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鏡と禊と情報過多




「……誰ですか!」

『こっちを気にしている余裕、あるんですかぁ?』

「ラン、来る!」

「……みそぎちゃん、ここは任せます!」


 新たな参入者を警戒する暇もなく、カマキリが動く。

 さっきのみそぎちゃんの魔法は全くダメージになっていないのか、羽根を広げて低空を駆ける巨体をランファちゃんが迎え撃つように受け止め地を滑る。

 森での遭遇時を再現するようにメイファちゃんも駆けつけ、カマキリの注意を引くため稲妻を纏った指弾で援護射撃を開始した。

 指弾はうっとおしいのか時折メイファちゃんに狙いを変えようとしているのを見るに、物理攻撃なら普通に効くようだ。



 ……さて。


『呪い憑きを連れてくるのはまだいいんですけどぉ……ふぅん、なるほどぉ?』


 みそぎちゃんと共に振り向いた先に居たのは、一人の女の人。

 薄い紫色の腰下までの髪をツーサイドアップにして、髪と同じ色のエプロンドレスに身を包んだ少女。

 私よりも身長は高いのだが顔立ちは幼く、口角を高く愉快げな笑みを浮かべてカマキリから私へと視線を向ける。

 じろじろと値踏みするように観察されながら、こちらも観察させてもらう。

 しかし、なぜだろう。彼女から感じる雰囲気……というべきか。スピリアと話している時のような感じなんだけれど、どうみても獣人にしか見えない。

 その証拠に、彼女の頭の上にはぴょんと立った二本のうさぎの耳が生えているし、ランファちゃん達にも彼女の声は聞こえているようだった。


「……なの」

「ええと、私は、ミラ。ミラ・ムフロン。あのでっかいカマキリに遭遇して、ここまで逃げてきたんだけど……貴女は?」

『私ですかぁ? ありすはありすですよぉ。それにしてもぉ、同じ聖女でもありすとは大違いなんですねぇ……あの程度の呪い憑きも処理できないんですかぁ?』


 すたすたと足早に歩き、私の目の前までやってきたありす? さん。

 身長はアリサと同じくらいかな?

