姉妹と使徒と一つの結末
ちょっと長い
『この、お馬鹿さぁん!』
「本当に……無茶して!」
真っ先に駆けつけて、二人同時にみそぎちゃんを抱き締めたのはメリアリスさんとありすさん。
彼女らと入れ替わるようにみそぎちゃんを委ねた私はそこから少し離れ、同じように抱きつきに行った火影姉妹を見送り一息ついた。
四人に囲まれ泣かれ怒られて、あたふたとしているみそぎちゃんが私に助けを求める視線を向けているが、ここは我慢して貰おう。
両手でばってんを作って見せてあげると、絶望した表情になって四人の腕の中に沈んで行った。
あいるびーばっく。
「……お願いがある」
くい、と。
袖を引かれてそちらに目を向ける。
紫色の髪の、二本の黒い角を生やした女の子。
勢いのままに合流したから色々と不明なキサラちゃん。
身長はみそぎちゃんと同じくらいだし、恐らく年齢もそれくらいなのだろうか。
やけに長い横髪が特徴的で、レキシファーが言うにはアリシエルと同じく不死者らしい。
「お願い?」
「そう。きぃも、みーと同じにしてほしい。だめ?」
「……レキシファー?」
みー、というのは、みそぎちゃんの事だろう。
傍観者気取りの元骨に視線を向ける。
みそぎちゃんと同じにしてほしいと言うのは、私の眷属にして欲しいって事かな。
しかし、彼女の立ち位置と言うのが未だによくわかっていない現状、まずは説明して欲しいのだけれど。
『先程も言いましたが、キサラは不死者デス。つまるところ、何か強い想いを抱いたまま死んだか、死後も強い想いを抱き続けたままでいた獣人の魂ですネ』
アリシエルは前者、呪いを抱いて死んだ魂でしたと続けながら、白髪の山羊獣人の男が言う。
『キサラの場合は後者デス。殺された後も強い想いを抱いたまま、この世をさ迷っていた魂を私が保護していましタ。アリシエルは明確な強い意志があったのでその場で不死者にしたのデスが、この子は全く逆の思念でしたのデ、あの時には不死者にしませんでした』
「逆の?」
『ハイ。この子が持っていたのは護りたいという想いでしたのデ。不死者とするには、正の力が強すぎましたからネ。戦力にはならないと思いましたが、保護だけはしておいたのデスよ。ここは墓場ですからネ、魂が迷い込むとアンデッドになってしまいますシ』
レキシファーがこんこんと杖で地面を叩くと、床が盛り上がりテーブルと椅子を形作る。
どうぞ、と勧められて腰かけると、レキシファーも続き、その膝の上にキサラちゃんがよじ登って収まった。
『う!』
頭の上にいたうにが飛び降り、どこかへと駆けて行く。
入ってきたのとは違う扉の奥に消えていったのだけれど、勝手にうろついて良いのかな。
「みーは、きぃの妹」
「え?」
キサラちゃんが唐突に呟く声に疑問で返した。
「きぃとみーは同じ孤児院にいた。みーだけが生き残った。みーは寂しがりだから、お姉ちゃんのきぃが見守ろうと思った」
『この子と、あの狐っ子は同じ孤児院で暮らしていたんですヨ。おそらく、あの兎サンから聞いているとは思いますが、あの狐っ子を除いて皆殺しにあいましタ』
メリアリスさんの話を思い返す。
みそぎちゃんの居た孤児院の事、彼女を保護した事。
彼女のスピリアが居なくなった原因の事。
みそぎちゃんの抱いた決意の事。
「パパには、感謝してる。でも、きぃはみーと一緒がいい。もうみーを一人にしたくない、だから、お願い」
『まあ、可能か不可能かで言えば可能ですカラ、貴女の判断に任せますよ、我が姫。不死者とは仮初めの肉体に魂を宿しているだけの存在ですカラ。今なら触媒にしたポーションの効力も残っていますシ……ワタシもサポートしマス』
ちらりとみそぎちゃん達に視線を向ける。
未だにもみくちゃにされているみそぎちゃんと、心からの笑顔で彼女を愛でている四人の姿。
一歩引いたような視線で羨ましげにそれを眺めるキサラちゃんと、その頭を撫でつつそんな事を言うレキシファー。
「……レキシファーはそれでいいのかい?」
『ワタシですカ? ええ、構いませんヨ。この子が不死者になった経緯ですけどネ……つい先程なのですヨ。理由は、みーがピンチだから、きぃが助けなきゃ、デス。なので、完全に不死者として存在は定着していませんし、今なら変生もしやすいのでは?』
