第2部・第1話:『新装開店マッスルマート。未来のJK店員は時空を穿つ。』
「――おにぃさーん! 大変だよ、大変! コンビニが……僕たちの聖域が、ついに……**『多次元同時営業』**を始めちゃったよぉ!」
201号室の朝。
レオンが未来の超高性能・二段ベッド(※寝返りすると“よく寝たね”と褒めてくれるAI搭載)から転げ落ち、鼻水を垂らしながら床に激突した。
「……レオン、朝から情報量が多いよ。まず鼻を拭こうか」
「そんな場合じゃないよぉ! おにぃさん、コンビニが……もう“コンビニ”じゃないんだよ……!」
あれから数日。
白雪、レオン、長官、そしてバブル・マネーは未来本局から「特例中の特例」として**【現代駐在・観測員】**の肩書きを与えられ、正式にこのアパートの居候となった。
もちろん、彼らがいるだけで「普通」が成立するはずもない。
むしろ“普通”という概念が、201号室の辞書から消えつつある。
「佐藤さん、早く来て! 店長とハスハラ君が、長官のナノマシンと大家さんの筋肉を混ぜて、コンビニを魔改造しちゃったの!」
白雪に腕を引っ張られ、カズマは寝癖のまま外へ出た。
そして――
目の前に広がった光景に、言葉を失った。
『マッスルマート』の看板が七色に発光し、入り口が三つに増えている。
• 【現代人専用】
• 【未来人・サイボーグ専用】
• 【筋肉生命体専用】
「……筋肉生命体って何?」
「佐藤さん、筋肉は生命だよ?」
白雪が真顔で言う。
「いらっしゃいませぇー! 今日の特売は、並行世界の『賞味期限が切れないおにぎり』ですよぉ!」
店長・松井は、もはや人間を辞めたようなオーラを放ちながら接客していた。
背中から謎の光が漏れている。
たぶんナノマシンの副作用だ。
『……おい。カズマ。この店、もう“コンビニ”じゃねぇぞ。……“宇宙の交差点”だ。……俺の猫用フードの棚が、異次元のモンスターに占拠されてやがる!』
未来の俺(猫)は棚の上で触手を持つ客に威嚇しながら、カズマの耳元で叫んだ。
「……未来の俺、今日も元気だね」
『元気じゃねぇよ! あいつ、俺のフードを“孵化装置”に使おうとしてんだぞ!』
触手モンスターは、猫用フードの袋を抱えながら、
「ピチャ……ピチャ……」と謎の音を立てている。
「店長、これ……営業許可とか大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよぉ! 未来本局から“多次元コンビニ実験店舗”の許可が降りましたぁ! ついでに、筋肉省からも“筋肉活性化モデル店舗”の認定が!」
「筋肉省って何?」
「佐藤さん、筋肉は国家だよ?」
白雪がまた真顔で言う。
カズマは深くため息をついた。
未来人と筋肉のせいで、今日も平和が遠い。
カズマが呆然とレジに立っていると、
店内に聞き慣れた、しかしどこか様子のおかしい声が響いた。
「佐藤さーん! バイト遅れちゃいました! ……あれ? 私の制服、なんで光ってるんですか?」
現れたのは、いつものJK・結衣。
だがその背後には、ランドセルとは到底呼べない巨大な装置――
**『時空収束型・ランドセル』**が浮遊していた。
歩くたびに、周囲の重力がふわりと揺れる。
「……結衣ちゃん。そのカバン、どうしたの?」
「え? 登校中に、空から降ってきた変なメガネのおじさん(長官)に
『君には才能がある。特に、レオン君を捕獲する才能が』
って渡されたんです。お菓子が無限に出てくるんですよ!」
結衣がランドセルを軽く叩くと、
ポンッと音を立ててポテチが出てきた。
「……長官さん、一般市民を武装化するのやめてください」
「佐藤、誤解するな。これは“教育支援”だ。
未来では、JKの9割が重力制御装置を標準装備している」
「未来の教育どうなってるんですか」
その時――
自動ドア(筋肉式)が、
バキィィィン!!
