12.貫く氷柱
アジュガと話した翌日、ウィントハーレンの国王エボルブス様から招待された晩餐会に向かうため、俺とアキレアとリーオはシアル鉱山から西にある街へやってきた。
この街から乗り物に乗って王都のハインザークへ行けばいいとマルトス侯爵から教えてもらった。
「王都ハインザーク……まさか、国王陛下の晩餐会に出席するために向かうことになるなんてね」
「アキレアは行ったことあるのか?」
「行ったことも何も、ハインザークはあたしの地元よ」
「……えっと、アキレアさんは玄武人の方だったのですか?」
「そうよ。そういえば、兄さんと旅に出てからハインザークに帰ったことがなかったわね」
つまり、アキレアは三年振りに故郷へ帰るわけだ。
言われてみれば、彼女は俺やリーオより寒さに強い気がする。昼間になってもほとんど気温が上がらず、朝からずっと寒さに震えている俺達に比べて、彼女は普段とあまり変わらずにいるからだ。
「ハインザークへは、あれに乗っていけば良いのよ」
そう言ってアキレアが指差した先には人集りが出来ていて、見慣れない船のような大きな乗り物が停まっていた。そしてその人集りは続々とそれに乗り込んでいく。
「あれは何なのでしょうか……?」
「あれは飛空艇よ」
「ひ、飛空艇!?」
流石ファンタジーゲームの世界だ。本物の飛空艇を見られるなんてな……。
「あたしと兄さんが王都を出る時にも乗ったの。ハインザークは高い山に囲まれた土地だから、あれが出来る前は大変だったらしいわ」
「まあ、雪山登山は危険だろうしな……」
ただでさえこの世界には魔物が居るんだ。俺が居た世界より多くの危険が伴うことだろう。
俺達も飛空艇に乗るため、窓口でチケットを購入して人生初の空飛ぶ乗り物に乗り込んだ。
飛空艇の中はかなり広くて、俺達は数日間この飛空艇の中で過ごすことになるらしい。
寝泊まりするために用意された個室に入ると、アキレアとリーオは二段ベッドの上をどちらが使うかとか、アジュガやコバ達へのお土産を買わなきゃなどと話に花を咲かせている。
気が強いアキレアとおしとやかなリーオ。性格が全く違う二人が仲良くなってくれて嬉しいと思う反面、こうやって女の子同士で話している時に感じる孤独がちょっと辛い。
(まあ、こんな可愛い女の子二人とこうして旅が出来ているんだから、それだけでも幸せだよなぁ)
そんなことを心の中で呟きながらぼんやりと窓の外を眺めていると、さっきまで真っ白だった景色が爽やかな青空に変わった。
「ようやく雲を抜けたわね」
「綺麗な空ですね!」
「本当に空を飛んでるんだな」
それからしばらくして、リーオが飛空艇を探検してみたいと言ってきたので三人で部屋を出た。
俺達以外にも部屋を出ている人は多かった。色々な所を見て回って、最後に甲板へ行こうとした時何かが飛空艇に激突した。
「きゃっ!」
「うわっ!?」
ふらついて俺の胸に倒れ込んできたリーオを抱き留めた。
「だ、大丈夫か二人共!」
「かなり揺れたけど、問題ないわ」
揺れがおさまってすぐ、甲板の方から走ってくる人達が叫んでいた。
「そこの兄さん達! 甲板には近付くな!」
「早く、早く……誰かあの魔物を追い払ってくれぇ!!」
「魔物ですって!?」
「行こうアキレア、リーオ!」
「はい、ショウさん!」
俺は槍を持って、アキレアは斧を構えて甲板へ向かった。
風が強く吹き付ける甲板で俺達を待ち構えていたのは、アキレアと契約を結んで間もない頃に遭遇した魔獣グリフォンだった。
その証拠に、グリフォンの片目にはセロウズさんがつけた傷が残っている。
「グワァァァァ!!」
「またあいつかよ!」
「また、ということは……以前あの大きな魔物と戦ったことがあるのですか?」
「そうよ! あの時はセロウズさんとレベッカさんに助けてもらったけど……」
「……っ、来るぞ!」
「グワァァァッ!」
俺達目掛けて急降下してきたグリフォンを避けたが、俺とアキレアは武器で攻撃しようとしても空中に居るグリフォンには全く届かない。
「アキレア、魔法でどうにかならないか?」
「あたしの魔法はコバみたいに飛ばせないのよ! やれたら最初からやってるわ!」
「わ、わたしがやってみます!」
「リーオ、あんた回復しか出来ないんじゃ……」
リーオが祈るように胸の前で手を組むと、俺の首の右側が熱くなった。これはアキレアが魔法を使う時と同じ反応だ。
するとリーオの前に剣のような形の炎が出現し、グリフォン目掛けて素早く飛んでいった。見事にそれは命中し、グリフォンにダメージを与えられたようだ。
「凄いなリーオ!」
「火属性の魔法……コントロールがしっかり出来てるわ……!」
「やれましたぁ……!」
「まだ甘いよ、お嬢さん」
背後から誰かの声がしたと思うと、間髪入れずに鋭い氷柱がグリフォンに何本も飛んでいった。
「グ、グワァァアアァ!!」
グリフォンは痛みにもがきながら甲板に落ちてきた。衝撃で飛空艇がまた揺れる。
振り返るとそこにはレイピアを持った銀髪で凛々しい貴族のような服装の青年と、セロウズさんとはまた違った雰囲気の髪を束ねた剣士の青年が立っていた。
「グリフォンには魔法攻撃を叩き込み、地に落とした瞬間に……」
「ボッコボコにするんでーす!」
剣士の青年が鮮やかな剣さばきでどんどんグリフォンを斬りつけていく。
俺達もそれに続いて攻撃を仕掛けていくと、体力を大幅に削られたグリフォンは最後の力を振り絞って甲板から逃げていった。
弱々しく飛び去っていくグリフォンの姿を見送って、俺は加勢してくれた二人に頭を下げた。
「助けてくれてありがとうございました!」
「頭を上げてくれよ。僕らは当然のことをしたまでだからね」
レイピアの青年はそう言って微笑んだ。
「もしかして……マリアが二人? え、まさかお兄さんってフリッグマスターさんだったりしちゃいます!?」
「そ、そうですけど」
「えぇーっ! スゴいですよハルさん! こんな所でフリッグマスターさんに会っちゃいましたよ!!」
「騒がしいよエキウム。連れが失礼したね。僕が謝るから許してやってくれないか?」
「いえいえ! 全然気にしてませんから!」
「そうかい? そう言ってもらえるとありがたいよ。それじゃあ僕らはグリフォンのことを船長に伝えてくる」
「ではでは、失礼しまーす!」
ハルさんとエキウムさんにもう一度お礼を言って、戦いで疲れた身体を休めるために俺達は部屋へ戻ることにした。




