13.不穏な影
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魔族の男、グレゴワールにコバ達が襲われアキレアが攫われてしまった。
これから準備を整えてヒギリさんと一緒に白虎へ向かうつもりで話が進んでいたのに、とんでもない事件に巻き込まれた。
海を渡って船でぐるりと大陸を回って進軍してくる白虎軍は、恐らく一ヶ月ぐらいでスプラエンにやってくるだろうとヒギリさんが話してくれた。
シンフォリカルポス様にもアキレアの話をして、彼女を救出してからフォレイヤへ向かう事になったのだが……。
「皆さん、お待たせしました」
スプラエン国内全てのギルドに連絡をしてくれたアジュガが戻ってきた。
「イーファンさんがどこにいるのか分かったのか?」
「一応、最後に立ち寄ったギルドの場所は掴めました。ですが、彼女がギルドに来たのは4日前……それから消息が絶たれているようです」
「4日前? それからずっと野宿でもしてるか、宿屋にでも泊まって……いや、宿屋はないか。普通の宿屋じゃ僕ら魔族は泊まらせてくれないからね」
「それではイーファンさんまで行方不明という事に……大丈夫なのでしょうか」
アキレアに続いてイーファンさんまで姿を消してしまうとは。まさかこれもグレゴワールが関係しているのだろうか。
「念の為、ギルドの通信装置から侯爵さんにも連絡を取ってみたんです」
「マルトス侯爵に?」
「ええ。ですがあちらにもイーファンさんからの連絡は一度も来ていないようでして……」
マルトス侯爵にも連絡していないなんて、やはり何らかの事件に巻き込まれているんじゃないだろうか。
幸い、フォレイヤに向かったセロウズさんやグレイさん達は特に変わった事はないようで、こちらは心配する必要はないらしい。
「それで、イーファンはどこのギルドに居たの?」
「ブロウサスのギルドです」
「ブロウサスってどのあたりにあるんだ?」
「ほら、わたし達がビエルに乗って通った、桜がたくさん咲いていた街の事ですよ」
「ああ、あそこか!」
俺達が馬車で王都イーサルに着く前に泊まったあの街が、イーファンさんが最後に泊まったギルドのあるブロウサスだったようだ。
「侯爵さんにグレゴワールという名に覚えがないかとお訊ねしたら、どうやら昔グレゴワールさんとイーファンさんの間でトラブルがあったようなんですよ。もしかしたら彼女もグレゴワールさんに何かされているのかもしれません」
「それなら早速ブロウサスに行ってみよう!動かなきゃ何も始まらない」
「そうだね。ただ、グレゴワールの使った魔法が普通じゃなかったんだよね。それだけが気掛かりなんだけど……」
コバとアキレアがグレゴワールに襲われた時、彼は幾つもの属性の魔法を使ってきたのだという。
そのどれもが強力な魔法で、魔族の中でもかなりの強さだったらしい。
「普通、魔族なら誰でも闇の魔法は使える。それともう一種類、別の属性が使えるんだ」
「二種類の属性、ですか」
「本来ならそのはずなんだけどね、グレゴワールは闇以外に炎、水、氷、風、雷……様々な属性魔法を使いこなしていたんだ。そんなに多くの魔法を扱える魔族なんて、皇帝以外に存在しないと思うんだけど」
この世界で魔法が使えるのは魔族、魔物、エルフ、そしてマリアだけだ。
しかし、コバやマルトス侯爵達が開発したコアデバイスを使えば魔法が使えない人間でも魔法が操れるようになった。
「まさかそいつがコアデバイスを使ってるとか……」
「万が一シアルからコアを盗んでいたとしても、君なら分かると思うけどコアは自分に合うものになかなか巡り会えないんだから、そう何個もコアデバイスが扱えるとは思えないよ」
「そ、それもそうか……」
(それじゃあどうしてグレゴワールは幾つもの属性を使えるんだ?)
いくら考えても答えは出ず、アキレアとイーファンさんの居場所を突き止める手掛かりを探す為にも、聞き込みをしながらブロウサスに向かう事になった。
今はまだ午前九時。夜にはブロウサスに到着出来るだろう。
アジュガの部屋を出て謁見の間へ向かい、シンフォリカルポス様とヒギリさんにそれを伝える。
「……ブロウサスに向かうのだな」
「はい。ウィントハーレンのシアルでも似たような事件が起きていましたので、他に行方不明者の方が居ないか確認も含めて行って参ります」
「そうか。フリッグマスターショウ、ヘリオトロープを頼んだぞ。マリアアキレアと魔族イーファン、そしてお前達の無事を祈る」
「はい!」
リーオがマリアになって、初めて顔を合わせたであろうシンフォリカルポス様。
リリー姫の事があり表立って兄妹として接する事が出来ない二人。それでもシンフォリカルポス様は双子の妹のリーオを今でも心配している。
「……行って参ります、国王陛下」
「ああ」
二人の視線が交わされて、リーオの言葉に陛下がしっかりと頷いた。
謁見の間を出ようと踵を返そうとしたその時、ヒギリさんが俺達を引き止めた。
「お待ち下さい」
「ヒギリさん……?」
「私も同行させて下さいませ。そのグレゴワールという男はかなりの強者のよう。私は嶺禅流剣術免許皆伝の身……必ずや戦力になる事でしょう」
初めからついて行く気満々だったのか、物陰から立派な日本刀を取り出した。
嶺禅流剣術がどういったものかは分からないが、前衛のアキレアが居ない今彼の剣術が役に立つ事は確かだろう。
「更に、私はあまりこの国には留まれません。アキレア様とイーファン様を救出した後、可能な限り速やかにフォレイヤへ向かうつもりです」
「ヒギリ、そこまで焦らずとも良いのだぞ?」
「いえ。これ以上私がスプラエンに留まれば、我が君に先代様の圧力がかかってしまいます。それは避けねばなりませんので」
そう言ってヒギリさんはシンフォリカルポス様に頭を下げ、俺達に近寄ってきた。
「ショウ様、同行の許可を」
「え、えっと……」
冷静で力強い緋色の瞳に真っ直ぐ見つめられて、言葉が詰まる。
(ヒギリさんが来てくれたら心強いし、そのままフォレイヤに向かえれば時間も節約出来るけど……)
アジュガとリーオ、コバも彼の同行に異議はないようで、目線を送れば黙って頷く。
「ショウ様、どうか許可を」
(何で俺にだけ許可取るんだよ!)
ヒギリさんへの苦手意識はまだ少し残っていて、何を考えているのかわからない表情が俺を挙動不審にさせる。
キョロキョロと関係ない方に視線を移して、ただ「一緒に来て下さい」と言えば済むだけなのに、なかなかそれが言い出せない。
「ショウ様」
(ああぁぁ! もう分かったよ! どうしてもついて来たいんだろ!?)
「ヒギリさんも、来て下さい……!」
「有り難う御座います、ショウ様。この嶺禅緋桐、必ずや皆様のお力になってみせましょう」
新しい拷問かと思った。
第一印象は無表情で堅苦しい人、というものだったけれど、今のヒギリさんはかなりグイグイ来る無表情で堅苦しい人に書き換えられた。
こうしてヒギリさんの猛烈なアピールにより彼もブロウサスに向かう事になり、俺達はリューエルシアン城を出て馬車に乗り込むのだった。




