「お姉様の馬も鞍も出場権も、ぜんぶ妹に譲りなさい」——ええ喜んで。ただしあの子が背に乗せるのは、財産ではなくわたくしですけれど
妹の部屋の前で、わたくしは足を止めました。
廊下の壁ぎわに、鞍が裏返しで積んでございますの。わたくしが三年かけてノワゼットの背に馴染ませた、誂えの鞍が。
汗も拭いてありませんわね。あれ、放っておくと裏から革が傷みますのよ。三日で鐙革が伸びて、縫い直しに銀貨五枚。革脂を入れ直して手間賃がまた二枚。——ああ、いけませんわ。また値を数えておりました。馬具を見ると傷みと値段を暗算してしまうのは、わたくしの職業病でございます。淑女の嗜みではございませんけれど、これだけは直りませんの。
部屋の戸が開いて、当の妹が顔を出しました。
「あら、お姉様。その鞍なら、やっぱり使いませんわ。座りが硬いんですもの」
「三年かけて馬の背に育てた座りですのよ、それ」
「だったらなおさら古いじゃないの。でも返さなくてよ。貰ったものですから」
「座りが硬いのは、鐙を伸ばしすぎて腰で座ってらっしゃるからですわよ」
「何それ。嫌味?」
「助言ですわ。無料の」
戸は閉まりました。ええ、ええ、結構ですとも。あとで磨いておきますわ。革に罪はございませんもの。
「お姉様の鞍が欲しいの」
と妹のリゼットが申しましたのは、先月のことでした。お父様はご自分の茶を一口飲んでから、こう仰いました。
「姉なら譲れるだろう」
譲りましたとも。その前は稽古の順番を。その前の春は、誂えたばかりの乗馬服を。妹が「欲しい」と言い、お父様が「姉なら」と続ける。我が家では朝の挨拶のようなものですわ。おはよう、姉なら譲れるだろう、ごきげんよう。
けれど、朝だけは。夜明けの厩だけは、誰にも譲っておりませんの。
薄暗いうちに房へ参りますと、藁の匂いに混じって、あの子の寝起きの息が聞こえますの。わたくしは飼い葉桶に一等の燕麦をあけます。町の菓子屋の焼き菓子を三度我慢して買う燕麦ですのよ。香りがまるで違いますの。焼き菓子はわたくしの口に入るだけですけれど、燕麦はあの子の毛艶になりますでしょう。どちらが良い買い物かは、算盤を弾くまでもございません。
「今日も食べっぷりが男前ですこと。……あら、あなた、女の子でしたわね。まあ、よろしくてよ。この馬場でいちばんの美人ですもの」
返事の代わりに、桶の底が鳴りますの。この子、燕麦のことになりますと、わたくしの口上なんて右の耳から左ですのよ。いいご身分ですわ。
「おいで、いい子」
声をかけますと、ノワゼットは必ず、鹿毛の耳をこちらへ向けてから、一歩を踏みますの。それから鼻面をわたくしの肩に寄せて、ふるん、と鳴く。これが返事。三年、毎朝、一度も欠かしたことのない、わたくしとあの子の帳簿にだけ載っている取引ですわ。
飼い葉をやって、体を拭いて、蹄を検めて、轡を馴らして。この子の背がどの鞍を嫌がるか、どの銜が口に合うか、雨の日にどこを痒がるか、わたくしは全部、手で覚えました。
誰もそれを、栄誉の中身だとは思っておりませんけれど。
◇
その日、客間に呼ばれたわたくしに、リゼットは扇を広げて申しました。
「秋の馬術大会のことよ、お姉様。出場権、わたくしに譲ってちょうだいな」
「……出場権を?」
「ええ。だってノワゼットはもう、わたくしの馬ですもの。馬場に出るのも当然わたくしでしょう? 馬だけ貰って舞台は姉のもの、なんて、恰好がつかないじゃなくて?」
