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王子の取り巻きの父親に転生しました ~戦場に美少女はいない、いるのは死神だけだ~  作者: 製本業者
男爵領でイモひきました(後編)

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51 軍功会の今度はメインになりに転生しました

軍功会は、前回と同じ副宮で行われることになった。


王城の本殿ではない。だが、ただの会議場でもない。

王家の儀礼と、軍の面子と、貴族どもの見栄と、官僚どもの帳尻合わせが、ほどよく混ざり合った、あの妙に居心地の悪い建物だ。

うん、大仏殿の中に長居したいと思わないもんな。


前回は、黒い森での奇襲阻止に対する軍功確認だった。

私としては、あの時点で十分胃が痛かったのだが、今にして思えば、あれはまだ楽だったのかもしれない。


何しろ、今回は籠城戦の解放である。


共和国軍は撤退した。

セレルナの城は落ちなかった。

外向きに語るなら、これほど分かりやすい勝利もない。


もちろん、内側を見れば別だ。


王国軍主力は接敵前に勝手に乱れ、幕僚団は戦場の形を把握する前に形だけ整え、共和国軍主力は整然と撤退した。


だが、そういう不都合な細部は、祝勝の場ではたいてい布の下へ押し込まれる。

だからこそ、こちらも布の裏地を準備しておく必要がある。


「……で」


私は、副宮の入口を見上げながら、横を歩く少年へ視線を落とした。

少年――我が息子は、きょろきょろと周囲を見回していた。


緊張しているのか、好奇心が勝っているのか、本人にも分かっていない顔だ。

服装だけはそれなりに整えてある。そして、私よりよっぽど似合っている。

だが、目の動きは完全に見学に来た子供である。


「本当に連れてきて良かったのかな、これ」


私は小声で呟いた。


すると、ホンザが当然のように笑った。


「問題ねぇでしょう」


「問題ないんですかね」


テオドルも淡々と頷く。


「名目上、ご子息は今回、我等の指揮官です。

であれば、参加自体は不自然ではありません」


「いや、名目上というか、初陣の勝利を喧伝したかっただけなんだけど」


「名目でも何でも、外から見れば立派な指揮官です」


やめろ。

言葉だけ立派にするな。


ノルベルトが、にやにやしながら息子を見た。


「それに、若様は前回の王都でもなかなかやりましたからねぇ」


「それはここで言うな」


息子が少しだけ肩をすくめた。

どうやら本人にも、その件をここで蒸し返されるのは恥ずかしいらしい。


ピンク髪の少女を追いかけ、人さらい騒動に首を突っ込み、結果として別の少年少女まで巻き込んだ一件。

なんでこいつら知ってるんだ、と言いたくなるが、嫁と息子が話してしまったから今更どうしようも無い。


「まあ、若様がいて悪いことはねぇですよ」


ラヨッシュが短く言った。


「そうなのか?」


「見られますから」


「何を」


「男爵家が続くこと」


私は一瞬、返答に詰まった。


ラヨッシュは相変わらず言葉が少ない。

だが、たまにこういう妙に重いことを言う。


バラージュ男爵家は、一代限りの家ではない。

親がいた。子がいる。次がいる。


確かに、それ自体が一つの意味を持つ。


「……そう言われると、急に嫌になってきたな」


「今さらです」


テオドルに切り捨てられた。


 ☆ ▲ ☆ ▲ ☆


その時だった。

周囲の視線が、妙に冷たいことに気づいた。


副宮の入口に集まっていた貴族や将校たちが、こちらを見ている。

いや、正確には、私と鉄騎騎士団と息子を見比べている。


その目は、好奇ではない。

歓迎でもない。


何と言うか。


子供を連れて軍功会に来た非常識な男爵と、その非常識を笑って許している粗野な騎士団を見る目だった。


「……やっぱり、まずくない?」


「いや、むしろ良いんじゃねぇですか」


ホンザが声を潜めるどころか、普通に言った。


「俺たちがまともな貴族連中に嫌われてるって、分かりやすい」


「そこは分からなくていい」


「それに、あいつらが冷たい目で見るってことは、若様をただの子供だと思ってるってことです」


ノルベルトが肩をすくめる。


「その方が楽ですよ」


「何が」


「あとで、ただの子供じゃなかったと気づいた時に、顔が面白い」


「お前たちは本当に性格が悪いな」


「殿ほどじゃありません」


「私はそこまで悪くない」


全員が黙って、そっぽを向いた。


黙るな。


その時、息子が遠慮がちに私の袖を引いた。


「お父様」


普段使わない余所行きの呼び方をする息子に、私は優しく声を返す。

「どうした」


「あの、僕は本当にここにいていいのでしょうか」


まともな質問だった。

非常にまともだ。

それを私ではなく息子が言うあたり、我が家の将来は意外と明るいかもしれない。


「……正直、私も少し迷っている」


「えっ」


「だが、今回の現地指揮官扱いだ。そしてお前は男爵家の後継で、儀礼称号を持つ貴族だ。

場を見るだけなら、完全にはおかしいわけではない」


「完全には、ですか」


