20.通じはじめた心
アキレアや他のマリア達、そしてイーファンさんをブロウサスのギルドの宿に移動させて一日が経った。
昼過ぎになるとイーファンさん以外の五人は目を覚まし、今は体力を回復させる為にとそれぞれ部屋で食事をとらせている。
「体調はどうだ?」
「絶好調とは言えないけど、そんなに問題は無いわ」
アキレアはもう食事を済ませて、食後の紅茶を飲んでいた。
昨日に比べれば顔色も随分良くなっていて、コバから聞いた話では他のマリア達も徐々に回復してきているらしい。
「……ごめんなアキレア」
「どうしたのよ突然」
「いや、だって……俺がアキレアとコバと別行動をとらなければ、あんな事に巻き込まれなかったと思うし……」
俺がそう言うと、アキレアは呆れたように溜め息を吐いた。
「別にあんたが悪いわけじゃないわ。全部あのグレゴワールとかいう男のせいでしょ?」
「だけど……」
「ああもうマイナス思考止めて! こっちまで気分が暗くなるじゃない!」
「ご、ごめん」
「……あたしがグレゴワールに捕まってなかったら、他のマリアの人達やイーファンさんだって助けられなかったかもしれないんだし。あんたがあたしじゃなくてリーオを選んだのは寂しかったけど……」
「え……」
数秒お互いに硬直して、アキレアは見る見るうちに顔を真っ赤にしていく。
「えっ、あっ、い、今あたし何か変な事言ったわね! 気にしないで! そ、そう! 体調が悪いから変な事口走っちゃっただけなんだから!!」
「えっと……」
(今確実に寂しかったって言ったよな?)
彼女は全力で誤魔化そうとしているけれど、間違い無く寂しかったと口にしていたはずだ。
俺がビエルに乗るメンバーにリーオとアジュガを選んだのが寂しかったのか。自分を選んでくれなかったから……。
(それってつまり……)
「嫉妬……したのか?」
「っ、そ、そんなわけないわよ! 何であたしが嫉妬なんてっ」
口では必死に否定していても、耳まで真っ赤にされてしまえば俺も勘違いしそうになってしまう。
アキレアが、俺とリーオの仲にやきもちを妬いているんじゃないか。アキレアが、俺を好いているんじゃないかと。
リーオは第三契約まで進んだのに、アキレアは第二契約のままだったのはこれが原因だったのだろう。
(自惚れそうになるじゃないか……!)
彼女が嫉妬する程俺に好意を寄せていると自覚した途端、こっちまで顔が熱くなってきた。
「……やきもち妬かれるのも、案外悪いもんじゃないな」
「だ、だからあたしは別にやきもちなんか……!」
ツンデレ全開のアキレアに笑みが零れる。
「何笑ってんのよバカ!」
「ごめんごめん」
ティーカップをテーブルに置いて、アキレアはそっぽを向いてしまった。
「安心して。もう絶対にアキレアと離れないから」
そう言うと、アキレアは釣り上げていた眉を下げておずおずと振り返った。
「離れないし、絶対に死なないよ」
「……ほ、本当に?」
「ああ。約束する。だからアキレアも約束してよ。ずっと俺のマリアでいてくれるってさ」
小指を立てて微笑むと、アキレアは遠慮がちに細い小指を俺の小指にそっと絡めてくる。
「約束するわ……。だからショウ、絶対にあんたも約束守りなさいよね」
「うん。お兄さんの為にも、この世界の為にも、絶対に……」
(邪神を倒そう)
(どうかその時まで、元の世界に帰れませんように)
突然ぼんやりと光を放ち出したアキレアの肩。
マントで包まれたそこは彼女のマリアの印がある場所だった。
「こ、これって……」
「第三契約だわ……!」
マントを外すと、剣のタトゥーが緑色に変わっていた。
「やったなアキレア!」
「ええ!」
アキレアとの契約が進んだ事を報告する為に彼女と一緒にギルドのラウンジに向かうと、そこにはスィグナンスさんと由菜さん、そしてスィグナンスさんの元マリアのランヴァスさんが集まっていた。
俺とアキレアが近付くと三人は気付いて顔を向ける。
「ショウさん」
「どうも。えっと、ランヴァスさん……ですよね。具合はどうですか?」
「良くなってきました。あなたがフリッグマスターのショウさんですね。スィグナンスから話は聞いています。この度はお助けいただき、ありがとうございました」
落ち着いた声色で頭を下げるランヴァスさん。
「俺だけじゃないですから、そんな頭下げないで下さい」
「……ショウさん。私や他のマリアは暫くこのギルドに滞在して、次のマスターを探すつもりです」
「次のマスター? 今マスターは居ないの?」
「はい。私のマスターはスィグナンスでしたが……今は由菜さんが居ますから」
ランヴァスさん以外のマリア、フィギンさんとラジーナさんとモルガナさんにはマスターが居ない。
理由は知らないらしいが、一人で居るところをグレゴワールに捕まってしまったのだという。
「新しいマスターが見付かり次第、また冒険者として活動していこうと思います」
「そうですか……お互い頑張りましょうね」
「はい」
「あ、居た居た」
ギルドの二階から降りてきたのはコバだった。
「騎士もどきも居るなら丁度良いや。イーファンが目覚めない理由が解ったよ」
「本当ですか!」
階段を降りてコバは一枚の紙を取り出した。
「アジュガにブロウサスの近くに生息している魔物を調べてもらったんだ。強力な眠りの攻撃を使う魔物……アルカサス。イーファンは多分それにやられたんだと思う」
「アルカサス!? それってかなり危険な魔物じゃない!」
「アルカサスの眠りを覚ますには特別な薬を作らなきゃならないんだ。ショウと騎士もどきにはこれから材料を集めに行ってほしい」
「分かった」
コバが差し出した紙には、その薬を作る為に必要な材料が書かれていた。
しかし俺にはフォレイヤ文字しか読めないからそのリストの字は読めない。
コバからリストを受け取ったスィグナンスさんが読み上げた。
「シュエルカ草にタバヤの根っこ、ウサイヌの角にマルスの実……」
「ウサイヌの角とマルスの実って、前にセロウズさん達と……」
王都イーサルのギルドでシンフォリカルポス様がこっそり出していたマルスの実採取クエスト。
マルスの実はホシクズ草がつける実の中でもかなりレアな実の事だ。
それを取りに行く途中で遭遇したのがウサイヌだった。
俺が初めて槍を手に入れて戦った相手がウサイヌ。大型犬のような見た目だが頭にはうさ耳と立派な角が一本生えている。
結局ウサイヌにとどめを刺したのは俺ではなかったけれど……セロウズさんはウサイヌの角は薬になると言ってへし折っていた。
「ウサイヌの角とマルスの実は俺達が持ってくる。スィグナンスさんは残りの二つをお願い出来ますか?」
「了解した。由菜も来てくれるか?」
「はい、勿論!」
「リーオ達はどうするの? 呼んでくる?」
「そうだな……じゃあ俺とアキレアとリーオの三人で行ってくるよ。アジュガとヒギリさんはイーファンさん達を頼む」
「分かった。じゃあヘリオトロープを呼んでくるから待ってて」




