第83話:そして、世界は灰へ染まった
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アルテアの口から淡々と語られる『神魔大戦』の真実。
それは、あまりにも凄惨で、理不尽なものだった。
「…神魔大戦って、ジリウスの監視端末だったウォルターって人が、ほぼ一人で引き起こしたものだったの…?」
「タエさん、名前の響きからして日本人…だよね…」
次から次へと明かされる真実に、ツッコミどころが多すぎて頭が混乱してくる。
「ねえ、アルテア…。アルテアは、タエさんのこと、ちゃんと覚えてるの?」
「記憶ストレージには存在している」
「今、当時のことを思い出すと…どうかな」
人間を理解しようとしている今のアルテアは、破壊を嘆き、必死に止めようとしていたタエさんの叫びを、どう感じているのだろうか。
「彼女の主張は、今の私なら『人間としての尺度』で解釈可能だ」
アルテアは、微かに目を伏せるようにして言った。
やっぱり…アルテアは明らかに変わってきている。ただの機械ではなく、心というものを、感情というものを理解しようとしているんだ。
「コータさん、私、続きが…」
隣を見ると、ニーナさんが少し興奮した面持ちでアルテアを見つめていた。
無理もないよな。荒唐無稽すぎて、まるで映画か神話の物語でも聞いているような気分になる。
「アルテア、そのあとはどうなったの…?」
◇
『神の使い』がもたらした終末は、文字通りあっという間の出来事だった。
ものの数日で、世界の80パーセントは灰燼に帰し、焦土と化した。
残るは、現在のレガリス王国にあたる地域――王都オーティス付近を残すのみ。
タエは、ウォルターとジリウスの破壊を止めるため、最後の砦であるオーティス上空まで二人を追ってきていた。
しかし、空に浮かぶタエとアルテアの姿を、追い詰められた人類が見逃すはずがない。
彼らは最後の抵抗とばかりに、残存するありったけの火力をタエたちへと集中させていた。
「もう、私は敵やないんやって…!」
「タエ、無意味だ」
「決めつけんとって!言葉が通じる人間なんやから、やってみんとわからんやろ!」
轟音と爆発の中でアルテアと口論していると、遠くの空から二つの人影――ウォルターとジリウスがこちらに向かってくるのが見えた。
それと同時に、四つの『絶望』が空に揃ったのを見て人類側が完全に心を折られたのか、あるいは単純に残弾が尽きたのか…。次第に人類からの激しい弾幕は薄くなり、やがて完全に沈黙した。
静まり返った絶望の空で、2組が対峙する。
「もう少し抵抗してくれないと…手ごたえがないよ」
「ここも、壊すんか」
ウォルターの狂気に満ちた言葉を、タエは冷めた視線で睨みつける。
「そうだね。タエも一緒にやるかい?主要な拠点は、ここで最後だ」
「…分かった。アルテア」
「タエ、無意味だ。出力は完全に拮抗している」
タエの鋭い声に、アルテアが珍しく制止の言葉をかける。
「もしかして、私たちと戦うってことかい!?それはいい!ジリウス、どうなるかな?」
「2号の言う通り、我々の出力は拮抗している」
「ジリウス…つまらないよ。やろう、全力で…!」
「了解、ウォルター。――太陽」
ジリウスが右腕を振り上げた瞬間。 目を覆うような絶対的な光と熱を伴い、上空に巨大な『太陽』が出現した。
『太陽事件』の比ではない、神に造られた素体から放たれる、純粋な破壊に満ちた太陽。
「アルテア!」
「了解、タエ。――相殺」
対するアルテアは、キラキラとした宝石の様な眩い輝きをその身に纏い、ジリウスの生み出した太陽へと真っ直ぐに突撃する。
「すごい…!完璧だ…」
ウォルターはその神話のような光景を恍惚とした表情で眺め、対するタエは、絶望と悔しさの滲む表情でそれを見つめていた。
『太陽』がさらに巨大化すると、それに呼応するようにアルテアの『宝石』がその熱と光を吸い上げていく。
「本当に、互角なのか。ジリウス、出力を上げて。――そして、僕をタエの近くに」
「了解、ウォルター」
ゴゥッ、と大気を焦がす轟音をあげ、太陽がさらに肥大化する。
そして、アルテアとジリウスが魔力を拮抗させているその死角から、ウォルターがタエへと肉薄した。
「え…」
「はははっ!」
ゴッ…
という鈍い音と共に、ウォルターの拳がタエを思い切り殴りつけた。
さらに何度も、何度も、何度も。
「がっ…!」
「どうだい? これじゃあ、指示ができないだろう!」
「アル、て……ア……っ」
激痛で意識が飛びかけ、タエの指示が数瞬だけ遅れた。
神にも等しい互角の力比べにおいて、それは致命的すぎる隙だった。
拮抗が崩れ、太陽が限界を超えて肥大化していく。
アルテアを、空を、世界を、全てを飲み込むほどの巨大な光。
「世界の終わりだ…!私の手で、終わらせるのだ!」
ウォルターの狂気的な歓喜の声と共に――太陽が爆ぜた。
世界が、白に染まった。
◇
次にタエが気が付いた時。 彼女は、波の音が響く砂浜に倒れ伏していた。
「ウチ…生きとる…?アルテア…どこや……」
フラフラと立ち上がり、周囲を見渡す。
そこには、空を埋め尽くしていた戦闘機も、巨大な都市の面影もなかった。
見渡す限り続くのは、何もかもが消し飛んだ、灰色の荒野だけ。
タエは、ただ一人。
当てもなく、荒野へと歩き出した。
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