NCO-217-JP付属補遺資料
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NCO-217-JP付属補遺資料
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【補遺217-JP-01――初期収容方針の撤回】
NCO-217-JPの発見当初、NCO-217-JP-Bは感染者へ継続的な精神的・身体的苦痛を与える敵性夢界存在と判断されていました。
MDEは、感染者の治療を目的として、認識切断装置を使用したNCO-217-JP-B排除実験を実施しました。
実験対象となった感染者第八例、北村亮介の夢には、交通事故で死亡した父親の姿をしたNCO-217-JP-Bが出現していました。
NCO-217-JP-Bは認識切断装置によって完全に消去されました。
消去直前、NCO-217-JP-Bは以下の発言を残しました。
「扉が開く」
「亮介を起こせ」
「お前たちでは遅い」
「もう、食べている」
NCO-217-JP-B消去後、北村亮介は白い部屋へ移行し、NCO-217-JP-Cと接触しました。
救助のため夢界へ潜入していた伊吹崇観測員も同様にNCO-217-JP-Cと接触し、両名は覚醒不能となりました。
北村亮介および伊吹崇の肉体は、現在もサイト83医療区画で生命維持されています。
実験から六日後、別の感染者の夢に、伊吹崇観測員の姿をした新たなNCO-217-JP-Bが出現しました。
当該存在は伊吹観測員の記憶、口調および夢界潜入技術の一部を保持していました。
三枝玲子観測員が夢界内で「ナイトメアになったのか」と尋ねた際、当該NCO-217-JP-Bは以下のように回答しています。
「違う」
「では、今のあなたは何?」
「役割になった」
以上の結果から、NCO-217-JP-Bの少なくとも一部は、NCO-217-JP-Cへ接触した人間の残存意識から形成されていると判断されました。
NCO-217-JP-Bは感染者を捕食しているのではありません。
感染者を恐怖によって覚醒させるため、自ら捕食者に見える姿を取っています。
本実験以降、以下の行為は全面的に禁止されています。
一、NCO-217-JP-Bへの攻撃。
二、NCO-217-JP-Bの拘束。
三、認識切断または記憶処理による排除。
四、感染者とNCO-217-JP-Bの接触阻止。
五、薬剤または異常技術を用いた悪夢の完全消去。
NCO-217-JP-Bを排除した場合、感染者がNCO-217-JP-Cへ到達するだけでなく、感染者を介して複数の人間の夢が接続される危険があります。
【補遺217-JP-02――感染者向け覚醒規則】
事案217-JP-04以降、すべての感染者へ以下の文書が配布されています。
〈感染者向け文書〉
あなたが夢の中で恐ろしいものに追われた場合、以下の規則を守ってください。
一、逃げてください。
二、下へ向かってはいけません。
三、白い扉を開けてはいけません。
四、死亡した家族、友人または信頼する人物から呼ばれても、近づいてはいけません。
五、「もう怖がらなくていい」という言葉を信用してはいけません。
六、追跡してくる怪物へ反撃してはいけません。
七、怪物に捕まった場合、抵抗せず目を閉じてください。
八、夢の中で負った痛みは、あなたを覚醒させるためのものです。
九、怪物が現れなかった場合、夢の奥へ進んではいけません。
十、目を覚ました後、自分の名前、現在地、日付および大切な人物の名前を確認してください。
悪夢を見たということは、まだ夢から戻る道が残されているということです。
悪夢を怖いと感じた場合、直ちに担当職員へ報告してください。
悪夢を怖いと感じなくなった場合は、さらに速やかに報告してください。
感染者へ本書を渡す職員は、NCO-217-JP-Bを「味方」「守護者」「善性存在」と説明してはなりません。
感染者がNCO-217-JP-Bを信頼した場合、恐怖反応が低下し、強制覚醒効果が失われる可能性があります。
【補遺217-JP-03――関連異常製品】
夜凪睡眠医療センターから、子供向け睡眠導入製品『ぐっすり!おやすみドリームシアター』が回収されました。
製品外装には、要注意団体「わくわく博士」の意匠が使用されています。
製造元、販売経路、寄付者および製造番号は確認できません。
当該製品はNCO-217-JP感染拡大の原因とは判断されていません。
しかし、初期集団昏睡事件および事案217-JP-04の発生直前、通常の収録内容に存在しない発言を行いました。
初期集団昏睡事件時:
「今日は眠っちゃだめだよ」
「夢の奥のお友達は、まだ起きてないからね」
