第20話 運命
※この話には性的表現が含まれています。苦手な方はご注意してください。
次の日の夜、城の中を案内された後のレズリーは窓の外を眺めていた。
眺めのいい場所にわざと城を置いているのか、レズリーの窓からは町並みを少しだけ高い位置から見下ろすことができる。闇が深くなってきているからか、家に帰る住民が道の間を行き来しており、殆どが楽しそうに笑い合いながら歩いている。
昨日、ファリスとディナルが出て行った後に、この部屋は止めた方がいいと言う為にすぐに追いかけたが、ファリスにピシャリと却下されてしまったため、仕方なくこの部屋を使うことにした。
それに、昨日緊張しながらも使ったベッドの居心地があまりにも良かったため、情けなかったがこの部屋でいいと思ってしまった。
「....それにしても、あれだけ美形なのにどうして妻がいないのかしら...」
ポツリと独り言を呟いた。
初めて会った時は気が動転していてよく観察していなかったけれど、よく見れば、いや、よく見なくても彼はこの世の者とは思えないほどに美しい顔をしていた。見ているだけでも分かるサラサラした茶髪、一度見つめられたら二度と逃げることは出来ない、美しい緑の瞳。完璧な位置と形である鼻と口、レズリーはあそこまで美しい男性を見た事はなかった。
性格も、一日しか知り合っていないが、表面は厳しくて冷たそうでも実際は優しい人だというのは、よく分かる。
なんだか、こんなに短い間しか知り合っていないのに既にどこか惹かれてしまっている自分がいるのも分かる。
「....女なんてよりどりみどりだと思うのに....」
「興味が湧く女に会ったことがないんだ」
突如かけられた声に、レズリーの肩はビクっと大きく跳ねた。
ドキドキする心臓を押さえながら振り向くと、うっとうしそうに首をきっちりとかこっていたシャツのボタンを外しながらファリスが入って来た。
その姿に不覚にもときめいてしまった。
「......女の部屋に断りもなしに入って来るくらいだから妻がいないのも当然ね」
気を紛らわせる様に溜息をつきながらわざとらしく言い放つと、ファリスの形のいい眉が上がった。だが何も言わずにただレズリーをじっと見ただけで、彼女が緊張して使うことが出来なかった茶葉を取ると紅茶を淹れ始めた。
驚いてレズリーが少しだけ目を見開いた。
「紅茶なんて淹れるんだ?」
「....どういう意味だ?」
「王様だから紅茶なんて淹れられる側じゃないのかと思って」
「俺にだって一人でいる時に紅茶を飲みたい時くらいはある。その度に誰かを呼んで待たなければいけないくらいなら自分で淹れたほうが遥かに早いだろう」
「....まあね」
それだけ言って再び窓の外を眺めるレズリーの後ろ姿をファリスはじっと見つめた。後ろからだけでも分かる美しい姿。思わず美しい身体の輪郭を目線で追っていると、不意に彼女がこちらを見たので慌てて視線を逸らした。
レズリーは彼の行動には気づいておらず、優雅に紅茶を飲んでいるファリスに質問をぶつけた。
「ねぇ、妻がいない本当の理由はどうして? 王様なんだから好きな女なんて誰でも選べるじゃない?」
「.........」
レズリーの質問にファリスは黙り込んだ。
正直、妃が必要だと感じた事はなかった。幼い頃から誰かを好きになったことは殆どなく、王になってからも誰かに好意を抱いたことはない。それに自分には歴とした許嫁も存在する。
会ったことはないが。
しかし許嫁のことをレズリーに言う気にはなぜだかなれず、ファリスは考え込む振りをしてから紅茶のコップをテーブルに置いた。
「妃が必要だと感じたことはないし、王になってから誰かを好きになったこともない」
「...へぇ...」
「...なんだ」
「いや? なんだか意外だと思って」
