会議と忠告とちょこっとじぇらしー?
「とーまくん、カグラさん、状況は?」
「敵はアンデッド、人型……ゾンビと獣タイプのが多数。飛行する敵は存在していないみたいなので、上からの侵入はなさそうです」
「ミラ様、神殿側の動きを教えて欲しいんだけどね。組合としてどう動くか決めかねている」
馬車から飛び降り、二人と合流して話ながら歩みを進める。
門近くの転移者用の広場に簡易的なテントを張ってあると言うのでそっちに向かっているところだ。
肝心の門の前にはバリケード用の資材が運ばれており、兵士や神官、冒険者達が入り交じった人々が集まり外へ向かっている。
「オウル様は西以外には神殿と国から兵を出しますと。西は組合……冒険者達への依頼になると仰っていました。そして私、ミラ・ムフロンも西門にて王都防衛の任につきます」
「それは、助かるが。あの聖女様がよく許可したね」
「アンデッド討伐の実績がある者を遊ばせておく理由がありませんし、王都の危機に出し惜しみをしては民に不信感を与えるでしょう」
「こちらとしては次期聖女様がついてるってだけで気が楽になるからありがたいね」
簡易の指令部といったところだろうか。
人をかき分け、到着したテントの中に入ってカグラさんが口火を切った。
中には簡単な机と椅子と、王都周辺の大きな地図が数枚。
私とスヴィータ、とーまくんとカグラさんの四人以外に人はおらず、テントの出入り口はいつかの組合で出会った熊の獣人さんが見張りに立っている。
「それじゃあ、西の指揮はこの私、カグラが引き受けるという事で問題はないかな? 神殿側の指揮はミラ様が?」
「問題ありません、期待しています。神殿からも戦力は送られますが、主力になるのは冒険者達になりますし。私が指揮を取ろうにも素人ですので、カグラ様に任せた方がよいでしょう」
「了解した。それでは、たった今から緊急依頼として全冒険者に通達するよ。そうだね、一時間もあれば通達は完了する筈だ。それで、ミラ様と神殿騎士二人は戦力として数えてもいいのかい?」
「冒険者達を抜けてきたアンデッドの対処は請け負いますが、私が戦線に出ることは致しません。ノワイエ様からもそう命じられております」
「神殿騎士スヴィータ、神殿騎士トーマ、共にミラ・ムフロン様の護衛としての使命がございますゆえ」
「冒険者ではなく、今は神殿騎士ですからね。ぼくもスヴィータさんにも、期待はしないでください。まあ、狼くらいなら貸しますよ」
「……トーマ、いや、騎士トーマか。君の狼を借りれるだけ助かるか、うん。とりあえず今後の事を詰めよう、騎士トーマ、君は祈り人だったね、何か情報はあるかい?」
「そうですね、ではまず――」
全員で席についての作戦会議が始まった。
プレイヤーがダイアリーから得たイベントの情報は神託みたいな感じで住人たちには伝えるのが様式らしい。
ワールドクエストの詳細や敵のボスの正体などを一つ一つカグラさんに説明しながら、自分達でも情報を整理していく。
途中でテントの中に何人かの冒険者が入ってきて会議に参加してきたのだが、その中にはいつかの露店で出会った店主さんの姿もあった。
「敵がどう攻めてくるかがまだ定かではありませんので予測になりますが。少なくとも王都への侵入、また王城へ辿り着かれるのは阻止しなければいけません。本来ならば門を閉じて外で迎え討った方がよいのでしょうが、相手は生物ではなく、理性のないアンデッドです。退路の確保はしておいた方がいいでしょう」
「そのぶん、敵の王都への侵入の可能性がありますが……門の前にバリケードを設置し、万が一冒険者達が抜けられたとしても敵の動きを遅らせます。そして、門前の最終防衛線には……」
「私が立てばよいのですね?」
「お願いします、ミラ様」