「この子とみそぎちゃん、メリアリスさんとアリシエルって、さ」
『エエ、まるで鏡のようでショウ。だからこそ、女神ジェミアも力を貸したのでしょう。そして、彼女らを映す鏡は、貴女デスね』
「全く……笑えない冗談だ」
うにうに言いながら戻ってきたうにがテーブルの上に紅茶やらなんやらを並べて行く。
そういえばこのうに達は元々レキシファーの所に居たんだっけとついでに思い出したが、わりとどうでもいいから頭から追いやっておく。
やり方自体は、既に理解しているし、可か不可で言えばおそらく可能だろう。
余計な呪いがついている訳でもないし、ただ単純に、キサラちゃんの魂に私の力を与えて存在を一段階引き上げるだけだ。
感覚ではあるが、天使マルキダエルになった私にはその権限は与えられているし、手札が増えるだけで私に損は一切無いとも言える。
「私の眷属、使徒って言うのかな。そうなったら……するつもりはないけど、私の指示には絶対に従わなきゃいけない事になる。言わば、神様と聖女のような関係……むしろ、それよりも繋がりは深い。もしかしたら、キサラちゃんが望まないような事を命令するかもしれないし、そうなったら拒否する事も出来ない。みそぎちゃんと同じになるっていうのは、そういう事なんだ」
「問題ない。みーの恩人なら、きぃの恩人でもある。それに、そんなことしないっていうのは、わかる」
『今ならなんと、天才にしてスピリア研究の権威とも呼ばれたワタシの頭脳もついて来ますヨ』
「や、それはどうでもいいけど。……みそぎちゃんと相談してからでもいいんだよ?」
「必要ない。むしろ、みーがきぃに気づく前に、して欲しい」
辛辣ですネとぼやくレキシファーは無視して、キサラちゃんの視線を受け止める。
お願い、と真っ直ぐに私を見るキサラちゃん。
『ぴ。あすくれぴ、おすすめー、いう! じぇみーも、おけー!』
「ああもう、わかったよ! ……サビク経由でいつでも連絡出来るようになったのも考えものだね、全く」
思いもよらぬ所からの援護射撃に頭を掻いて、腰を上げる。
どうにも神様連中の意図が読めないなと舌打ち、キサラちゃんを手招きする。
レキシファーの膝から飛び降りて駆けてきたキサラちゃんを抱き止め、テーブルセットから距離を取る。
意識し、腰から翼を出現させて天使の力を呼び起こす。
マルキダエルは熾天使だから翼は本来三対なのだが、まだ天使になりたてなので、今のところは一対なのだとはアスクレピオス談。
そういった情報やら変化した諸々の整理を今現在メサルとティムが急ピッチで行ってくれていて、今現在必要だろう情報はピンポイントでダイアリーに表示してくれていた。
「ミラねーさま、凄いはねなの! ……なにしてるの?」
「ミラちゃん、今度は何をしてるんですか?」
『……あらぁ?』
背後から、ようやく解放されたのであろうみそぎちゃんの声。
私の腕と翼で包んだキサラちゃんの身体がその声に反応して僅かに揺れる。
本当にいいの?
耳元で尋ねる私に小さく頷いて返して見せたキサラちゃん。
彼女が何を考えてそう決めたのはわからないけれど、まあ……神様達の許可もある事だし、なるようになれって事で。
「ありがとう、これから、よろしく……ね?」
「こちらこそ、キサラちゃん。終わったら、みそぎちゃんともお話するんだよ?」
「……ん」
キサラちゃんの額に唇を落とし、天使の力を行使する。
彼女の身体と魂を光に変えて、私の中に一度取り込んで。
みそぎちゃんの時とは違って修復の必要もなく、キサラちゃん自身が受け入れてくれているので変生は滞りなく。
首を傾げて様子を伺うみそぎちゃんと、メリアリスさん達。
レキシファーはキサラちゃんの代わりにうにを膝に乗せてお茶を楽しんでいて、他人事のようで腹が立つね。
私のお腹の中で力を分けて、変生を終えた魂をゆっくりと解放する。
みそぎちゃんの時と同じように光が溢れ、キサラちゃんの身体を作る。
外から別の力が加わっているのに気付き視線を向ければ、その先にはレキシファー。
彼から送られた情報を元に、彼女を産んで、光は少女へ。
「……気分はどう?」
「悪くない。むしろ、いい」
紫色の髪と、左右で色の違う黒と白の山羊の角。