言ってから可愛らしく微笑むと、ファリスはその笑顔に思わず釘付けになってしまった。窓からの逆光で一層美しく微笑む彼女を、知り合って一日しか経っていないというのに、あまりにも愛しく感じて、抱き締めたい衝動に襲われた。
立場上、大切な人間関係ではない限り、自分に自制をかけたことが殆どないファリスは、今回も逆らうことはせずにゆっくりと立ち上がるとレズリーに近づいた。笑顔がなくなり、変わりに困惑した表情に包まれたレズリーの頬を軽く手で掴んでからファリスは迷いもせずに口付けを落とした。
唇が合わさった瞬間に、火がついたかのようにファリスの身体は熱くなった。
一度キスをしたくらいで身体が熱くなったことなんて、今まで一度もなかったことだ。
驚きでレズリーが固まるのを感じたが、唇を合わせたまま両腕で彼女の華奢な身体を抱き締めた。
口付けを落とされた瞬間レズリーの身体は強ばったが、ファリスを突き放す気にはなれなかった。何よりも優しく、本当に優しく唇を合わせただけだったため、思わずもうちょっと深くキスをして欲しいと願っている自分がいた。
まるでそんな自分の思いを感じ取ったかのようにファリスはより強く唇を押し付けると、頬を包んでいた両腕をレズリーの腕をなぞってから後ろに回して抱き締めた。なぞられた腕は炎がついたように熱くなり、レズリーは思わずファリスにしがみついていた。
まるで抑えていた何かがなくなったように、レズリーがシャツを掴んだ瞬間にファリスの口付けが激しくなった。貪るようにキスをしてきてからいとも簡単に彼女の身体を持ち上げると、優しくベッドの上に降ろした。
その瞬間にレズリーの目が開いた。
「ちょ、ちょっと...っ」
「いいから」
一言で止められて、首をなぞる唇のせいもあってレズリーはそれ以上拒むことは出来なかった。ファリスはレズリーが着ていた赤いローブの紐を視線もやらずにほどくと、彼女の身体を少し持ち上げてからローブを引き抜いた。それから着ていたドレスの紐をほどくために腕を背中に回したが、なんとか理性を保っているレズリーの腕が彼を止めた。
不服そうに彼の眉が寄る。
「何か問題があるのか?」
「....ありまくりなような、気もするけど、まずは、そのドアを、閉めてくれない?」
息切れているレズリーの指している方向を見て、ファリスは自分が入って来た後に閉められていなかったドアを見た。どうして閉めなかったのかと内心自分を罵ってから嫌々ながらもレズリーから身体を離すと、ドアの扉を閉めて鍵をかける。それからすばやくレズリーの側に戻って来ると、今度こそは彼女の背中の紐をほどきはじめた。
その間にもずっと首や腕に口付けが落とされていて、レズリーは溺れてしまう自分の理性を必死にかき集めていた。
ドレスの紐を引き抜いてから、彼女の肩に手をやってすっと袖を下に降ろす。美しい柔らかい肌に口付けを落としてからドレスをはぎ取ると、レズリーがつけていた下着の紐をゆっくりとほどき始めた。
その動作があまりにももどかしくて、レズリーはファリスのボタンをすばやく外すと彼のシャツを投げ捨て、首に腕を回してしがみついた。熱くなっている彼の肌に自分の肌が当たって、また一度レズリーは自分の体温が上がったような気がした。
レズリーがしがみついた瞬間、まるでそれが合図だったかのようにゆっくりと紐をほどいていた動きが早くなり、シュッという音と共に紐を引き抜くとファリスは下着を投げ捨てた。
露になった彼女の豊満な胸を満足そうに見つめてから吸い付く様にキスをして跡を残す。その動作にレズリーが小さく笑い声を上げたため、また二、三回同じことを繰り返した。
「....会って一日しか経ってないのになんて男なの、あんた...」
呆れたように言う彼女を、ファリスは顔を上げて一度じっと見つめてから、
「お互い様だ」
その言葉に笑うレズリーに、ファリスも笑いかけてから深くキスを交わした。
この時、間違いなく結ばれる運命なのだと、二人は思っていた。