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第21話 認め

予定日より遅れてしまったorz

本当に申し訳ないです><



「…す、…リス、….ファリス。ファリス!」



 ファリスがバチっと目を開いて呼びかけられた方向を見ると、レズリーが微笑を浮かべて自分を見つめていた。



「…レズリー…」

「おはよう、ファリス」



 そういって彼女がにっこりと笑うと、その笑顔に対してファリスも笑いを返し、小さく口付けを交わした。短い口付けだったけれども、昨晩と同様に触れれば触れるほど幸せで、もっと触れたくなる。

 それはレズリーも同じだったのだろう。手をファリスの髪に埋めると幸せそうにそれを撫で始めた。

 その心地よさにファリスは再び瞳を閉じてからぐいっとレズリーを自分の側へ引き寄せた。くすくすとレズリーが笑いを零して彼の額に唇を落とす。

 その瞬間、



「レズリー殿、朝食を——」



 コンコンとノックをする音と共にガチャ、と扉が開き、ディナルが顔を覗かせる。二人の体勢を見た瞬間に手に持っていたトレイが音を立てて地面に落ちた。



「………」

「………」

「………」



 抱き合っているファリスとレズリーと交互に目を合わせてから無言で部屋を出て行く。


 沈黙が部屋を包む。



「……あ、えと。さすがにこれは、まずいのかしら…?」

「……いや、驚いただけだろう」

「あ、いや、彼はそうかもしれないけど、その、見ず知らずの私が国王と…っていうのはね?」

「……嫌だったのか?」



 悲しそうな目で見上げて来るファリスの表情に、それがわざとだと分かっていても言葉が詰まる。

 それを見てファリスが笑い、半分起き上がっていたレズリーを引き寄せる。



「…俺は、お前と出会えたのは運命だと思う」

「……ふふっ。奇遇ね、私もよ」



 そう言って二人は口付けを交わした。






「…ディナルさん?」



 ディナルがロードと共有している部屋へ戻ると、すぐに様子が変だと気づいたロードが声をかけた。

 ディナルの表情は相変わらずの無表情なのだが、今回ばかりはその無表情からは魂が抜けている気がした。心配したロードが声をかけても反応はない。



「………」



 ロードはディナルを見つめたまま腰にあった剣をスルリと抜くと、突き刺さる勢いで剣を彼へ突きつける。


 カキンッ、


 という音と共にロードの剣がディナルの剣に受け止められた。

 ふっ、とロードが笑いを零して剣を自分の懐へしまう。



「俺の剣を受け止めることくらいは出来るってことですか?」



 正気に返ってこちらを睨みつけるディナルに言い放つ。



「当たり前だ。お前にやられていたら第一騎士なんて務まらない」

「はいはいそうですね」

「そもそもなんなんだ。いきなり剣を突きつけてきて」

「……あのー、自分が今思いっきり魂抜けてたって気づいてなかったんですか?」

「は?」



 だめだこりゃ、とロードが呆れたように額に手をやる。

 そこでふとディナルが向かった部屋のことを思い出した。確か向かった部屋二日前にファリスとディナルが一緒に連れて帰って来たレズリー・マクライドの部屋だ。



「レズリー殿が何か?」

「え?」



 ピクッと反応してこちらを見るディナルはちっともらしくない。そもそも彼の口から『え?』という単語を聞いた事がない気がする。

 驚いて目を丸めているロードを、自分も目丸めて見つめてからディナルは深く溜息をついてベッドに腰を降ろした。



「厄介なことになった…」

「なんでです?」



 その後に出たディナルの言葉に、ロードがさっきのディナルと全く同じ状態になったのは言うまでもない。








 ファリス・アステルカは国王になってから一回も後室に誰かを迎えた事はない。そもそも彼には許嫁がいるため、彼女以外の女を必要としないのだった。それでも先代国王がファリスに王権を渡した時はむしゃくしゃして適当に女を抱いていたと噂が立ったこともある。それが本当か嘘かは謎に包まれまま終わったが、城の者は断固として否定していた。

 ファリスは許嫁に会ったことはない。正式には二十の時に王妃を迎えるのがしきたりなのだが、ファリスは女を必要だと感じたことがないため、会った事がないのだった。

 ファリスからしたら女はか弱く、いつも誰かが側にいて守ってもらわないとだめな存在と認識していた。ちょっと色気を出せばどんな男も靡くと思っている下らない存在だと。


 そんなファリスが、二日前に出会った女を、愛情を持って抱いたのだ。




 大広間は沈黙に包まれていた。

 テーブルには三人座っており、ファリスの両脇には二人が立っている。

 普段ファリスが座っている椅子には相も変わらずファリスが座っており、彼の後ろにはディナルとロードが気まずそうに立っている。真ん中の席にはレズリーが下を向いて座っており、美しい薄紫と銀の髪が顔の両側に落ちているため表情が見えない。そしてテーブルを挟んでファリスの反対側にはサマヘルカが座っていた。