ぼろぼろのローブを纏った小さな少女が腕の中に収まり、存在をこの世界へ定着させたのを確かめる。
みそぎちゃんに感じている確かな繋がりのようなものをキサラちゃんからも感じるのを確認して、くるりと身体を捻って百八十度回転する。
「はい、行ってらっしゃい」
「うん、行ってくる。……みそぎ!」
「なの? きさらねーねなの?」
「ん……きぃ、だよ!」
みそぎちゃんへ向けてそっと背中を押せば、弾かれたように駆け出すキサラちゃん。
走って、飛び付いて、受け止めたみそぎちゃんと一緒に倒れて行く二人と、慌ててそれを受け止めるメリアリスさん達。
一度大きく翼をはためかせ、力を身体の中に閉じ込めるようにして翼を仕舞えば、どっと襲いかかる疲労感。
『お疲れ様デス』
「本当に、疲れたよ」
よろめいた私の背中を支えたレキシファー。
ひょいと片腕で抱えられるが、めんどくさいので苦情を呑み込み、視線は再会を喜ぶみそぎちゃんとキサラちゃんへ。
キサラちゃんの正体を知ってまた泣き出したメリアリスさんに、呆れ顔のありすさん。
二人並んで見守るメイファちゃんとランファちゃんも、心なしか嬉しそうに微笑んでいて。
『キサラが使徒になってしまいましたので、ワタシは貴女のスピリアになる事にしますネ、ヨロシク』
「えぇ……」
『貴女は見ていて危なっかしいデスからね。それに、王族とも関わりあいになることもあるでショウ。ワタシをそばにつけておいて損はしませんヨ?』
「そういえば、王女様からの面会の打診とか、あったなあ」
『……本当に、タイミングが悪いと言うカ、良いと言うのカ』
「君の襲撃がなければ、たぶんもっと早くに会うことになってたと思うよ」
『ナイスですネ、過去のワタシ』
それからはみそぎちゃんとキサラちゃん達が落ち着くまで待って、全員揃っての話し合いをした。
主に、これからの事について。
まずは全員揃って王都へ戻り、ノアさんに相談しようと言う事になった。
その際外のドラゴンをどうするかと言う話になったのだが、それはもう私のアルゴナウタイで直接跳んでしまえばいいという結論に。
消耗しているんだから無茶はよくないとメリアリスさんが訴えたが、その訴えと同時にジェミア様から神器が適当に投げ込まれて解決。
同時に神獣まで送られて来たのだが、この子についてはまた後日話す事にしよう。
「王都に戻るのは、久しぶりです」
『神楽の顔を見るのがぁ、楽しみですねぇ?』
「かーさまの顔が楽しみなの?」
「みー、お母さん何人いるの」
空間の亀裂……今は力も安定して、空間の門と言った方が良いソレを開き、王都の自室へと繋げて順番に入って行く。
まずはメリアリスさんを先頭に、ありすさんとみそぎちゃんに、キサラちゃん。
「ねえねえ、ラン。ぼくたちさ、結局役に立ててたのかな……」
「メイファちゃん、言わないでください。きっと大丈夫です……多分」
『ハハハ、あの子達と比べてはいけませんヨ、ガールズ?』
よくわからない不安を口にするメイファちゃんとランファちゃんに、それを慰めるレキシファーが続いて門の中へ消えて、残ったのは私一人。
『う!』
『ぴ!』
『カァ?』
『カァ!』
何やら大きな風呂敷包みを背負ったうにを抱き上げ、サビクを首に。そして、新たに加わった二匹を両肩に乗せる。
「それじゃあ、帰ろうか」
簡単な外出だと思っていたのに、蓋を開けば色んな事がある日だったね。
みそぎちゃんに出会い、火影姉妹に出会い。
カマキリに襲われ、今度はメリアリスさんに出会い。
私が聖女だとばれて、メリアリスさんがこの世界でのアリシエルのお姉ちゃんだと言う事を知って。
そうしたらドラゴンに襲われて、みそぎちゃんが命を落としかけた。
そして、キサラちゃんとの出会いと、レキシファーとの再会に、私が天使になったりして。
これ程までに密度の濃い体験はこれまでの人生でも滅多にないと思いながら、まだ序の口かもしれないなんて予感を感じていたりもして。
戻ったらやる事がたくさんあるし、ノアさんへの報告もどこまでしたらいいかわからないけれど。
今はさっさと帰ってベッドに飛び込みたいなとか考えながら、我が家へ繋がる空間を越えた。
八章・了
八章お疲れ様でした。
今後ともよろしくお願いしますネ




