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エピローグ

 スティレオとの激闘から一夜明けた翌朝。

 いつになく、リンリンの目覚めは早かった。

 自宅兼飲食屋として営んでいる〈鈴々亭〉は瓦礫と化し、昨日は〈冒極〉支部の一室を借りて夜を明かしていた。

 だが日の出と同時に、彼女はもう瓦礫の山へと足を運んでいる。割れた食器や壊れた什器の中から、まだ使える包丁や鍋を掘り出すと、ためらいなく炊き出しの準備を始めたのだ。

 戦いの余波で家や家族を失った者は少なくない。ならばせめて、温かい食事で元気づけたい――その思いから、リンリンは支部に保管されていた食材を使い、大鍋で朝食を振る舞うことにした。

 彼女の看板料理、”餡掛け炒飯”が次々と出来上がっていく。香ばしい匂いが風に乗り、やがて周囲の人々の鼻をくすぐった。

 香りは周囲へと伝播していき、匂いに釣られた民衆が次々と集まり始める。

 復興の只中にあって、こんなサプライズは心の灯火となる。

 ――私にも一皿!

 ――俺も頼む!

 列をなす声に応えるように、リンリンは息つく暇もなく鍋を振り続けた。


「俺もお腹空いたんだけど」

「わたしも」

「お前らはこっち側ネ! さっさと手伝うアル!」


 民衆の波に紛れて姿を見せたのは、昨日の激闘を共にした二人だった。

 ()()()()の身体を引っ提げて現れたディライトと、まだ眠気の残る眼をしながらも、食への欲だけは衰えを見せないサミアである。

 炊き出しに追われるリンリンの姿を目にすると、二人は顔を見合わせた。

 「えー……」と不満げに声を漏らしつつも、結局はしぶしぶ手を貸すことになる。

 やがてディライトは洗い場に回され、皿や椀を次々と片づけていく。雑務を難なくこなす様子に、鍋を振りながらリンリンが声を掛けた。


グレッグ(【黒喰ノ銃】)はどこネ」

「置いてきた。うるさいから」

「あー……ネ」


 普段は首に掛けているネックレスがないのを見たリンリンだったが、ディライトが語った内容に納得の表情を浮かべる。

 そして、スポンジを握り、泡が付いたディライトの左腕に目がいった。

 

「もう腕は良さそうアルな」

「ばっちり。リンリンも問題なさそうだね」

「効果覿面ヨ……何て言ったアルか」

「【変幻自在の雫カメレオン・ポーション】ね」


 ディライトの左腕が再生したのも、リンリンの容態が安定しているのも――すべては【変幻自在の雫】の力によるものだった。

 身体の欠損すら癒すほどの回復を与える秘薬を想像しながら、ディライトは〈冒極〉の敷地にある小さな池へと【変幻自在の雫】を垂らした。

 その瞬間、ただの澄んだ水が揺らぎ、やがて彼の知るどの薬剤よりも高位の効果を宿す液体へと変貌を遂げる。

 もはやそれは、最上位の【回復の小瓶(ライフ・ポーション)】と呼んでも差し支えない代物だった。

 さすがに一滴だけでは、そこまでの奇跡は生まれなかったが――それでもなお、【変幻自在の雫】は半分以上も残っている。


「依頼の品ヨ。勝手に使っていいアル?」

「バレなきゃ大丈夫でしょ」

「……ま、言わないアル。むしろ、必要経費ネ」


 そう口にしたリンリンの視線は、炊き出しに集う人々へと向けられていた。

 食事にありつける喜びに顔を綻ばせる者もいれば、家族や住まいを失った悲嘆に沈む者、行き場のない怒りを押し殺す者もいる。表情は様々だが、不思議なほどに誰一人として大きな怪我を負ってはいなかった。

