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彼女の誓いと私の名前

おまたせ(てへぺろ




 ……さて、どう答えたものだろうか。


 火影姉妹とみそぎちゃん、二人のありすさんの視線が集まる中、思考を走らせる。


 目の前の彼女は私の事を十三人目の聖女で、どの神の聖女なのかとはっきりと問うた。

 下手な誤魔化しは通用しないだろうが、本当の事を言うべきなのかも悩ましい。

 メリアリスさんはプレイヤーだから本当の事を喋ってもまだ大丈夫だろうが、その他の……みそぎちゃんや、火影姉妹がどう反応するのかが予想出来ない。

 スピリアのありすがちびっこ三人に忠誠を誓わせたのもこれがわかっていたからなのだろう。

 だが、おいそれと話していい話だとも思えない。


「……うん、そんな顔しなくてもいいですよ」

『まだありす達を信用できないってのはぁ、仕方ないですしぃ?』


 言葉を探す私の無言に対し、沈黙を破ったのはメリアリスさん。

 いつの間にか元のエプロンドレス姿に戻っていた彼女は改めてベッドに腰掛け、その膝の上にみそぎちゃんを乗せる。

 満足そうにむふーと鼻息を鳴らす子狐は置いておき、続く彼女らの言葉を待つ。


「なので、まずは私達の方からお話をしますね」

『ありすの名前を聞いた時に、ほんの少し表情が動いてましたもんねぇ? だからぁ、まずは子羊ちゃんの方からありす達に質問していいですよぉ』


 ちらりとメイファちゃんに視線を向ける。

 彼女は真っ直ぐに私を見ているが、その中の感情まではわからない。

 ランファちゃんも同様で、みそぎちゃんに至ってはメリアリスさんに抱きついて胸に顔を埋めていた。

 ……うん、頭の上にぴょこんと立っている狐の耳はこちらに向けてぴくぴく動いているので、話は聞いているようだ。たぶん。



「信用してない……って訳じゃあないんだけど。お言葉に甘えても?」

「勿論。その子達も、私と禊ちゃんの事、気になってるでしょう?」

『みそぎのお友達なんて、初めてですよぉ』

「あふぁりみゃえにゃの、ありすいにゃかったもふぉ」

『それもそうですねぇ』


 火影姉妹達にどこまで話すべきか。

 彼女らがどういう反応をするかを把握し、考えを纏める為にも今は時間が欲しい。

 メリアリスさんの提案はありがたく、それに乗せて貰う事にしよう。

 ふうむ、と口に出して視線の先の兎さんを見詰める。


 アリシエルの話では、彼女は記憶の中……こちらの世界での姉らしい。

 小さな村で、アリシエルが身代わりになって死んで、おそらく唯一生き残った。

 そして、殺された人達の復讐に囚われながら、アリシエルに様々なものを遺して行った人。


「じゃあ、まずはこの村について教えて欲しいかな。なんでここにメリアリスさんが居たのかも気になるし」

「この村は……私の、私達の住んでいた村です。月の民の隠れ里って言って、兎族だけが隠れ住んでいた小さな村」


 最初に口にした言葉に明確な意図はなかった。

 ただ、なんとなく思った事を口にした。


「私はその村で、巫女って呼ばれてたんですよ。いつか来るお役目の為に誰にも知られないように、この森で他の人との交流もなく、こっそりと暮らしてたんです」


 巫女。

 アリシエルも言っていた、特殊な役割を持っていたと。

 兎だから月の民なのかな。


「ある日、この村は襲われました。私を、巫女である役目を持つ存在を殺す為に。そして、父も、母もみんな死んで。隠れていた私の所まで手が伸びようとしたところで……あの子が」

