補足3~終戦後
青山戦争が集結した後、秀二はようやく戦争から解放されて“闘獣”に精を出す事ができるのだと喜んだ。全ての者が戦争で負った「心の傷」は、歴史としていつか世代を跨いで、受け継がれていくだろう。
大切な命ある者はいつかは居なくなる。それらと過ごす思い出の空間も、壊れてしまう。それを身を持って経験した人々は、家族や友人恋人とのかけがえのない時間を心に刻み、生きる気力を養った。
だが人は受け継がれて来た遺伝子や記録を通じて、大切なそれらがいつかは失われるという事実を知っている。だからこそ、そして直に失う事を体験した人々は、今まで以上にその些細な幸せををいつまで噛み締めて行く事だろう…。その穏やかさが幸せである事を忘れるまでは…。
―――生き残った人々が穏やかさな時間を過ごす傍らで、心を通わす戦友を失った兵士が居た。彼は故郷を失い、部下を失い、そして同郷で親しみを覚えた兵士をむざむざと戦死させてしまった。
彼は比較的安全なチロット市に設置された、青山戦争の戦没者を葬る共同墓地を訪れた。何も埋まっていない戦友の名前が刻まれた十字架と墓石に、ウォッカをかけた。
ジェル「安らかに眠れトーレニカ。お前はもう苦しまなくて良い…。もう辛い現実で戦わなくて良いんだ。好きなだけ寝ろよ…。」
彼は決して信心深くないが、それでも今回ばかりは神と呼ばれる主の救済、死後の世界というものを信じたかった。アナトリーが死に、虚無に帰ったとは思いたくなかったのだ。
アナトリーが死後の世界で、現実では体験できなかった幸福を体験できる様に願う事も、ジェルに取ってはかけがえのない穏やかな時間だった。
人は死者を思い出しその骸が眠るとされる墓へ行く時、どこか穏やかだ。それは死者を思い出し穏やかになるからではなく、穏やかだから死者を思い出すのだ。
生者と異なり徐々に美化されて行く死者は、醜い所を思い出させず、しばらくは懐かしさや穏やかさをだけを募らせていく。そしてまた生まれ変わって巡り会える様に、ジェルの様な生者は祈りを捧げた。
だがそれも永遠ではない。命ある者は変わり、いつかは苦しかった過去は薄れて些細な幸せを無下にする。そして死者に対して、いつまでも哀れみや愛情を持って接するのではなく、徐々に過去の存在として薄れさせていく。
それが良いか悪いかは分からないが、それでも人は、押し寄せる困難の嵐の中を生きて、再び穏やかさの為に日々を過ごしていく…。
補足3 終




