#60 薄暮
部室を出ると、校舎の外はすっかり夕焼けに染まっていた。
俺が伸びをしていると、
横からそっと足音が近づいてくる。
「あの……玲磁くん、今日……帰り、一緒にいい……?」
ピンクの髪が夕陽に透けて、
遥花がふわっと笑って立っていた。
「ああ、もちろん。
桜さん、青ノ寮だろ? 途中まで――」
「一緒に帰ろう」
その“当然”みたいな言い方に、
なんかちょっと胸が温かくなった。
二人で並んで歩き始めると、
遥花は自然と話し出す。
「学校……少しずつ慣れてきたよね。
授業も、教室も、みんなのことも」
「まぁ、悪ガキトリオは慣れなくても騒がしいけどな」
遥花はぷっと笑った。
「玲磁くんも、だいぶ……慣れてきたよね。
前より、たくさんの人と仲良くなってる」
「……まぁ、そうかもな。
最初は“時魔法ってなんだよ”って感じだったけど、
案外どうにかなるもんだ」
「……うん。玲磁くん、すごいよ」
その“すごいよ”が、なんか胸にすっと入った。
気づけば、俺たちはゆっくり話しながら歩いていて――
遥花がふと、
歩幅を合わせるみたいに手を近づけてきた。
ほんとにさりげなく。
本当に自然に。
気づいたら――
俺たちは手を繋いでいた。
違和感なく繋がってた。
遥花も全然気づいてない顔で、
「今日の合体魔法、すごかったね……
火と氷も、風と時も……全部綺麗だった」
「あー……まあ、全部みんなのお陰だけど……」
「玲磁くんも、すごく頑張ってたよ」
そう言って、
遥花はきゅっと少しだけ指を絡めた。
手を離すタイミングもなくて。
むしろ、あったとしても離す気はなかった。
夕焼けの廊下を抜け、校門を出て、
風の音や遠くの鳥の声を聞きながら、
俺たちは色んな話をした。
授業のこと、
寮のご飯のこと、
沙羅先生のこと、
大河のこと、
瑞翔の話まで出た。
どれも他愛ない話なのに、
なんか全部が楽しかった。
そして――
青ノ寮の前まで着いたところでようやく、
二人とも自分たちの“手”に気づいた。
「……あっ」
「……あっ、えっ、これ……」
同時に慌てて手を離し、
二人で真っ赤になって向き合う。
「ご、ごめん……! 気づかなくて……!」
「い、いや、俺も……全然気づいてなかった……」
沈黙。
でも、なんか心臓がバクバクしてた。
遥花はもじもじと指を合わせてから、小さく言った。
「……あのね、玲磁くん」
「ん?」
遥花は夕焼けを背に、
ほんの少しだけ勇気を振り絞った顔で、
「私のこと……“遥花”って呼んでいいよ」
一瞬、胸の奥で何かが跳ねた。
「いいのか?」
「うん。
れ、玲磁くんなら……その……嬉しいから」
言葉に困るほど嬉しくて、
俺は視線を逸らしながら答えた。
「……じゃあ、また明日な……遥花」
遥花はぱっと花が咲いたみたいに笑った。
「うん……またあした、玲磁くん」
そう言って、
彼女は青ノ寮の玄関に消えていった。
俺はしばらくその場に立ち尽くし、
ゆっくりと息を吐いた。
(……今日、なんか一気に距離縮まった気がする)
夕焼けはもうすっかり夜へと変わっていたけど、
胸の中だけはやけに明るかった。