「妹が、身代わりになって殺された」

「え?」

『……子羊ちゃん?』


 話しながらメリアリスさんの表情が段々と曇ってゆくのを見た。

 微笑んでいる筈なのに辛そうで、まるで現実で起きた事であるように話す彼女にその先を言わせたくないと思った。


 咄嗟に言葉を投げた。


 続きを遮った私の言葉に顔を上げたメリアリスさんの視線がまた私へと向けられる。

 どうして、と。彼女の表情が言外に尋ねている。


「メリアリスさんは、どうして戻って来たんですか?」


 彼女の視線を正面から受け止めて、問う。

 復讐を遂げて永遠に眠る――ゲームを辞める事を選んだ彼女が再びここに居る理由。

 彼女の胸に顔を埋めているみそぎちゃんがママと呼ぶ桜色の少女。

 復讐を終えた後のこの世界に戻ってきたのは何故なのだろう。


 どうにも、私には目の前の彼女が復讐の為だけに生きていたとは思えないし、そんな事をするような……出来るような人には思えなかった。


「……私の事、知っていたんですか?」

「名前と、どんな人なのか、過去に何をしていた人なのかは聞きました。貴女が祈り人である事も、知ってます」

「そう。どこまで知っているか、聞いてもいいですか?」

「貴女が祈り人で、過去に復讐に囚われて、それを果たした後に眠りについたと。レオリシェルテ王女の弟子である事も聞いています」

「リーシェ……そう、ですか。話は、リーシェから?」

「いいえ、アリシエル。たぶん、貴女の妹から」

「……それじゃあ、あれは、やっぱり」


 ごくり、と。

 左右に立つ火影姉妹が息をのむ音が届く。

 メリアリスさんの左右違いの紅と蒼の瞳から、雫が伝い流れる。

 アリシエル、と。小さく呟くメリアリスさん。

 生きてた、と。


 彼女が何かを言う前に私が続けよう。


「……。アリシエルは、死霊術師によって、不死者として蘇ったそうです」

「ふししゃ?」

「先日起きた、王都防衛戦の、主犯と言うべきでしょうか。その準備、己の手駒を増やすため……だと思います。その死霊術師の力によって村のみんなの魂と一つになって、呪いで作られた身体を自分で操って不死者になったと」


 彼女の想いを、ある意味では打ち砕くとわかっていながら、告げる。

 彼女の頬を伝う雫の数は増して、みそぎちゃんの髪に落ちる。

 私へ向けられる火影姉妹の視線は無視する。



「私が、戻って来たのはね。プロモーションムービーって言って、わかるかな。眠りについた先の世界で、こっちの世界の事、少しだけ知る事ができたの。その映像に、あの子がいて、貴女を見つけたから」

「私を?」


 彼女は頷き、腰に携えていた剣を鞘ごと手にして鞘から抜いた。


「さっきも、言いましたよね。私は、月兎の巫女。精霊姫の護り手、それが私に与えられていた役割。そして、精霊の導き手である貴女こそが、私達の一族が長い間待ち望んでいた存在なんです。今ならはっきりと、わかります」


 するりと私の黒い本、ダイアリーが浮かび、開く。

 それは称号が記された頁。

 精霊の導き手と記された場所に、追記された一文で目が止まる。


 護り手、メリアリス・ルーゲナート。



「カーミラ・アリエティス様」


 その名前で呼ばれるのは、いつ以来だろうか。


 メリアリスさんがへばりつくみそぎちゃんをひっぺがし、隣のありすさんに押し付ける。

 鞘をベッドに置き、剥き身の細剣を手に彼女は立ち上がり、私の目前へとゆっくり歩み寄る。

 身構える火影姉妹を手で制し、私も椅子から腰を上げる。


「私が戻って来たのは、妹の姿を見たからだけではないんです。貴女を見て、一目で、わかったの。ずっとずっと、ただ無意味にあるだけだった精霊姫の護り手と言う役割。そんな人は現れなかったし、何処を調べて貰っても関係する文献はありませんでした。だけど……不思議ですね」


