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小屋と簀巻きと私の秘密

掲示板のネタがない





「あはは。ママって言っても勿論、本当の親子じゃないんですけどね」


 そうやって笑うのは、みそぎちゃんの尻尾で簀巻きにされているありすさん(仮称)

 完全にカマキリをやっつけて、他のモンスターとかもいない事を確認した後。

 ここで話すのもなんだからと案内されたのはお墓に囲まれるように建っていた一軒の小屋。

 中は狭く、ベッドと戸棚と、机や椅子があるだけの簡単なもので。

 ここで生活しているとは思えない小さな部屋で、私は椅子に。

 左右にメイファちゃんとランファちゃんが立って、みそぎちゃんと簀巻きのありすさんがベッドの上に。


「めりあママなの。ママはママなの」

「禊ちゃん? 逃げたりしないから、離して――」

「だが断るの」

「えぇと……ありすさんなの? めりあさん?」


 この世界、個人の呼び名が多すぎやしないだろうか。

 私が言えたことでもないのだが、本名やら真名やら愛称やらが多いよね。

 本当に、この世界の住民達は人間味に溢れていると思う。


「ああ、自己紹介もまだでしたね。メリアとかありすとか呼ばれてますけど。私の名前は、メリアリス」

「……メリアリス?」


 その名前には聞き覚えがあった。

 シエルさんが呼んだ名前。

 そして、アリシエルが呼んだ名前だ。


 はっきりと覚えている。

 レキシファーを倒した夜にアリシエルから聞いた彼女の記憶の話。

 彼女がシエルさんから聞いたと話した、こちらの世界での姉の話。

 そうか、この人が。


「……ミラ様?」

「ん、ああ。なんでもないよ、メイファちゃん」


 思考に集中し黙った私の顔をメイファちゃんが覗き込んだ事で、浮上する。


 さて、どうしたものか。

 毛玉から顔だけ出した状態で私に首を傾げて見せるメリアリスさん。

 何から聞くべきか、何から説明したものか。

 メイファちゃんを引かせ、真っ直ぐにメリアリスさんを見る。


 桜色の長い髪に、幼さを残す可愛らしい顔立ち。

 頭から生えたもふもふしたうさぎの耳はアリシエルと違いしっかりと立っている。

 うさみみの付け根の隣から伸びたツーサイドアップは床へと垂れていて、片方はみそぎちゃんが口にくわえていた……ってなんでこの子メリアリスさんの髪をもぐもぐしてるの?


