第三十四話 エデン
俺は俺とカマエルの間に発生した何かによって引きはがされた。
「手荒な真似をしてすまないね、俺はこの国の王であるスラエル・ダビデ。そして、二代目英雄だ。」
「魔人王から本当の歴史が分かると聞いてきたんですが。」
「まさか、本当に連れてくるとはね。案内するよ、ようこそエデンへ。」
城の周りはとても長く大きい壁で囲われており、その向こうには街が広がっている。文化レベル的には中世程度だが、皆幸せそうに暮らしていた。また、そこに住む人たちの全員が翼を持っており、まるで神話の中にいるようだ。
城の中に入るとまるで教会のようで、とても神秘的である。ステンドグラスがあしらわれたゴシック建築はフランスのシャルトル大聖堂を思わせる。
しばらく城を歩き玉座の前に着くと、二代目は玉座に座った。
「じゃあ、早速俺が初代から見せられたこの世界の話を教えようか……。」
それは遥か昔、文化レベルは古代くらいの話だ。当時はまだ魔法なんて概念すらなく、それこそ昔の地球と似たような世界だった。
これから話すのはそんな時代に起きたゲヘナと言う国で起きた世界最悪の悲劇だ……。
「ふうー、全くお前は役に立たないねえ……」
声の主は豚のような醜悪な見た目だけでなく、暴虐にして強欲な近辺でも有名な悪性を敷く貴族であった。そして、お前と揶揄されているのは最近買った奴隷“ニナ”である。
まあ、最もこんな主の下では奴隷は長持ちしないのでほとんどの奴隷が“最近”なのだが……。とはいえ、他の奴隷が三か月程度でつぶれるのに対してニナは一年も持ったので十分である。
ニナが元来丈夫なのもあるが頭の回転が速く機転を利かせることで窮地を脱出してきたのも大きいだろう。だが、今回はそうはいかなかった。
主人の大事にしている皿を手から滑らせて割ってしまったのだ。それも、主人の目の前で……。大きな要因は主人が最近奴隷を潰しすぎたせいで、一人当たりの労働力が多くなったのだ。それにより、疲労が溜まったことである。
だが、もう一つ大きな原因がある。まだ、16の彼女は同じ奴隷であるフォルンに恋してあるのである。そう、皆もご存知、彼が後の魔人王である。
フォルンは当時18であったが奇跡のような美貌はこの時から健在だった。きっと女性であれば誰しも一目見た瞬間に惚れてしまうだろう。それは、ニナとて同じである。
そして、フォルンもまたニナに好意を抱いていた。出会える時間は少なかったものの時々、夜中に出会いに行くなどして愛を深めていたのである……。
「ねえ、いつか自由になったら遠い異国の地で結婚しようよ?結婚したら、私……たくさん子供が欲しいな……」
「君の子供なら、良い子に育つさ……」
「嬉しい……、ありがとう。フォルン大好き……」
「いつか、自由になったら必ず……君を幸せにしてみるから……」
こんな会話を昨日したばかりなのに……、悲しきかな、現実はこれである。ニナ自身も分かっているが、間違いなく死刑である。
その時、フォルンもまた絶望していた。俺によそ見をしていたせいで……、ニナが死んでしまう。と、自己嫌悪に陥っていたのである。
だが、事態は好転したように思われたのである。なんと、クソ主人にしては許したのである。ただ、一つの条件を付けて……。
その夜……、ニナは主人の部屋に呼ばれた。主人の部屋には何人もの男が立っており、手には様々な拷問器具が握られている。
「ご主人様……、これは一体……」
だが、賢いニナは薄々気づいていた。これから自信を待ち受ける地獄のような運命を。
「お前にチャンスをやる。これから行うことに耐えきって見せたら……お前を無罪放免にする。それだけじゃない。誰か二人を自由にしてやる。その誰かはお前が選んでいい。悪い話じゃないだろう?」
「ご主人様……寛大な心に感謝いたします。ですが、何故失態を犯した私にこのような待遇を?」
「当然だろう。お前はよく働いた。褒美だ……。さあ、早速始めようか」
だが、ニナの想像通り文章に表せないほどの恥辱と拷問が行われた。体のありとあらゆる所を汚され、それに飽きればむち打ちや焼印。それは、一晩中行われて日が明けるころにはニナは廃人寸前までに追い詰められていた。
だが、疲れていたのは主人と男性も同じである。主人と友達と思われる数人は寝ていた。だが、ただ一人。主人だけは起きていた。
「よく耐えたな……ニーナ」
「それでは、私は……」
「いや、まだだ。最後の試練だ……」
そう言うと、主人は倉庫から大きな斧を持ってきた。
「ご主人様……それは……」
「見てわからんか?斧だ。さあ、首を差し出せ……」
「そんな……。最初から生かすつもりなどなかったのですね?」
「当たり前だろう?妻が雇っているフォルンとか言う奴隷が気に入らないから少し意地悪をしただけだ。ククク……、にしても愛する女がこんな目にあっていると知ったら……。ああ、表情を想像しただけで興奮してしまうぞ!」
「下衆が……」
「最後に言い残すことはあるか?一つだけ聞いてやる」
「フォルンに愛していると伝えて」