と景気よく粉砕された。
「ヌンッ!! 佐藤! 本日より、このコンビニに
『24時間・無休スクワット・コース』
を新設したぞ! 客は全員、スクワット100回でレジ袋が無料だ!!」
「大家さん! それ営業妨害ですからね!?
ていうか“筋肉式ドア”って何ですか!」
「筋肉で開き、筋肉で閉じる。筋肉に始まり、筋肉に終わる。
それが“真の自動ドア”だ!」
「意味が分からないよ!」
店内は一瞬でカオスと化した。
『カズマァァ! あいつ、俺のフードに卵産もうとしてる!
早く止めろ! 俺のご飯が“家族”になるのは嫌だ!』
「知らないよそんな生態!」
そんな混沌の中、
長官だけはレジ横の最高級事務椅子に座り、
タブレットを叩きながら冷静だった。
「……計算通りだ。この店の筋肉エネルギーと収益を抽出し、
次元の安定化を図る。佐藤、貴様は黙っておじやを提供していればいい」
「おじや……もうコンビニのメニューじゃないですよね?」
「佐藤、時代は変わる。
未来では“おじやスタンド”が流行している」
「未来の食文化どうなってるの……」
その時だった。
「未来人専用」入り口から、
空気を切り裂くような冷たい気配が流れ込んだ。
黒いノイズを纏った少女が、
静かに店内へ足を踏み入れた。
白雪やレオンのデバイスとは明らかに違う、
“異質な未来”の匂い。
「……見つけた。時空の歪みの中心点。
そして、宇宙をスルーする男――佐藤カズマ」
少女の手には、
カズマの『スルー・パッシブ』と対をなす漆黒の耳栓、
**『アクティブ・ノイズ・キャンセラー』**が握られていた。
『……おいカズマ。
第2部開始10分で“宿命のライバル”出てきたぞ。
昼寝してる場合じゃねぇぞ!』
店内は、もはや“営業中のコンビニ”というより、
**「時空の文化祭」**みたいな騒ぎになっていた。
未来人は未来人で、
「この時代のレジは“手動”なのか……野生的だ……」
と感動しながらレジを触り倒し、
筋肉生命体は筋肉生命体で、
「タンパク質コーナーはどこだ」
「ここだ(胸筋を叩く)」
と意味不明な会話をしている。
そして天井では、
重力が暴走した結衣のランドセルに吸い寄せられたレオンが、
「おにぃさぁぁん! 僕、天井の住人になるの……?」
と泣きながら回転していた。
『カズマァァ! 俺のフードが! あいつ、ついに卵を産んだぞ!
“ピチャッ”って音した! 絶対産んだ!』
「知らないよ! なんで俺が異次元の繁殖に巻き込まれてるの!」
そんな地獄絵図の中、
黒ノイズの少女だけが、
まるで“音を消した世界”にいるように静かだった。
彼女が一歩踏み出すたび、
店内の喧騒が一瞬だけ“ミュート”される。
未来人の会話も、
筋肉生命体の雄叫びも、
レオンの悲鳴も、
触手モンスターの孵化音も――
すべてが、
「……」
と無音になる。
「……すごい。あの子、周囲の音を“削ってる”」
白雪が息を呑む。
「削るって何……?」
カズマは耳栓を押さえながら呟いた。
「音ってね、波だから。
あの子のデバイスは“逆位相”をぶつけて、
世界の音を消してるの。
……でも、あれは普通のノイズキャンセルじゃない。
“存在の揺らぎ”まで消してる」
「存在の揺らぎって何……?」
「佐藤さん、難しいこと聞かないで」
白雪がそっと目をそらした。
少女はレジ前に立ち、
カズマをまっすぐ見つめた。
「……あなたの“スルー”は、世界を甘やかしすぎている。
あなたが見逃した混沌は、いずれ世界を壊す。
