第5話 俺と天使とまた奴隷
ナイフをふり下ろそうとしていた、少年の手が止まった。
男はそれを見て、怪訝な表情をする。
今更、何を迷っているのだ。
だから言ってるだろ。
それをすれば助かるんだよお前は。
だから、早くしろよ。
迷ったってしょうがないだろ。
誰だって、自分が一番大事だろ。
見ず知らずに人間のために迷たって、何の意味もないだろうに。
さあ。
さあさあ。
さあさあさあさあっ!。
ほらっ!早くしろよっ!!、いつまで迷ってんだよ!!
「……」
…。
焦るな焦るな。
急かしたい気持ちをグッと抑え、動向を見守る。
だって
どうせ。
どっちも助からないんだから。
「くくっ」
男は、思いながらまた、口元が、緩むのを感じた。
突然訪れた感情は、原因が分からず。
オレを、動揺させていた。
「………………くっ」
ナイフを持つ手が震えている
こんなこと、生まれて初めてだ。
いや、今までに人を殺したことがあるわけではない。
16年生きてきて、こんな人生を送ってきたが、それに至ることは1度もなかった。
だから、死ぬことになったとも言えるが。
でも、そうじゃない。
そんなことは、別に、いいんだ。
人を殺さなかっただけで、その他のことはなんでもやった。
生きるために。
だから、生きるために殺す必要があったのなら、きっと、殺していただろう。
たまたま、偶然、その機会が死ぬまでなかったというだけで。
オレはきっと、迷わず殺していただろう。
それぐらいには、俺の心は死んでいたし、躊躇いや戸惑いもなかったはずだ。
無いと、思っていた。はずだった。
それが。
それがいったい。
なんだ、このざまは。
オレは。
オレはこの子を見て。
自分が、ボロボロになってまで。
殺されそうになってまで、オレを。
オレを気遣ってくれたこの子をみて。
心の中で、思ってしまった。
考えてしまったのだ。
なんて、格好悪いのだと。
そんな言葉が、よぎってしまった。
プライドなんてないし、自分の人生に矜持なんて存在しない、そういうものが良いとも思ったことは無いし、必要だとも思ったことはない。
こんな信念すらないオレが、何を思ってるんだと笑ってしまいそうになる。
最悪だ。なんで、こんな、自分が、死にそうな時に…。
「………ちがう」
首を振る。
思いを振り切るために。
「ちがうっ」
有り得ない。
こんなの、こんなの、オレじゃあ。
オレじゃないっ。
違うんだ。よく考えろ。思い出せ。
オレは、今までどうやって生きてきた。何をもって生きてきた。他人と関わらず。じぶんが生きるためにどうやって。
何のせいにして生きてきたんだっ。
そう思って、目をつぶる。暗く、暗い先へと。自分を、見つけるために。この一時の動揺を塗りつぶすために。この感情を否定するために。
そして。
「………………………………………」
深く。
ふかくふかく息を吸う
余計な物を埋め尽くすために。
「…………………………………………はぁ」
そして、それを全て吐き出す。
長く長く、時間をかけて。余計なものを、吐き出すために。
それから、無意識に口の中で舌を噛んだ。普段から無意識にやっている、精神集中。何か一つに集中するための、彼のやり方。
「………」
それから俺は、ゆっくりと、腕から力を抜き、振り上げていたナイフを下ろした。
額から汗が滴り、頬を伝う。
そしてまた、ゆっくりと目を開き、同時に、少女から背を向け。
男たちの方に、振り返った。
「…おい、どうした?」
男が俺に、話しかける。
「殺さないのか?。…それなら、お前の両目を貰うことになるぞ」