途中でやってきた冒険者達も交えて組み立てた作戦というか、計画というかは単純でセオリー通りの戦略なのかな。
最も外側で遊撃を担当する、軽装前衛冒険者達で構成された第一防衛部隊。
次に足の遅い近接職達で構成された第二防衛部隊。
そしてそのすぐ背後に配置されるのは遠距離攻撃や魔法を主力にして、近接組を抜けてきた敵の処理と援護を担当する第三防衛部隊。
そして、その後方……最後の部隊である回復や支援を担当する私達、第四防衛部隊という並びになる。
門は開いたままだがそこにはバリケードを設置、私達支援担当が配置されるそこを中心にし、部隊を展開する予定になっている。
そして、この作戦の内容に関してはとーまくん達会議に参加しているプレイヤー達で掲示板とやらにすれをたてて拡散する? らしい。
言ってることはよくわからなかったけれど、とーまくんが任せてくれって言ってたから任せる事にする。
「そうだ、騎士トーマ」
「スヴィータさん、何か?」
「枢機卿猊下より装備を賜っております。受け取りなさい」
「ああ、道理でスヴィータさんの装備が変わってる訳ですね……了解です。騎士トーマ、確かに受け取りました」
スヴィータから何やら受け取ったとーまくんがダイアリーを取り出し、何やら操作すると姿が変わる。
黒一色のコート姿から、黒に金のラインが入ったロングコート姿に。
彼の両腕には同じく黒いガントレットと、その手の甲を包むようにして刃が伸びている……確か、パタと呼称される武器に似ている気がするね。
パタと違うのは、前腕部が装甲に包まれておらず両手はきちんと使えるようになっているところだろうか。
「……ノクト、情報を纏めて表示よろしく。あ、この刃部分は引っ込むんですね、防具になるのか武器になるのか気になるところですけど」
「つい先程、私も正式な神殿騎士に任命されました。騎士トーマ、とりあえず貴方はあちらの方々の対処をお願いします」
「……うへ、遠慮したいんですけど」
「有名税という物です。お嬢様に害のないよう言い聞かせておきなさい」
「了解」
とーまくんが黒かっこよくなった。
今までのとーまくんもかっこよかったけど、にゅーとーまくんも当社比いってんごばいくらいかっこよくなったね。
とーまくんの新装備、近くでじっくり眺めたかったのになあ。
スヴィータと何か話したとーまくんは彼を凝視している冒険者達の方へ行ってしまった。
何やら囲まれてぎゃーぎゃー騒ぎ始めたけどなんなんだろうか。
あ、露店の店主さんだけこっちきた。
「……おや、貴女はいつかの。お嬢様に何か?」
「どーもどーも、改めて自己紹介をしようと思って。あの時はろくに自己紹介もできなかったし……ええと、ラピスちゃんの事覚えてます?」
「ええ、覚えていますよ。あの時は助力ありがとうございました。ラピスちゃん様でよろしいのでしょうか?」
「いやいや、ラピスです、ラピス。一応プレイヤーの中ではそこそこ名前を知られてるんで、魔王様……トーマくんの召集に応じて参戦しました! よろしくお願いします、聖女ちゃん!」
「……ミラ様、もしくは次期聖女様、です。その首繋げていたいのなら、口のきき方には気を付ける事です」
「ふぁい」
途中まで普通の挨拶だったんだけどなぁ。
ラピスさんの首筋には刀が添えられていて、その背後にはスヴィータが。
別に聖女ちゃんでも間違いではないんだけど、表向きにはアリエティスの次期聖女だし色々と問題が起きそうな呼び方にもなるのだろうか。
まあ聞く人が聞けばノアさんを軽視しているようにも見えるし、スヴィータの行動はラピスさんの為でもあるのだろう。