 もちろん中には、包帯を巻いたままの腕や、裂けた衣服を身に着けた者もいる。だがその下の肉体は、既に健康そのものへと戻っていたのだ。

 それは、ディライトが支部職員へ命じ、負傷者を池へと誘導させたからである。

 最初は半信半疑で水を口にした者たちだったが――その場でみるみる容態を快復させる光景を目にし、噂は瞬く間に広がった。

 夜が更けても池の前には人の列が途切れず、夜通しで癒やしを求める行列が続いた。

 肉体の痛みだけでも取り除くことができた――それは街を守る戦いに身を投じたリンリンにとって、何よりの救いであった。


「お嬢ちゃん、儂のも下げてくれんかの」

「ん」


 食べ終えた食器を回収していたサミアへと、老体から声が掛かった。

 深緑のフードを眼深に被り、素性の知れない人物ではあるが、きっと被災の影響を受けて、〈冒極〉へと避難してきているのだろう。サミアはそう結論付けて、特に不審がることもなく、空き皿を受け取った――受け取ろうとした。

 皺の入った手先が、差し出した皿を手放そうとしなかったのである。


「一つ問いたい。お主にとって――冒険とは何じゃ」

「ぼうけん……?」


 突拍子もないことを尋ねられたサミアは、眠そうな眼を瞬かせる。

 初対面でいきなり、何を言うのか――戸惑いを浮かべる他なかったが、老人の真剣な声色に、サミアは質問に答えることにした。

 冒険というものが未だよく理解できていない少女は、廃教会で教えられた言葉を思い出していた。


「冒険は……ごはん」

「ぶふぉッ――飯とな!?」


 予想打にしなかった返答に、老人は堪えきれず吹き出す。

 真面目に答えたにも関わらず、茶化した反応をされたことにサミアは納得がいかなかった。冒険をすれば、ご飯が食べれる。原理は定かではないが、ディライトから教わった言葉だ。冒険とは、飯種である。それ以上でも、それ以下でもないのだ。

 不機嫌さを隠そうともせず眉根を寄せていくサミアを見て、老人は皿から手を離して許しの声をあげた。


「……すまんすまん。おいディ! 中々面白い逸材を見つけよったの」

(じじい)!? 何でいんだよ」


 炊事場で忙しなくしていたディライトへと、老人は親しげに声を掛ける。

 顔をあげたディライトの視界には、フードを目深に被った老人の姿。顔は見えずとも、嗄れた声音、年齢に似つかわしくない偉丈夫、上等な素材が使われているであろう深緑のローブ。そのどれもに、ディライトは見覚えがあった。


「知り合いアル?」

「〈冒極〉の(マスター)その人」

「え!?」


 思わず鍋を振る手が止まる。

 冒険者ギルド長――バンギッシュ・テルヲ、この国〈エピック〉を動かす主要人物の内の一人だ。国中でその名を知らぬ者はいない、というよりは知らない方が恥ずかしい。それほどまでの知名度を誇る人物だ。

 街が壊滅するほどの事件に、国の上層部が駆けつけてくるだろうとは思っていたが、この一昼夜で既にいるとは予想だにしていなかった。そして、そんな重要人物へと罵詈雑言のごとく雑な言葉を浴びせるディライトの豪胆さに、リンリンは目を剥いた。


「儂がここにいることは内緒(オフレコ)でな。周りの目もあるしの」

「知るか。何で今なんだよ」


 フードを被ったままに近付くテルヲへと、ディライトは険しい目を向ける。

 ギルド長ほどの実力者が、昨晩に起きた戦闘の場にいれば、結末はきっと変わっていた。誰一人失わずに、事態を鎮圧していた可能性だってあった。

 そんな非難に満ちた眼差しが、組織の長へと向けられる。


「敵方の戦力を見誤ってしもた。儂の……儂の判断ミスじゃ」

「……チッ」

 

 悔しさを滲ませた溜息混じりの言葉に――テルヲが浮かべる悔恨に、ディライトはそれ以上何も追求することができなかった。

 ギルド長がいてくれれば、という思考は、あまりにも他者頼りなものだ。街が壊滅的な被害を負い、魔匠連番を取りこぼし、そして――ケインが死んだ。ディライトの、実力の高さゆえの驕りが、この結末を招いたのだから。