男が哂いながら、俺に言う
ずっと変わらず、見下して、見下ろして。弱いものを、嘲笑う。全てが己の手の内にあるかのように。
心の底から、愉しそうに。
「……いや」
それに、俺は答える。
「忘れてた。いや、思い出したんだよ」
「は?、何言ってんだよっ?」
男は顔しかめたが、気にしない。
大事なことを、忘れていた。いや、覚えていたけど、気付けなかったのか。死ぬ前も、死んでからも。
俺はそうやって、今まで、生きてきたんじゃないか。
恋人もいない、友達もいない、家族もいない。
だから。
「俺の行いは全て、自己責任だ」
誰のせいにもしない。誰にも俺の責任は押し付けない。誰にだってこの責任はとらせない。
俺がこうなったのは、あの時、あの場所で、俺がこの子と出会ったのが原因だ。襲ったのが原因なのだ。
ナイフを、地面に落とす。
「おい、お前…」
男が、声をあげようとしたが。
俺は先に、口を開いた。
「だから、責任は自分でとらなきゃ」
躊躇はない。
両手を目の前に広げ、そしてそれをゆっくりと。自分の目に、眼に、むけて。
差し込んでいく。
「ぅっ…!」
激痛が走る。神経がチカチカする。叫び声をあげたい。
分かってる。こんなもの痛いにに決まってる。
だけど、そんなもの。そんなもの無視だ。
「ぐっ――、くそっ」
痛みが邪魔をする。鳥肌が全身を覆っているのが分かる。
でも、さらに奥へ、指を沈める。
指先が、球体を確認出来た。
そして、それに指をそえ。
俺は、一気に引き抜いた。
「……………………………………………………………………………………………………………………………」
静寂が包む。
時間にして、僅か数秒だっただろう。
俺は、自分の両眼を、自分自身で。
抉りとった。
もう、何も見えない。
これが本当の、暗闇ってやつなんだろう。目を閉じていても、感じる事が出来た光が、今はもう分からない。
呆然と、永遠の暗闇を認知して、だけど。
見えないけど。
背後で息をする、彼女の存在ぐらいは、感じ取れた。
「…………………………………………はっ」
前方の方で、声が聞こえた。
「は、は……あははっはっははっはぁはっはっははっははははははっはははははははっはははっ」
大きな笑い声だ。
だぶん、あの男のものだろう。
何が、そんなにおかしいのか。自分で、言ったことだろうに。
「はははっ、……おかしいだろお前っ!。普通は、ふつうはそうじゃないだろっ!」
けたたましく哂いながら、大声でしゃべっている。
表情はきっと、あのいやらしい顔をしているのだろうけど。
それも、もう見えない。
「ほら」
俺は、声のした方へ、両手をさしだす。
「持っていけよ」
俺の両眼を突き出す。丸みをおびた、まだ少し生暖かいそれを。
そして、近づいてくる足音。
「ああ、そうだな」
見えないけど、男の声がすぐ近くで聞こえる。
「確かに、…受け取ったよ」
手の中から、それの感触が消えた。
男が受け取ったのだろうが、もう俺には、それを確認する手段はなかった。
「………ふん、こんなものに高値つくなんて。…俺にはよく分からんなぁ」
「そうかよ」
「ああ、そうだな。…………じゃあ」
「死ね」
そう言われた瞬間、何か巨大なものに吹っ飛ばされた。
「ぐぅっ…」
あの少女のように壁にぶつかり、嗚咽をもらす。
おそらくは、あの獣人に吹き飛ばされたのであろう。全身が、まるでバラバラになったような、感触だ。
もう、そんなことは、どうもいいけど。
こうなることは、予想していたから。
口の中に、鉄臭い味がひろがる。