「あの晴れ舞台は、三年かけて馬を仕上げた者に回ってくるものですのよ」
「あら。では仕上がった馬を持っているわたくしで、何も問題なくってよ」
「あなた、この三年で厩に何度お入りになって?」
「まあ、意地の悪い。世話は使用人の仕事でしょう。乗るのが主人の仕事よ」
「その乗るほうも、この半年で三度ほどでしたかしら」
「稽古なら積んだわ。先生も褒めてらしたもの、筋がいいって」
「まあ、結構ですこと。お月謝のぶんは仰ってくださいますとも」
妹の目が、きらりと光りました。(あの良い馬さえ手に入れば、馬場の喝采も栄誉も丸ごとわたしのもの——)と、額に大きく書いてございましたわ。読めてしまいますのよ、こういうのは。馬の機嫌より人間の欲のほうが、よほど字が大きうございますもの。
「リゼットの言う通りだ」
お父様が頷かれました。
「出場権は家の名誉のためのものだ。なら、映えるほうが出るのが道理だろう。姉なら譲れるな?」
「お父様まで、道理と仰いますのね」
「事を荒立てるな、アデール。お前は聞き分けのいい娘だろう」
「聞き分け。……聞いて、分けて、差し上げる係のことですわね」
「なんだって?」
「いいえ。家訓の解釈ですわ」
姉なら譲れる。はい、いただきました、本年度も我が家の家訓。
わたくしは扇の内から、妹の馬装を査定いたしました。真新しい手袋、真新しい膝当て、それから真新しい鞭——あら、鞭。あの子に鞭など要りませんのに。脚の使い方ひとつ知らないで、道具だけお値段は倍。あの馬装、馬の背も見ずに誂えれば倍は掛かりますのよ。鞍だけ立派で、乗り手は空。ちょうど、今のあなたのようにね。
……と、そこまで数えたところで、わたくし、急に、すうっと胸が涼しくなりましたの。
ああ。これが最後の一線というものですのね。稽古も、乗馬服も、鞍も、馬体の名義も渡しました。手元に残っておりましたのは、出場権ひとつ。それごと欲しいと仰る。つまりこの家でわたくしに残るものは、綺麗さっぱり、ございませんの。
でしたら——話は早うございますわ。
「よろしくてよ」
わたくしは扇を、ぱちんと閉じました。
「ぜんぶ差し上げます。鞍のひとつも残さず」
「……え? 本気で言ってるの?」
「わたくし、冗談で馬具のお話はいたしませんの」
「大会の朝、皆さまの前で、正式にお渡しいたしますわ。あとから譲った譲らないと醜い噂になっては、家の名誉とやらに関わりますでしょう。証人は多いほどよろしくてよ」
「皆の前で? まあ……ええ、いいわ。むしろ望むところよ。皆に見て頂きましょう、わたくしが選ばれるところを」
「ああ、それがいい。アデール、お前も晴れやかな顔で送り出してやりなさい」
妹は勝ち誇って扇を鳴らし、お父様は満足げに頷いておいでです。結構、結構。
わたくしだけが、荷造りの算段を始めておりました。荷物、少のうございますのよ。何せほとんど譲ってしまいましたから。身軽って、こういうことを言うんですのね。
◇
大会の朝の馬場は、憎らしいほどよく晴れておりました。
柵の内に関係者と出場の馬たち、柵の外にぐるりと観衆。よく通る声なら端まで届く距離ですわ。わたくしは最後に残った一張羅の乗馬服で参りました。譲り渡す側が受け取る側よりみすぼらしくては、絵になりませんもの。背筋は無料で張れる資本ですのよ。
「皆さま、お聞きくださいませ」