 舌打ちに込めた苛立ちは、テルヲに向けたものではなかった。


「〈翳哭(えいこく)〉と分かっていれば、儂自ら出向いとったんじゃがな」

「〈翳哭〉……闇ギルドの最大手じゃん」

「えいこくって?」

 

 重苦しい空気が続く中、給仕から戻ったサミアが疑問を呈した。

 ディライトとテルヲ、二人の視線がサミアへと注がれる中、その質問に答えたのは静かに調理を再開していた料理人だ。

 料理鍋へと調味料を追加しながら、眉をひそめたリンリンが口を開く。


「国からの承認を受けていない、不正規のギルドアル。人身売買、違法物品の取引、不法占拠……碌な噂は1つも聞かないとこヨ」

「……人身売買」

 

 サミアの声が、微かに震える。

 人の悪意と欲望を寄せ集め、煮詰めた末に形を成した――まさに国の病巣とも呼ぶべき組織が存在する。

 その現実に耳をぴくぴくと動かすサミアへと、テルヲの温かな言葉が投げ掛けられた。


「獣人の子よ、なんといったかの」

「サミア」

「サミア、安心せい。ディの傍におる限り身に危険が及ぶことは……あるかの?」

「あるね」

「え」


 励まそうとしていたギルド長の言葉は、逆にサミアの不安を助長させた。

 スティレオとの戦闘を覗いていたテルヲは、サミアが常軌を逸した力を持っていることを勿論知っている。その力が〈エピック〉を騒がしている魔匠連番の内の一つであるということも。

 訳知り顔で頷くテルヲへと、ディライトの視線が向く。


「何? 全部知ってんの?」

「支部長は、仕事を全うしたということじゃよ」


 通信を可能とする魔道具も世の中にはある。火急の状況にもかかわらず、ケインは魔道具を用いて文書をテルヲへと届けていた。

 魔匠連番を飲み込んだ獣人族の少女のこと、【互酬匣】の危険性、そして敵方の戦力が複数いる恐れ。万が一、〈冒極〉側が敗北する――そんな可能性をも考慮していたのだ。

 もし、ペルニット街の支部長がケインでなかったのであれば、被害は更に加速していたであろうことは言うに難くない。それほどまでに、テルヲはケインの優秀さを認めていた。


「さて……そろそろ行こうかの。本部から応援が来る手筈になっとる。そのうち来るじゃろうて」

「タダ飯食いに来ただけかよ」

 

 その場を後にしようとするテルヲへと、待ったの声をディライトが投げ掛けた。

 街は戦場と化し、住民は疲弊している。迅速な復興のためにも、醜鬼(ゴブリン)の手すら借りたい状況である。にもかかわらず、〈冒極〉の頂点に位置する存在が、住民の英気を養うために用意した飯だけ食べて立ち去ろうとしているのだ。

 自由を謡う冒険者の身ではあるが、同じ組織に属する者として、その驕りを看過することはできなかった。


「手伝いたい気持ちはあるんじゃが……火急の用件が入っての。すまんが――これで勘弁しとくれ」


 損害を被った街から手早く去ることを、テルヲ自身も申し訳ないと感じている。だが、復興よりも()()()対処しなければならない事案が入ったのだ。

 そんな罪悪感もあってか、テルヲはローブの袖口から奇妙な形状の物体を引き抜くと、炊事場の卓上へと置いた。

 その物体を認識した瞬間、ディライトの瞳が大きく開かれる。


「【互酬匣】……!」

「飯代には、十分じゃろ?」


 掌に載るほどの大きさの木箱――その上下の蓋には、現実さながらの手の彫刻が沿わされている。

 間違いない。スティレオが所持し猛威を振るった魔匠連番の一つ、そして謎の女に掻っ攫われた【互報匣】だ。

 借りを清算したかのような笑みを浮かべるテルヲに、釣られるようにディライトもまた口角を上げた。

 これは、この場にいる全員で掴み取った戦果である。

 当然、その立役者の中にはケインの名もある。

 そしてディライトの脳裏には――かつての邂逅が、静かに蘇っていた。



 