「わるいなぁ。約束、守れなくて。でも、いいだろう。だって、そんなので生きてたって、一生お先真っ暗だろうに」
また、大きな笑い声。
うるさいなぁ。もういいだろう。
正直に言えば、というかずっと思ってるけど。
最初から、あまり乗り気じゃなかったんだ異世界。
あのくそ天使に無理やり飛ばされてきたけど、もともとそんな生きていたいわけじゃなかったし。
いつか、どこかで死ぬのが、早めに今日だったのだろう。
柄にもなく、少し頑張ってしまったが。
生存、僅かに1日のみ。
今の俺の行いだって、何の意味もないことは分かってる。
ここで、彼女を殺されなかったところで、こいつらに殺されるか、はたまたもっとひどい目にあうか。
少なくとも、彼女にいい未来は待っていないだろう。
そんなものだ、所詮。
俺ができることなんて。何もない空っぽな俺に出来ることなんて、所詮、この程度。
何をやっても、無意味だった。何をやっても無価値だった。
でも。
「……うん」
床に倒れ、何も見えない中、俺は頷く。
前に死んだ時と同じ、それと同じように死ねたのは。
唯一、この世界に来てよかったと思う。
これが、一番俺にあってると思うから。自分のためだけに死ねる、それだけが俺のただ一つの思いだから。
「…………」
薄くなる意識の中で、俺の耳に響く。
大きな。
大きな死の足音が、3つ。
だんだんと、大きなっていくのを、聞こえた。
それが最後の音になるのだと、漫然に思いながら。俺は瞳の無い瞼を閉じた。
∽∽∽
「…………はぁ、まさか」
無意識の中で、声が聞こえた。
どこかで、聞いたことあるような、そんな声。
「まさか、…この社会のゴミがこんなことをしますなんて」
………あ。
思い出した思い出した。
あれだ、あいつだ。あの口の悪い天使。確か…、サリエルとか言ってたやつ。
あの、自称大天使。
まじかよ、死んだらまたあいつのところに行くのかよ。
「ずっと見ていて相変わらずクズだなぁと思ったのですけど、カツアゲとかなんなんですか。意味分からないんですけど。異世界来ていきなりカツアゲする人初めて観ましたよ」
お迎えがこいつとか。
……というか、こんなに早く死んでまた文句いわれそうだ。
なんかがんばってとか言ってた気がするし。
いや、また鼻で笑われるのか。
「本当に本当にゴミの吐き溜めのような人ですけど。………でも、世の中分からないものですね」
まあ、どうせもう死んだんだ。また、死んでしまったんだから…。
今度こそ本当に。ようやく、これで。
「あなたのことは、正直本気で全力で心の底から嫌いですけど。―――うん、何と言いますか」
さぁ、早く連れて行ってくれよ。
「その自己責任という言葉は、案外嫌いじゃありません。そこだけ、ですけど」
俺を。
「だから、ほんとーに、ほんとーうに、ほんのちょっとだけですからね。ほんの、本当にちょっとだけ」
あの世とやらに。
「だって天使は」
……………。
「自己犠牲に、弱いんですから」
∽∽∽
視界に、光がさした。
そして。
振り上がった、刃物が見えて。
俺は立ち上がり
それを、横に転がって避ける。
それから、数瞬後。
俺のいた場所に、巨大な刃物が3つ、降り注いだ。
「なっ!?」
前方から、声が聞こえた。
そちらに目を向けると、男が立っていた。
ほそい手足に長身。上等そうな服を来て、こちらを指差してくるその男は。
「…おまえ」
驚いた表情を隠せず、俺を見ていた。
見逃さない。これは、この男の一端だ。
「その目…、いったい」
そう言った男の手には、二つの丸い物体が握られている
先ほど、俺が取り出した、二つの眼球。
………………………ん?
