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異常世界の歩き方 MDE(国際異常研究機構)  作者: 神代千早


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85/85

NCO-217-JP付属補遺資料

毎日21時投稿

金土日18時、21時、2本投稿予定

この章は10分ぐらいで読めます


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NCO-217-JP付属補遺資料

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【補遺217-JP-01――初期収容方針の撤回】


NCO-217-JPの発見当初、NCO-217-JP-Bは感染者へ継続的な精神的・身体的苦痛を与える敵性夢界存在と判断されていました。


MDEは、感染者の治療を目的として、認識切断装置を使用したNCO-217-JP-B排除実験を実施しました。


実験対象となった感染者第八例、北村亮介の夢には、交通事故で死亡した父親の姿をしたNCO-217-JP-Bが出現していました。


NCO-217-JP-Bは認識切断装置によって完全に消去されました。


消去直前、NCO-217-JP-Bは以下の発言を残しました。


「扉が開く」


「亮介を起こせ」


「お前たちでは遅い」


「もう、食べている」


NCO-217-JP-B消去後、北村亮介は白い部屋へ移行し、NCO-217-JP-Cと接触しました。


救助のため夢界へ潜入していた伊吹崇観測員も同様にNCO-217-JP-Cと接触し、両名は覚醒不能となりました。


北村亮介および伊吹崇の肉体は、現在もサイト83医療区画で生命維持されています。


実験から六日後、別の感染者の夢に、伊吹崇観測員の姿をした新たなNCO-217-JP-Bが出現しました。


当該存在は伊吹観測員の記憶、口調および夢界潜入技術の一部を保持していました。


三枝玲子観測員が夢界内で「ナイトメアになったのか」と尋ねた際、当該NCO-217-JP-Bは以下のように回答しています。


「違う」


「では、今のあなたは何?」


「役割になった」


以上の結果から、NCO-217-JP-Bの少なくとも一部は、NCO-217-JP-Cへ接触した人間の残存意識から形成されていると判断されました。


NCO-217-JP-Bは感染者を捕食しているのではありません。


感染者を恐怖によって覚醒させるため、自ら捕食者に見える姿を取っています。


本実験以降、以下の行為は全面的に禁止されています。


一、NCO-217-JP-Bへの攻撃。


二、NCO-217-JP-Bの拘束。


三、認識切断または記憶処理による排除。


四、感染者とNCO-217-JP-Bの接触阻止。


五、薬剤または異常技術を用いた悪夢の完全消去。


NCO-217-JP-Bを排除した場合、感染者がNCO-217-JP-Cへ到達するだけでなく、感染者を介して複数の人間の夢が接続される危険があります。



【補遺217-JP-02――感染者向け覚醒規則】


事案217-JP-04以降、すべての感染者へ以下の文書が配布されています。



〈感染者向け文書〉


あなたが夢の中で恐ろしいものに追われた場合、以下の規則を守ってください。


一、逃げてください。


二、下へ向かってはいけません。


三、白い扉を開けてはいけません。


四、死亡した家族、友人または信頼する人物から呼ばれても、近づいてはいけません。


五、「もう怖がらなくていい」という言葉を信用してはいけません。


六、追跡してくる怪物へ反撃してはいけません。


七、怪物に捕まった場合、抵抗せず目を閉じてください。


八、夢の中で負った痛みは、あなたを覚醒させるためのものです。


九、怪物が現れなかった場合、夢の奥へ進んではいけません。


十、目を覚ました後、自分の名前、現在地、日付および大切な人物の名前を確認してください。


悪夢を見たということは、まだ夢から戻る道が残されているということです。


悪夢を怖いと感じた場合、直ちに担当職員へ報告してください。


悪夢を怖いと感じなくなった場合は、さらに速やかに報告してください。



感染者へ本書を渡す職員は、NCO-217-JP-Bを「味方」「守護者」「善性存在」と説明してはなりません。


感染者がNCO-217-JP-Bを信頼した場合、恐怖反応が低下し、強制覚醒効果が失われる可能性があります。



【補遺217-JP-03――関連異常製品】


夜凪睡眠医療センターから、子供向け睡眠導入製品『ぐっすり!おやすみドリームシアター』が回収されました。


製品外装には、要注意団体「わくわく博士」の意匠が使用されています。


製造元、販売経路、寄付者および製造番号は確認できません。


当該製品はNCO-217-JP感染拡大の原因とは判断されていません。


しかし、初期集団昏睡事件および事案217-JP-04の発生直前、通常の収録内容に存在しない発言を行いました。


初期集団昏睡事件時:


「今日は眠っちゃだめだよ」


「夢の奥のお友達は、まだ起きてないからね」


「悪い夢は怖いよね。でも、怖い夢にもお仕事があるんだよ」


「夢を残さず食べると、お腹を壊しちゃうからね」


事案217-JP-04発生時:


