#81 ただならぬ努力のようなもの
青ノ寮の灯りを背に、遥花が小さく手を振る。
「今日は……ありがとう。おやすみ、みんな」
柔らかな声とともに扉が閉まると、夜道は静寂を取り戻した。
俺は伸びをしながら歩き出す。
「……さて、戻るか」
瑞翔が横で笑う。
「ねぇ玲磁。さっき遥花さんと話す時、ちょっと声、優しくなってたよ」
目ざとい。しかし俺はとぼける。
「は? どこがだよ。いつも通りだろ」
「ほら、そうやってすぐ照れるところが“いつも通り”じゃないんだよ」
「照れてねぇし」
理紅虎はそのやり取りを聞きながら、少しだけ羨ましそうに笑った。
「……なんか、いいね。こういう他愛ない会話」
フェンリルが横で静かに歩き、尻尾だけを揺らしている。
⸻
街灯の下、ひとりの影がふらふらと歩いてくる。
汗だく、息切れ、全身砂まみれ――妙に芝居がかった姿でへたり込むのは、虹矢だった。
俺は目を細める。
「おい。お前その顔……殴り合い10ラウンドの後みたいになってんぞ」
虹矢は手を振った。
「ケッ、ちげぇよ……ちょっと特訓してただけだ。
別に大したこたぁしてねぇ」
瑞翔が苦笑する。
「“ちょっと”って顔じゃないよこれ」
理紅虎が穏やかに背中を支える。
「……大丈夫? 無理はよくないよ」
虹矢は鼻で笑った。
「無理上等だ。努力しねぇと置いてかれんだよ、この学校はよ。
……でも別に、自慢する気はねぇからな。聞かれても話さねぇぞ」
俺はぽん、と虹矢の肩を叩く。
「聞かねぇよ。お前の努力は誰より見えねぇところで光ってんだろ」
虹矢はほんの一瞬だけ照れ隠しの沈黙をした。
「……チッ、そういう言い方すんなよ。こそばゆいじゃねぇか」
⸻
4人で赤ノ寮へ
夜の赤ノ寮は静かで、外灯の光だけが舗道を照らしている。
虹矢の足取りを気遣いながら、4人はゆっくり歩いた。
瑞翔がふと思い出したように言う。
「そういえば虹矢、部屋どこ? こっちの廊下?」
「ああ? 俺は――」
虹矢が指差した先。
そこにいたのは、さっきまで一緒にいた理紅虎。
「あ、理紅虎……?」
理紅虎が首を傾げる。
「……うん? ああ、言ってなかったね。僕たち、相部屋なんだ」
俺は止まる。
「へ? お前ら相部屋なの?」
虹矢は淡々と答えた。
「そうだよ。昼間は別行動だがな。
こいつは真面目で静かで、フェンリルもいるし……まぁ悪くねぇ」
理紅虎も微笑む。
「虹矢くんは……努力家で、朝も夜もこっそり訓練してる。
寝る時も気を使ってくれるから、助かってるよ」
虹矢は顔をそらす。
「別に……普通だろ、そんなもん」
俺はニヤッとする。
「へぇ〜〜? お前がそんな言い方するなんて、珍しいな虹矢」
「テメェ……うるせぇ」
4人は笑いながら廊下を歩く。
寮の玄関をくぐる時、瑞翔だけがふと思う。
(この4人、全然タイプ違うのに……不思議と噛み合うんだよな)
属性も成績も生まれも違う。
でも、誰かが欠けると“今夜の空気”にならなかった。
それは、まるで――この先の物語を予感させる、静かな結束だった。
⸻
それぞれの部屋へ
俺は軽く手を振る。
「じゃあな。虹矢、理紅虎。ちゃんと休めよ」
「うっせ、言われなくても寝るよ……たぶんな」
フェンリルが小声で「わふ」と鳴く。
瑞翔は穏やかに微笑む。
「おやすみ。また明日」
そして4人は、赤ノ寮の夜に吸い込まれるように、
それぞれの部屋へ帰っていった。
忘れがちですが、アルテリアには1年生だけで150人います。
そのほとんどが目立たずに普通の学校生活を送っています。
149位であっても、虹矢の努力は桁が違う。