眼球?、…俺の?。
「………」
自分の手のひらに視線を向けてみる。
いや、確認するまでもないのだけれど、はっきりと見える。
自分の顔を触る。
間違いがない、さっきまで血が流れていた跡がある。
なのに、その原因がない。いやあるのか。
意味が分からない。
どういう理由かは分からないが
俺の、俺自身が自分で抉ったはずの目が。
両眼が
再び、そこにあった。
正確には、前のものは男が持っているので、新しく増えたものか。
何にせよ、結果は変わらないが。
「……………は、はははっ」
「ん?」
男の笑い声が聞こえ、そちらを見る。
困惑しているような、嗤っているようふしぎな表情をしていた。だけど、眼だけは確実に笑っていない。
「はははっ。……いや、驚いたよ。どんな魔法を使ったんだ?。人体欠損の修復なんて、そんな容易ではないはずだぜ」
そうなのか?。よく分からない。
「だがどうするっ!?。この状況でっ!。眼が復活した程度で何ができるって言うんだよっ!」
「……そうだね」
正直、その通りだと思う。
確かに眼は再び見えるようになったけど、それで何かが変わったわけではない。
獣人の一人が、肉切り包丁を振り上げ向かってくる。
それに向け俺は、先程転がった際に拾った自分のナイフを構えた。
「でも」
無駄な行為は、嫌いだけど。
「同じ事を繰り返すのは、もっと嫌いなんだ」
獣人が、刃物を振り下ろす。
とてつもなく早い。やはり、人間のそれに比べれば遥かに高い能力を持っている。
普段なら、かわすことすら出来ないであろうそれが。
何故か。
「……っ」
避ける事が、出来た。
俺のすれすれを、刃物が通過する。
………不思議な感じだ。
さっきもそうだった。俺が目を開き、迫る3つの刃物を捉えた時。
何故か、分かるのだ。
いや、…違う。
映るんだ。この瞳に。
本当に僅かだが。ほんの1秒にも満たない。瞬間的な光景でしかないのだが。
少しだけ、先の世界が。
視えている。
次に、どう動くか。俺がどうなるかが、この眼に写る。
理解はできないが、今はしている暇は無い。受け入れるしかない、この現実を。
そして、利用するんだ。
全てを。
「………あああああああああああああああああぁぁぁっ」
すれ違い様に、低く沈んで、ナイフを振りぬく。
狙ったのは、そいつの足。
アキレス腱。
「っ!!!」
硬いっ。人間とは違いすぎる。
本当に分厚い皮。まるで鎧だ。
「っっっっぁぁああ!!」
両手に力を込め、思いきり切り裂いた。
血が飛び散る。
まだだ、そいつが振り向く前に、もう一本っ。
こちらも振りぬいた回転を活かして切りつける。
手がしびれを感じているが、気にしている余裕はない。
すぐに、残りの二人から距離を取る。
「―――――――っ!!!!」
獣人が、獣の様な声をあげて崩れ落ちた。
こんな時だけど、いくら知能は人間でも、こいうところは獣なんだなと、ちょっと感心。
「な、んだとっ…」
男は、今まで一番驚いた表情をしていた。
おそらくは、完全に想定外なのだろう。身体的に完全に劣る俺が先手を取ることが出来たのが。
それほど、大きな差があるのだ、
「くっ…、だがまだだっ」
男が口を開いたのを合図にして、残りの2体が迫ってくる。
「………」
どちらから行こうか、瞬間的に思考する。
……………………これは、すごいな。
珍しく、目を見開いてしまった。
自分がイメージした行動、その結果が眼に写る。
本当に、1秒に満たない僅かな時間だが、自分が、おそらくはこれからたどるであろう未来が見える。
そして、選択は一瞬。
その中で最短、最速のものを選ぶ。リスクは後回し。
まずは左。
「――――――」
鼻息荒く、こちらも大ぶりな一撃。
それをしゃがんでかわし、その勢いを利用して、膝にナイフを突きたてる。
…………まだだ。
そいつの目が完全に俺を捉えたままだ。刺したナイフを抜く。
刃物を持たない反対側の手が、俺を殴り飛ばそうと振りぬかれた。
「あぁぁっ!」
前に出る、さらに前に。
分厚い拳が頬をかすめ、そこから血が飛び散る。
避けてる暇なんてない。そんなことを気にしている余裕もない。
「っ!!」
相手の膝を蹴り跳躍。