わたくしは声を張りました。ざわめきが、こちらを向きます。
「本日、妹リゼットの晴れの出場にあたり、わたくしの馬具一式と出場権を、正式に妹へ譲り渡しますわ。あとから譲った譲らないと申しませんよう、皆さまが証人でございます」
「仲のよろしいことで」
「姉君は出ないのか。あの鹿毛を仕上げたのは姉君だろうに」
「妹君は乗れるのかい」
「これだけの馬だ、乗っているだけで映えるだろうさ」
囃す声も、訝る声も聞こえましたわ。ええ、ええ、どちらも今のうちですわよ。それから最後の方、半分だけ正解ですわ。
「まず、鞍」
わたくしは鞍を捧げ持ちました。誂えて三年、革がノワゼットの背の形に育った鞍。裏の傷みは昨夜のうちに、わたくしが脂を入れて直しておきました。渡す品の手入れを怠るのは、わたくしの流儀に反しますの。喧嘩でも、品物は一等でなくては。
「——差し上げます」
「え、ええ」
「次に、鐙と鐙革。あなたの脚丈に合わせて、三穴詰めておきましたわ。——差し上げます」
「は、はい」
「銜と手綱。この子は硬い銜を嫌いますから、手の内は柔らかくなさいませね。引っ張り合いをしたら、あなたが負けますわよ。——差し上げます」
「わ、分かってるわよ、それくらい」
「それから鞍下の毛布。洗い替えが二枚。汗を掻いたら必ず干して。——差し上げます」
「洗うのって、誰がよ」
「あなたの使用人ですわね。今日からは」
「もう、いちいち仰々しいのよ、お姉様ったら」
「仰々しくいたしますのよ。皆さまが証人ですもの」
観衆から、ほう、というどよめき。妹は腕の上の馬具ごと、勝ち誇って顎を上げました。
「皆さま、ご覧になって? 姉の、心からの祝福ですわ」
ええ、心から差し上げておりますとも。一字も違いませんことよ。
一点ずつ、妹の腕へ積んでまいります。あら、不思議。渡すたびに、肩から荷が降りていきますのよ。稽古の順番を譲った日は三日眠れませんでしたのに。乗馬服の日はひと月ふてくされましたのに。今日は軽い。身ひとつになっていくこの心地よさ、癖になりそうですわ。世話がなくなった分、これからは焼き菓子に散財し放題……いえ、その算段は、あとにいたしましょう。
「最後に、出場権の札。本部への届け出は済ませてございますわ。——差し上げます」
「これで、ぜんぶね? お姉様」
「いいえ。いちばん大きいのが、残っておりますでしょう」
そして、手綱の先に、ノワゼット。
わたくしは、いつものように、あの子の首すじに手を置きました。撫でようとして——指が、一点で、止まりましたの。
毎朝の癖ですのに。三年欠かさなかった手ですのに、動きませんの。
値を、つけようとしたんですのよ、癖で。馬体でいくら、血統でいくら、毛艶で上乗せがいくら、と。……出ませんでしたの、数字が。三年ぶんの朝は、どこの帳面にも載っておりませんのね。初めて知りましたわ。
「……この子だけは、値を申しません」
声が、勝手に低くなりました。
「三年、わたくしが飼い葉をやった相棒ですから。——大切に、なさって」
それでも手綱は、妹の手へ、渡しました。
渡せるんですのよ。物は、ぜんぶ。
◇
出番の鐘が鳴って、リゼットがノワゼットに跨がりました。
「見てらっしゃい、お姉様。喝采はぜんぶ、わたくしのものよ」
「ええ。拍手の用意なら、してございますわ」
