#83 冷めやらぬまま実践
風が切り裂くような笛の音が響く。
演習場に立つ沙羅先生は腕を組み、全員を一瞬で射抜く鋭い緑の瞳。
爽やかな黄緑の髪と威圧感が、相反する存在感を放っている。
「呪文詠唱学の熱が冷めないうちに実技に移る。
今日は“攻撃の質と安定”だけを見る」
虹矢は早くも騒がしい。
「お、おうよ! 見てろよ! 今日は爆発しねぇ!!」
「爆発しないのは最低限の条件よ」
沙羅の声に、虹矢が唸った。
「ちくしょう!」
瑞翔は小さくため息。
「……いつもより元気だなぁ」
「今日は詠唱学が楽しかったもんね、虹矢」
魅亜がにこやかに言う。
「声がでかいところだけは才能あったよな」
つい言ったら、虹矢が慌てる。
「そこ褒めてねぇ!!」
先生の視線がきれいに全員を貫く。
「はい、私語終了。実技開始」
⸻
最初の指名は――
「遥花さん、前へ」
少し緊張しながら歩み出る遥花。
胸の奥に、詠唱学で掴んだ感覚がまだ残っているのが見える。
「土属性の基本、“〈ロート〉・地脈震起”。小型でいいわ。精度を見たい」
呼吸を整え、声を出す。
「〈ロート〉——」
土の魔力を構成した瞬間、ふわりと風に混じる“緑色の匂い”。
(……まただ)
瑞翔の声が小さく響く。
「自然の力を感じる」
理紅虎も頷く。
足元の土が少し盛り上がり、若葉のような光がちらりと揺れた。
「悪くないわ。今はその“緑色の反応”は抑えていい。魔力はまだ定まっていない」
沙羅の声で、遥花は背筋を伸ばした。
(……もうすぐだな)
生命の力は芽吹きかけている。
でも“開く”には、もっと大きなきっかけが必要だ。
⸻
「次。魅亜さん」
胸に手を当てて歩み出す。
指先が微かに震え、過去の火の暴走を思い出しているのが分かる。
「火の質は良い。問題は魔力が暴れる恐怖だけ。まずは小さくでいい」
沙羅の声に、深呼吸を重ねる。
「……うん」
横から声をかける。
「火はお前の敵じゃねぇよ。形を作る意識をすれば逃げない」
「形……?」
沙羅も軽く補足。
「火は広がる属性。枠を意識しなさい。魔力が強い分、枠が曖昧になると暴走する」
手を包むように丸めて詠唱する。
「……〈ア=ルナ〉」
小さく丸い火が現れ、温かく落ち着いている。
暴走とはまるで違う。
(……できた……!)
目の奥が少し潤む魅亜に、思わず笑みが浮かぶ。
「ほらな。本来こうなんだよ」
沙羅の声は厳しいが、誇らしげな表情を隠せない。
⸻
風刃を放つ理紅虎は安定そのもの。
無駄なく的を切り裂く。
「理紅虎くん。安定してる。合格」
「よかった〜……」
瑞翔は水弾を淡々と撃つ。
特別強くはないが、命中精度は悪くない。
「瑞翔くん。もっと最小魔力量の調整を覚えなさい」
(マジで普通だな……逆に安心するわ)
⸻
「虹矢くん」
「よっしゃあああ俺の番!!」
「叫ばなくていいわ」
「〈ヒャウラァ!〉」
水魔法、風魔法、火花、土の礫が全部同時に小規模で飛ぶ。
俺は思わず呟く。
「あーあ、全部まぜこぜだ。これじゃ使い物にならない」
「虹矢。まず属性をひとつ選びなさい。奇声もやめなさい」
「うるせぇ! 俺は俺の道を行く!!」
……でも前の変な泥よりは暴走してないの、すごいな。
⸻
「玲磁くん」
「ん、はいよ」
短い詠唱を思い浮かべる。
詠唱学で得た“魔力の整い”を試すつもりだ。
「〈リ=ア・ル〉」
炎が静かに花開く。
輪郭が崩れず、精密で美しい。
「詠唱を覚えただけでここまで精度が跳ねるのは異常。
でも悪くないわ。その吸収力、過信せず制御だけはしっかり」
「気をつけまーす」
「本当に気をつけるのよ?
一歩間違えば校舎を吹き飛ばすタイプなんだから」




