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第2話 許嫁

今回も最後までお付き合い願います。

 この世界はベンゾラという大きな大陸でできている。

 五つの国で成り立っており、その中心的な存在がラキオス王国。ベンゾラ大陸の中心に位置し、まるで守られるように四つの国に囲まれている。北西にはロースディバ国があり、その隣にはオルート国。南西にはウルッシア国があり、南東にはハシェンド国がある。

 国の名前から分かる通り王がいるのはラキオス王国だけである。元々はロースディバとウルッシアも王国であったが、二人の王の仲が極端に悪く、いつでもお互い戦争をしかけていたため、その二つの国の王の座というのは剥奪された。それ以降は戦争もなく、仲が悪い国もなかったラキオス王国のみが残ったのだった。


 ラキオスのみが王国として残って約八百年。

 ラキオスでの王は世襲制であるため、特例の者以外はここでの王はラキオス王国が生まれた頃から、全員アステルカ家の者がつとめている。当然ながら小さい頃から英才教育を受けて来ており、常に人の上に立って来る境遇なので殆どが偉そうな態度を取るが、内面は孤独で悲しいと感じている人が多い。

 それを支える人が必要だからなのか、当然のように二十には王妃を迎えなければいけないのだった。

 殆どの王の場合は自分で誰かを見つけ出し、その人の経歴や全てを把握の上で王妃に向かえるというパターンだが、幼い頃から決まっている場合、所謂『許嫁』がいる場合もある。

 現在の王、ファリス・アステルカの場合は、後者だった。が、彼の場合は二十になっても許嫁に会ってすらいなかった。


 今から二年前、彼が25歳の時。そして王妃、クレアが19歳の時に二人は初めて出会ったのだった。

 いつものように政務が終わり、自分の部屋へ向かっている所、宰相であるサマヘルカ・ラスベスと途中で会ったのである。

 その彼の表情を見て、思わずファリスが声をかけた。



「サマヘルカ? どうかしたのか。深刻そうな顔をして」



 声をかけると、サマヘルカは困ったように眉を寄せた。何のことか分からずじっとこちらを見ているファリスを見て、思わず溜息が口から漏れる。ファリスが眉をあげる。



「なんだその溜息は」

「陛下。分かっていらっしゃらないのですか?」

「何をだ」



 二度目の溜息にファリスがムッとする。



「いい加減会ってください。あなたの許嫁と」

「......その話か」



 一気に脱力したように言うと、ファリスはまた自分の部屋へ行く為に歩を進め始める。慌ててサマヘルカが後を追うが、ファリスは気にも留めずずかずかと歩き続ける。

 部屋に入ると、さすがにサマヘルカは入って来ることができないため歩を止めるが、それでもドアの外に立ち続ける。それを見て今度はファリスが溜息をついた。この男は、こういう所だけは本当に頑固だと思う。

 ムスッとした表情のサマヘルカの視線が耐えられなくなったのか、ファリスは立ち上がるとサマヘルカがいる入り口のドアを閉める。反対から『陛下!』と少しいらついた声が聞こえるが無視を通す。ドアの反対側には自分の騎士の二人がいるから無理矢理入ってくる事はないだろう。

 閉め出された方のサマヘルカは扉を殴りつけたい気持ちを抑えて、口を開けた。



「陛下。本来ならばもう五年前に結婚して王妃を迎えているはずなのですよ!? ラキオスの国民だけではなく、ベンゾラ全体の人々が陛下は一生王妃を迎えないのではないかと不安がっているのですよ!!」

「そう思いたいのならそう思えば良い」



 扉があるためファリスの声がくぐもって聞こえて来る。

 しかし彼のその言葉に堪忍袋が切れたのか、サマヘルカは心配そうに自分達のやり取りを見ている騎士二人を無視して扉を勢い良く開けた。騎士のディナルとロードがあまりの事態に驚いて動けず、ファリスも何かを言う前にサマヘルカはずかずかと遠慮なく国王の部屋へと入り込んで行く。

 兵士が見たらすぐに身柄確保という大変な事態を宰相を起こしたことで、驚きで固まっている三人を差し置いてサマヘルカはファリスの胸ぐらを掴む勢いで彼にせまる。



「いい加減にしてくださいと言っているのです! 私はもう八年も陛下に仕えておりますがここまできたら限界でございます! 会う気がないのでしたら私が無理矢理引っ張ってきます! 良いですね!!?」



 あまりの迫力に思わず頷いてしまう所だった。

 しかしサマヘルカは彼の返事も待たずに激怒したまま部屋を去って行く。結局何もできなかった騎士二人はその後ろ姿を呆然と眺めているだけ。しかしすぐに我に返りロードが慌てて追って行く。



「サマヘルカ様!」

「もう限界だ! 陛下がそのつもりなら私も容赦はしない! 引っ張ってくる! 絶対に引っ張りだしてやる!」

「サマヘルカ様、落ち着いてください! らしくありませんよ!」

「らしいらしくないはこの際関係ない! もう我慢ができない! 許嫁が誰かは分かっているから連れて来る!」

「今からですか!? もう夜中ですよ!?」

「夜中でも昼でも早朝でも叩き起こして連れて来る! 二十から五年過ぎても城を訪ねてこないということはきっと王妃にも陛下にも興味がないからもしれないが、絶対に会ってもらう! 許嫁が嫌いな二人同士、いい加減にしてもらいたい!」

「ちょ、サマヘルカ様!」



 部屋の中にいるファリスには見えないが、部屋の外に立っていたディナルは二人のやり取りを見ておかしそうに顔に笑みを浮かべる。普段クールで冷静沈着な彼にしては珍しい表情だ。

 サマヘルカが嵐のように去って行った後に、ファリスは思わず大きな溜息をした。この八年間で、あそこまで怒った彼を見たのははじめてかもしれない。しかも王の自室に入って来た。一般の人間だったら身柄を確保されて牢獄に放り込まれている所だ。


 ファリスの表情から何を読み取ったのかは分からないが、未だに廊下で言い合っている二人をチラっと見つめてからディナルが口を開いた。



「陛下がもう少し素直になられたらサマヘルカ様もあそこまで苦労はしないでしょうに」

「何が言いたい、ディナル」

「独り言ですよ」



 ムスッとした表情のファリスをおかしそうに見つめて、ではでは、と扉を閉める。

 こんな悪戯小僧のような態度で国王に接することができるのは、恐らく第一騎士であるディナルの特権だろう。ロードも騎士であるが、身分は第二騎士。当然ディナルよりは身分が低く、ディナルもそうではあるが、ファリスには絶対服従のために意見をすることはない。ディナルだけは宰相以外に国王に口出しをすることができる存在なのかもしれない。


 ディナルが閉めたドアを不機嫌そうに見てからファリスは疲れたように溜息をついて、ベッドに潜り込んだ。



三話かそれ以上、くらいは過去の話となります。ご了承ください。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

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