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『学校宿の殺人』+α  作者: 稲多夕方
1日目
22/51

『夜食』21:00


 雨風が激しい。調理室の窓がガタガタと揺れていた。


「僕、人の嘘がわかるんです」

「……」

 館山が黙った。

「ぱくぱく、もぐもぐ、ぐい、ごくごく」

 鶴木は野菜炒め、白米、味噌汁の順で食べる。食べる。食べる。

「…………」

 なにも言わない館山。

「おいしいです。館山さん」

「おいしいです、館山さんではないからっ?!」

 ボンッ、と食事台を叩く館山。

 ビクッ、と急な大声に驚いた鶴木だったが、食べ続ける。


「……嘘がわかるって、どういうこと?」

「そのままの意味です」

 一時、箸を止める。

「別に信じなくてもいいんですけどね」

 また野菜炒めに箸を伸ばす。

「鶴木くん。それは……妖怪サトリの末裔だったり、文字が歪んで見えたり、サイドエフェク――」

「いや、そうですけど、そういうのじゃないんです。別に科学的な根拠があるわけじゃないし、僕の勘違いかもしれないです」

 てかそのジャンル詳しいですね、といって鶴木は食事を再開。白米を口に運ぶ。

「どんな風に? 心の中が読めたりする?」

「いや、思考が読めたりはしないです。なんと言わばいいのか。言語化が難しいんですけど……」

 ずずずい、味噌汁をすする。

 そして少し考えるような素振りで、話し始める。

「その人が嘘をついていたら『あ、嘘ついているな』ってわかるんです。なんでわかるかって言われたら『わからないけどわかる』って答えるしかないんですけど……」

「……なるほど。『エンパス』っていうやつかな?」

「名称があるんですか?」

「いまググった」

 ほらこれ、と館山が鶴木に見えるようにスマホを見せた。

 嘘がわかる、HSP、精神過敏、共感力、スピリチュアルなどの単語が見えた。


「ちょっと試してみてもいい?」

「え、試す?」

「うん。本当のことが、本当にわかるかどうか、試してみたい」

 館山が物珍しそうに鶴木を見ている。


「私の朝食は、パンだったか? ご飯だったか?」

 微笑んでいた。すこし楽しそうだ。

「あ、館山さん。その問いかけではわからないんです」

「え、どういうこと」笑みが消えた。

「僕は、嘘がわかるだけなので、○×問題やクイズの答えがわかるわけじゃないんです。だから……館山さん『私の朝食はパンでした』って言ってみてください」

「……私の朝食はパンでした」

「はい。それは嘘です」

「え、すごい。正解」

 館山が驚いた顔をした。

「はい。じゃあご飯だったんですね?」

「え、うん。そう」

「えっ、違うんですか?!」

「ええっ!」

 館山が驚いた顔をした。

「館山さん、朝食を食べてなかったんですか? パンもご飯も食べてないってことは……」

「朝食はちゃんと食べた。――オートミール」

「ああ、なるほど」

 鶴木が納得した。


「すごい。ひっかけにも対応した……。ほんもの?」

「いや、僕が『嘘だろうな』って感じているだけで、本当にそうなのかどうかはわからないですけどね?」

「えっと、もうちょっとだけ、試していい?」

「いいですよ」

 鶴木は快諾した。


「私は男」

「嘘です」

「私は女」

「はい。そりゃそうです」

「私はアウトドア派」

「あからさまな嘘ですね」

「私はインドア派」

「みるからにそうです」

「私は犬を飼っている」

「飼ってないですね」

「私は猫を飼っている」

「あ、猫は飼っているんですか」

「私は読書家」

「嘘、ですけど。自分では読書家とは思ってない、ですね。実際どれくらい読んでいれば読書家なのか、基準があいまいなのでわからないですけど。ちなみにどれくらい読んでるんですか?」