「休暇はまだ継続中ですかね」


 ペルニット街に来て一週間が経過する頃、ケインとの邂逅は〈鈴々亭〉であった。

 食事をとるディライトの横席に、ケインが腰を下ろす。


「おかげさまで満足に過ごせてるよ――って言いたいところだけど、この店昼にもう来ないわ。客多すぎ」

「有名店ですからね」


 辟易とした表情を浮かべるディライトに、ケインはくつくつと笑いが溢れた。

 カウンターテーブルに置かれたコップへと水を注ぎながら、その心中を吐露する。


「君がこの街に来てくれて、私結構嬉しいんですよ? 実はファンなもので」

「マジ?」


 唐突な支部長のカミングアウトに、ディライトが食事の手を止めて、黒眼鏡越しにケインの眼鏡を見る。

 ファンサービスでもすべきだろうか、そんなことを考えていたディライトだったが、ファンと名乗るわりには、隣に座る男の表情は冷静そのものだ。

 当事者自らが告げた少しの興奮も浮かべぬ理由に、彼は納得の表情を浮かべた。

  

「娘がね」

「あ、そっちね。サインいる?」

「一応ください」


 懐から取り出したペンで、受け取ったハンカチへと、自身の名前を記載していく。ランク4にまで上がるほどの武勇伝を持っていれば、街中でも声を掛けられることはそう少なくない。自由にインクが出せるという便利な魔道具型のペンは、いつしかディライトの必需品となっていた。

 貴重なファンを想って、丁寧なサインを描きながらディライトはケインへと口を開く。


「で。そろそろ出て行けって?」

「ランク5へと至るために、そう長く道草は食っていられないでしょう」


 ケインは、ランク4であるディライトがペルニット街に来訪したことに、喜びと同時に落胆せざるをえない気持ちが沸き上がっていた。

 魔導列車の駅があるとはいえ、都市と比べれば人口がそれほど多いわけではなく、迷宮といった未知の存在とも縁遠いこの地に、ランク4が留まり続けるというのはあまり喜ばしいことではない。


「未知を解明するほどの戦果には、早々出会わないでしょうが――まさかこの街に?」

「違う違う。ホントにただの休暇」


 手を軽く振り、ケインの推測を否定する。

 そのまま爪楊枝を口に運び、歯間を探り始めた。

 歯に挟まった異物の不快感――それは今のディライトにとって、冒険を続けることそのものに似ていた。


「ちょっとした意思表示だよ。冒険心がね――台無しにされちゃったからさ」

1つ目の巨人(サイクロプス)の群れを討伐した時の話ですね。確かにあれは凄まじい活躍でしたが、ランク5へと手が届くかと言われれば――」

「何年前の話してんだよ。それじゃない」


 ディライトがランク3から4へと昇格した折の活躍――その武勲を、ケインは口にした。だが、それは五年前の話だ。

 今、彼の胸を鬱屈させているものとは、まるで無関係だった。

 ディライトは言葉を継がない。ただ黙々と爪楊枝を口に運び、歯間を探り続けている。

 それ以上踏み込むな――そんな無言の拒絶を、ケインは痛いほど感じ取っていた。

 それでも、支部長として。そして――密かな一人のファンとして、告げねばならぬ言葉がある。


「もう十五年以上、ギルド全体でランク5へと昇格した者は出ていません。それはつまり、国が平和であったと同義もできますが……それでもやはり次の傑物がいつ出るか、皆期待するものです」


 未だ沈黙を返すディライトへと、構わずケインは言葉を続ける。

 

「私は、ディライト君だと思っています。巨人殺し(ジャイアントキリング)こそが、次のランク5だと」

「重すぎる期待だね」

「重りにするからですよ。背中を押す風と捉えてください」

「向かい風にならないといいけどね、っと」


 爪楊枝を塵紙で包み、空いた皿へと置いたディライトは、食事を済ませると席を立った。

 そのまま行こうとするディライトへ、ケインが粋な計らいをする。

 

「奢っておきます。追い風でしょう?」

「ハッ、確かに」

 