 じぃっと私を見つめた後に、ちらりとみそぎちゃんに視線を向けるありすさん。

 その後すぐに興味を失ったのか、そのまま私とみそぎちゃんの間をすり抜けてゆく。


 ふむ。同じ聖女に、呪い憑きとか。

 また、何者なのかよくわからない人物が現れたけれども。

 今日は出会いのオンパレードだね。



『ありす、ありす。出て来て大丈夫ですよぉ。敵どころかぁ、ありすのお目当てさんでしたからぁ』


 ありすさんを追うようにしてまたくるりと身体の向きを変える。

 独り言のような、誰かに話しかけているような。

 不思議な人物は双子とカマキリが戦闘を繰り広げる方へと真っ直ぐ歩いてゆく。

 何をするつもりだろうか。

 後を追いかけようとしたところで、みそぎちゃんの様子がおかしい事に気がついた。


「みそぎちゃん?」

「……えたの」

「へ?」

「やっと、見つけたの」


 みそぎちゃんのそんな呟きと共に、視界の隅で何かが一瞬輝いた。

 何から処理すればいいかわからないくらいに情報が多すぎるのだが。

 うさぎ耳の彼女に何やら小さく呟くみそぎちゃん。

 色々と気になる事が多いが現状優先すべきはカマキリの対処と決めて、俯いたままのみそぎちゃんの手を握る。


「普通の呪いじゃないですね、あれ。なんだろう……竜痕? なんで、ブラッドマンティスに竜の呪いが?」

『つまりぃ……助けてくれそうなぁあの羊さんを見つけてぇ、追いかけて来たって寸法ですかぁ?』

「もしくは、呪いに思考を誘導されているか……かな? でも、それなら他の生き物は気にも止めない気がするし」

『単純にぃ、痛みで暴れてるっていうのはどうですかぁ?』

「なんにしても、手遅れかな。竜につけられた傷は治らないし……呪いが魂に届く前に仕留めてあげるくらい」

『相変わらず、ありすはお人好しですねぇ』


 視線を上げた先の光景に一瞬思考が止まる。

 そこに居たのは二人の女の子。

 一人はさっきの、紫色の髪のありすさん。

 そして、もう一人。


 その隣に立つのは、桜色の髪の。

 髪と同じ色のエプロンドレスに身を包んだうさぎ耳の女の人。

 向かい合って互いに話しているその二人は双子のようにそっくりで、違うのは髪と服の色くらい。

 赤と青のオッドアイが互いを見ていて、鏡のよう。


「あの、えっと?」

「ああ、そうだった。ありす」

『構いませんよぉ?』

「ごめんね、びっくりさせて。色々聞きたいだろうけど、少しだけ待っててね、ミラちゃん」

「え、あ、うん?」


 桜色の女の子が私に向かってそう言って、腰の鞘から剣を抜く。

 握りにガードがついた細い剣。

 剣の先端付近には鍵のような凹凸があって、紫色のありすさんも同じ剣を抜いていた。

 何がなんだかわからないまま二人のありすさんが並んで地を蹴るのを見届ける。


 ぎゅう、と。

 みそぎちゃんと繋いだ手が強く握られる。

 目を向けた狐の少女の視線が追うのは掛けていく二人のありすさん。


「みそぎちゃんの知ってる人なの?」

「なの。ミラねーさま、あのカマキリぶっとばすの。ずっとずっと捜してたの、ぜったいにがさねーの」

「……? わかった、メイファちゃん達も心配だし、行こうか」

「なの」


 尻尾をぴんと立てて張り切り始めたみそぎちゃんに首を傾げつつ、ありすさん達……でいいのかな。

 話を聞いているに、お互いにお互いをありすと呼んでいたし、とりあえず二人ともありすさんと呼ばせて貰う事にしよう。

 金属音と雷が鳴り響く中、前方を走るありすさん達を追ってメイファちゃん達のもとへと急ぐ。


 一際大きな衝撃と共に、カマキリの大振りを受けたランファちゃんが吹き飛んでいく。

 メイファちゃんが指弾で牽制しつつ、カマキリの動きを阻害する。


「すぱーくうぇーぶ、なの」


 稲妻が迸り、カマキリの周囲に降り注ぐ。

 麻痺狙いの時間稼ぎなのは明白で、みそぎちゃんの意図を察した猫耳二人がありすさん達と入れ替わる形でこちらへ合流した。


「ミラ様、お怪我は? それと、あの二人は何者で?」

「怪我はないよ、二人こそ大丈夫? あの二人については……うん、たぶん味方だと思っていい。あと、みそぎちゃんの知り合いみたい」

「……みそぎ、本当?」

「なの。みそぎのさがしびとなの」

「捜し人って……あの人達がですか?」

「なの」


 ガキンと鳴り響いた金属音に視線を向ける。

 カマキリが鎌をはじき返されたように体勢を崩して、そのがら空きの胴体に一閃が重なる。

 二人のありすさんが交差するように立ち位置を入れ替えて、手にした剣を振るう。

 たまらず後ろに下がったカマキリと、即座に距離を詰める二人のありすさん。

 腰に巻かれた大きくて長いリボンが尻尾のようにくるくると舞い、ダンスを踊っているかのように息が合っていて。



「ヒール……それと、ブレス! これでよし、無茶したら駄目だよ?」

「御意に」

「ありがとう、ミラ様! 行くよ、ラン! みそぎはミラ様をよろしく!」


 ありすさん達がカマキリを引き受けていてくれる間に、ポーションで二人の魔力を回復させながら傷を癒しておく。

 みそぎちゃんも追加の術符を二人に渡して準備は完了。

 加勢すべく姉妹が駆けだそうとしたところで、鈴のような音が響く。



「ありす」

『ありすにお任せですよぉ……錬成、無間の槍獄ぅ』


 それは唐突に大地を貫くようにして現れた、カマキリを包囲する無数の槍。

 カマキリが身動きする隙間もないくらいに無数に、剣山とも呼ぶべきであろう光景が一瞬で。

 空に逃げるのは許さないと言わんばかりに丁寧に、少し角度をつけて突き出た槍はカマキリの動きを完全に捕らえてしまう。


「錬成、アンガーソード。再錬成、カラミティ・レイン」


 どこかで聞いた文言と共に桜色のありすさんの身の前に現れたのは、彼女の身長の数倍以上もある巨大な剣。