「文庫本を月に2・3冊くらい」

「なるほど。それは、僕には多いと思いますけど。絶妙なラインですね……でも読書家といっても差し支えないのでは?」

「ネットで、なろう小説はそこそこ読む」

「そうなんですね」

「うん。ジャンルは異世界恋愛を一番読む」

「なんでそれが嘘なんですか。各ジャンルの中でも最強の一角なのに」

「ハイファンタジーが多い」

「ああ、そうなんですね」

「私は野球が大好き」

「嘘ですね。でも『大好き』が嘘なので『野球がそこそこ好き』の可能性が無きにしも非ず、です」

「昔バスケットボールをしてた」

「ああ、そうだったんですね。だからマネの仕事引き受けてくれたんですね」

「私の誕生日は2月3日のB型」

「館山さん早生まれなんですね。でもB型ではない、と」

「A型」

「ウソです」

「O型」

「うそです」

「AB型」

「そうです」

「私には、付き合っているカレシが、いません」

「……えっと、いませんよね? なんですか、この早押しクイズ形式みたいなの」

「私には好きな人ができました」

「あ、はい。そうなんですね」



「どうもありがとう」

「答え合わせはしてくれないんですね?」

 館山がほぼ一方的に話しかけて、鶴木の返答は『返答には応じない』というスタンスだったが、理解納得されたような雰囲気があった。

「はい。こういう感じなんです。『嘘発見器』っていうのがわかりやすいですね」

「なるほど」

「ミステリー小説だったらありきたりな能力ですけどね」

「ミステリー小説ではないからありきたりな能力ではないよ、これ」

 館山が頭を振って否定した。


「たぶん長年バスケをしてきて、フェイクやフェイントを見抜く能力がこういう形になったんじゃないかと思っています」

「フェイクとフェイントって、違うんだ」

「ああ、はい。あんまり区別はないですけれど。フェイクは身体の動きで騙す方法、フェイントはボールの動きで騙す方法です」

「ふうん」

 聞いたのにあまり関心がなさそうだった。

「……そうなのかな?」

 館山は不思議そうにつぶやいた。

「いや、そうですよ? でもバスケ経験者でもほとんどの人が知りませんし、フェイクフェイントは混同されていますし、知らなくても不都合ない知識ですけどね?」

「いいや、そっちじゃないよ」

「え、どっちですか?」

「鶴木くんの嘘発見能力の話」

「え、そっちですか」

 やっぱり館山さんって会話の間隔が独自ですよね、と鶴木が評す。

「WEBページにも書いてあったけれど、その能力はそうじゃない。共感する力、他人の事を考えられる力、だから――」

 館山が顔を上げて鶴木の顔を正面から見据える。


「それはきっと剣くんが優しいから」


「そ、そうですか?」

 まっすぐな言葉に照れる様子の鶴木。

「うん。そう。すみませんごめんなさいと謝るばっかりだった私に、止めましょうって言ってくれたのも、きっと剣くんが優しいから。人の気持ちを、誰よりも考えているからだと思う」

「…………その、えっと、ありがとうございます」

 その一言を発した後、無言で食事を口に運ぶ鶴木。


 そして、無言を気にするように、思い出したように言った。

「そんなわけで僕は窓ガラスが割った人はわかりましたから」

「うん」

「だから、この件はもう解決です」

「違うよ」

「え」


「ちゃんと『犯人』にあなたがやりました、と真実を突きつけなきゃダメ」


「でも……」

「ためらうの、理解できるよ。相手を嫌な気分にさせる不快さ、年上に意見する怖さ、そういうことを考えられる剣くんの優しさも」

「……」

「でも、剣くんはスマホを壊されている。それが故意でも事故でも、すべての原因は相手にあって、あなたは被害を受けている」

「……」

「ちゃんと終わらせよう。理由を聞いて、もう止めてもらう。――そうしなきゃ。もしかしたら、また移動した剣くんの部屋の窓が割られるかもしれない」

「……」

 それでも鶴木は黙っている。

「じゃあ、別の人が代わりに同じ被害を受けるかもしれない」

「……それは……」

 鶴木は返答に困ったようだった。

「そうだね。それなら剣くんは動いてくれる。優しいから」

「ふう」

 溜息をついた。

 仕方がない。覚悟を決めた。――そんな顔をしていた。

 

「ごちそうさまでした。――それじゃあ、これから事情を聞きにいきます」


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