表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微睡みの世界で、まやかしの幸せを  作者: 色葉充音
Part 1 方波見陽翠の『 』
12/32

11 エスオーエス

「陽翠、一旦落ち着こう? 友達が心配なのは分かるけどね」

「でも……!」


 汐梨ちゃんに、友達に何かあったんでしょう……!?


「こういう時こそ落ち着かないと、見えるものも見えなくなるよ? ほら吸ってー、吐いてー」


 ……ものは試しだ。それに合わせて深呼吸をすると視界が少し広がった。綾世先輩の言う通り、さっきのままだったら見落としてしまうものが大量にあったかもしれない。


「……すみません、ありがとうございます」

「どういたしまして」


 それで、一体何があったんですか? まさかここまで言って話さない、なんてことはないですよね? そんな意味を込めて布目先生を見やる。布に隠れた目の部分を真っ直ぐと見つめていたら、観念したように先生は口を開いた。


「突然すまなかった、不安にさせるだけだったな。……これは誰にも言わないでほしいんだが——」


「布目先生!」


 先生が話そうとしたその時、怒気のこもった男性の声が響き渡る。ラウンジの入り口からつかつかとやってきたのは、青いスカーフと同じ色のネクタイをつけた空色の長髪の男性だった。スクエア型のメガネをくいっと上げる仕草といい、そのぴしっとした身のこなしといい、どこかで見たことがあるような……?


「ど、どうした宇治(うじ)?」


 布目先生が珍しくたじたじになっている。確かにこの人勢い強めですね。私も先生の立場だったら絶対にそうなっていた。


「十川汐梨を知りませんか!? 布目先生が担任ですよね!? 彼女、約束の時間を過ぎても来ないんです! 毎回の数分程度の遅刻は目を瞑っていましたが、連絡もなしに1時間過ぎても来ないなんて……! 僕のペアなのに……!」


 そうだった、この人、汐梨ちゃんのペアの3年生だ。名前は確か、宇治(ひびき)。入学初日のペアとの顔合わせ会で3年A組にいた。


 しかし、そんな言い方をするということは……集合場所で1時間待ったんですか? 30分はなんとか待てても、さすがに1時間は待てない。宇治先輩、真面目な人だ……。


「十川のペアにまで隠すことはできないよな。その十川だが、……昨日から寮に帰っていない。机の中を確認したら昨日あった科目の教科書とノートが入れてあった。寮母が確認した部屋にも案の定いなかったそうだ」


 え、じゃあ今朝の布目先生の「十川から休みの連絡が来てたみたいだ」っていう言葉は嘘……? 本当のようにしか聞こえませんでしたよ? ……でも、そうなんだ。嫌な予感、当たっちゃったんだ。


 誰かの異能の巻き添えをくらったのか、誘拐事件にでも巻き込まれたのか、はたまた嫌気が差してこの学校を出て行ったのか……。布目先生は考えられる可能性をつらつらと述べていく。


 色々な可能性を考えていた方がいいんだろうけど、汐梨ちゃんが自ら進んで学校を出て行ったっていうのだけはあり得ないと思う。スカートを短くしていたり、首元のボタンをひとつ外していたりと、ほんの少しやんちゃな印象を受けるけど、汐梨ちゃんは物事を途中で投げ出したりしない子だから。


 意外と大変な日直の仕事も、他の人がこっそりサボっていた掃除の係も、学食に苦手なものが出た時だって嫌そうな顔をしながらも最後まで食べ切っていた。


 この学校——国立異能者養成学校は、中学を卒業した異能者の入学が()()()()()()()()()。入学しないのも退学するのも、余程のことがない限り、国が許してはくれない。絶対、汐梨ちゃんはその義務を投げ出さないと思う。


 ……やっぱり、何かに巻き込まれたのかな?


