苦情と誇りと神殿騎士
「ところでよ、総長。王都の防衛するのはわかったけど、わざわざ戦場に出て来てまでガキのお守りするのはごめんなんだが?」
「ガキってのは、ミラ様の事かい?」
「それ以外にいねーだろ?」
さて、作戦の通達も終わり解散としようとしたところで一つ、声が上がった。
声を上げたのは集まったプレイヤーのうちの一人で、大きな盾を背負った男性の獣人。
その背後に五人、おそらくパーティーメンバーらしき人達が並び、その男性の言葉に同意するように頷いている。
それ以外の集まってくれたプレイヤー達は遠巻きに離れて行った。
彼らは……確か、会議が半分以上過ぎた頃に入ってきた人たちかな?
「先日の王女がアンデッドに襲撃された事件、それを救いだし、大半のアンデッドを討滅したのがこちらにいらっしゃるアリエティスの次期聖女、ミラ様だと説明した筈だが?」
「実際どうだかわかんねーだろうがよ。そこの聖女サマが討伐してたところを見た奴なんざいねーんだし、本当はすぐに逃げ出してきたのかもしんねーし?」
「……それは、お嬢様。ひいては神殿へ対しての侮辱と取ってよろしいですね、カグラ総長?」
「ああ、落ち着いてくれ、騎士スヴィータ。お前達、発言に気を付けろ」
案の定スヴィータが刀に手をかけ、それをカグラさんが抑える。
とーまくんは私の斜め前に立って、ガントレットをつけた手をぐーぱーしながら虚空に視線をさ迷わせている。
たぶん、新しい装備の詳細とかを調べてるんだろう。
「別に、お前達が直々に護れと言っている訳ではないし、彼女の護衛には騎士スヴィータと騎士トーマがいる。お前達は目の前のアンデッドに集中していればいい……それでは不満か?」
「ああ、不満だね。そもそもその聖女サマが出てこなきゃ魔王がわざわざ護る必要もねーし、魔王が前線に出ればもっと楽に終わるだろーが? お偉いさんならお偉いさんで、でしゃばらずに引っ込んでろって言ってんだよ」
「……だ、そうだが、騎士トーマ」
「ああ、それじゃあ狼を貸す話は無しで。ぼくはミラ様と引っ込んでる事にするんで、自分達で頑張ってください」
「はあ!? お前、協力しないつもりかよ!」
ううん?
この男性は私が頼りないって言いたいのかな?
わざわざここまで出てこずに王都に引っ込んでたらとーまくんが護衛から離れて防衛に出られるから、自分達が楽をできる……って言っているように聞こえるね。
とーまくんが魔王って呼ばれる有名プレイヤーなのは理解した。
なんで魔王とか呼ばれてるかの理由はわかんないけど、イベントで優勝できるほど強いのなら彼が言いたい事もわからなくもない。
しかし、だが。
彼らは、私の騎士で、それを仕事にしているという事の意味を理解しているのだろうか。
「悪いけど、ぼくは彼女の騎士だ。ミラ様が安全なところに隠れるって言うなら、その側で護るのがぼくの仕事なんだよね。で、ぼくの狼達も彼女にはなついているから、どちらかと言うとくっさいゾンビを相手するより彼女を護るほうがやりがいも感じてくれるだろうね」
「護衛が大事なら、そこのメイドに任せればいいだろ」
「君さ、ぼくは神殿騎士っていう、仕事をしてるんだよ。彼女を護り、彼女に弓引く者を断罪するのが神殿騎士の仕事なの。神殿からきちんと給与も出てるし、見ての通り、さっき説明した通り、こうやって彼女を護る為の装備も支給されてる訳」
ジャコン、と。
金属音と共にとーまくんのガントレットから刃が飛び出す。
そのまま腕を伸ばして刃を男性へ向けたとーまくん、半歩横にずれて私の前に立ち、それと同時にとーまくんの足元から一匹の狼が姿を見せた。
「そんなぼくに、護衛対象を同僚一人に任せて戦場に出て働けって? 彼女の護衛はぼくの仕事で、聖女様直々に命じられたぼくの誇りなんだよ、わかる? そもそも、君さ、ぼくがどれだけ苦労して神殿騎士になったと思ってんの? それともなに? 君は自分の任された大事な仕事の途中に、それを放り投げて他のどうでもいい事しろって言われて、はいわかりましたって納得するわけ?」
「お、王都の防衛はどうでもいい事じゃねえだろ!」
「そうだね。そのどうでもよくない王都の防衛に、わざわざ、聖女様の指示で足を運んでくれた次期聖女様を邪魔者扱いして、その護衛をいいように使おうとしてるのが君達な訳だ」
カグラさんが助けを求めるような目で私を見てるけど、今のとーまくんは怖いので私はノータッチです。
スヴィータはスヴィータで完全に翼広げてとーまくんの隣に立って威嚇してるしで、正直かける言葉が思い浮かばないのが本音だよ。
『みーりゃ、たたき、のめすー?』
『サビク、いけませんよ。たたきのめすだなんて、生ぬるい』
『おねーちゃんおねーちゃん、たぶん言ってることおかしいよ!』
精霊ズまでオラオラモードでどうしたものかね……うん?