「起こして」


「みんなを起こして」


「夢が、一つになっちゃう」


当該製品がNCO-217-JP、NCO-217-JP-Cまたは後述する未分類夢界摂食現象を、どのように認識したかは不明です。


要注意団体「わくわく博士」が、NCO-217-JPに類似する夢界異常を以前から把握していた可能性を含め、調査が継続されています。



【補遺217-JP-04――世界睡眠同調事案】


事案名称:NEAR-NIGHTFALL


関連終焉シナリオ:Ω級夢界侵食シナリオ「永眠夜」


事案発生日時:20██年██月██日



午後十一時四十八分、感染者第十二例・藤崎奈緒が管理下で睡眠へ移行しました。


藤崎奈緒を追跡していたNCO-217-JP-Bには、直前の観測で複数の身体欠損が確認されていました。


欠損は外傷ではなく、NCO-217-JP-Bを構成する夢界情報そのものが失われた結果と推定されています。


同日午後十一時五十分、藤崎奈緒が夢の中で白い扉を開放。


サイト83に収容されていた感染者十七名が同時にレム睡眠へ移行しました。


午後十一時五十二分、日本国内で異常睡眠が拡大。


午後十一時五十四分、世界各地で同様の現象を確認。


午後十一時五十八分、世界人口の推定十二・七%が異常睡眠状態へ移行。


午前零時一分、二十一・四%。


午前零時四分、三十三・一%。


午前零時六分十八秒、四十一・八%。


異常睡眠者は、全員が白い部屋と扉を夢に見ていました。


扉の向こうからは、対象者が最も信頼している人物の声が聞こえました。


扉を開いた人物は現実空間から消失し、周囲の人間および記録媒体から、当該人物に関する情報が失われ始めました。


夢界・現実境界値の解析により、世界人口の五十一%以上が白い部屋を同時認識した場合、覚醒と睡眠の区別が不可逆的に消失すると判明しました。


同状態では肉体の死亡後も夢が終了せず、全人類の意識がNCO-217-JP-Cの内部へ固定されると予測されました。


事案中に記録された最大異常睡眠率は、推定五十・八四%です。


Ω級夢界侵食シナリオ成立条件まで、残り〇・一六ポイントでした。



【補遺217-JP-05――NCO-076-KRとの接触】


事案217-JP-04発生中、大韓民国では多数の国民が同時に睡眠状態へ移行し、行政、医療、交通、通信および軍事機能が停止しました。


これを国家的危機と認識したNCO-076-KR-B『国家非常用機構』の実体化率は、五十二%から七十九%まで急上昇しました。


NCO-076-KR-Bは敵性対象の選定を行わず、右腕を夢界領域へ接続しました。


NCO-217-JP-A内において、巨大な金属製の手が複数の白い扉を押さえ、人間を扉から遠ざける様子が確認されています。


NCO-076-KR-Bとサイト76間の通信記録を以下に抜粋します。


サイト76:

「睡眠者を敵性対象と判定しないでください」


NCO-076-KR-B:

「了解」


サイト76:

「扉を破壊しないでください」


NCO-076-KR-B:

「了解」


サイト76:

「人間だけを引き戻せますか」


NCO-076-KR-B:

「試行する」


NCO-217-JP-C:

「この中にいる何人が、あなたの国民ですか」


NCO-076-KR-B:

