第28話:回る弾倉、起きる撃鉄
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どれぐらいの距離を走っただろうか。
無機質な金属の壁と、けたたましい赤い警報灯がどこまでも続く軍司令部の通路。
僕たちは、押し寄せる兵士たちを突破しながら、ただひたすらに上層エリアを目指して階層を駆け上がっていた。
「はぁっ、はぁっ……。も、もう少し、速度を、落とせないだろうか……」
荒い呼吸を乱し、膝に手をつきそうになっているサイラスさんが、悲鳴のような声を上げた。
「はぁっ、はぁっ、なんだ、もうバテたのか?運動不足かぁ?学者さんよ」
前方を走るデリクさんも、肩で息をしながらニヤリと笑う。
彼の方も、度重なる乱戦で消耗しているのは火を見るより明らかだ。
「……割くリソースが……君たちとは、根本的に、異なる、だけですよ……」
サイラスさんが恨めしそうな声で反論するが、それを聞いて立ち止まる余裕は僕たちにはなかった。
ただ、アルテアの反応はもう、すぐそこまで迫ってきている。
あと少しだ。あと少しで、彼女の元へたどり着く。
その時。
通路の奥、一際重厚で大きな、両開きの鋼鉄の扉が目に飛び込んできた。
今までとは明らかに違う、威圧感を放つ扉。そこを抜ければ、中枢エリアだと直感でわかった。
「あの扉の先です……!」
僕が指をさし、デリクさんが迷うことなくその扉へ向かって駆け出した、その刹那――。
――ピュンッ!!
乾いた風切り音とともに、鋼鉄の扉を『何か』が内側から突き破った。
それは、見えない速度で僕の鼻先数ミリを掠め、背後の壁に深く突き刺さった。
「なっ……」
僕は弾かれたように足を止め、慌てて後方へと飛び退く。
壁に突き刺さり、パラパラとコンクリートの粉を吹いている小さな弾痕。
「……銃弾……?」
「おいっ、離れてろコータ!」
デリクさんが鋭く警告を発し、素早く扉の真横の壁に背中を張り付けた。
そして、手の中に握り込んだ魔力を、扉の蝶番の部分めがけて裏拳のように手荒く叩き込む。
メキャァッ!
凄まじい音と共に、重厚な扉がひしゃげて強引に開け放たれた。
直後。
パァンッ! パァンッ!!
鼓膜を劈くような連続した銃声。
先ほどまで扉があった空間――虚空に向かって、音速の鉛玉が容赦なく叩き込まれる。
扉の横に避けていなかったら、デリクさんは蜂の巣にされていただろう。
「……イグナート様の命により、お前たちを、この先には行かせない」
大きく開け放たれた部屋の中から、感情の起伏を一切感じさせない、冷たく静かな男の声が響いてきた。
「はっ! 誰だか知らねーが、俺たちは意地でも押しとおるぜ」
デリクさんが口の端を歪めて闘志を燃やす。
彼は壁に身を隠したまま、僕たちへと顔だけを向けた。
「コータ、学者さん。下がってな」
「はい……!」
デリクさんは素早く足元の瓦礫を拾い上げ、それを牽制として扉の向こう――部屋の中へと勢いよく投げ込んだ。
隠れている敵の気を引き、一気に距離を詰めるためのブラフだ。
しかし。
パァンッ!!
「……なっ!?」
放物線を描いて飛んでいたただの瓦礫が、空中で粉々に粉砕された。
まるで、見えない壁にぶつかったかのように。
いや、違う。室内にいる何者かが、暗闇の中から正確無比な狙撃で瓦礫を『撃ち落とした』のだ。
どれほどの動体視力と射撃の腕なのか。
「――デリク、やろう」
緊迫した空気の中、エレーナさんが静かに、しかし決意を込めた声で告げた。
「ああ、そのつもりだ! 出し惜しみはなしだぜ!」
エレーナさんの足元から、水面のような淡い魔力光が放たれ、それが光の帯となってデリクさんへと流れ込んでいく。
共同体の要である、魔力解放。
「解放……80%!」
「うぉぉぉぉおっ!!」
エレーナさんの詠唱と共に、デリクさんの全身の筋肉から魔力が放出される。
両腕の周囲の空気が歪み、強固に圧縮された魔力の壁――物理的ダメージを弾き返す魔獣のような装甲が、彼の前方に形成されていく。
デリクさんはその両手で顔を覆うように構え取ると、まるで怒り狂った闘牛のように、そのまま一直線に室内へと走り込んだ。
パァンッ! パァンッ! パァンッ!!
デリクさんめがけて、容赦のない銃弾の嵐が叩き込まれる。
しかし――『ギィンッ!』という甲高い金属音と共に、銃弾はデリクさんの魔力装甲に弾かれ、明後日の方向へと逸れていく。
「コータ、合図したら走れ!止まるんじゃねぇぞ!うぉぉぉぉぉぉ!!」
デリクさんは銃弾の嵐を正面から受け止めながら、室内の『床』へ向けて、その右腕を引き絞った。
彼の剛腕に、部屋の空気を震わせるほどの莫大な魔力が集束していく。
「――っ、破壊ッ!!」
ズドォォォォォォンッ!!!
デリクさんが渾身の力で地面に叩きつけた魔力は、凄まじい大爆発を引き起こした。
床のタイルが粉々に砕け散り、部屋中に分厚い煙幕のような粉塵が巻き起こる。
巻き上げられた瓦礫と砂埃で、一切の視界が完全に遮断された。
「今だ、コータ!!」
「――はいっ! すみません、行きましょうサイラスさん!」
デリクさんの怒号に背中を押され、僕はサイラスさんの腕を強引に引き、廊下の先にある重厚な扉を目指して一目散に駆け出した。
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