乗るところまでは、できますのよ。馬丁が二人がかりで踏み台と轡を支えておりましたから。真新しい手袋が手綱を握り、真新しい鞭が帯に差してある。使われませんように、と祈るだけの係が、柵の外のわたくしですわ。
「さ、お行きなさい」
リゼットが手綱を振りました。
ノワゼットは、動きませんでした。
「……ちょっと。行きなさいってば」
かかとが腹を軽く打ちます。あら、乱暴。ノワゼットは首を低くひと振りしただけで、四つの脚は敷石にでもなったかのよう。暴れません。跳ねません。ただ、静かに、そこから一歩も動きませんの。
「なんで……動きなさいよ! あんたはもう、わたくしの馬でしょう!」
「お嬢様、お声を落として。馬が嫌がります」
「お黙り! いいから引きなさい、あなたたち!」
「引いてはおります! ですが、その、脚が」
「脚がなんですの!」
「地面から、生えておいでのようでして……」
リゼットの手が、帯の鞭へ伸びかけました。わたくしの口が、考えるより先に開きましたわ。
「おやめなさいな。それを使ったら、あなた、皆さまの前でほんとうに終わりますわよ」
「な、なによ、偉そうに……!」
「馬は覚えますのよ。手を上げた人間を、生涯」
手は、鞭に触れる前に降りました。結構。それだけの分別がおありで、何よりですわ。
観衆のざわめきが、色を変えてまいりましたわ。囃す声が消えて、ひそひそが増える。
「どうした、馬が動かんぞ」
「あれは譲られた馬だろう」
「譲ったのはあちらの姉君だろう。毎朝厩にいたのは姉君のほうだと聞くが」
ほら。皆さま、見るところは見てらっしゃる。
係の者が轡を取って引きました。ノワゼットは頭を上げ、ぐいと踏ん張って、それきり。蹄の音ひとつ、鳴りません。馬場の真ん中で、良い馬と良い馬具と晴れ着の娘が、額に入れた絵姿のように停まっておりますの。
——ああ、わたくし、性根の曲がった女ですわ。この静けさを、少しだけ、美味しいと思ってしまいました。焼き菓子より、ずっと。
リゼットが真っ赤な顔で、柵の外のわたくしを睨みました。
「お姉様! 何かしたんでしょう、この馬に! 細工よ、そうに決まってるわ!」
「何も。あなたの仰るとおり、ぜんぶ差し上げたじゃありませんの。鞍も、鐙も、手綱も、出場権も」
「だったらなぜ動かないのよ!」
「さあ。あなたの馬に、あなたがお聞きあそばせ。……とはいえ、柵の外からできることが、ひとつだけございますわね」
「な、なによ」
「して差し上げましょうか。皆さまの前で」
わたくしは柵に歩み寄りました。観衆の目が、いっせいにこちらへ参ります。よろしいですとも。ようくご覧になっていてくださいまし。
息を、ひとつ吸って。
「おいで、いい子」
ノワゼットの耳が、くるりとこちらを向きました。
それから、あの子は歩きましたの。妹を背に乗せたまま、静かに、まっすぐ、柵のこちらへ。リゼットが手綱を引いても、脚で締めても、あの子の進路は一寸も揺れません。柵の前まで来ると、あの子はいつものように鼻面をわたくしの肩に寄せて、ふるん、と鳴きました。
毎朝の、返事ですわ。
「嘘よ……嘘。だって書類では、わたくしのものなのに」
「ええ。書類のぶんは、ずっとあなたのものですわ」
「……歩いたぞ。姉君の声ひとつで」
「手綱より声が効くのか」
「あれが三年というものだろうよ」
観衆は、もう誰も笑っておりませんでした。誰の馬か。誰の三年か。この一部始終より雄弁な証文が、どこの役所にございまして?
