7.コアの秘密
奴隷商人の親玉からの一撃を受けて大怪我を負った俺は、二人目のマリアとなったヘリオトロープ様の治癒魔法によって一命を取り留めた。
俺が気絶した後、なんとアキレア達が戦闘に加勢していた。彼女達の活躍によって、奴隷商人の一味はウィントハーレンの王都へと連行された。
長い眠りから目を覚ました俺は、アキレア達にカオシアでのことを謝った。もう同じ過ちを繰り返さないと約束した。
こうして、俺とアキレア、アジュガ、コバ、そしてヘリオトロープ様を加えた五人で旅を続けることになったのだった。
「ほんっと有り得ないわ! あんたよくそんな変態野郎と一緒に居られるわね!」
「グレイは変態なんかじゃないもん! アキレアちゃんの意地悪ー!」
俺が目を覚ますまで、みんなはシアルの宿屋で待っていた。魔力のコアを手に入れる為に、マルトス侯爵とイーファンさんと行動しなければならないからだ。
マルトス侯爵の護衛をしていたグレイさんとカエさんも、俺と同じ目的でここまでやってきた。俺を置いて先に行くことも出来たのに、待っていてくれたんだ。
「ねぇグレイー! アキレアちゃんが酷いこと言うよー!」
「おやおや……君は相変わらず俺が気に食わないようだね」
「気に食わないに決まってるじゃない!」
俺が目覚めた日の昼、早速コアを取りにマルトス侯爵が管理するシアル鉱山へ向かっていた。
幸い雪はちらつく程度で、徒歩で鉱山へ進んでいる。
その道中、またグレイさんとカエさんが人目をはばからずいちゃついていた。その二人の様子にイラついたアキレアがカエさんと喧嘩になって、今に至る。
「相変わらずって……もしかして二人は知り合いなのか?」
「聞いてなかったのかい? アキレアは俺の元マリアなんだよ」
開いた口が塞がらなかった。
それは側で話を聞いていたアジュガやヘリオトロープ様も同じだった。
「何でアキレアちゃんはグレイのこと悪く言うの? 前のマスターだったんでしょ?」
「あんたはおかしいと思わないの!? 吐き気がするような甘ったるいセリフ。意味も無くかきあげる前髪。そしてやけに多いボディタッチ! どう考えても気持ち悪いじゃない!!」
「す、すごい言われようですねアジュガ……」
「ショウさんがマスターで良かったですね、ヘリオトロープ様」
「あれも……キズナ、なの?」
スプラエンで装備品を買った店で、半年前アキレアは以前のマスターとその店を訪れていたという話を聞いた。
かなり問題のあるマスターだったとは言っていたけど……まさかそれがグレイさんだったとはな。
「そんなに俺が嫌いかい?」
「生理的に無理!!」
汚らわしいものを見る目つきで、彼女はグレイさんを睨み付けている。
グレイさんは少し困った様子で笑っていた。
「……それなら、どうしてアキレアはグレイさんと契約したんだ?」
「俺も聞きたいな。契約してくれた理由は知らないからね」
「口ばかり動かさず脚を動かせ」
「いつ雪が酷くなるかわからないわ。早く進みましょう」
先頭を進むマルトス侯爵とイーファンさんにたしなめられ、一旦この話はまた後にすることになった。
シアル鉱山はカオシア帝国に程近い、マルトス侯爵の領地シアルの街の北に位置している。
グランドロン領はカオシア、そしてスプラエンとの国境に接している地ではあるものの、侯爵家だけでなく魔族の血も引くマルトス侯爵は帝国との繋がりもあるため、スプラエンとの長きに渡る戦争には巻き込まれていないらしい。
その気になれば国一つ簡単に滅亡させる魔力を持つと言われる、カオシアの皇帝エレムルス。
万が一侯爵様がエレムルス皇帝にスプラエン侵攻を進言しようものなら、スプラエンは一溜まりもないだろう。
だけど、マルトス侯爵が言うには今のところエレムルス皇帝は他国に興味は無いらしい。
それには少し安心したけど、ウィントハーレンとスプラエンの戦争は今も続いている。
この戦争の発端はウィントハーレンの気候による食糧不足だ。この国は、ウィントハーレンを守護する霊獣玄武の力によって一年中冬が続くんだとか。
玄武・青竜・朱雀・白虎、そして五彩の麒麟の持つ力が世界のバランスを保ち、その守護される力が及ぶ範囲によって国境が定められているという。
ウィントハーレンの食糧問題を解決するためには、温暖な気候である東のスプラエン、もしくは秋の国である西のフォレイヤの領土を得る必要がある。
このまま食糧不足が続けば、戦争による死者や、軍で消費される兵糧が国民に行き渡らずに起きる餓死でどんどん人口が減っていくだろう。
実際に、ウィントハーレンの人口はどの国よりも少ない。セロウズさんとレベッカさんが向かった常夏の国サマディーゾも、大きな砂漠が広がる過酷な地ではあるけれど、海で魚は穫れるしスプラエンとの貿易で食糧を輸入しているため、ウィントハーレンのように農耕が困難な土地でもあまり問題なく人々が生活出来ているそうだ。
人口が少ないため、軍隊の規模は小さい。それでもウィントハーレンがスプラエンに対抗出来ている理由が、シアル鉱山で採れるコアにあった。
「ここがシアル鉱山だ」
「マルトスさん、この鉱山では何が掘り出されているのですか?」
「魔力の結晶、コアだ。その昔、まだこの世界にヒトとエルフ、そして豊かな自然のみが存在していた頃の話だ。今ではもう全て死に絶えた、精霊が生きていたという」
精霊は、この世のあらゆる自然と共存していたという。風と共に空を舞い、川のせせらぎに耳を傾け、炎や雪、そして大地と共に生き、様々な自然の力を操る精霊達が、平和に暮らしていた。
「その平穏な日々は、ある日突然終わりを告げたわ。邪神ディジオンが生み出した生物……魔物があらゆる命を喰らい始めたの」
人間も、エルフも、精霊も。この世の全てを喰らいつくす勢いだった。
「なんて恐ろしい……」
「精霊を喰らった魔物達は、体内に精霊の魔力を蓄えていった。精霊の持つ魔力……それはとても甘美な誘惑だ」
「あっという間に精霊は激減したというわ」
人間もエルフも、闘いの術を知らなかった。しかし精霊達は他の命を守ろうと魔物と闘った。
生き残った精霊達は、力を合わせて大勢の魔物を一カ所に誘い込み、捨て身の攻撃で魔物を討ち滅ぼした。
「命を燃やし尽くした精霊達と、精霊の魔力を蓄えた魔物達は共に死んだ。……このシアルの地でな」
「そ、それじゃあ……魔力のコアって、精霊の……?」
「その通りよ」
「僕もその話は聞いたことがある。魔族の間では有名な話だよ。他の種族の間では忘れ去られたみたいだけど」
「私も、コバから聞いたことがあるので知っていますが……」
「大昔に、そんな悲しい出来事があったなんてね……」
この鉱山に眠るコア……それは太古に絶滅した精霊の魔力が結晶化したものだったのだ。
「私はこの鉱山で発掘されたコアを利用し、魔力を持たぬ者でも魔法を操る力を得る物を作ることにした。カオシアの魔族達の力を借りてな」
「私もその開発に携わっているわ。あなた達人間や、エルフを守った力……眠らせたままでは、可哀想だもの」
コアから作られた特殊な装備品によって得た魔法の力。それがウィントハーレン軍の大きな戦力になっていたんだ。