「悪い夢は怖いよね。でも、怖い夢にもお仕事があるんだよ」
「夢を残さず食べると、お腹を壊しちゃうからね」
事案217-JP-04発生時:
「起こして」
「みんなを起こして」
「夢が、一つになっちゃう」
当該製品がNCO-217-JP、NCO-217-JP-Cまたは後述する未分類夢界摂食現象を、どのように認識したかは不明です。
要注意団体「わくわく博士」が、NCO-217-JPに類似する夢界異常を以前から把握していた可能性を含め、調査が継続されています。
【補遺217-JP-04――世界睡眠同調事案】
事案名称:NEAR-NIGHTFALL
関連終焉シナリオ:Ω級夢界侵食シナリオ「永眠夜」
事案発生日時:20██年██月██日
午後十一時四十八分、感染者第十二例・藤崎奈緒が管理下で睡眠へ移行しました。
藤崎奈緒を追跡していたNCO-217-JP-Bには、直前の観測で複数の身体欠損が確認されていました。
欠損は外傷ではなく、NCO-217-JP-Bを構成する夢界情報そのものが失われた結果と推定されています。
同日午後十一時五十分、藤崎奈緒が夢の中で白い扉を開放。
サイト83に収容されていた感染者十七名が同時にレム睡眠へ移行しました。
午後十一時五十二分、日本国内で異常睡眠が拡大。
午後十一時五十四分、世界各地で同様の現象を確認。
午後十一時五十八分、世界人口の推定十二・七%が異常睡眠状態へ移行。
午前零時一分、二十一・四%。
午前零時四分、三十三・一%。
午前零時六分十八秒、四十一・八%。
異常睡眠者は、全員が白い部屋と扉を夢に見ていました。
扉の向こうからは、対象者が最も信頼している人物の声が聞こえました。
扉を開いた人物は現実空間から消失し、周囲の人間および記録媒体から、当該人物に関する情報が失われ始めました。
夢界・現実境界値の解析により、世界人口の五十一%以上が白い部屋を同時認識した場合、覚醒と睡眠の区別が不可逆的に消失すると判明しました。
同状態では肉体の死亡後も夢が終了せず、全人類の意識がNCO-217-JP-Cの内部へ固定されると予測されました。
事案中に記録された最大異常睡眠率は、推定五十・八四%です。
Ω級夢界侵食シナリオ成立条件まで、残り〇・一六ポイントでした。
【補遺217-JP-05――NCO-076-KRとの接触】
事案217-JP-04発生中、大韓民国では多数の国民が同時に睡眠状態へ移行し、行政、医療、交通、通信および軍事機能が停止しました。
これを国家的危機と認識したNCO-076-KR-B『国家非常用機構』の実体化率は、五十二%から七十九%まで急上昇しました。
NCO-076-KR-Bは敵性対象の選定を行わず、右腕を夢界領域へ接続しました。
NCO-217-JP-A内において、巨大な金属製の手が複数の白い扉を押さえ、人間を扉から遠ざける様子が確認されています。
NCO-076-KR-Bとサイト76間の通信記録を以下に抜粋します。
サイト76:
「睡眠者を敵性対象と判定しないでください」
NCO-076-KR-B:
「了解」
サイト76:
「扉を破壊しないでください」
NCO-076-KR-B:
「了解」
サイト76:
「人間だけを引き戻せますか」
NCO-076-KR-B:
「試行する」
NCO-217-JP-C:
「この中にいる何人が、あなたの国民ですか」
NCO-076-KR-B:
「全員を救助対象として仮登録」
接続から二十九秒後、NCO-076-KR-Bを介してNCO-217-JP-Cが韓国国民の集合意識へ侵入する危険が発生しました。
議事堂地下に出現した整備要員の判断により、夢界接続は強制的に切断されています。
接続終了直前、整備要員の一名は、夢界内にいた三枝玲子観測員へ以下の発言を行いました。
「二十九秒間、扉を維持した」
「残りは、ここにいる者たちの担当です」
NCO-217-JPとNCO-076-KRが同一の集合精神領域へ接続している可能性について、共同研究が開始されています。
【補遺217-JP-06――MORNING BELL】
午前零時七分十九秒、MDE統括管理局は世界睡眠分断手順MORNING BELLを承認しました。
手順の中核には、東雲重工業株式会社の放棄施設から回収された「深層意識位相接続機・試作四型」が使用されました。
同装置は本来、最大百二十八名の意識接続を想定していました。
MORNING BELL発動時の推定接続対象者数は、三十四億名以上です。
解除コードの取得には、東雲重工業未登録規格調査室の真壁征司主任が協力しました。
装置起動時、以下の警告が表示されています。
「警告。本製品は大規模起床用途を想定しておりません」