「とりあえず、自己紹介かな。初めまして、私はミラ。ミラ・ムフロンを名乗らせて貰っています」

「火影梅花です」

「同じく火影、蘭花と申します」

「ムフロン……じゃあ、金羊の聖女様の?」

「はい。ノワイエ・ムフロンの義娘で、次期金羊の聖女の立場をいただいています」

「……次期聖女?」


 メリアリスさんの言葉が詰まり、私を見上げる。

 じいっと見つめられること数秒。

 何かを考えていたのか、言葉を整理していたのだろうか。

 停止したメリアリスさんの口が開き、一言。


「ありす」

『はぁい』


 パリンと、硝子が割れたような音が小屋中に響き渡り、ベッドと椅子の間の空間にひらりと紫色が揺れる。


「なの」

『だめですよぉ、みそぎぃ? 少しばかり、真面目なお話をしますからねぇ?』

「むー、なの」


 現れたのは色違いのメリアリスさん。

 先ほども居た、髪とエプロンドレスの色が薄い紫の。

 しかし、顔立ちは同じなのにその笑みは蠱惑的で、優しげなメリアリスさんとは真逆の、小悪魔めいた印象をうける少女。

 彼女が現れるや否や伸びてきたみそぎちゃんの尻尾をひらりとかわし、一言嗜めてから私に向く。


『話をする前にぃ、確認しておかなきゃいけないんですけどぉ』

「ええと、何かな。メリアリスさん……でいいの?」

『ありすはありすですよぉ? ありすはありすで、ありすもありすですけどぉ、まあ、ありすと区別しとかなきゃ面倒くさいですしぃ、ありすの事はありすでいいでぇす』

「えー、それじゃあ、ありすさんで」

『はぁい』


 くすくすと、両手を口許に添えて笑い、両手を広げてその場でくるりと回るありすさん。

 独特な口調で話す彼女は一頻り満足したのかみそぎちゃんの隣に腰かけて――やっぱり、毛玉と化した。

 うん、みそぎちゃんの尻尾が伸びてる上に二本に増えてるように見えるね。

 狐だし尻尾が増えるくらい不思議ではないと思おう。


『とりあえずぅ、そこの子猫さん達はぁ……あなたの事ぉ、どこまで知ってるんですかぁ?』

「どういう事?」

『金羊の聖女様の娘でぇ、次期聖女ってのは前提としてぇ。あなたの隠し事はぁ、知ってるんですかぁ?』

「……何を言ってるんですか?」

「ボク達が居たら話せない事なの?」


 私の隠し事。


「はっきり言うと、あなた達はこの先を聞かないほうがいいと思います。禊ちゃんも」

『今から話す事はぁ……そうですねぇ。そこの羊さんの、とぉーっても大事な秘密に関わる事ですしぃ? 興味本位とかぁ、覚悟もなく聞いていい話じゃないんですよぉ』


 私のとっても大事な秘密?

 メリアリスさんとありすさんははっきりと断言してから、メイファちゃんとランファちゃんを見る。


 私の秘密ってどれの事だろう。

 プレイヤーであること?

 それとも、次期聖女であるまえに、蛇使いの聖女であること?

 金羊の女神の娘で、複数のスピリアを使役していて、半精霊であること。


 私の秘密結構多すぎやしないだろうかと思いつつ膝に抱いたぶらうにーをつっついてみる。


『う?』


 ぷにぷにもちもちの手触りが心地よいのだが、今はそんな事をしている場合でもなく、姉妹達の言葉を待つ。


「みそぎはミラねーさまについてくの。えいきゅーしゅーしょくするって決めたの。今さら後にはひかねーの。ママとママもみそぎの嫁なの」

「みそぎ、ママで嫁はちょっと意味がわからないよ? ……うん、ボクもみそぎと同じだ。ボク達はミラ様に命を捧げ忠誠を誓った身」

「みそぎちゃんとは違いますけど。私達は私達で、ミラ様を主君とし、仕えると決めました。火影の名に誓って」

「いやいやいや」


 みそぎちゃんの謎のハーレム宣言は置いておいて、その場で床に膝をつき私に頭を垂れる姉妹に首を振る。

 神楽さんと話した時の事はちゃんと止めた筈だ。

 たぶん、どうやってかは知らないけれど、ありすさんは本当に私の秘密を知っているのだろう。

 そして、それを知った場合、広まった場合にどうなるのかも。


「ミラ様。ボク達は、ボク達の意思で、ミラ様に仕えたいんです」

「ミラ様。どうか、私達の牙を、預かってはいただけませんか」


 姉妹が顔を上げて、真っ直ぐに私を見る。

 ううむ、どうした物か。

 私としては、この子達を巻き込みたくないのだ。

 きっと、何か危険があるからこそ、ありすさんはわざわざ確認をするような事をしているのだろう。

 そして、私やスヴィータ、アリシエルやとーま君と違ってこの子達は住民で。

 死んでしまったら、そこで終わってしまうのだ。


「なの、ミラねーさま」

「なんだい、みそぎちゃん」

「まえがりなの。さきばらいよーきゅーなの」

「……前借り? 先払い要求?」

「なの」


 もぐもぐ、ごっくんと……ごっくん?

 涎でべちょべちょになった桜色の髪を口からぺっしたみそぎちゃんが私を呼ぶ。

 べちゃりと音を立ててメリアリスさんの顔の上に落ちたのとか、ハイライトの消えた眼で虚空を見つめるメリアリスさんとかは置いておいて、みそぎちゃんに尋ね返す。


「かえったらきいてもらうよていのおねがいをここでするの。みそぎたちを、みそぎたちのクランを、ミラねーさまちょくぞくにしてほしいの、いっしょうまもるの、そいとげるの」

「みそぎ……それは、ナイスアイデアだね!」

「みそぎちゃん……さすがですね!」


 ふんすと鼻息を鳴らしたみそぎちゃんと、輝かせた瞳で私を見上げる猫耳二人。

 ありすさんはにやにやと私を見ているだけで、この人、最初からこうなることを予想していたんじゃないかとも思う。

 メリアリスさんは……でろーんと涎が垂れた顔でチベットスナギツネみたいな顔をしていた。

 ……この人、復讐に全てを費やした凄い人とか聞いてたんだけど、受ける印象としては全くの別物なんだけどな。

 カマキリを倒して見せたのとかを思うと遥か先を行っていそうなのはわかるんだけど。

 でも、とーま君はベータからの引き継ぎは覚えてたスキルからいくつかだけって言ってなかったっけ?