 その巨剣を鍵の剣で宙に打ち上げたその人は続けて言の葉を紡ぎ。


『うふふ。錬成、カラミティ・レインでぇす』


 同じように紫色のありすさんが巨剣を打ち上げ、同じ言葉を紡ぐ。

 二人の言葉に応えるように巨大な剣は姿を変えて、一本の刃から無数の槍へ。

 宙空で静止したそれらの切っ先は全て動きを止められたカマキリに向いて、今か今かと指示を待っているように見える。


「せめて、魂は呪いに安らかに、迷わないように。エンチャント・ディバイン」

『竜に襲われたのか、喧嘩を売ったのか、ありす的にはどーでもいいんですけどぉ? まあ、竜より危ない相手に出会ったのが運の尽きって奴でぇす』


 カキン、と二人のありすさんの鍵の剣が交差し音を鳴らす。

 桜色のありすさんから溢れた光は宙で待機する槍に宿り、輝きを帯びる。

 振り下ろされた二本の剣と、弾かれたように放たれる無数の槍。


 地面を揺らしながら降り注ぐ槍達は刃の檻に捕らわれたカマキリを一瞬で呑み込んで、辛うじて見える彼のHPゲージをぐんぐん減らす。

 今までの私達の苦労を嘲笑うかのようにゲージの緑色はあっという間に真っ赤に染まり、その色を黒に変えた後砕けて消える。


『腕は鈍っていないみたいで安心しましたよぉ、ありす』

「オリジナルアーツもそのままでよかった……かな?」


 戦闘が終わった事を告げるように視界の隅に戦闘のリザルト結果が流れる。

 レアアイテム取得の表示なんぞもあったが確認は後回しだ。


 今気になるのはありすと名乗る二人のうさぎさんと、みそぎちゃんの事。

 全く同じ動きでくるりと身体を捻り、消えていくカマキリと刃の残骸に背中を向ける。

 桜色のありすさんは金色の鍵を。紫色のありすさんは銀色の鍵を。


 それぞれ腰の鞘におさめたところで、みそぎちゃんが飛び出した。


「あ、みそぎちゃん!」

「みそぎ!」

「みそぎちゃんっ!?」


 私の手を振りほどいて駆けだしたみそぎちゃんはまっすぐにありすさん達へと向かう。

 周囲の警戒に回っていた双子の反応も遅れ、止めようとした姉妹もすり抜けて

 それに気付いた二人が立ち止まり、互いに顔を見合わせる。


『偶然も重なれば必然って言いますからねぇ、ありす?』

「会えたらいいとは思っていたけど、こんなに早いなんて思いませんよ……? それに、あの子は小さかったし――」

『まあ、諦めて恨み言でもなんでも聞いてあげればいいと思いまぁす』

「あ、ちょっと、ありす!」


 紫色のありすさんの姿が、砕けるように消えたのは錯覚か何かだろうか。

 代わりにそこに浮かんで居たのは薄紫色の小さな精霊、スピリアで。

 ふわりと桜色のありすさんの胸に溶けるように消えて、のこった彼女が呼び止めるように声をあげる。

 ていうか、ホントにスピリアだったんだね。


「なのぉ!」

「わ、えっ、きゃああ!?」

「みそぎ、ホント君なにやってんの!?」


 擬音で表現するなら、どかーんが正しいだろうか。

 駆ける勢いそのままに地面を踏み切り、頭から飛び付いたみそぎちゃんをありすさんが受け止めて、そのまま地面へと倒れて押し倒されていた。


 姉妹と私で慌てて駆けつけ、ありすさんを助け起こそうとしたとこでみそぎちゃんの尻尾がそれを阻む。

 仰向けに倒れた桜色のうさぎ獣人のありすさん(仮称)と、その上に重なって胸の谷間に顔を突っ込むみそぎちゃん。

 近くで見ると、エプロンドレスやうさぎの耳といい、名前のまんまな不思議の国の物語の主人公に見えなくもないなとか思いつつ。

 どうしたものかと姉妹に視線をやるもどうしようもないと首を横に振るだけで、仕方なく様子を見ることにする。


「あはは。やっぱり、禊ちゃん……ですよね?」

「なの。みそぎなの」

「私の事は忘れてって――」

「忘れるわけねーの。みそぎも、かぐらかーさまも、れおりしぇるてねーさまも、ずっとまってたの」


 みそぎちゃんの尻尾が分かれ、逃がさないとばかりにありすさんの身体に絡み付いていく。

 大の字に寝転がったままのありすさんは困ったような笑みを浮かべ、みそぎちゃんの頭を撫でて、されるがままになっていて。

 ふんすふんすと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいるみそぎちゃん。

 しかし、様子を見るとは決めたものの……その、このままだと話が進まないのではなかろうか。


「ええと、みそぎちゃんと……ありす、さん? 二人は、その……どういった関係なのかな?」


 もう一度双子と視線を交わし、私が代表で質問する事にした。

 双子もみそぎちゃんの行動と反応に困惑してはいるが、気にはなるのだろう。

 猫耳をピンと立てて、二人からの返答を待つ。

 ありすさんの顔がくしゃりと歪む。

 こちらのありすさんはなんとなく、紫色のありすさんよりも穏やかで優しそうな印象を受ける。


「……ま、なの」

「ま?」


 たっぷり数十秒ほど待って、みそぎちゃんがありすさんの胸に埋めていた顔を上げる。

 全て聞き取れずに、聞き返したメイファちゃん。

 続くみそぎちゃんの言葉を、今度こそ聞き逃すまいと集中する。

 ありすさんがさらに困ったように笑顔を深め、みそぎちゃんが身体を起こす。


「みそぎの命の恩人で、かーさまの友達で、みそぎのママなの。やっとみつけたの」


「へ?」

「うん?」

「えっと、ママ?」

「なの」


 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

 ……と、三人揃っての絶叫が周囲に響き渡ったのは言うまでもないだろう。











魔法が駄目なら物理と物量で攻めればいいじゃない

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