪を振りかざしてカズマへ飛びかかった。


精神攻撃が効かないと悟ったのか、今度は完全に物理で仕留めにきている。


だが、その爪が届くより早く――


ドガァッ!!


轟さんの巨大な拳が、デストロイヤーの顔面を真正面から捉えた。


「ヌンッ!! 佐藤の“ま、いいか”はお前の邪念を無効化するが……   私の筋肉は無効化できんぞッ!!」


デストロイヤーの身体が、店内の棚をなぎ倒しながら吹っ飛んでいく。


そこへ、影の中からセツナが滑り込み、  「……お裾分け手裏剣(爆辞表)」  と呟きながら、紙の束を鋭く投げつけた。


バシュッ!


デストロイヤーの身体に突き刺さった瞬間、紙束が爆ぜ、黒い霧が吹き飛ぶ。


「仕上げは私よ!」


白雪がポッド型の装置を構え、スイッチを押し込んだ。


「時空追放ポッド、起動!さようなら、デストロイヤー!未来のゴミ捨て場(不毛地帯)で、自分の過去と向き合ってなさい!」


装置から放たれた光がデストロイヤーを包み込み、  絶望の渦ごと、次元の彼方へと吸い込んでいく。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


最後の叫びを残し、闇は完全に消滅した。


操られていたドクダミ元上司は、糸が切れたように崩れ落ち、  白雪の「記憶処理ミスト」で凪原市での出来事を忘れたまま、静かに去っていった。


戦いの余韻が残る店内で、カズマは肩の力を抜いた。


「……ふぅ。お疲れ様です、皆さん。 あ、店長。レジ横にプロテインこぼれてますよ。あとで掃除しときますね」


いつもの調子に戻ったカズマの声に、仲間たちがほっと息をつく。


猫はカズマの肩に飛び乗り、誇らしげに喉を鳴らした。

『……ニャア。(カズマ。……お前、気づいてねぇだろ。今の“スルー”で、お前の精神レベル……未来の俺を超えたぞ)』


過去の闇を乗り越え、  凪原市の“お裾分け”の絆は、さらに強く結ばれた。


カズマの日常は、もう二度と、誰にも壊されることはない。


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