#018 敵前で喋ることなかれ
どうも、ウツロイです。
PVが少しずつ増えてきて少しうれしい今日この頃。
今日は素麺が食べたいです。
「時は金なり」に代表されるように高速化、効率化が美化されて久しい並行世界の日本。
人は時間に縛られ、常にせわしない生活を強要され慌ただしく生きているが、ことさらに慌ただしい者たちがいた。
「これはいったい何事だ!!」
昨日に起きた日本の3分の1が吹き飛んだ事件、通称イ号案件と、博物館が襲撃され最後の消し去られたロ号案件の事態収束のために急遽設立された緊急対策室に怒号が叫び渡る。
「数分前に何者かがマル秘に接触、戦闘を始めたとのことです!接触した者の身元は不明で現在確認作業に入っています!!」
マル秘とはもちろん死理神である彼のことだ。
数分前から彼と復讐の少女の戦闘が続いている。
と言っても、一度は回し蹴りを受けた彼だが、その時は驚きに身体が硬直していたからであって実際の所人間からちょっとパワーアップした亜神如きに後れを取るような彼ではない。
人間基準で見れば復讐の少女の一手一手は必殺の速さと強さを併せ持つ威力であり、短剣の腕も中々のものだが、魔力で身体能力を際限なく引き上げられ、そもそも種族的に圧倒的なアドバンテージを持つ彼からしてみれば、その動きはよぼよぼの御婆さんよりも緩慢だ。
復讐の少女はスパイに抜擢されただけあって仙術の腕もそこそこあり、現在は幽体化の仙術と仙術外無効化の仙術で彼の攻撃を無効化し防いでいる。
幽体化の仙術を彼に攻撃する直前に解き、攻撃後に再び掛けなおすことで一方的な攻撃を可能にしているが、仙術外無効化の仙術の消費仙力が殊の外大きくタイムリミットは近づいているが、復讐の少女は表情にそのことを微塵も出さなかったために彼がそのことに気付くことは無かった。
魔力や神力の探知はお手の物だが、いまだ仙力がどういったものかなのか掴み切れていない彼には現在起きているすり抜けにも何が起きているのか掴めておらず、膠着状態が続いている。
尤も、いくら仙術外無効の仙術であっても権能を使えば十分排除可能であったが。
権能によっては効かないかもしれないが、彼の権能は理の崩壊・創造・覆滅・復元が可能であり、対抗出来るのは『創造系・復元系・時空系・理系』等の権能で、仙術程度では不可能だ。
何度か試すことでエナジードレインの魔法が効かないことを確認した彼は転移魔法を予備動作無しで行使したが、何かが割れる音が響いただけで魔法は発動しなかった。
安全策が中々上手くいかない彼は次第にイライラが募り始める。
幽体化と仙術外無効化の仙術で彼の魔法は効かず、嫉妬の権能によって復讐の少女の攻撃は彼には通らない。
転移の魔法は良く分からないが発動しない。
彼は知らないが先ほどの何かが割れる音は神が渡した10個の転移防止の玉が一つ割れた音だ。
要するに後10回転移の魔法を行使していれば離脱できたのであるが、彼は収納空間から重むろに神槍を取り出し構えた。
彼は普段槍を使うことなど皆無であるが、生前はそうでもなかったようで槍の扱いは記憶に残っていた。
只でさえ高い上位神の身体能力を下界生まれ特有の魔力による身体強化でさらに嵩上げし、自身の神力によって生産された魔力をも身体強化に回し、魔法等使わずとも魔法と同等のことを成し遂げる身体能力を得ている彼。
軽く投げ出された神槍は光速で復讐の少女の差胸部を貫き、風圧で骸を爆散させた。
投げ出された神槍は微かに減速しながらも刹那の内に星を一周し、現在は彼の手に収まっている。
生み出されたソニックブームにより広範囲の建物が壊滅するという事態が発生し、ハ号案件が生まれたこともここに宣言しておこう。
地球を一周した影響で被害は世界規模で出ているが、彼がそんな小さなことに気を止めることも無い。
「っち、流石に上位神相手は無理があったか。宿命の権能による運命操作もしたんだけどな!でも、神力が馴染んだ槍で強引に仙術を引き剝がすのは狡くない?本当なら槍なんてすり抜けて終わりなはずなのにぃ。」
そんな声がしてきた方向を見るが特に何も居なかった。
その時、風を切るような音と共に雨の中飛来する五つの人影があった。
突然の戦闘を受けて急遽出撃命令が下された特殊部隊の中堅5人だ。
「全くこんな時間に出撃なんて上は何考えてやがる。」
「しょうがないでしょ!うわぁ、既に大規模被害が出てるんですけど。あの使い魔?には自重って言葉知ってるのかな?」
