夜明けの結末
屋上から見た日の出は、思っていたより、ずっときれいだった。
東の空がゆっくり明るくなっていく。
さっきまで幽霊みたいに見えていた白いビニールシートも、朝の光の中ではただのくたびれたゴミに戻っていた。
旧校舎の窓が、一枚ずつ光を拾っていく。
夜のあいだ怪物みたいに見えていた建物が、少しずつ、ただの古い校舎に戻っていく。
でも、俺はもう知っていた。
ここには何もなかったわけじゃない。
何かは、確かにあった。
「……ねえ」
俺はフェンスにもたれながら言った。
「これ、七不思議の調査じゃなくて、『七不思議の破壊』だよね? 明日の朝、学園からミステリーが全部消えてる気がするんだけど……」
言いながら、俺はちょっとだけ笑っていた。
怖かった。本当に怖かった。
何度か本気で帰りたかったし、途中からは正直幽霊より同行者の方が怖かった。
それでも、夜が明けた今は、少しだけ思う。来てよかったのかもしれない、と。
「いいじゃないか、根室さん」
茨木が、朝日に目を細めながら言った。
「伝説が消えたなら、僕たちが新しい『伝説』になればいい。……例えば、『深夜、プロテインを飲みながら女子トイレの名付け親をする集団』とかな」
「嫌すぎる伝説だな!?」
「いやあ、随分いい運動になりました」
大山崎が締めのプロテインを飲みながら言った。
「でも幽霊よりも、中書島さんの視線のほうが筋肉に効きましたね」
「それは多分、筋肉じゃなくて精神に効いてるんだよ」
中書島は朝日を浴びながら、退屈そうに扇子を広げた。
「……退屈な夜だったわ」
「嘘でしょ。今夜のどこに退屈要素があったの」
「アナスタシアには、後で私の古いドレスを差し入れるわ。幽霊であっても、身なりを整えるのは義務だもの」
「まだアナスタシアを育てる気なんだ……」
高槻はフェンスの向こうの朝焼けを見ていた。その横顔は、いつもより少しだけ柔らかかった。
「……次は、どこ行く?」
「え?」
「……まだ、知らない音がある気がする」
俺は空を見上げた。
朝日は綺麗だった。風も気持ちよかった。
旧校舎も、もう怖くなかった。
だからこそ、心の底から叫んだ。
「もう帰らせてよおおおお!!」
◇
翌朝。
学園の掲示板には、謎の報告書が貼り出されたという。
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【旧校舎七不思議調査報告】
旧校舎七不思議は、調査員五名によりすべて解決、または制圧された。
なお、調査終了後、旧校舎周辺にて新たな怪異らしき現象が確認されたため、以下を第八の怪談候補とする。
――第八の怪談候補。
夜明け前の旧校舎で、男の絶叫が聞こえる。
発生地点、旧校舎屋上付近。
音声の主は不明。
今後、追加調査を実施予定。
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音声の主は不明じゃない。
……たぶん、俺だ。
そして追加調査は、絶対にしない。
――根室毅の証言録、以上。