「最高の女だよ、お前は……」
そう言って主人は首を切り落とした。そして、この下衆はニーナの遺言を達成すべくフォルンの元へと向かった。
「フォルン少し話がある」
そう言うと、昨日ニーナが地獄のような一夜を過ごした部屋に連れていかれた。いまだ、血生臭い部屋に……。
「旦那様……、この部屋は?」
「説明する前に目を瞑って椅子に座れ」
フォルンが椅子に座った後、手足を拘束した。
「旦那様、一体何を?」
「これから話す事は少し刺激が強いからな。その予防策だ」
そして、フォルンに地獄のような一夜について話した。もちろんフォルンは激怒し、殺そうとしたが椅子に縛られて身動きができない。
「殺す……!絶対に!」
フォルンはそう幾度吠えたか分からない。だが、縛られた鎖を砕く手段は待っていなかった。手足がちぎれそうになるほど動かしたが、やはり不可能である。
そうして絶望している反応を一通り楽しんだ後、主人は言った。
「ああ、そうだ。ニーナの遺言を知りたいか?」
「……、ニーナの?」
「ああ、お前を愛しているだとさ!傑作だよ、本当に!ククク……、ハハハハハっ!」
すると、主人は高笑いしながら何やら丸く重い物をフォルンの膝に乗せた。
「これは……」
「おや、愛していたんじゃないのか?分かっているはずだぞ?何なのかは……」
そう、フォルンの膝に乗せられていたのはニーナの生首だった……。
その時、フォルンの心は死んだのであろう。心の闇が魂すらも喰らいつくし、フォルンを世界初の魔人にした。魔力により強化された肉体は鎖ごときで縛れない。
即座に鎖を砕き、何十、何百と愛する者奪った下衆を死んでもなお殴り続けた。
「人類全員殺してしまおうか……」
たった一人の部屋の中で呟いたその時だった。
「動くな!フォルン!」
声の主はフォルンの女主人であった。そして、女主人は手に鎖を持っており、その先につながれているのは唯一の血のつながりがあるフォルンの弟である。
「分かっているね、言うことを聞かなければお前の弟を殺すぞ」
もう、フォルンには選択肢はなかった。これ以上、大切な人を失うわけにはいかなかったからだ。
だが、その選択が最悪の事態を引き起こした……。
その話を聞いたゲヘナの王は自国の奴隷をより酷く痛めつけて魔人化を促したのである。そして、彼らを様々な方法で縛り戦争の道具とした。もちろん、フォルンも例外ではない。
魔人化した彼らの肉体は強力無比で並みの人間では太刀打ちできないほどだ。次第にゲヘナはその強大な戦力で各国を従え空前の超大国となったのである。
だが、その実績とは反対に魔人たちは奴隷を含むすべての国民から化け物として酷い差別を受けるようになった。
そんな地獄のようなある日事件が起きた……。
フォルンの弟が自害したのだ。弟が何を思い自害したのかは分からない。ただ、フォルンを縛っていることや世界が地獄絵図になってしまった事も引き金だったのだろう。
ともかく弟が自害したことで、フォルンを縛る鎖は完全になくなった。と、同時にフォルンは第二次魔人覚醒を引き起こしたのである。
そうなれば誰もフォルンを止められない。まずは貴族を殺し、国王を殺した。それから生き残った他の魔人と共に、目に付く人間全てを殺していったのだ。女子供も例外ではない。
そしてゲヘナにいるすべての人間を殺しきったある日、隣国の人間達も殺すことを決意した彼らは隣国に攻め入った。だが、そこで彼らは異世界からやってきた初代と対峙することとなったのだ。
初代は非常に強く、「創造者」という腕に宿ったスキルで神器を作り出して魔人達を追い詰めていった。だが、その一方で初代は魔人達を殲滅することに疑問を感じていたのである。
というのも、このまま殲滅したところで脅威を忘れた人間はまた魔人を生み出すような真似をするのではないか、そう考えていたのだ。そこで初代は敢えて魔人を生き残らせ魔人の脅威をのちの世に継承するとともに、ダンジョンシステムにより人間の強化を図った。
それから、初代は魔人王の監視もかねて、極東に小さな集落を作り愛する妻とともに生涯を終えたのである。
それからしばらくして初代の死後、ダンジョンの産物である神器を巡った戦争が世界規模で起こった。
そして、それに便乗して魔人王もまた人間への報復に戦争で疲弊した国々を襲い世界の半分以上を制圧。そんな状態の世界を修復するため、二代目である俺がこの世界に降ろされたのだ……。
「さて、ここまでが俺が初代から見せられた記憶だ。そして、ここからは実際に見てもらおうか。というのも、神器所持資格を持つ英雄が神器に触れると記憶とスキルが継承されるみたいなんだ。だから、この城の地下にあるダンジョンの最終ボスを単独で倒してもらうよ。道中までは協力してあげられるけど、他の誰かがうっかり最終ボスを倒して継承権が他の人に移ってしまうかもしれないからね。」
そして、俺たちはダンジョンに潜っていった……。
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