「布目先生、少しいいですか?」

「なんだ? 何か心当たりでもあるのか、宇治?」


 宇治先輩はメガネをくいっと上げて話し出す。


「十川汐梨の異能の暴走、これは考えられませんか? 以前本人から、自分が異能を使ったら大抵の異能者から見つからない自信がある、と聞いていたので」


 布目先生ははっとしてタブレットを取り出し、何かを探すように操作する。異能の暴走、それは確かにどの可能性よりもしっくりとくる。誰かの異能の巻き添えをくらったのなら、騒ぎにならないとは考えにくい。誘拐事件に巻き込まれたというのなら、なぜ汐梨ちゃんを拐ったのかという疑問が残る。誘拐犯が狙うのは、大抵、()()()()()な黒の異能者だ。


「十川汐梨は同時に、こんな自信いらないとも言っていました」


 そう付け加えられた言葉に、布目先生は苦虫を噛み潰したかのような顔で「なるほどな」と答える。その視線はタブレットの一点で止まっていた。


「何か分かったんですか?」


 落ち着き払った声で私の疑問を代弁してくれた綾世先輩に、先生は頷く。


「本人の許可なくその異能の内容を他人に伝えるのは本来ならご法度なんだが……今回は事態が事態だ。十川の異能は、自分、そして自分と手を繋いでいる者の気配や痕跡を消すことができるというもの。副作用として、誰かから『見つけ』られなければ元に戻れないらしい」


 ……もしかして、汐梨ちゃんは何かしらのエスオーエスを出している? 自分一人では解除できないなら、誰かに助けを求めるしかない。


 それも自分の気配や痕跡を消せるという状態でというのなら……私だったらものを動かす。側から見たら急にものが動いた!?って驚くよね。……それなら、あの怪奇現象は全部汐梨ちゃんがやったってこと?


 噂が回り始めた時期も、ひとりでにものが動くわけも、私たちだけがいるラウンジで電気が消えた理由も、これなら全て説明できる。助けて、って言いたかったんだよね。


 汐梨ちゃんは、まだここにいる。黒の異能者2人に、信頼できる担任の先生、そして自分の異能について話したことのあるペアの先輩——頼れそうなメンバーが集まるところからわざわざ別の場所に行こうとは考えないはずだ。


 「見つけ方」についての議論をしている先輩たちには悪いけど、先に汐梨ちゃんの存在を確認させてほしい。


「汐梨ちゃん、いる?」


 ラウンジ全体に響くよう、少し大きめの声で名前を呼ぶ。背中の方から戸惑ったような気配を3つ感じた。


「いるなら、電気を消して、またつけてみてくれない?」

「陽翠……?」

「あの怪奇現象、汐梨ちゃんのエスオーエスじゃないかと思ったんです」


 綾世先輩が納得したように頷くと同時に、ラウンジの電気がぱっと消えた。その数秒後、点灯する。


 ……いる! 汐梨ちゃんがそこにいる! ですよね! 後ろを振り向くと、布目先生と宇治先輩がほっと息を吐いていた。よかった、私の見間違いとかじゃなかった。一呼吸して真剣な表情に戻った二人は改めて電気のスイッチがある方に視線を向ける。


「十川、お前の『見つけ方』をなんとかして教えてくれないか? 教えられそうなら電気を消して、それは無理なのであれば、一度電気を消してまたつけてくれ」


 ぱっと消えた電気はすぐについた。それが表すのは「教えることは不可能」だということ。気配だけでなく痕跡まで消せるのであれば、何かに文字を書くというのは無理なのかもしれない。ものを動かすのが今の汐梨ちゃんの限界という可能性が出てきた。


「そうか……、分かった。教えてくれてありがとうな」


 手詰まり、その言葉が頭をよぎる。布目先生も同じことを考えていたらしい。ぐっと押し黙っている。何かいい案はないのかな……。


 すると、ぽん、と肩に手を置かれた。綾世先輩はなんてことのない笑顔で「ひとつだけ、案があるんだけど」と言って、ちらりと先生に視線を向ける。布目先生はその意図に気付いたのか、さっと顔を強張らせた。


「言うなよ、法月」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