23.北と東の抗争
いよいよ王都を出発するという時に、セロウズさんがこんなことを言いだした。
「五人全員で行動するより、二手に別れて捜さねーか?」
「二手に?まあ、その方が効率は良いかもしれないわね」
王都の門を前にして、そんな提案が出された。
彼の言う通り、どこに飛ばされたのかわからないヘリオトロープ様を捜すなら手分けした方が見つけやすいだろう。
「どうやって二手に別れるんだ?」
「俺とレベッカは南、ショウとアキレアとアジュガは北へ行くってのはどうだ?」
「良いんじゃないの? あたしとアジュガでショウを守ればいいんでしょ」
(俺は完全に戦力に数えられてないな。うん、もうわかってたから。何となくこうなるんじゃないかなとは思ってたから)
アジュガは俺の槍をちらりと見る。
あまり使いこまれていないから、俺がまだまだひよっこだということがわかるだろう。
「……私はそれでも構いませんが、セロウズさんやレベッカさんはヘリオトロープ様のお顔はご存知ありませんよね。どうお捜しになるおつもりなんですか?」
「手当たり次第に赤髪の子に声をかけていくかね。ヘリオトロープなんて長い名前、そうそう居ないだろうしよ」
(町や村で聞き込みしてみるとか、そんな感じになるのかな)
「ちょっと気になってたことがあるネ。どうしてその子の捜索をギルドにお願いしないアルカ? その方がワタシ達が捜すよりもっと早そうだヨ?」
それは俺もちょっと思っていた。
わざわざ俺達に限定して捜させなくても良いんじゃないかと疑問に感じていたのだ。
「うーん……そうしたいのはやまやまなんですが、このことはあまり知られたくはないんですよね。ですから、陛下は信頼する私とヒギリさん、そして皆さんだけにお願いしているんです」
「国家機密ってことかしら」
「そういうことになりますね」
(国家機密の国王様直々の依頼とかプレッシャーが物凄いだろそれ。やべえ、また胃が痛くなってきた……)
第三契約のセロウズさんとレベッカさんに頼むならまだわかる。
二人は実力もあるし、冒険者としての経験だって豊富だ。
だが俺とアキレアはまだまだ新人……いや、新人なのは俺だけなのだが、ちゃんと目的を果たせる自信はあまりない。
「北となると……私達は玄武の国、ウィントハーレンに向かうということで宜しいですか?」
「おう。俺達は朱雀のサマディーゾ方面から捜すぜ」
「じゃあ、どちらかがヘリオトロープ様を発見した場合、彼女を保護してどこかで落ち合いましょ。そこで合流してからヘリオトロープ様をスプラエンにお送りすれば良いわよね?」
「わかったネ!」
俺の知らない国名だ。当たり前なのだが。
広い大陸で、国をまたいで一人の女の子を捜し出すのはかなり難度が高い。本当に見付けられるのだろうか。
(彼女が魔物に襲われて命を落とすという、最悪なフラグだけは立たないけどさ)
「じゃ、またお別れだな」
「また寂しくなるアル~……」
「近況報告はギルドの通信装置で出来ますから、彼女を保護してから合流場所を決めましょう」
「そうしまょ」
「二人共、怪我とか病気には気をつけて」
「お前の方こそ気をつけてけよ」
俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でるセロウズさん。
(何か、こうされると落ち着くな。安心するっていうか、元気が出て来るような感じがする)
セロウズさんは俺より年上だし、頼れる兄貴が出来たような気がする。
ちなみに、俺の本当の兄貴はこんなに優しくない。唯我独尊というか、傍若無人な人なのだ。
こうして俺達は北と南に別れてヘリオトロープ様を捜すためにイーサルを出た。
俺とアキレアとアジュガは北へ続く街道を歩いていく。
しかし、ウィントハーレンという国へ向かう道の途中には、かなり大きな障害がある。
「イーサルから北へ進むとなると、スプラエンとウィントハーレンの戦場を回避して進まなくてはなりませんね」
「今は国境付近で両国が睨み合っている状況だったかしら。またいつ戦いが再開されるかわからないわね」
「あんな平和そうな国が戦争の真っ最中だなんて嘘みたいなのにな……」
「残念だけど、それが現実よ」
イーサルは花と人に溢れた華やかな街だった。
シンフォリカルポス様だって、青竜の国の立派な王様だと思う。
だが、あの国は隣の国と戦争してる。魔物や邪神に生活を脅かされて、そこに追い討ちをかけるように人間同士で争っている世界。
元の世界にだって戦争はあるけれど、平成の時代に生まれた俺はテレビや学校ぐらいでしか戦争のことを知る機会はあまりない。
魔法や不思議な動植物に溢れたこの夢のような世界ですら、こうして争いが起こっている。
「なあ、どうしてスプラエンは戦争をしてるんだ? 国王様は戦争をしたそうな人には見えなかったけど……」
「スプラエンとウィントハーレンの戦争は、今に始まったことではありません。我が国は豊かな大地と穏やかな天候に恵まれています。ですから、家畜や作物もよく育ちます」
「だけど、玄武は全く違うわ。一年中雪に包まれた厳しい環境で、食料が満足に作れないの。貧しい国民は飢餓に苦しめられているのよ」
「だからウィントハーレンはスプラエンに戦争を仕掛けた……!」
「そうよ。この侵略戦争はシンフォリカルポス様が王位につかれる前から続いているわ」
殺戮や金銭を目的とした戦争というわけじゃなかったのか。
それにやはりシンフォリカルポス様は悪くなかった。ウィントハーレンの侵攻から国を守るために戦っていたのだ。
「そんな状態が何年も続いてるんだったら、人を捜しに行く余裕なんて無くて当然だな」
「ええ……満足に彼女を捜せなかった自分が情け無いです」
「国境付近に駐在している青竜軍から報告が無いのなら、ヘリオトロープ様は戦場の近くには居ないんでしょうね」
「ええ。ですから戦場での争いに巻き込まれないルートでウィントハーレンへ向かおうと思います」
ふと立ち止まったアジュガは、空に向かって首にかけていた小さな笛を吹き鳴らした。
その音色はそよ風に乗って消えていった。




