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天使と禊と進む道





「……ちゃん、ミラちゃん。大丈夫?」


 景色が切り替わり、星空の海から元の空間へ戻る。

 私に声かけながら見つめているのはメリアリスさんで、メイファちゃんとランファちゃんも心配そうに眺めている。

 ふむ。アスクレピオスは時間は止まっていると言っていたが、多少は経っているのかな。


「うん、大丈夫だよ、メリアリスさん。少し、神様と話していただけだからね」

「へ?」


 手元にダイアリーを引き寄せ、思考を走らせる。

 メサルとティムが慌てながらも、私の意思に従いダイアリーの頁を更新する。

 どうやら、教わった事は全て習得できているようだ。

 ぐるりと部屋のなかを視線で一周し、最後に目の前のみそぎちゃんのもとで止める。


「メリアリスさん、リザレクトポーションを私に」

「え、あ、うん?」

「ありすさん、準備は?」

『いつでも行けますよぉ』

「メイファちゃん、ランファちゃん。一応、外の警戒を」

「お任せください」

「邪魔はさせません」

「レキシファー、キサラちゃん」

『貴女には驚かされてばかりですネ』

「準備、できてる」


 カランとキサラちゃんの持つランタンが音を立てて揺れる。


『ミラ様』

「なんだい、メサル」

『本当に、よろしいのですか?』

「よろしいも何も無いさ」

『ノワイエのお説教が長くなりそうです』

「……ははは」


 私にポーションを返し、鍵の剣を手にしたメリアリスさんとありすさんが並ぶ。

 キサラちゃんの持っていた大鎌はレキシファーが握り、彼女の手には光が灯るランタンが一つ。

 一度目を閉じて、アスクレピオスの言葉を思い返す。




『精霊化と違って、天使化は一方通行だ。後戻りは出来なくなる。君の平穏を守るなら、本当は見捨てた方が……そうだね、今のは聞かなかった事にしてくれ。ようやく会えた大事な娘に、嫌われたくはないしね』




