家族の願い
俺たちは、ダイニングテーブルを囲んで、ガヤガヤと食事の準備をしていた。
今日のメニューは、必ず月に一、二回はする、うちの定番、たこ焼き。
テテトトから、無事二十分ほどで、うちのカーポートに着いたあと、俺たちは、モーレツにお腹が空いていることを思い出した。
口々に、腹減った、お腹が空いた、と訴える俺とオトンと百合香に、オカンは、
「今日は、たこ焼きや」
きっぱりと宣言した。どうも、タコが、昨日のスーパーの特売だったらしく、材料は全部そろっているらしい。
テーブルの上のたこ焼き器で、じゅうじゅうとたこ焼きを焼きながら、俺たちは、今日あったことを、あれやこれやとしゃべりまくる。
テテトトからの帰途、もう二度と体験することはないであろう、せっかくの狭間の旅路の最中も、俺たちは、いろいろとしゃべりまくった。
俺とオトンが、宇宙の狭間の移動について、カローラに細工されたことなんかを話している後ろで、オカンと百合香は、もっぱら、イトサンの恋の行方の予想に余念がない。
「やっぱ、分があるのは、ラビさんやな」
オカンが言えば、百合香も、
「うん。ラビさん、しゅっとして、かっこよかったし。それに、あたしらを逃がそうなんて、正義感も強いしな」
「そやけど、タッキーさんかて、なかなかいい人ではあるで。寡黙で、律儀な感じしたわ」
「うん。けど、やっぱ、見た目でお似合いは、ラビさんやと思うで」
「そやな。そやけど、どっちにしてもあのふたり、ちゃんとイトサンさんに、自分の気持ち言えるんやろか」
「あやしいな。お父さん、あのオヤダマやし」
「そやろ。あ~、しもた。ウチが、あの場で取り持っといたらよかったわ」
うちの女性陣は、なんともたくましい。
たこ焼きをたらふく食べて、そろそろお腹も満足してきたころ、百合香が、
「そや! あのメモリーカード、いったい何やったん? お父ちゃんが、持って来てって言うたやつ」
そやそや、あれには、いったい何が入っていたんや?
オトンは、にこにこと百合香を見る。
「ああ、あれか。ほんなら、今からみんなで観よか」
オカンが、テテトトに持って行ったカバンを持って来て、メモリーカードのケースを中から取り出す。
オトンは、ビデオカメラを出してきて、テレビにつなぐ。
「えっ? なんか映像入ってるん?」
百合香が聞くと、
「そやで。それ、百合香がくれたんやんか」
「えーっ」
「えーっ」
「えーっ」
俺とオカンと百合香は、驚きの声をあげる。オカンは、手元のケースを開けて、メモリーカードを見ている。ケースには、三枚のメモリーカードが入っていた。
「あっ、これ、おとうちゃんの誕生日に、百合香がプレゼントした……」
「えっ、あたしが小学生のときの?」
「そやで」
オトンが、にこにこと答える。
たしか、百合香が四年生のときやった。百合香は、オトンの誕生日のプレゼントに、メッセージビデオを撮るとか言い出した。百合香は、俺とオカンにオトンへのメッセージを言わせて、それをビデオで撮影したんや。
オトンがめちゃくちゃ喜んで、気を良くした百合香は、次の年も、その次の年も、同じようにメッセージビデオを撮影して、オトンにプレゼントしたはずや。
百合香が中学生になって、まあいわゆる思春期ってやつで、その習慣は終わってしもたけどな。
百合香は、オカンを軽く責める。
「えーっ、なんで、お母ちゃん、気づかんかったん?」
「そやかて、前は、こんなケースに入ってなかったもん」
「そのケース、買うたの、もうだいぶ前やで。メモリーカード、壊れることもあるからな。ケース買うて入れといてん」
とオトン。
「はあ、全然気づかんかったわ」
オトンが、ビデオのスイッチを入れる。テレビに、なつかしい映像が映しだされる。
まず、俺や。中一の、まだあどけなさの残る俺。
『お父ちゃん、39歳の誕生日、おめでとう。いつも、ぼくたちのために働いてくれて、ありがとう。えーっと、いっぱい長生きしてください』
「39歳で長生きしてって。おじいさんちゃうねんで」
百合香が、ツッコミを入れて、笑いが起きる。
『えーっと、ぼくも、勉強と部活がんばるので、お父ちゃんも、仕事がんばってください』
「卓球は、まあまあがんばってたな」
と、オカン。オイオイ、勉強も、がんばってたやろ、俺なりに。
続いてオカン。今よりだいぶ若いな。七年で年とるもんやな。
『おとうちゃん、誕生日、おめでとう。いつも、お仕事ご苦労様です。おとうちゃんのおかげで、毎日ごはんが食べられます。えー、こんないい家にも住むことができるようになりました。えーっと、ウチもパートがんばります。あ、あと、健康に気をつけて、飲みすぎにも気をつけて、がんばってください。これからも、よろしくお願いします』
オカンの映像の間中、俺たちはくすくすと笑い続けていた。なぜか目を潤ませて。
続いて百合香。撮っているのは、たぶんオカン。前髪に寝癖のついたままの小四の百合香が、はにかんだ笑顔を見せている。このころの百合香は、素直でかわいかったな。
『お父ちゃん、39歳のお誕生日、おめでとうございます。百合香や、お母ちゃんや、お兄ちゃんのために、いつも、お仕事がんばってくれて、ありがとうございます。えーっと、百合香も、いっしょうけんめい勉強がんばって、大きくなったら、弁護士になって、お金持ちになって、お父ちゃんとお母ちゃんを、いっぱい旅行に連れて行ってあげたいです。えーっと、もうすぐ、宇宙旅行とかも行けるようになるそうです。そしたら、宇宙旅行にも、連れて行ってあげたいです。それまで長生きしてください。終わりです』
オトンもオカンも俺も、百合香自身も、大笑いしながら、泣いている。
オトンが、唯一、テテトトに持って行きたかったもの。それは、俺たち家族の、幸せの思い出やったんやな。
トウマが言っていたっけ。俺たちは、日々の生活をつつがなく送ることに幸せを感じる、普通の家族やて。ほんまに、そうやな。この何もない生活が大切なんや。俺は、今日の出来事で、それを思い知った。
俺は、泣き笑いしながらビデオを観ている、オトンとオカンと百合香に目をやる。
今、こうしていられることが幸せなんや。
オトン、オカン、長生きしてな。




