表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
奪還編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/84

第22話:地上から降り注ぐゴミ

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

 無機質で冷たい空間。

 鼻を突く薬品の臭いと、絶えず鳴り響く機械の駆動音だけが、今の私の世界を満たしている。

 『――生体反応、正常。魔力循環、規定値内で安定』

 『――神性魔導演算回路、アクセス試行。……拒絶されました』

 『――構わん、物理的に解析を進めろ。素体を傷つけるなよ』


 イグニスの学者どもが、何やら喚いている。

 私の素体に触れるな。

 

(……不快だ)


 私は静かに、意識の奥底へと深く沈み込んだ。

 現状、私の稼働状況は最低限の活動のみを行う『メンテナンスモード』へ移行している。

 主幹となる神性魔導演算回路――『主核メジャーコア』は深い眠りにつき、現在は『副核マイナーコア』のみで最低限の状況把握を行っていた。

 その弊害として、私の外部知覚能力は著しく低下していた。


 しかし――。


(……この、気配は)


 ノイズだらけの知覚領域に、一筋の清らかな波紋が広がった。

 微弱だが、決して見間違えるはずのない、固有の魔力波長。


(コータ……)


 私を、取り戻しに来たというのか。

 敵地のど真ん中、ヴォルカニアの軍事中枢まで。


(ここまで近づかないと感知できないとは。これも副核マイナーコアの弊害か……)

 

 間違いなく、コータだ。彼がすぐ近くまで来ている。

 私の素体に物理的な異常はない。動力源にも、魔力回路にも、深刻なダメージはないはずだ。


 だが…なぜだろうか。


 意識か、素体か、いずれかに、ひどく熱を持っている気がする。

 イグニスの学者どもに何か不具合を仕込まれたか?

 いや、自己診断システムにエラーは表示されていない。


(……演算回路のエラーだろうか)


 不可解な現象だ。


 神性魔導演算回路が、存在しないはずの『熱』を検知している。

 ただの人間が、私を助けに来る。その事実を認識した途端に発生した、この未知のエラー。


(コータがここにたどり着くまでに、この熱の正体を解析しておくことにしよう……)



 僕たちは、ヴォルカニアの下層、広大なゴミ捨て場を一心不乱に進んでいた。

 空を覆う分厚い黒煙のせいで、昼間だというのに薄暗い。

 足元には、鉄くずや生ごみ、得体の知れない産業廃棄物がそこかしこに捨てられており、ひどく歩きづらかった。

 鼻を突く腐臭と、錆びた鉄の臭いが入り混じり、息をするだけで肺が重くなるような感覚がある。


「きゃあっ!」

「おっと。おい、気をつけろ」


 エレーナさんが廃棄物の山に隠れていた穴を踏み抜き、大きくバランスを崩した。

 すかさず隣を歩いていたデリクさんが、その腕を掴んでフォローする。


「あ、ありがとう……」

「ここは危険だ。姉ちゃん、足元に気を付けて」


 顔を赤らめるエレーナさんをよそに、案内役であるスラムの少年・テオ君は、慣れた足つきでひょいひょいっとゴミの間をすり抜けていく。

 僕たちなら足を取られるような不安定な足場も、彼にとっては庭のようなものなのだろう。


「しっかし、ほんとひでぇ所だぜ」

「急速な工業化と効率化のしわ寄せが、全部こういう下層の吹き溜まりに来てるなァ。上の連中は、自分たちが出したゴミの臭いすら嗅がずに生きてるってわけだ」


 ジェシカさんが顔をしかめ、ゼンさんが周囲の惨状を見渡しながら皮肉っぽく吐き捨てる。

 ここは、この国の歪みをそのまま体現したような場所だった。

 会話しながら歩いていると、不意に、何か……自分の中の、とても深い部分が『共鳴』するのを感じた。


「コータ、おい。急に止まるんじゃねぇ、後ろが詰まる。危ねぇだろうが」


 デリクさんの声が、どこか遠くに聞こえる。

 僕は、視線を頭上――そびえ立つ無骨な軍の施設群へと向けた。


「アルテア……」

「え? アルテアさん……?」

「この……建物に、アルテアがいます……!」


 彼女の気配を感じる。

 目に見えるわけではない。音として聞こえたわけでもないが、根拠のない確信があった。

 懐かしい。

 たった数週間離れていただけなのに、この感覚が、とても懐かしく感じる。

 絶望と不安でどこか冷え切っていた僕の心に、ぽっと、小さなぬくもりが灯るのがわかる。


「ボーイ、こんなゴミの山の中からでも、そんなピンポイントでわかるのか。便利なモンだな」

「いえ……こんな、はっきりとした気配を感じるなんてことは初めてで……。でも、確信があります。あそこにいる」

「なるほどなァ。俺たちの判断は間違っちゃいなかったってェことだな」


 ゼンさんが紫煙を吐き出しながらニヤリと笑う。


「コータ、その……仲間が、捕まってるのか?」

「そうだね。僕らは、その大事な仲間を助けに、ここまできたんだ」


 僕の決意を込めた言葉に、テオ君は真剣な表情で頷いた。


「……わかった。あそこを見て」


 テオ君が指さした方向には、巨大なコンクリートの壁に、大きく口が開いたダストシュートのような場所があった。

 時折、上の階層から兵士たちの手によって、大量の廃棄物がそこに向かって投げ捨てられている様子が見える。


「あそこが、軍事施設の廃棄口だ。タイミングを見計らえば、あそこから中に入れる。……俺が案内できるのはここまでだ」

「うん、ここまで連れてきてくれて本当にありがとう、テオ君」

「テオボーイも、帰るまでが案内だ。気を付けて帰るんだぜ」


 ジェシカさんがテオ君の頭をガシガシと撫で回す。


「い、いてて……! わかってるよ! コータ、絶対……絶対助けろよ!」


 テオ君は照れ隠しのようにそう叫ぶと、足早にゴミの山を駆け戻っていった。

 僕は再び、高くそびえる廃棄口の先を見上げる。


(あの先に、アルテアがいる……必ず、取り戻す)


 決意を新たに、僕たちは廃棄口からの潜入を開始した。

※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