「全員を救助対象として仮登録」


接続から二十九秒後、NCO-076-KR-Bを介してNCO-217-JP-Cが韓国国民の集合意識へ侵入する危険が発生しました。


議事堂地下に出現した整備要員の判断により、夢界接続は強制的に切断されています。


接続終了直前、整備要員の一名は、夢界内にいた三枝玲子観測員へ以下の発言を行いました。


「二十九秒間、扉を維持した」


「残りは、ここにいる者たちの担当です」


NCO-217-JPとNCO-076-KRが同一の集合精神領域へ接続している可能性について、共同研究が開始されています。



【補遺217-JP-06――MORNING BELL】


午前零時七分十九秒、MDE統括管理局は世界睡眠分断手順MORNING BELLを承認しました。


手順の中核には、東雲重工業株式会社の放棄施設から回収された「深層意識位相接続機・試作四型」が使用されました。


同装置は本来、最大百二十八名の意識接続を想定していました。


MORNING BELL発動時の推定接続対象者数は、三十四億名以上です。


解除コードの取得には、東雲重工業未登録規格調査室の真壁征司主任が協力しました。


装置起動時、以下の警告が表示されています。


「警告。本製品は大規模起床用途を想定しておりません」


MORNING BELLは、接続者一人一人の記憶から最大恐怖反応を持つ情報を抽出し、夢界内に一時的な追跡存在として再構成しました。


これにより、世界各地で推定二十三億体以上の一時的NCO-217-JP-Bが形成されました。


形成された存在は、睡眠者を追跡、威嚇、攻撃または捕獲し、白い扉から遠ざけました。


午前零時十一分までに、推定二十三億名が強い恐怖とともに覚醒。


午前零時十三分、白い扉の新規出現が停止。


午前零時十四分三秒、夢界・現実境界値が安定域へ復帰しました。


Ω級夢界侵食シナリオ成立予測時刻まで、残り三分五十七秒でした。


深層意識位相接続機は、夢界情報の逆流によって制御不能となりました。


久世冬馬主任研究員が中心接続部を物理的に破壊したため、現存していません。


東雲重工業は、装置破壊に対する補償をMDEへ要求しています。


当該要求は保留されています。



【補遺217-JP-07――未分類夢界摂食現象】


事案217-JP-04終了後、MORNING BELLによって生成された夢界情報の約〇・七%が原因不明のまま消失していることが判明しました。


欠損はランダムに発生していません。


一つの巨大な存在が、共有夢界の外周を横切ったような軌跡を形成しています。


欠損範囲の外周から、上下に並ぶ規則的な半円構造が検出されました。


当該構造を現実空間の距離へ換算した場合、推定直径は約三千八百キロメートルです。


形状は、人間または大型動物の歯形に類似しています。


夢界解析部門は当初、この現象をNCO-217-JP-Cによる夢界侵食と判断しました。


しかし、以下の理由により、現在はNCO-217-JP-Cとは別の存在による摂食現象である可能性が検討されています。


一、NCO-217-JP-C自身が欠損範囲から逃走していた。


二、NCO-217-JP-Cが「外側を見てはいけない」「我々も食べられる」と発言した。


三、NCO-217-JP-BがNCO-217-JP-Cとの接触だけでなく、夢同士の接続そのものを阻止しようとしていた。


四、NCO-217-JP-Bの身体が、NCO-217-JP-Cとの接触以前から段階的に欠損していた。


五、夢界情報の欠損部には、汚染、改変または破壊の痕跡が存在しない。


六、初期感染者の睡眠記録から消失していた十三分間にも、同様の微小な摂食痕が確認された。


三枝玲子観測員は、夢界内で伊吹崇の姿をしたNCO-217-JP-Bから以下の警告を受けています。


「白い部屋が夢を見る」


「あれが、私たちを見る」


「名前をつけるな」


「名前は形になる」


「形は見つかる」


「もっと大きなものが食べに来る」


久世冬馬主任研究員の判断により、当該現象を引き起こした存在には正式名称、登録番号および視覚的形態を与えない方針が採用されています。


当該存在について考察、描画または命名する研究は、夢界研究部門管理官の許可を必要とします。



【補遺217-JP-08――事案後一斉発言】


事案217-JP-04から七日後、感染者十七名は厳重な管理下で個別に睡眠へ入りました。


感染者同士の夢界接続は確認されませんでした。


全感染者の夢にNCO-217-JP-Bが出現し、通常どおり感染者を追跡、捕獲および覚醒させました。


覚醒直前、十七体のNCO-217-JP-Bは同時に追跡を停止しました。


NCO-217-JP-Bは感染者ではなく、夢のさらに深い方向を確認した後、異なる声で同じ言葉を発しました。


「次は、扉を使わない」


発言者がNCO-217-JP-B、NCO-217-JP-Cまたは未分類夢界摂食存在のいずれであるかは判明していません。



【久世冬馬主任研究員・追記】


NCO-217-JP-Bを善性存在として扱ってはならない。


彼らが我々を守っていると断定することもできない。


しかし、少なくともあの夜、彼らは人間を白い扉から遠ざけた。


自分たちが食べられている最中も、最後まで走り続けた。


彼らへ感謝する必要はない。


崇拝する必要も、信頼する必要もない。


むしろ、信頼してはいけない。


彼らは恐れられなければ、感染者を起こせない。


だから、夢の中で彼らに会ったら逃げてほしい。


名前を呼ばれても振り返らず、可能な限り全力で。


捕まったら、抵抗せずに目を閉じてほしい。


目を開けたとき、どれほど恐ろしい夢だったか報告してほしい。


我々は、その恐怖が十分に機能しているかを確認する。


残酷な管理手順だと思う。


私もそう思う。


それでも現在、我々が確実に朝へ戻れる道は、それしか残されていない。



【補遺終了】

次回予告


NCO-239-JP


正式名称:

『わくわく博士のぐっすり!おやすみドリームシアター』


11月7日21時投稿予定

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