「意思疎通できると思う?」
「さあ、話しかけてみればいいんじゃない?」
「ねえ君、僕たちの言葉分かるかい?」
勿論彼は突然の如く喋らない。
「ねえ、どう思う?聞こえてると思う?」
「少なくともこっちを向いてじっとしてるわね。」
「もうちょっと話しかけてみればどうなんだ?」
ピピピ、ピピピ、ピピピ、―――
隊員呼び出しのコールが掛けていたグラス型端末から響く。
雨音が鳴り響く中、やけに通った音をしていた。
コールに応答し話を聞くこと2分、隊員の男の目は憎しみで染まっていた。
「悪い、みんな。こいつは殲め―――」
彼らは彼の我慢弱さを舐めていた。
彼には喰らった記憶があるため話している内容は理解できていたがあまりにチンタラ喋る5人に業を煮やし、目にもとまらぬ速さで接近し神槍で薙ぎ払った。
5人全員の首が胴体から外れ、発動したエナジードレインの魔法により原子レベルで分解されたその骸は、雨に打たれて落ちた。
実際の所は全員が事前に変わり身の仙術を自身に掛けており5人とも無事なのだが、自分に命の危機が迫っていたことに誰一人として気づけた者はいなかった。
自衛隊の秘匿施設である地下要塞『E‐51』で意識を取り戻した5人はいったい何が起きたのかと目を瞬かせた。
「・・・俺たちは、死んだのか?死ぬところ、だったのか?」
「私のも分からない。気づいたら、意識が無くなってた。」
「やばいな、攻撃を察知できなかった。」
「特殊部隊である俺達でもまともに相対出来ねえのかよ!!くそっ!」
「さっきのコール、何だったの?」
「あいつの攻撃の余波で、さっき母さんと妹が巻き込まれた。母さんは重体で、妹は、妹は、うぐっ、死んだよ…。」
暗い雰囲気の中、突然青い人魂のような焔が出現し、意気消沈な5人に話しかける。
「やられるの早すぎるでしょ、まったく。せっかく宿命による強化を施してあげたって言うのに。これは全員にさらなる施しがいるのかな?」
「お前は、誰だ?ていうか、お前、で合ってるのか?」
「さあ、どうやってここに入って来たんでしょうね?質の悪い悪戯だわ。」
「本当に。こういうことに使い魔を使っちゃダメなんだけど。」
使い魔呼ばわりされたことが勘に触ったのか自称宿命の神は言う。
「ちょっと、僕を使い魔みたいな低俗な奴と同じにしないでくれ。僕は宿命の神だよ。さっきも君をパワーアップさせてあげただろう?」
「どういう、ことだ?」
「憎しみで、力が出ただろう?うんん?」
「ま、まさか、妹が死んだのは、お前の性なのか?なあ、そうなのか?どうなんだ!!」
「いやだなあ、直接殺したのはさっきの少年みたいな槍使いだよ。そうだろ?でもね、宿命関係になるのは決まっていたことなんだけど、あれぐらいじゃ全然足りないね。もうひと手間入れないと。」
「もったいぶったこと言ってないで、さっさと吐けや!!」
男が拳を振り上げた瞬間、それは消え去った。
その後、特殊部隊の全隊員に凶報が入ることとなる。
その頃、彼が何処にいたかと言うと、天界の下層にいた。
尋常でない勢いで漂う神力を吸収しながらこの世界特有の希少品がないかとウロウロ歩き回る彼。
下層に住んでいた神性を持つ生物は全て彼に吸収された後で、不気味な静けさの中歩いていた。
自称宿命の神は直ぐに特殊部隊隊員と彼がぶつかることを見越して権能で凶報をばら撒いたのだが、実際は長時間天界下層でウロウロしていたため権能の効果は薄れ、逆に消耗することとなった。
下層の物色を終え、天上界に彼が侵入したころにはこの世界に来てから既に1年程経っており、下界では復興が進んでいた。
天上界では様々な神を吸収し、神力を生産する巨樹も2本目として体内に取り込み、神力生産量を2倍に増やし、更なるパワーアップを迎える。
彼は吸収した神から集めた権能を崩理の権能で統廃合を繰り返し800以上の権能を一つに纏めた上位権能を取得していたのだ。
『神令の権能』。
あらゆるものに対して強制性を持たせた命令を下せる権能で、理に作用させることもできる。
ただし、言葉なり念話なりで語り掛ける必要があり、彼にとっては相性の悪い権能と言える。
地上を悶々とさせながら、着々とやる事を進めながら、今日もゾンビは嗤う。
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神令の権能、果たして使うことは有るのだろうか?