MORNING BELLは、接続者一人一人の記憶から最大恐怖反応を持つ情報を抽出し、夢界内に一時的な追跡存在として再構成しました。
これにより、世界各地で推定二十三億体以上の一時的NCO-217-JP-Bが形成されました。
形成された存在は、睡眠者を追跡、威嚇、攻撃または捕獲し、白い扉から遠ざけました。
午前零時十一分までに、推定二十三億名が強い恐怖とともに覚醒。
午前零時十三分、白い扉の新規出現が停止。
午前零時十四分三秒、夢界・現実境界値が安定域へ復帰しました。
Ω級夢界侵食シナリオ成立予測時刻まで、残り三分五十七秒でした。
深層意識位相接続機は、夢界情報の逆流によって制御不能となりました。
久世冬馬主任研究員が中心接続部を物理的に破壊したため、現存していません。
東雲重工業は、装置破壊に対する補償をMDEへ要求しています。
当該要求は保留されています。
【補遺217-JP-07――未分類夢界摂食現象】
事案217-JP-04終了後、MORNING BELLによって生成された夢界情報の約〇・七%が原因不明のまま消失していることが判明しました。
欠損はランダムに発生していません。
一つの巨大な存在が、共有夢界の外周を横切ったような軌跡を形成しています。
欠損範囲の外周から、上下に並ぶ規則的な半円構造が検出されました。
当該構造を現実空間の距離へ換算した場合、推定直径は約三千八百キロメートルです。
形状は、人間または大型動物の歯形に類似しています。
夢界解析部門は当初、この現象をNCO-217-JP-Cによる夢界侵食と判断しました。
しかし、以下の理由により、現在はNCO-217-JP-Cとは別の存在による摂食現象である可能性が検討されています。
一、NCO-217-JP-C自身が欠損範囲から逃走していた。
二、NCO-217-JP-Cが「外側を見てはいけない」「我々も食べられる」と発言した。
三、NCO-217-JP-BがNCO-217-JP-Cとの接触だけでなく、夢同士の接続そのものを阻止しようとしていた。
四、NCO-217-JP-Bの身体が、NCO-217-JP-Cとの接触以前から段階的に欠損していた。
五、夢界情報の欠損部には、汚染、改変または破壊の痕跡が存在しない。
六、初期感染者の睡眠記録から消失していた十三分間にも、同様の微小な摂食痕が確認された。
三枝玲子観測員は、夢界内で伊吹崇の姿をしたNCO-217-JP-Bから以下の警告を受けています。
「白い部屋が夢を見る」
「あれが、私たちを見る」
「名前をつけるな」
「名前は形になる」
「形は見つかる」
「もっと大きなものが食べに来る」
久世冬馬主任研究員の判断により、当該現象を引き起こした存在には正式名称、登録番号および視覚的形態を与えない方針が採用されています。
当該存在について考察、描画または命名する研究は、夢界研究部門管理官の許可を必要とします。
【補遺217-JP-08――事案後一斉発言】
事案217-JP-04から七日後、感染者十七名は厳重な管理下で個別に睡眠へ入りました。
感染者同士の夢界接続は確認されませんでした。
全感染者の夢にNCO-217-JP-Bが出現し、通常どおり感染者を追跡、捕獲および覚醒させました。
覚醒直前、十七体のNCO-217-JP-Bは同時に追跡を停止しました。
NCO-217-JP-Bは感染者ではなく、夢のさらに深い方向を確認した後、異なる声で同じ言葉を発しました。
「次は、扉を使わない」
発言者がNCO-217-JP-B、NCO-217-JP-Cまたは未分類夢界摂食存在のいずれであるかは判明していません。
【久世冬馬主任研究員・追記】
NCO-217-JP-Bを善性存在として扱ってはならない。
彼らが我々を守っていると断定することもできない。
しかし、少なくともあの夜、彼らは人間を白い扉から遠ざけた。
自分たちが食べられている最中も、最後まで走り続けた。
彼らへ感謝する必要はない。
崇拝する必要も、信頼する必要もない。
むしろ、信頼してはいけない。
彼らは恐れられなければ、感染者を起こせない。
だから、夢の中で彼らに会ったら逃げてほしい。
名前を呼ばれても振り返らず、可能な限り全力で。
捕まったら、抵抗せずに目を閉じてほしい。
目を開けたとき、どれほど恐ろしい夢だったか報告してほしい。
我々は、その恐怖が十分に機能しているかを確認する。
残酷な管理手順だと思う。
私もそう思う。
それでも現在、我々が確実に朝へ戻れる道は、それしか残されていない。
【補遺終了】
次回予告
NCO-239-JP
正式名称:
『わくわく博士のぐっすり!おやすみドリームシアター』
11月7日21時投稿予定