そのまま、ナイフを左目に突きさし、体重を掛け地面に倒す。
地面に接触した馬の頭部から、鈍い音がした。
つぎっ。
ナイフを抜いて振り返る。
その瞬間、目の前に黒い足があった。
「ぐっ!?…」
右半身に、巨大な衝撃。そして、車にでもふっ飛ばされたかのような浮遊感。
本日二度目。俺は、壁まで吹っ飛ばされた。
……………どういうことだ?。
さっきまで見えていた先の世界が、今のは見る事が出来なかった。
「……はっ……はははっ、焦らせやがって」
獣人の後ろにいる男が、顔を引きつらせながらこっちを見ている。
恐れいているのであろう。絶対的強者の位置が、揺らぎ始めていることについて。
「……はっ………はっ……」
息が荒い。
極度の緊張と、急激な運動のせいで、体力がほとんど失われつつある。
………身体能力の差か。
長期戦は不利だ。俺の体がもたない。
じりじりと、目の前の獣人が迫ってくる。
2体を倒した俺に、警戒を示しているのだ。距離感をはかっている。
「………」
目を離すことが出来ない。
先程は何故か、未来が認知出来なかった。次それが起きたら、おそらくはどうする事も出来ないだろう。
そもそも、俺自身この眼がなんなのか、どういうものなのか、何も知らない。
だけど、今はこれに頼ることしかできない。
………………………………………………来い。
眼に集中する
先の世界を見る為に
…………………………来い。
未来を見る為に。
…………来い。
俺が先に進む為に。
「来いっ」
一歩、前に進む。
同時に、獣人も俺に向かって跳んだ。
「……」
様々な未来が見える、俺の進む先に。僅か、1秒もみたないその先に。
1つずつ進んでく、間違えた未来を選ばない様に。
「……ぁ」
横から振りぬかれた大きな刃。
「…ぁぁ」
それをナイフで受け止め、流し、さらに前へ。
「ぁぁぁ」
そいつの胸に向かって飛び込み。ナイフを、胸に突きさした。。
「ぁぁぁぁっぁっぁぁあああああああぁっぁぁぁあっぁぁあぁあああ!!!!!!!!」
全力で、刺しぬくつもりで、俺はナイフを握り、全体重をかける。
これで決まらなければ、死ぬ。
死んでもともとだが、もう此処ではないと思うから。
ここは、生き残ってみせようと思う。
あの天使にも笑われないために。
それにもう、責任は十分果たしたと思うから。
「っ!」
横合いから、拳で殴られる。右肩がきしむ。
だけどこの距離なら、いくらこいつの腕力とはいえ大した威力ではない。
さらに、強くねじり込む。
「―――――っ!!!!!」
叫びながら俺を、何度も殴る獣人。
衝撃で、力が抜けそうになるけど、絶対にはなさない。
全身全霊で押し込む。
もう、未来も何も見えないけど、譲るわけにはいかない。
これが、今回の責任取り方だ。
何もないけど、何もないからこそ
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
自分の決めたことくらいは、最後までやることにした。
………………………………………………。
そして、数秒か、数分か分からなかったけど。
殴られる、衝撃が止んだ。
「……」
目の前の獣人が、ゆっくり崩れ落ちる。
それを、俺は見届けず。
血で濡れた、赤い視界で、男の方へと、振り返った。
「……はっ………はぁっ…」
じりじりと、男に近づく。
「ひっ…」
盾を失ったその男は、俺の姿に怯えるように後ずさり。
ついには、壁にぶつかる。
俺は、そのままそいつに近づき、目の前まで顔を近づけて。
口を開く。
「…おい」
「はいっ」
「出てっていいか?」
「はっ、はい!」
「そうか…………………、そうだ」
「はい?」
「お返し」
「へ?、ぶっ!!?」
鼻をへし折るつもりで、ナイフ柄でぶん殴った。
そのまま後頭部を壁にぶつけ、男は気絶する。
………つかれた。
柄にもなく、はりきってしまった気がする。
というか、異世界に来て初日にこれとか、はたしていつまで持つものやら。
俺は、悲鳴上げる体をゆっくりと動かして、扉の前に行き、その取手をつかんで。
「…あー」
止まる。
それから、部屋の中を眺め、逡巡。
あと少しだけ、部屋をでるのが、遅くなった。