 ものすごい形相で。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…陛下」



 絞り出したように聞こえた声はものすごく低く、なんともいえない怒りが込められているのがよく分かる。



「これが、一体、どういうことなのか、説明してもらえますか?」

「…どうもこうも、聞いたままだ」

「ちょっとっ」



 ファリスの返答にレズリーが焦ったように声をかける。しかしファリスは彼女の言葉を無視すると続けた。



「妃が欲しいのだろう? 早く俺に結婚してもらいたいのだろう? だったら俺はレズリーを選ぶ。彼女以外とは結婚はしない」

「!!」

「陛下!!」



 レズリーが驚きで目を丸めて、サマヘルカが信じられない様に叫ぶ。ファリスの後ろに立っていたディナルとロードも驚いて目を合わせた。

 あそこまで女嫌いだった彼が、三日しか知り合っていない女性に堕ちるなど、何があったというのだ。



「ファリス—」

「行くぞ」



 心配そうに声をかけてくるレズリーの腕を掴んで立ち上がらせるとそのままファリスは彼女と一緒に部屋を出て行ってしまった。

 廊下をただ足早に歩き続けるファリスと、相も変わらず心配そうにレズリーは彼を追っていた(引きずられていた)。


 まさか、結婚まで断言されてしまうとは思ってもいなかった。



「ね、ねぇ、ファリス」

「なんだ」



 どことなく刺のある声に一瞬だけ言葉詰まりそうになる。



「結婚って何? そんな、そんな会って三日も経ってないのにどうして私と結婚—っ」



 抱き寄せられて頭の上から声が降って来る。



「…俺は生きて来た中で、誰かを好きになったことは数えきれるほど少ない。それに、王という立場上、どんな女とも付き合っていいわけでもないから諦めていた」

「……」

「でもお前は違う。何があっても、どうなってもお前を手放すことはしたくない」

「ファリス…」

「お願いだから、結婚はしないなんて言わないでくれ」

「…そんな、」



 ことは言わない、とは言えなかった。言葉はでかかっていたが、それを発することが出来ない。言ってしまえば、終わってしまう。ティマ大陸、いや、ソストナ町での自分の人生が、その一言で消え去ってしまうような気がして、言葉にすることが出来なかった。


 ファリス自身どうしてこんなにレズリーに惹かれて、どうしてこんなにすぐに結婚を決めてしまったのかは分からなかった。今までどんな美しい女性を見ても興味はなかったのに、関わりたくなかったのに、彼女だけは違った。

 話したくて、触れたくて、触れると幸せで、もっともっと触れたくなる。自分をそんな気持ちにさせたのはレズリーだけだ。

 キス一つで恋に落ちたといっても過言ではない。

 彼女だけは、手放すことなんてできない。





「…陛下、これが先日の騒動の件です」

「ああ」



 執務室に戻ったファリスに、すぐさまディナルは資料を叩き付けた。昨日の夜に政務を放ったらかしてレズリーの部屋に行ってしまったため、昨日溜まっていた分と今日新しく来た分が合わさって非常に多い量になっていた。

 ディナルやロードも少なからずファリスの手伝いをしており、普段ならサマヘルカも手伝いに来るのだが、今回ばかりは頭に来たらしく大広間から出て以来姿を見かけていない。


 レズリーは町に出かけたいということでファリスが騎士一人を付き添わせ、出かけさせていた。ファリスも付いて行く所だったが、ディナルとロードの強い言葉により、執務室に残ることになっていた。

 不機嫌そうな顔をするファリスに、苦笑を浮かべて出て行くレズリーが愛おしくてたまらなかった。


 サラサラと無言で資料に何かを書くファリスの後ろ姿をディナルはじっと見つめていた。

 たった三日間で、この人はずいぶんと変わってしまった。


 長い間側にいたディナルからしても、ファリスに好きな女性が出来たのは喜ばしいことだ。誰とも結婚する気はないと意地でも言っていた彼なのだから。

 しかし、レズリーとの結婚を決める前に、いや、そもそも女性と恋愛関係になる前に、片付けてもらわないといけないことがある。



「ところで陛下」

「なんだ」



 顔を上げずに答えたファリスに、ディナルが続ける。隣から同じことを聞きたかったロードの安堵を含めた視線を感じた。



「許嫁の件はどうするおつもりで?」



 ピタっとファリスの手が止まる。



「考えていなかったわけではないのですね」

「…当たり前だ」

「どうするおつもりですか?」



 資料を置いてファリスは溜息をついた。



「どうすることも出来ないだろう。断ると言っても彼女だって俺と会ったことはない。すぐにでも俺の妻になるつもりだったら二十の誕生日に俺の所に来たはずだろう」

「それはそうですが」

「王妃になりたくないのかもしれない。そもそも王妃としての器があるかどうかも分からない。その点ではレズリーの方が王妃には向いている」

「まともに女性と付き合ったことがないくせに知ったような口ですか」



 ファリスが振り向いた。



「じゃあ、お前は一体俺にどうして欲しいんだ」

「......」



 黙り込んでしまったディナルに、ファリスは溜息をついてから再び机に向かった。それから資料を手の取って読み始める。

 が、それと同時に、



「レズリー殿が許嫁のことを知ってしまったら、どう反応すると思っているんですか?」




 今度は、ファリスが黙り込んでしまった。





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