13.玄武の国
あれから何事も無く飛空艇は進み、無事にウィントハーレンの王都ハインザークに到着することが出来た。
「やっと着いたな!」
数日間の空の旅を終え、いよいよ今夜俺達は晩餐会に出席する。
しかし、エボルブス国王の居城に向かう前に会わなければならない人がこの街で待っていた。
飛空艇を降りていく人々の人混みから抜け、巨大な門の横に立つ気品のある若い女性を見つけた。彼女に会うことが今の俺達にはどうしても必要だった。
「すみません」
声をかけると、色素の薄い綺麗な空色の髪を揺らして、その女性が顔を上げた。
「俺、フリッグマスターのショウです。彼女はアキレア、この子はリーオで……」
「ええ、マルトスから聞いていますわ。初めまして。私はマルトスの妹、オリンツィア・アル・グランドロンと申します」
そう、俺達はまずこのハインザークでマルトス侯爵の妹さんに会う必要があったんだ。
オリンツィアさんはマルトス侯爵と同じ冷静な印象を受ける。彼女は挨拶を済ませると、俺達に馬車に乗るように言ってきた。
スプラエンの城に向かう時に乗った馬車ほど豪華なものではなかったけれど、それでも普通に街道を走っている馬車より乗り心地が良いのは確かだった。
スプラエンの王都イーサルの入り口で見掛けたのと同じような、黒い玉の上に蛇が絡み付いた亀が乗った石像が門の両側に置かれていた。
ハインザークはシアルのように石で出来た家が立ち並んでいたが、やはり王都というだけあって街の中心に向かうにつれて身分の高い人が住むに相応しいお屋敷がちらほらと目に入ってくる。
俺は途中ではっと気が付いた。ウィントハーレンに着いた時から、この国で馬車が走っているのを見たことが今まで一度もなかった。
何故ならウィントハーレンは冬の国で、降り積もる雪のせいでとても馬車が走れるような状況ではなかったからだ。
シアルの街で、住人が雪かきをして人が歩けるような道を作ってくれていたけど、吹雪になってしまえば一晩でその苦労はなかったことになってしまう。
しかし、ハインザークは屋根の上に雪が残っているものの、今この馬車が走っている大通りには全く雪が積もっていないのだ。
「不思議でしょう?」
ふいにオリンツィアさんが俺を見て言った。
「このハインザークは、我が国で随一の人口を誇っておりますわ。多くの民の生活に支障をきたさぬよう、兄が開発した路面に積もる雪を解かす特別な機械を設置しておりますの」
「特別な機械、ですか?」
「コアデバイスのことね」
「ええ。地下に幾つもの火のコアデバイスを埋めることで、雪深いウィントハーレンでも馬車を走らせることが可能になりましたの」
だから雪がなかったのか。鉱山で掘り出したあのコアに、こんな使い道もあったんだな。
「あたしがまだここに居た頃は、こんな技術使われていなかったけど……」
「今年の始めに導入しましたから、ご存知なくても不思議ではありませんわ」
「……そうだ! その技術を上手く使えば、ウィントハーレンでも食料の生産が出来るようになるんじゃないか?」
雪を解かして暖めるコアデバイスがあれば、ビニールハウスのようにして野菜が育てられるんじゃないか。
そう思って口にしたものの、オリンツィアさんの表情は曇ってしまった。
「……私達も、それは考えましたわ。ですがそれは出来ませんの」
「ど、どうして……」
「ここウィントハーレンは凍てつく雪と氷の国。人間やエルフは勿論、動植物が生きていくこともままならない場所……種を蒔いても、やせ細った大地から芽を出すことはないのです」
「それなら地のコアを使うのはどうでしょうか?」
リーオがそう提案したが、それでも彼女の表情は晴れず静かに首を横に振った。
「地のコアの魔力程度では、大地に活力を与えることは出来ません。……大精霊クラスのコアでも見付かれば、少しは違うのかもしれませんけれど」
話している内に馬車は目的の場所で止まった。
「……お話はまた後程。さあ、晩餐会までのんびりしている時間はありませんわ」
オリンツィアさんに続いて馬車を降りると、大きなお屋敷の前で執事のお爺さんが出迎えてくれた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「こちらの皆様がフリッグマスターショウとマリアの方々よ。支度はもう済んでいるわね?」
「はい、勿論でございます。それではショウ様、そしてマリアのお嬢様方、私グランドロン家の執事長カールがお部屋へご案内させて頂きます」
「宜しくお願いします」
オリンツィアさんは案内された部屋で少し待っていてほしい、とだけ言って先に屋敷へ入っていった。
俺達も執事のカールさんに案内され、グランドロン家のお屋敷にお邪魔することになった。