 ケインの気遣いに、ディライトは視線を向けない。

 ただ背越しに手をひらひらと振り、店を後にした。

 それが、礼の代わりだった。


 


「お疲れ、ケイン」

 

 ギルド長の来訪から2日後。

 町の郊外にある丘の上には、粗末ながらも整えられた共同墓地が広がっていた。石碑には、戦火に散った者たちの名が刻まれている。

 ディライトは立ち、サミアは墓前に跪く。彼らの視線の先には、廃教会で散った老人やケイン・ニールデンの名も刻まれていた。

 風が丘を渡り、乾いた土の匂いを運ぶ。サミアは唇を引き結び、祈りを捧げた。世話になった人々の魂が、少しでも安らげるように。

 ディライトは静かに目を閉じる。彼にとって祈りは習慣ではなかったが、それでも胸の奥に疼く痛みを言葉に変える術を持たないまま、ただ立ち尽くした。

 そんな中、サミアが口を開く。


「ディは何で冒険者になったの?」

「そうだな……ちょっと長くなるけど」

「短くがいい」

「未知、金、経験以上!」

「……短すぎる」


 サミアにとってそれは、ディライトを少しでも知るための何気ない問いかけに過ぎなかった。

 決して深い興味があったわけではないが、返ってきた答えがあまりに簡潔すぎて、彼女は思わず眉根を寄せる。

 小さく漏れた不満の声に応じたのは、ディライトの首元――ネックレスの姿をとったグレッグだ。


『成り行きよ、成り行きィ。未知の存在に首っ丈だったガキが、気づけばそのまま虜になったってだけの話よォ』

「グレッグの話はよく分からない」

『なッ、何だとォ!? オレサマが直々に語ってやってんだぞ、ありがたく聞きやがれェ!』


 更に分からなくなったと混乱するサミアに、ディライトがくつくつと笑った。


「簡単な話だよ。サミアは飯が好きだろ?」

「うん」

「俺は冒険が好き。その違いだよ」

「それだけ?」

「それだけ」


 サミアはふーんと相槌を打ちながら、尻尾を揺らした。

 なんとなく分かったような、まだ少し分からないような気持ちだった。

 その時、背後から軽やかな足音が近づく。振り返ると、リンリンが手を振りながら歩いてきた。


「二人とも、そろそろ行かないと列車が出ちゃうアル」

  

 リンリンはそう言って、わざとらしく大げさに両手を腰に当てた。

 サミアは少しだけ口元を緩め、頷く。ディライトも静かに墓へ一礼してから歩を進めた。


「リンリンは……これからどうする?」

 

 丘を下りる途中で、ディライトが尋ねる。

 リンリンは一瞬だけ空を見上げ、肩をすくめた。

 

「店壊れたし、この町にしがみついても仕方ないネ。もう少し落ち着いたら、私も出てくヨ……でも、今は残ってる人たちのために働くアル」


 その声はいつもの調子に聞こえるが、瞳の奥にある寂しさを、二人は見抜いていた。

 やがて駅舎の煙突が見えてくる。汽笛が遠くで鳴り、魔石の残光である青い煙が空へと昇っていた。

 サミアがディライトの隣に並び、歩調を合わせる。

 

「行き先は決まってる。散らばった魔匠連番(シリーズ)を集める――それが、この旅の目的だ」

「余裕」


 サミアは短く笑った。

 そうして辿り着いた構内では、魔導列車がすでに発進の準備を整えていた。繰り返される汽笛が、町に留まれる時間の終わりを告げている。

 

「急ぐアル!」


 リンリンの声に背を押され、ディライトとサミアは駆け出した。

 どうにか乗り込んだ直後、扉は閉まり、列車は動き出す。

 窓の外で、リンリンがいつまでも手を振り続けていた。

 やがて街並みは遠ざかり、丘の墓地も霞に溶けて小さな影となる。


 残された祈りと、失われた命。その重さを抱きながらも、二人は静かに前を向いた。

 胸の奥に残る痛みの向こうに、まだ見ぬ景色が広がっている。

 ――託された未来を手にするため、彼らの新たな旅は希望と共に始まっていくのだ。

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