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■ 後 編

 

 

 『俺さー・・・


  むちゃくちゃ真面目に大学で勉強してー・・・


  ちゃんと稼げる会社に就職してー・・・

 

 

  んで、


  3年間必死に貯金しようと思ってんだー・・・。』

 

 

 

ナツが小首を傾げる。 『車でも買うの・・・?』


3年も貯金して買う高い物といったら、車くらいしか思いつかないナツ。

 

 

すると、アサヒはクスっと笑った。

どこか遠くを見るように目を細めている。

 

 

 

 『ん~・・・


  それよりもっと、もーっと大事なモン、かなぁー・・・


  だからー・・・、頑張んなきゃダメなんだー・・・


  頑張りたいんだ、俺・・・。』

 

 

 

アサヒの真剣な眼差しに、急にハッとするナツ。


当り前だけれど、いつまでも子供ではいられない。

ずっと高校生で、ただふたりで笑っていられればいい訳ではないのだ。

先程まで感じていた物理的な寂しさとは別物の、もっと心臓をえぐるような

寂しさが募る。

 

 

 

  アサヒが大人になってゆく。

 

 

 

本当に遠くに行ってしまうような気がする。

本当にもう手が届かなくなってしまうような、もう手をつないでは

もらえないような。

 

 

ナツが再び込み上げる不安に泣きそうに目線を落とした時、

”それ ”は目に入った。

そしてそっと目線を移動すると、アサヒも大切そうに ”それ ”を巻いて

くれている。

 

 

 

  ”なんにも心配すんな ”

 

 

 

アサヒの、その言葉。


アサヒが嘘をついたことなど、今まで一度もない。

いつも、全身でナツを想ってくれるアサヒ。


そんなアサヒを、これからはナツが全身で応援していかなければいけないのだ。

ナツ自身が精いっぱい輝いて、アサヒを明るく照らしてあげられるように。

いつも笑顔に出来るように・・・

 

 

 

 『・・・あたしも、ちゃんと頑張ります・・・


  なんてったって、あたし・・・ 副部長だしね。』

 

 

 

噛み締めるように、ナツが呟く。


頬を緩め笑顔を見せると、アサヒはそっと手を伸ばして小さく日焼けした

その手をぎゅっと握った。 そしてやさしく指を絡め握り合う。

 

 

 

 

  (アサヒ先輩の、手・・・ やっぱ、おっきいな・・・。)

 

 

 

 

途端に胸にこみ上げるものを堪え、再び泣き出しそうなのを必死に堪えたナツ。

鼻にシワを寄せてぎゅっと目をつぶった。

 

 

 

 

  (観覧車の、あん時とおんなじ顔してんじゃん・・・。)

 

 

 

 

愛おしそうにナツを見つめる。

そっと赤く染まる頬に手を添えると、アサヒが顔を寄せ小さくキスをした。

 

 

短く触れ合った唇に驚いて目を見張るナツ。

 

 

 

 『ちょ!!! ココ・・・ 学校っ!!!』

 

 

 

真っ赤になりジタバタするナツにケラケラ笑うアサヒ。


『だ・・・誰かに見られたら、どーすんの!』 

ナツは照れくさそうに口を尖らしている。

 

 

 

 

  (心臓いてぇ・・・ 可愛くて萌え死ぬっての・・・。)

 

 

 

 

 『だってさー・・・


  観覧車乗った時とおんなじ顔してるから、


  ”チュゥ待ち ”かと思ってー・・・』

 

 

 『ち、が、う、しっ!!!』

 

 

 

恥ずかしくて、照れくさくて、ナツは尚も拳を振り上げて暴れた。


アサヒの胸をポカポカ殴るその手も、悪態つくその口も、まんまるな赤い頬も、

全部全部、愛おしくてどうしようもない。

 

 

その振り上げるナツの細い腕をやさしく押さえ、アサヒはそっと抱きしめた。

 

 

 

 『俺と、お前の間に、さー・・・


  ちびっこが・・・ いて、さー・・・


  手ぇつないで、ブラブラ揺らしてさー・・・

 

 

  ・・・動物園・・・ 行きたいんだ、俺・・・。』

 

 

 

あの日、動物園で見かけた家族を思い出すアサヒ。

それは、あたたかくて、やさしくて、胸にじんわりと込み上げる幸福な未来図。

  

 

『ん?』 抱きしめられて赤くなりながら、ナツがアサヒを見上げる。

 

 

 

 『そのために、俺・・・


  ・・・頑張りたいんだー・・・


  お前が作ってくれた ”コレ ”、叶えたいんだ・・・。』

 

 

 

そう言って、アサヒは右手首を目線に掲げた。

それは、ナツが ”いつまでも一緒にいられるように ”と願いを込めて作った

ミサンガ。

 

 

 

 『だからさー・・・


  まぁ、俺が3年貯金するくらいまでに・・・


  ”ココ ”のサイズ、教えといてよ・・・。』

 

 

 

そう言って、ナツの左手をぎゅっと握った。

握ってやわらかくほどいたアサヒの親指と人差し指は、

ナツの薬指をつまんでいる。

 

 

ナツが目を見張り、呼吸をするのも忘れてアサヒをじっと見つめた。

次の瞬間、その瞳から大粒の涙がとめどなく赤い頬を転がり落ちる。


そして、コクリ頷くとぎゅぅぅううっとアサヒに抱き付いた。

 

 

 

 

   ”なんにも心配すんな ”


  (・・・やっぱり、先輩はぜったい嘘つかない・・・。)

 

 

 

 

 『・・・ありがとう、先輩・・・


  すっごい、すっごい、すーっごい・・・ 好き。 


  世界一、大好き・・・。』

 

 

 

すると、

ナツは伸ばした人差し指でアサヒの右手首のミサンガをチョン。小さくつついて

こぼれるほどの満面の笑みを向けた。

 

 

 

  ”心を、奪われる ”

 

 

 

何度だって、奪われる。

紫陽花に微笑む横顔を見たあの日から、どんなに時間が経っても、

まだこんなにも・・・

 

 

アサヒは抱きしめる腕に更に力を込めた。

そして、どちらからともなく右手の拳を突き出す。

 

 

コツン。


やさしくグータッチした瞬間、ふたりのミサンガが小さく揺れた。

それはまるで、微笑んでいるようだった。

 

 

 

                         【完】

 

 


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