 目前で片膝をついて、私へと頭を下げる。

 彼女の頭上の兎の耳がぺたりと垂れる。


「私が戻って来た理由は、今度は護る為に。あの子と、貴女を。身勝手だと思われても構わないんです、これは私の我が儘ですから」


 両手で差し出されたのは彼女の剣。

 何処かで見た事のある光景だ。

 騎士の誓い、だっただろうか。


「メリアリスさん、私は」

「出会ってまだ間もないというのはわかってるんです。復讐に明け暮れていた私を警戒するのもわかっています。貴女と、妹がどんな関係なのかもまだ知りません。だけど」


 顔を上げた彼女は私を見上げて柔らかく笑む。

 これも、何処かで見たような光景。

 出会って間もないのに、私に家族になってくれと訴えてきたあの人と同じ顔をしている。


「私に貴女を護らせてください。そして、貴女と共に居るあの子を、護らせてくれませんか? 私は、その為にこの世界に戻って来たんです」


 不意に、メリアリスさんの左右に影が差す。

 並ぶように立ったのはメイファちゃんとランファちゃん。

 二人して視線を合わせて頷き、メリアリスさんと同じように片膝をついた。

 少し遅れてメイファちゃんの隣でみそぎちゃんが同じように頭を下げて、スピリアのありすさんは私を見て笑っている。


 諦めろ、と告げているように見えた。



 どうしてこうなったのか。

 常に突然に出来事が流れて行くのにも慣れてしまった気もするね。


「……ああ、もう。本当に、私は、流されやすいというか、なんと言うか」


 メリアリスさんの差し出す剣を慎重に受け取った。

 細剣……レイピアと言う奴だ。

 鞘に納まっていた時にはなかった鍵のような突起がある以外には目立った装飾のない金色の剣。

 私の手には少し大きいそれを両手で握る。


「メリアリス……さん、メイファちゃん、ランファちゃん。みそぎちゃん、それと……ありすさん」


 静かに手にした剣を下げ、桜色の髪から覗く肩へとそっと当てる。

 次にメイファちゃんに、そしてランファちゃん、みそぎちゃんへ。

 こんな時の作法なんて知らないし、わからないけれど。


 彼女らが望むのならば……うん、なるようになるだろう

 何もかも受け入れてしまおうと決めたじゃないかと自分を説き伏せる。


「色々と聞きたい事とか話さなきゃいけない事とかたくさんあるけど……よろしくね、五人とも」


「ふふっ、はい、勿論です。このメリアリス、貴女の剣となり、盾となりましょう」

「我ら火影も、永遠に」

「貴女の影としてお側に」

「ねーさまの敵はみそぎの敵なの。ままの敵もみそぎの敵なの。みそぎの家族は、今度こそ、みそぎがまもるの。絶対なの」


 剣を返す。

 メリアリスさんが受け取り、鞘に戻して立ち上がる。

 伸びてきた腕が私の頭を絡めとり、そのままぽふんと胸の中へ。

 めっちゃいい匂いがするけれど、頻繁にここが仮想現実だって事を忘れてしまいそうになるね。


「……ところで、ミラ様」

「うん、なんだいメイファちゃん」


 綺麗に締まったなあとか考えているところに、メイファちゃんが私を呼ぶ声。

 顔をずらして双丘……山?

 ノアさんに負けず劣らずなメリアリスさんのそれから脱出してメイファちゃんへ顔を向ける。

 ランファちゃんと二人並んで、何か聞きたそうにしている姉妹が視界に入る。


「カーミラ・アリエティスと言うのは……ミラ様の事なんですか?」


 ……あっ。


「えーと」

『お馬鹿さぁん?』

「なの?」

「……メイファちゃん、空気を読みましょう?」


 メリアリスさんを見上げてみる。

 片目を閉じてウィンク一つ。

 ごめんね、と。



 今さらだけれど……なるようになれと言うのは、大変便利な言葉だとは思わないだろうか。










 

カホレンジャー増員

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