「完全には」


息子は少し困った顔をした。

その表情が、妙にヴィオラに似ていた事で、安心しかける。


いくら頼もしいとは言え、こんな場所を見せるには、まだ早い気もする。

だが、いずれこの子は、こういう場所に立つ。

なら、見せておく意味はある。

そう思うしかない。


「心配するな」


私は息子の頭に軽く手を置いた。

その時、もうすぐ私を追い越しそうな勢いで成長しているのに気付いた。


「今日、お前がやることは一つだ」


「何でしょう」


「余計なことを言わない」


息子は真剣に頷いた。


「はい」


その真剣さが、逆に不安だった。


ホンザたちが、横で笑いを噛み殺している。


だから笑うな。


 ☆ ▲ ☆ ▲ ☆


「バラージュ男爵家、鉄騎騎士団、ご入場!」


扉の前に立つ儀典官が声を張った。


今回は、前回と違って、ほぼメインだから呼び出しが有る。


その瞬間、冷たい視線がさらに集まる。


私は小さく息を吐いた。


前回は、軍功を確認するためにこの場へ来た。

今回は、勝利の筋書きを奪い合うために来た。


そしてなぜか、その横には息子がいる。


ほんと、どうしてこうなった。


そう思いながら、私は副宮の中へ足を踏み入れた。


 ☆ ▲ ☆ ▲ ☆


その瞬間、正面の列から、一人の男が半歩前へ出た。


軍服の飾緒はやたらと立派だ。胸元の徽章も多い。

前回の軍議で見た顔の一つだ。

名前までは覚えていないし、覚える気もなかったので、記憶の流入も無い。


その男が、私の横に立つ息子へ視線を落とした。

そして、口を開きかける。


「バラージュ男爵。この場は――」


その言葉は、最後まで続かなかった。


脇に控えていた儀典官が、よく通る声で告げたからだ。


「バラージュ男爵、並びにエドワウ閣下オナラブル。鉄騎騎士団の方々は、こちらへ」


一瞬、副宮の空気が止まった。


次の瞬間、ざわめきが広がる。


「エドワウ閣下?」


「ああ、そうか。バラージュ男爵のご子息には、先の軍功会で儀礼称号の使用が認められていた」


「つまり、貴族としての列席か」


「現地指揮官の嫡子で貴族の称号持ちなら名目は立つな」


「しかも、鉄騎騎士団の主家筋だ」


囁きが、石壁に跳ね返るように広がっていく。


私は内心で頭を抱えた。


息子はただの子供ではない。バラージュ男爵家の後継であり、前回の軍功会で、子息としての爵位継承と儀礼称号の使用を成人前にもかかわらず正式に認められている。


完全に忘れていたわけではない。

ないのだが、こうして正式に呼ばれると、胃に来る。


横を見ると、息子本人も目を丸くしていた。


理解しているのか、いないのか。

自分が周囲の空気を変えたことは分かっていない顔だ。


ある意味、羨ましい。


一方、文句を言いかけた幕僚の男は、口を半開きにしたまま固まっていた。

顔が赤い。


先ほどまで「子供を連れて軍功会へ来るとは何事か」とでも言いたげだった視線が、今はどこへ置いていいか分からなくなっている。


儀典官は、そんな男には一瞥もくれなかった。

淡々と、もう一度手元の名簿を確認し、私たちの席を示す。


「バラージュ男爵家は、こちらでございます。エドワウ閣下オナラブルは男爵の左に。鉄騎騎士団の代表者は、その後列へ」


嫌になるくらい、完璧な儀礼処理だった。

良くも悪くも、きちんと全員を把握しているのは、流石だと思う。


ホンザが、小さく鼻を鳴らす。


「ほら、問題なかったでしょう」


「お前、文句付けてくるって分かってて言ってたな」


「さて」


ノルベルトが肩を震わせている。


「いやあ、若様の肩書きは便利ですねぇ」


「便利扱いするな」


テオドルは、幕僚の男をちらりと見た。


「儀礼上、文句をつける余地はありません。むしろ、ここで異を唱えれば、先の軍功会で王家が認めた扱いに異議を唱える形になります」


やめろ。

そういう正論を大声で言うな。


いや、小声だ。

小声なのだが、妙に通る。


案の定、幕僚の男の顔がさらに赤くなった。


男は何かを言おうとしたが、隣にいた別の将校が袖を引いた。

そのまま、男は一歩、二歩と後ろへ下がる。


周囲からは、冷たい視線が少しだけ形を変えてこちらへ向いた。


先ほどまでの「非常識な男爵を見る目」ではない。

今は、こうだ。


――そうか。

――あの子が、バラージュ男爵家の次代か。

――鉄騎騎士団を従える家の若君か。

――しかも、父親は命婦で、本人も王都で妙な騒動に関わっていたらしい。


被害妄想かも知れないが、息子まで巻き込むのはやめてほしい。


「お父様」


息子が小声で言った。


「何だ」


「僕、さきほどから、見られている気がします」


「気のせいではない」


「……どうすれば」


「気にするな」


「はい」


素直でよろしい。


だが、その素直さが逆に怖い。


私は小さく息を吐き、示された席へ向かった。


どうやら我が息子の名前も、もう盤面の端に置かれているらしい。


ほんと、どうしてこうなった。




次回は6/20投稿予定です

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