 まあ、彼の言うことも理解出来なくはないんだけどね。

 特別と言うものは、得てして平穏とは無縁になるのだ。

 一度認識されてしまえば、どこへ行こうと騒ぎ立てられ、余計な思惑や感情に晒される。

 今からしようとしている事は、次期聖女として民衆に騒がれるなんて目じゃない程の……もっと大きな何かに巻き込まれる可能性だって孕んでいる。



「アンゲロスシフト・マルキダエル」


 けれども、その程度の事で、目の前の女の子を見捨てると言う選択肢は、私の中には端から存在していない。


 レキシファーの目が大きく見開かれて行く。

 足元から光が溢れ、無数の白い羽根が視界を遮り包んで行く。

 足先から身体の感覚が失せて行き、肉体が別の物に作り替えられて行く。


 私が口にしたのは十二宮の天使と呼ばれる存在のうちの一つ、白羊宮の……こちらの世界では、金羊だったか。

 金羊宮の天使の名前。


 目の前を大量のインフォメーションが流れて行く。


 種族が変わった事を知らせ。

 スキルが変わった事を知らせ。

 ステータスや称号、私の持っていたほぼ全ての情報が更新されて行き、全て確認し終える頃には私の全身は光になって、別のモノに置き換えられる。


 腰の辺りに違和感を覚えて意識を向ける。

 動きそうで、上手く動かない、もどかしい感覚。

 少しばかりの試行錯誤の後に、コツを掴んで、腕を広げるように、大きく伸ばせば私を包む光が弾け飛ぶ。


「ミラちゃん?」

『……あらぁ』

「ミラ様マジ天使」

「比喩になってませんね、メイファちゃん」


 少し違和感のある視界の中、まずは腕を上げる。

 目の前で握っては開き、身体の感覚を順に確かめるように動かして行く。

 纏っていた黒の祭服は元の踊り子のような物からは変わっていて、白の祭服と融合したかのように。

 ベースは白の祭服で、そこに装飾が追加されて白と黒が入り交じった衣装へと変わっていた。


 腰に感じていた違和感と、感覚が延長されていたような物は長く伸びた白い翼。

 スヴィータのような皮膜があるモノではなく、ふかふかの羽毛に包まれた鳥を思わせる……天使の翼。


「メリアリスさん」

「はい」

「肉体から魂を取り出すから、すぐに解放を」

「わかりました」


 変化した視界の中の一つ。アリシエルの連れていたエインヘリヤルレギオンアーマーの中に見えていたのと同じ、一際輝いていた、しかし今はその輝きを失いつつあるモノ。

 そっとそれに手を伸ばし、両手で掬い上げる。

 絡み付いてくる黒いモノは力任せに引きちぎって、高く掲げると共に二本、鍵が伸びる。


「ジェミア様、リベルタ……力を!」

『たかがトカゲ如きがぁ、ありすの娘を喰おうなんて、許しませんよぉ!』


 一本は浮かべた魂に。もう一本は横たわる肉体に。差し込まれた鍵はカチャリと音を立てて捻り倒れる。

 輝く尊い命の光から噴き出すのは、ドス黒い霧に似た呪い。

 横たわる小さな身体から溢れ出でるのはミミズのような、のたうちまわり暴れる無数の黒い呪い。

 ほんの一瞬だけ完全に呪いがみそぎちゃんから離れるのに合わせ、腰から抜いた剣を一閃させる。


「レキシファー、捕まえろ!」

『お任せくだサイ』

「こっち、だよー」


 カランカランとランタンが揺れる。

 切り裂かれ不安定になった二つの呪いは誘われるようにキサラちゃんのランタンへと寄って行き、同じように移動し始めたみそぎちゃんの魂は両手で確保し、私の胸へと抱き寄せる。

 若干の抵抗を見せる呪いをレキシファーが鎌で斬りつけ、ランタンの中へと蹴り込んでいるのを確認し、抱いた魂を改めて確認する。

 呪いから、一時的に解き放たれた魂は弱々しくも、しかし、確かに輝きを放っていて、まだ生きていると伝えてくれる。

 呪いによって失ってしまったモノ、欠けてしまったモノ。

 それを埋める手段はアスクレピオスから教えて貰った。


「みそぎちゃん、恨み言は後で聞くからね」


 腰から伸びた翼から舞い浮かぶ羽根を一本手に取り、抱いた魂へとそれを落とす。

 魂に触れた羽根は溶けるように沈み、混ざりあって、変質を促し輝きを増す。

 一本、二本と羽根を溶かす毎に輝きを取り戻す魂を手に、みそぎちゃんの身体に歩み寄る。

 片手には魂を抱き、取り出した蘇生薬の栓を抜いて頭上へと放り投げた。


 息を呑む音や、小さな悲鳴が耳に届くが、無視して前へ。

 撒き散らされる液体が降り注ぐ中、私の羽根をみそぎちゃんの身体へ落とす。

 カタカタとランタンが揺れる音が聞こえる。

 ちょうど十本の羽根がみそぎちゃんの中へ消えた時、変化が起きる。


 みそぎちゃんの身体は光に変わり、胸に抱いていた魂が飛び出して、二つの光は混ざりあって一つの光へ。

 ふわりふわりとゆるやかに戻ってきた光を両翼で包むように受け止めて、再び両手に剣を握る。

 限界とばかりに砕けたランタンから溢れ出すのは、竜の姿を模した漆黒の何か。

 私の翼に包まれた光へ向けて大口を開き、迫る。


「メイファ、ランファ、下がって、触れちゃダメだよ。レキシファーとキサラちゃんは待機、メリアリスさんありすさんは――」

「邪魔はさせません、任せてください」

『随分と苦しそうじゃないですかぁ? ざまあみろってぇ奴ですよぉ』


 受け止めたのは、私の眼前で交差するように伸ばされた金と銀の剣。

 同時に振り抜かれる剣が呪いの竜を弾き返し、慌てて左右に避けたレキシファーとキサラちゃんの間の壁へと飛んで行く。


「ええと、任せても大丈夫かな、アレ」

「ええ、もちろんです。みそぎちゃんをお願いしますね、ミラちゃん」

『ありす、ありす。私たちの娘が随分な出世ですよぉ?』

「うん、その話は後でゆっくりしようね、ありす」


 メリアリスさんとありすさんが前に出て、入れ替わるように私は下がる。

 駆け寄ってきた火影姉妹と、レキシファーにキサラちゃんと共に部屋の隅へ。

 呪いの竜と二人のウサギさんが対峙する。


「だからまずは」

『引きずり出されたお馬鹿な呪いを』

「やっつけましょう」

『ぶち転がしまぁす』



 私がスピリアにはなれない。

 だから、精霊の導き手としての力を、天使になってから使う。

 呪いに蝕まれた肉体と魂を一度私が取り込んで、天使に連なる上位の存在へと昇華させ、作り替える。


 みそぎちゃんの眷属化……つまり。


 私のスピリアのような存在にするというのが、彼女を救う唯一、確実な方法だ。






 



 


尺が足りなくなるのではないのだろうかと若干焦っている今日この頃

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいてとても透き通った綺麗な印象を受けます。...良い [気になる点] 天使化について条件など提示されてないのがこの後どうなるか。他の聖女にも可能性はなくはない?天使化をしたことで起き…
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