妖精の望み
少年と少女が結ばれて数年後の話。
『攫いに来たよ』
激しい雨と共にいきなり現れた男は彼女にこう言った。
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ついにこの日が来た。もうあのときのようにはいかない。そう、彼女を一度諦めた日。自分の運命に抗えなかった日。もうあの日のようには――。
俺は『雨の妖精』――だった。雨の妖精には一人前になるための試練がある。それは、『雨嫌いの人間一人に雨を好きになってもらう』こと。俺の試練の対象者が『彼女』だった。試練を通していくうちに俺は彼女に惚れてしまい、試練を突破できなくてもいいから彼女と一緒にいたいと思うようになった。しかし、彼女は別の男に恋をしてしまった。その上その男をきっかけに雨を好きになっていったんだから、俺はたまったもんじゃなかった。俺の力ではないのに雨の神様は、俺の試練達成を認め、俺は雨の国に帰ることになってしまった。それでも俺はなんとか彼女に想いを伝えたかった。というのも雨の国に通常は人間を連れていけないが、『一つだけ』人間を連れ込む方法がある。それは、[より力をつけ上等階級――人間で言うところの官僚とかそのぐらいの偉いやつになり、相手側が人間を止め、雨の妖精になることを承諾した場合]である。だからあの日俺は彼女を呼び止めた。俺の想いを伝え、それから――『待っていて欲しい』とそう言いたかった。しかし彼女は彼の元へと行った。もう諦めようとも思った。というのも俺がそんな力をつけられるのか不安だったから。しかし悩んだ挙句、どうしても諦められなくて彼女を追いかけた。だが、一足遅かった。彼女の恋は実り、二人は結ばれた。俺の入る余地は残されてすらいなかった。
そうしてなすすべなく雨の国に帰ってから俺はしばらく彼女を忘れようとした。でも無理だった。彼女を忘れるなんて、諦めるなんてできるわけがなかった。彼女との思い出が、なかなか出ていてくれない俺の中に残る思い出たちが、彼女を忘れることを許しはしなかった。そこで俺は死に物狂いで努力した。そうやってあの日から何年も過ぎ、力をつけた俺は自力で高い地位まで上り詰め、遂に次の雨の神様候補に上がるほどまで成長した。これで準備は整った。後は彼女のもとへ――。
今、彼女たちの周りに激しい雨を降らせる。彼女と離れてからずいぶんたったと思うが、未だにあの男と付き合っていたとは驚きだ。それにしても思い出すな……自分の流した噂。俺はまだまだ未熟で子供であんな悪あがきしか出来なかったけど。
『雨の妖精はこの地域に昔からいて、見初めた人間を拐っていく。――激しい雨と共に』
数年ぶりに見る彼女はもっと綺麗になっていて――その一瞬で俺は君に会えなかった期間も含め一生分の恋に落ちるんだ。
「攫いに来たよ」
自分でもわかるほど自分史上最高の笑顔で君を迎えに来たよ。