「ラピス様。今の私はアリエティスの聖女、ノワイエ・ムフロン様から正式な命を請け、次期聖女としてこの場におります。今この場には私と、神殿騎士二名しかおりませんが、もし他の神官が聞けばラピス様が不敬罪に問われるやもしれません」
「……祈り人だからと、驕らない事です。貴女方祈り人、プレイヤーと呼ばれる者達がいかに不死の存在であろうと、それ以上に大きく強大な流れに押し潰されれば、その不死性など塵に等しいものであると魂に刻みなさい」
「わ、わかった、わかりましたから! 他のプレイヤーにも言っときますんで、お許しを!」
スヴィータが刀を引いて、私の側へ戻る。
腰の翼を完全に広げて警戒状態のスヴィータに気押されて、解放されたラピスさんがそのまま床に尻餅をついた。
こっちの詩乃さんは若干沸点が低いと思うのは気のせいかなー。
「メイドさんこっわ、こっわ……」
「祈り人の行ってきたお嬢様への不敬の数々を忘れたとは言わせません。そして、その末路もです」
「あー、魔王様のお仕置きは勘弁願いたいわ……うん、ごめんなさい、ミラ様」
「構いませんよ。ですが、本当に気をつけてくださいね? 私が許しても、お母様やオウル様がお許しになるとは限りませんから。次期聖女と言えど、法や国からは庇えませんからね?」
ていうか、魔王様ってのがとーまくんだってのはわかったんだけど、とーまくんのお仕置きってなんなんだろうね。
スヴィータは知っているような口振りだけど、たまにスヴィータととーまくんだけがわかっていて私がわかってない話とか多い気がするんだよね。
詩乃さんとアリサの間でも同じような事がある気がするし、ううむ……なんていうか、ずるいよね。
「ミラ様、通達完了したよ。本格的な進行が始まるであろう三日後まではそこまで敵の勢いもなさそうだし、適度に狩りつつ門に兵を常駐させておけばよさそうだ。勿論、アンデッドの数を減らすために討伐依頼は出しておくけど……ラピス、あんた何やってんだい?」
会議で決定した作戦と情報を伝えにテントから退出していたカグラさんが戻って来た。
その背後には見たことのない秘書っぽい人が書類を片手に控えていて、私と目が合うと頭を下げる。
眼鏡の似合う知的美人さんといった印象で、頭の上にはカグラさんと同じ狐の耳が生えていた。
「本格的な作戦開始はトーマの情報にあわせて三日後……と言いたいが、多少の前後も予想して二日目の夕方からとした。国と神殿両方からの依頼も確認したし、内容にも報酬にも不足はなかったからね。組合としても全力以上で取り組ませてもらう」
「次期聖女様には専用のテントを用意致しますが、作戦開始までは聖区で待機していただいていても問題はないかと思われます。何かあれば馬を飛ばしますので……失礼しました、総長カグラの補佐をしております、イナリと申します」
カグラさんの言葉を引き継いで言葉を続けるのは背後にいた美人さん。
イナリさんと名乗った彼女はザ・秘書と言った感じで、スヴィータに通じる何かを感じられる人だね。
「ミラ様、プレイヤーへの通達も完了しました。トップ組でそれぞれ呼び掛けておいたので、統制も取れると思います。迷子、作戦の内容は理解してるね?」
「アンデッドの強さは大したことないけど、耐久性も数も厄介きわまりないのがアンデッド。三日後の侵攻が始まる前の今のうちに出来るだけ数を減らして、リッチやら死霊術師に統率されて襲ってくる前に脅威を減らす、だよね?」
「東西南北、まんべんなく狩るように伝えておいて。ここの運営のやることだからね……西だけ狩ってたら三日後の本番で他の門が破られましたなんてことになり得る」
「確かに。んじゃ、フレ通して指示出しとくねー」
……なんか、とーまくんとラピスさん、仲良し?
どういう関係なのか、私、気になるなー?
詩乃さんだけはリアルとゲームでやることもスタンスも変わってない