だから私が――消す」
その声は、
まるで“静寂そのもの”が喋っているようだった。
長官が椅子を回しながら口を開く。
「……来たか。“静寂の暗殺者”。
未来警察が最も恐れた少女だ。
彼女のノイズキャンセルは、
“世界の雑音=存在の余白” を消す力を持つ」
「そんな危険人物を、なんでこの時代に来させたんですか!」
「佐藤、安心しろ。
彼女は“君を消すため”に来ただけだ」
「安心できるかぁ!!」
少女は無表情のまま、
漆黒の耳栓をゆっくりと装着した。
その瞬間――
店内の音が、完全に消えた。
レオンの悲鳴も、
筋肉生命体のスクワット音も、
触手モンスターの孵化音も、
未来の俺(猫)の絶叫も。
すべてが、
「無音」 になった。
カズマは思わず息を呑む。
「……これが、“静寂の暗殺者”……」
店内が“完全無音”になったまま、
黒ノイズの少女はカズマへと歩み寄る。
その足音すら聞こえない。
まるで、彼女の存在そのものが
**「音という概念を拒否している」**かのようだった。
レオンは天井に張り付いたまま震えている。
『おにぃさん……僕、静寂が怖い……。
音がないと、僕の存在が薄くなる気がする……』
「レオンは元から薄いよ」
『ひどい!!』
少女はレジ前に立ち、
漆黒の耳栓を指で軽く弾いた。
その瞬間、
店内の空気が“深海の底”みたいに重くなる。
「佐藤カズマ。
あなたの“スルー”は、世界の混沌を許しすぎている。
あなたが見逃した騒音は、いずれ世界を壊す。
だから――私が消す」
カズマはゆっくりと首元のデコ耳栓に触れた。
「……ごめんね。僕は消えたりしないよ。
まだ、店長にお給料もらってないし」
その言葉に、少女の眉がわずかに動いた。
“感情”というノイズが、彼女の静寂にひびを入れる。
長官が椅子を回しながら言う。
「佐藤、気をつけろ。
彼女のノイズキャンセルは、
“存在の波”そのものを消す。
君のスルーと正反対の力だ」
「正反対って……どうすればいいんですか」
「知らん」
「知らんのかい!!」
その時――
筋肉生命体専用ドアが、
ムキィィィ!!
と音を立てて開いた。
音が消えているはずなのに、
筋肉だけは物理法則を無視して響く。
大家が仁王立ちで叫んだ(筋肉で)。
「佐藤! 逃げろ!
あの少女は“筋肉の音”すら消す危険人物だ!!」
「筋肉の音って何!?」
少女は無表情のまま、
カズマへ手を伸ばした。
その指先が触れた瞬間、
カズマの“存在の輪郭”が揺らぐ。
白雪が叫ぶ。
「佐藤さん!!
耳栓を――“スルー”を発動して!!」
カズマは深く息を吸い、
デコ耳栓をそっと押し込んだ。
世界が――
「ふつう」に戻る。
騒音が一気に押し寄せた。
レオンの悲鳴、
筋肉の雄叫び、
触手モンスターの孵化音、
未来人のレジ操作音、
店長の「いらっしゃいませぇぇぇ!」。
すべてが、
カズマの“究極のスルー”によって
**「背景音」**に変わる。
少女の静寂が、
カズマの“日常の雑音”に押し返された。
「……なぜ……?
私の静寂が……あなたに届かない……?」
カズマは肩をすくめた。
「ごめん。
僕、世界の騒がしさには慣れてるから」
その瞬間、
少女の黒ノイズがわずかに揺らいだ。
“静寂の暗殺者”の心に、
初めて“ノイズ”が生まれた。
こうして――
筋肉、未来、JK、そして静寂の刺客を巻き込んだ
第2部の幕開けは、
カズマの“世俗的スルー”によって
なんとか最悪を回避したのだった。




