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最終話『スルー・パッシブ、また会う日まで。』

「……あれ、僕、なんで泣いてたんだっけ」


静寂に包まれた四畳半。


カズマは頬を伝う涙を指で拭いながら、ぼんやりと天井を見上げていた。


胸の奥にぽっかりと空いた穴のような感覚だけが残り、理由は霧のように掴めない。


その瞬間だった。



――ドォォォォォォォンッ!!



アパート全体が揺れ、地震とも爆発ともつかない衝撃が四畳半を襲った。


大家さんが筋肉で埋めたはずの壁が、内側から破裂するように弾け飛ぶ。


真っ白な煙が部屋中に広がり、視界は一瞬で真っ白に染まった。

「うわぁっ!? な、なんだ!? 爆発!?」


カズマは反射的に、膝の上の猫を抱き寄せて跳ね起きる。


猫――未来の俺は『ニャアッ!?(おい雑に抱くな!)』と抗議するが、煙にかき消された。

煙の向こうから、聞き覚えのある声が響く。


「……イタタタ……。もう、転送座標がズレてるじゃない、レオン君のせいよ!」


「僕のせいじゃないよ! 白雪が勝手に改造したブースターが火を噴いたんだから!」


白雪の甲高い声と、レオンの不機嫌な反論。


そのやり取りは、カズマの胸の奥に眠っていた何かを強く揺さぶった。


煙が晴れ、二人の姿が現れる。


「……白雪……さん? ……レオン……君?」無意識に名前が漏れた。


白雪とレオンはハッと顔を上げ、カズマを見つめる。


その瞳には、未来警察の冷徹さなど微塵もなく、ただ――


「会いたかった」

という感情だけが溢れていた。


「……佐藤さん。……思い出したの? 私たちのこと」


「おにぃさん! 記憶消去弾、効かなかったの!? さすが僕のおにぃさんだね!」

レオンが嬉しさを隠しきれずに跳ねる。


そこへ――


「ヌンッ!! 201号室、また壁が壊れたかァァ!!」


大家さんがプロテインのシェイカーを片手に乱入。


さらにタキシード姿のバブル・マネーがシャンパンを抱えて現れる。


「祝いの席にはシャンパンが必要だろう?」


「不動産王さんまで……!」


驚きと懐かしさが胸に溢れ、カズマの心の穴が埋まっていく。


そこへ、低く冷徹な声。


「……全く、揃いも揃って規律違反の常習犯だな。


煙の残滓を踏みしめながら、長官が姿を現した。


「長官! 貴様、記憶を消したふりをして、実はゲートの鍵を緩めておいたな!?」


長官は窓の外を眺め、完全にスルーを決め込む。



その態度が“図星”であることを物語っていた。


『……ニャア。(やれやれ。……やっぱりこうなるのかよ)』猫が呆れたように鳴く。


その声を聞いた瞬間、カズマの心に空いていた穴が温かいもので満たされていく。


未来とか、現代とか、記憶とか。

そんなものはどうでもいい。


目の前で騒いでいるこの“ノイズ”たちこそが、自分の人生に必要な“お裾分け”なのだと、カズマは確信した。

「……みんな。おかえり」


その言葉で、四畳半の空気が一気に色を取り戻す。


白雪は泣き笑いで飛びつき、レオンは腕を掴んで離さない。


大家は「友情のゲートだ!!」と壊れた壁に涙し、

バブルは「市場価値が急上昇だ!」とシャンパンを振り回し、長官は「……全く、手のかかる連中だ」と呟きながら微笑んだ。


猫は肩の上で尻尾を揺らし、

『ニャア。(……悪くねぇ)』

と呟いた。


翌日、マッスルマート


「佐藤君!! 今日は全員出勤だ!!」


店長の声が響き、店内は一気に賑やかになる。


白雪は新型スキャナーを組み立て、

レオンは重力を乱しながらポップを貼り、

大家は棚を筋肉で補強し、

バブルは勝手に“マッスルマート株”を上場させようとしていた。


カズマは首から下げた『スルー・パッシブ』を指で弾く。


カチン。


「……もう、耳を塞ぐ必要なんてないな」


外野の声より、この騒がしい声のほうがずっと心地いい。


白雪が振り返る。


「佐藤さん、どうしたの?」


「ううん。

ただ……今の幸せをちゃんと聞き取れるようになっただけ」


レオンは跳ね、大家は筋肉を震わせ、

バブルはシャンパンを掲げ、


長官はため息をつきながらも満足げだった。


そして、今日も四畳半からノイズが溢れる

201号室からは今日もおじやの香りと笑い声が響く。

――耳栓の出番は、当分先になりそうだ。


『スルー・パッシブ』 完


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

カズマの静かな日々は終わり、また騒がしい日常が戻ってきました。

そして――

ここから新しい章が始まります。

その前に、

次回はキャラクター紹介と簡易相関図を掲載します。

これまでの登場人物たちを、改めて整理して楽しんでいただければ嬉しいです。

次章もどうぞよろしくお願いします。

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