『でもまあ、騎士の他にもぉ、自由に使える駒は持っておいて損はないですよぉ。特に、あなたみたいに立場のある場合は特にですよぉ』

「ミラ様、どうか。ボク達を貴女の牙に」

「ミラ様、どうか。我ら火影、必ずやお役に立って見せます」

「いまならてんさいびしょうじょまじかるふぉっくすのみそぎとママがついてくるの」

「あ、私もなんですね、禊ちゃん。いえ、否はありませんし、最初からそのつもりでしたけどね」


 さあ、どうするのかと、ありすさんが視線で訴えている。

 いつの間にか復活しつつ、みそぎちゃんの発言に巻き込まれているメリアリスさんも納得した顔でいて。


 ……これで断れる人間がいると言うのなら、名乗り出て私にその方法を享受させて欲しいね。


「……はあ、わかった、わかったよ。本当にもう、強引だなあ。メイファちゃん、ランファちゃん、貴女達の忠誠は確かにこのミラ・ムフロンが受け取りました。ただし、命を投げ出すような事は許しません、生きて、忠義を尽くすと言うのなら認めましょう」

「御心のままに」

「畏まりました」


 再び姉妹が頭を垂れて、猫耳を私へと向ける。

 姉妹の表情は見えないが、その肩は震えていて。

 耳は感情の表れかぴこぴこと動き、尻尾は激しく左右に揺れて。


「みそぎちゃんも、これからよろしくね?」

「なの。ママともどもすえながくよろしくおねがいするの。どろぶねにのったつもりでまかせるの」

「禊ちゃん、それ沈んでしまいますよ?」


 この子に関しては本当に事態を理解しているのかどうにも掴めない。

 ノリと勢いと感情のままに動いていそうな感じがするが、その眼差しだけは真剣で、冗談やお遊びで言っているようにも見えなかった。


『話は纏まりましたかぁ?』

「うん、お陰様でね」

『それは何よりですねぇ……それじゃあ、話を続けてもいいですよねぇ?』

「メイファちゃんに、ランファちゃんでしたよね。改めて言っておきますが、ここで知った事、聞いた事は他言無用です。例え獣王様に聞かれたとしても、です」


 スッとメリアリスさんの瞳が細まって、顔を上げた姉妹の息を飲む音が聞こえる。

 二人揃ってはい、と返された返事に満足したメリアリスさんは一度この場にいる全員を見回して、私へと視線を向ける。


「禊」

「なの」


 するりとほどけたみそぎちゃんの尻尾。

 そこから姿を表したのは、私が纏っているのと同じ、純白の祭服。

 ベッドから降りて立ち上がったメリアリスさんにありすさんが歩み寄り、その頭にそっとヴェールとミトラを被せて隣に並ぶ。


「改めて、正式に自己紹介をしましょう。月兎の巫女にして、精霊姫の護り手を担う双女神の聖女。名前をメリアリス、こっちは私のスピリア、ありす」

『ありすはあなたを、精霊の導き手を見て、一度は捨てたこの世界に戻ってきたんですよぉ。だからありすもぉ、お礼に協力してあげますからねぇ?』


 鏡のようなそっくりな二人。

 私と同じ、プレイヤーの聖女?

 メイファちゃんが行方不明の聖女様? と呟いたのが聞こえる。


「ミラちゃんを見て。そして、あの子を。この世界での私の妹を見て、戻ってきたんです。今度は守る為に。だから、私達の話をする前に、これだけは確認しておきたいんです」


 そして。


「あなたが使っていた魔法、ディバイン・プリフィケーション。神威の魔法は、神に仕える正式な聖女だけに許された神聖魔法。でも、今のところ十二人の聖女の座に空席はないの」


 完全に、自分で自分の首を絞めていたのだとようやく気付く。


「十三番目の聖女様。あなたは、どの神様の聖女なんですか?」


 左右から視線が二つ。

 信じられない物を見たように、私に集中したのがわかった。


 確かに、軽く聞かせられる秘密ではなかったね。
















感想とか評価とかくれるとやる気出しますよ(ストレート)


誤字報告もありがとうございます。

なんでここ間違えたんだってのが結構あって自分で笑ったりしてます。

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