第一章 突然の召喚
・・・・・・・・とこんな感じで今に至る。
お風呂場で思い出した出来事を、テーブルを挟んで対面の椅子に腰掛けるメリダに力強く語り尽くした。
「それは大変だったね。十中八九、お嬢ちゃんは召喚されたね」
私のあまりの勢いにメリダはちょっと苦笑いだ。
「あーぁ、やっぱりそうかぁ。ここどう考えても異世界ですよねぇ」
はぁと溜め息をつく。
「お嬢ちゃんから見たらここはきっと異世界だろうね」
「私を呼んだ奴、絶対にシメてやる」
メリダが出してくれた紅茶のマグカップを握る両手にギリギリと力を込めた。
「ククク、そうしてやればいいさ。所でお嬢ちゃんはどんな世界から来たんだい?」
「あ、日本です。日本分かります? こことは違って科学の発展した世界でビルって言う建物が沢山立ち並んでるんです・・・あー!!」
日本の説明をしていて再び気付く、私、まだ名乗ってないやと。
お風呂まで借りて紅茶とおやつまでご馳走になってるというのに、なんて事だ。
ガクッと首を項垂れた私にメリダが心配そうな視線をくれた。
「どうしたんだい?」
「すみません、お世話になったのに名乗ってなかったです。今更ですが、私は野口紫って言います。助けてくださってありがとうございます」
「のくちぇ、むらしき? 私は西の魔女メリダ。のくちぇは小さいのに礼儀正しいね」
あ、日本名は言葉にしにくいのかな。
普通に言葉が通じていたから、違和感なく名乗っちゃったけど。
メリダが申し訳なさそうに私を見ているのに気付いて私は再び口を開く。
「あ、あの、むらさき、のぐちです。えっと、言いにくいですよね」
「のくちぇは名字かい? むらしきと呼べばいいかね。私の事はメリダと呼んでおくれ」
笑みを浮かべたメリダ、やっぱり上手く発音できないみたいだよぉ。
むらさきって・・・えっとぉ、英語でバイオレットだったよね。
そう名乗った方が呼びやすいのかな。
「紫は言いにくいみたいなので、ヴァイオレットって呼んでください。私の世界は言語がいくつかあって、紫の別の言い方なんです」
「ヴァイオレット、良い名だね。ではヴィオって呼ぼうかね」
フフフと笑ったメリダに私も微笑んで頷いた。
ヴィオ・・・うん、なんかいい響き。