——ええ、ええ、ごらんあそばせ。書類の上の持ち主はあちら、手綱を握るのもあちら。それでもこの子が選んで歩く先は、わたくし。胸のすくこと、胸のすくこと。淑女ですから口には出しませんわ。心の中で三回唱えただけですの。
◇
人垣を割って、灰色の作業着の男が進み出ました。王室厩舎の馬丁頭、ガストン様。本日の検分役で、馬のことでは王宮相手にも頑として折れないと評判のお方ですわ。
ガストン様はノワゼットの首をひと撫でし、脚元を検め、それからわたくしの手を——手綱だこと飼い葉の匂いの染みた、淑女失格の手のひらを、じっとご覧になりました。
「毎朝、誰が世話を」
「わたくしですわ。三年」
「轡を馴らしたのは」
「わたくしです。銜も蹄も、この子のことでしたら帳面なしで諳んじられますわ」
「飼い葉の銘柄は」
「一等の燕麦ですわ。香りで選びますの」
「……厩の人間の答えだ」
「細工だわ! その女が何か仕込んだのよ!」
リゼットが叫びました。ガストン様は振り向きもなさいません。
「細工で馬は止まらん。馬が止まるのは、背の上を信じておらん時だけだ」
それから観衆へ、よく通る声で、一言だけ仰いました。
「馬が選んだのはあなたです」
それだけ。けれど、馬場じゅうには、それで十分でございました。
「ち、違うの、その馬は正式に貰ったのよ、書類だって……」
リゼットの声が、みるみる細くなりますの。あら、不思議ですこと。わたくしの前ではあんなに大きなお声でしたのに、観衆が相手ですと語尾が痩せますのね。
お父様が、人垣を分けて進み出て参りました。
「アデール。話が違うだろう。家に恥をかかせて……いや、分かった、こうしよう。馬具は返す。出場権も、まあ、来年の話だ。だからあの馬が、な、リゼットの言うことも聞くように、お前から仕込み直してやってくれ」
「お父様」
わたくしは、静かに申し上げました。
「馬はもう、差し上げました。返してほしいとは申しませんわ。——ですけれど、あの子の心は、物ではありませんから、返しようがございませんの。誰の声で歩くかは、あの子が決めますのよ。そしてそれは、三年ぶんの朝で、もう決まっておりますの」
「お姉様……返すわ。鞍も、鐙も、ぜんぶ返すから。だからあの馬に、わたくしを乗せるように言って。ね? 姉妹でしょう?」
「まあ。今日はずいぶんと、可愛らしいお声が出ますのね」
「アデール、お前は昔から、聞き分けが」
「ええ、お父様。聞いて、分けて、差し上げました。ですから、もうお渡しできるものが、何ひとつ残っておりませんの」
「せめてあの馬だけでも、な、頼む。このままではリゼットの立場が」
「鞍だけ立派で乗り手が空では、馬場は務まりませんの。それだけの話ですわ。……ああ、鞍は良い品ですから、手入れだけはなさってくださいまし。汗を拭かねば裏から傷んで、三日で鐙革が伸びますのよ」
最後のは意地悪ではなく、ただの職業病ですわ。革に罪はございませんもの。
◇
ひと月後。わたくしは王室厩舎の朝の中におります。
あの日の帰りぎわ、ガストン様が仰いましたの。
「馬を仕上げた手が要る。来るか」
「……ひとつだけ伺っても? お給金は」
「弾む。飼い葉は王室持ちだ」
「参りますわ。今すぐにでも」
我ながら見事な二つ返事でしたわ。持参するものは何もございません。馬も鞍も差し上げてしまいましたもの。腕と、手のひらの匂いだけ持って参りました。それで足りると仰る勤め先は、生まれて初めてですわ。
妹はあれきり、馬場に出ておりません。「姉から馬を奪って、その馬に乗れなかった娘」の噂は、わたくしが運ばずとも、ずいぶん足が速うございますのね。ノワゼットは丁寧に世話をされる約束で、次の巡回で会えることになっておりますの。あの子の幸せが一番。会いましたら一等の燕麦を、こっそり袖の下に。
「新入り。その栗毛、気性が荒くて誰も手を焼いてる。慣らしてみろ」
「はい、ただいま」
「言っておくが、噛むぞ」
「あら。噛み癖の子は、銜の当たりが悪いだけのことが多うございますのよ。拝見しますわ」
「……変わった新入りだ」
「よく言われますわ」
初めましての子の房で、わたくしは飼い葉桶に燕麦をあけます。初のお給金、焼き菓子にどれだけ回せるかしら。三年ぶん我慢しましたのよ、山と積んで頬張って……いえ。やはり、この子の燕麦ですわね。香りの良い、一等のを。
栗毛の耳が、そろりと、こちらを向きました。
ふふ。よろしくてよ。ここからが、わたくしの晴れ舞台ですわ。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
「悪くなかったな」と思われたら、★や感想を残していってもらえると、とても励みになります。
作者ページには他の短編も並んでいます。よろしければどうぞ。




