#31 1-A 仁公儀 蒼南
魔力基礎学が終わり、生徒たちが教室を出ていく。
玲磁がノートを閉じ、立ち上がったところへ――
ふわり、と風を押し返すような柔らかい気配が近付いた。
振り向くと、
明るい緑の髪が揺れ、
同じ色の瞳が穏やかに笑っていた。
「やっぱり君が天竜 玲磁くんだよね?」
聞き覚えのない声。だけどどこか落ち着いていて、優しい。というか、声を聞くまで女子だと思ってたがどうやら男のようだ。
俺は首を傾げる。
「……ああ。そうだけど、お前は?」
「うん、初めまして。
仁公儀 蒼南。一年の四位って紹介されたら早いかな」
さらっと言ったが、内容はすごい。たまにクラスでも噂になってた。
学科も実技もほぼトップクラス。魔力値に至っては750で1年生の中では断トツで生半可な教師陣よりも高い、紛れもない天才。
俺は思わず眉を上げる。
「学年4位か…それで今日の授業のあとにわざわざ俺んとこ来たのか」
蒼南は柔らかく笑う。
「だって君、すごかった。
普通は基礎魔力の循環ってあんな精密に制御できないよ。
“本物の天才”って、ああいう人のことだと思った」
俺は頭を掻く。
「いや、俺は沙羅先生から基礎魔法禁止された側だぞ。天才扱いされても困る」
「禁止されるほど危ない才能……ってことでもあると思うけどね。
ねえ、玲磁くん。時魔法、少しだけ見せてくれない?」
目は穏やかなのに、好奇心は隠しきれていない。
「ダメだ、俺が怒られる」
しかし蒼南はハッキリと言い切る。
「大丈夫。“絶対にバレることはない”から」
俺は周囲を見渡し、小さく息を吐いた。
「……まあ、大規模じゃなきゃいいか。
悪ガキトリオもいないしな」
俺は、ふっと手をかざす。
指先に風粒子が集まり、
空気の層がゆっくり回転を始める。
風の渦が“時”の流れをなぞるように動き――
指先に 小さな風の時計 ができ上がった。
“針のある風の紋様”が、ゆっくり鼓動している。
蒼南の瞳が輝いた。
「……綺麗。
風なのに、時間がそこだけ凝縮されてるみたい」
俺は笑う。
「まあ、時間の流れいじってるからな」
蒼南はすぐ詰め寄る。
「他には? 他にもあるよね?
ねえ、玲磁くん、もっと見たい。
なんでもいいよ、君が“できそうだ”って思ったやつ全部!」
その反応は、天才というより完全に子供の好奇心だった。
俺はイタズラ好きだ。ここまで反応が良すぎると、試したくなるんだよな…。
俺は蒼南の頭上に軽く“時の波紋”を落とした。
蒼南は瞬きを――一度だけ。
次の瞬間。
制服がぶかぶかになり、
身長は半分ほど、
瞳はうるっと大きく、
声はあまりに幼い。
「……あれ……ぼく……なんか……ちっちゃい……?」
蒼南――6歳児化。
俺は完全に声を殺して笑っている。
「いやいや、こんなに縮むとは思ってなかった!
本当は“2〜3歳分若返らせる”予定だったんだよ!」
小さくなって、本当に女の子にしか見えなくなった蒼南は袖をぶんぶん振りながら半泣き。
「れ、玲磁くん……こ、これ……すごいけど……恥ずかしい……!!
はやく戻して……!」
俺は慌てて手をかざす。
「はいはい、逆再生な。戻すぞ」
時魔法が“成長の軌道”を巻き戻し、
蒼南の身体は元の高校一年生へ。
蒼南は胸を押さえて、息を整え――
「…はぁ…はぁ…今の……
僕、生まれて初めて“時間の変化”そのものを感じたよ」
そして、にっこり。
「玲磁くん。
僕、君ともっと話したい。
こういう未知の才能、大好きなんだ」
蒼南は名残惜しそうに風を払う仕草をして、
「また見せてね。玲磁くんの“時間”」
と微笑んで去っていった。
俺は肩を回しながら、ふぅと息をついた。
――と、その後で瑞翔から聞かされた。
“あの時たまたま沙羅先生に見つからなかったのは、
仁公儀が風の認識阻害結界を張ってたからだぞ”
……らしい。
仁公儀 蒼南、こいつもこいつで規格外だな。
俺は思わず頭を抱えた。
登場人物紹介
●仁公儀 蒼南
【性別】男
【適性】風
【魔力値】750
【総合順位】4位
【学科】4位
【実技】3位
【髪】緑色長髪
【瞳】緑色
1年生の中では圧倒的に魔力値が高く、並いる上級生や教師陣よりも高い。
柔和で中性的な容姿。悪ガキトリオからも、よく「女みたい」と言われている。