叩きのめす、か。
彼らの言ってることって、そういう事なのではなかろうか?
「つまり、あなた方は私の力に不安があると、そう言いたいのですね?」
「ちょ、ミラ様!?」
とんとんとスヴィータの背中をつつき、横にずれてもらう。
とーまくんとスヴィータの間に挟まるように前に出て、男性プレイヤーを見上げた。
何の獣人なんだろう、丸い耳だね。
目が合ったのでにっこりと微笑んで見せる。
視線をそらされて……そのまま私の胸に視線が行ったね、左右から感じる殺気が増し増しだね。
「お嬢様、お下がりください。話をするだけ無意味でしょう」
「そうですよ、ミラ様。こいつらはぼくがどうにかしますし、言葉でわからないなら力ずくでも黙らせますんで」
「力ずくで黙らせられるならやってみろよ! ちょっとレアなスキル持ってるだけで魔王とか呼ばれてるだけのくせに……」
「ええ、ですから。私達とあなた方が戦って、私があなた方に勝てれば、よろしいのでしょう?」
「は?」
「お嬢様?」
「ミラさん?」
「ちょ、何言ってんだい、ミラ様!?」
え、だって手っ取り早く解決できそうじゃないか。
*
という訳で場所を変えてテントの外の広場のはしっこ。
ざわざわとギャラリーに囲まれる中で、対峙するように立つのは私達三人とカグラさん、そして相手の男性のパーティー六人組。
私の力が信じられなくてごねてるなら、見せてあげれば解決するじゃないか、なんですぐに思い浮かばなかったんだろうね。
相手の男性はどうしてこうなったみたいな顔でパーティーメンバーと顔を見合わせているけれど、話を聞いていた他のプレイヤー達に即囲まれてしまって逃げるタイミングは失ってしまったようだ。
「こちらは私と騎士トーマ、騎士スヴィータの三人で。あなた方は六人で構いませんよ……カグラ総長、こういう場合のルールなどはどうなっているのでしょう?」
「手帳持ち……この中ならあいつらと騎士トーマだね、そいつらが使える決闘用の結界魔法があるから、それを使えばいいよ。それを使えば死ぬことはないから安全に戦えるし、周囲への被害も無くせる」
「お、おい、聖女サマの力を見せるんじゃねーのかよ! 魔王とメイドが参加なんて――」
「この二人は私に剣を捧げ、私の為に命を賭けると誓った騎士なのですよ? 私が、私の剣を振るう事に……何か、問題でも?」
「神殿騎士として、お前達に強制決闘を執行する。逃げられると思うな」
「同じく、神殿騎士として。我が主を侮辱した罪、身をもってその愚かさを知りなさい」
とーまくんの刃とスヴィータの刀が重なり、金属音を響かせる。
私達三人と相手方の六人を包むように足元に巨大な魔法陣が広がって、ドーム状のうすい壁が周囲を囲む。
目の前には決闘モードと書かれた通知と、細やかなルールのような物が表示されていく。
相手を全滅させるか降参で勝ち、この結界内で倒されても死亡にはならず、決闘が終わったら無傷で元に戻るらしい。
「なんだよこれ、俺らは了承してねーぞ!?」
「神殿騎士としての技能だよ。相手が何者であれ、聖女様を護り、降りかかる火の粉を確実に払うのがぼくたち神殿騎士の任務であり、使命だからね。本来ならデスペナルティ二倍で牢獄送りにするところを、ただの決闘で許してあげるんだ、ありがたく思ってくれていいよ」
「騎士トーマ、神剣の試運転をするのはどうでしょう。お嬢様、剣を抜く許可をいただいても?」
「許可します。存分に、力を見せて差し上げましょう?」
そんなに距離はなかったのだが、結界が広がり空間を押し広げていき結界の範囲は半径百メートルくらいの円形にまで広くなった。
それと同時に目の前に三十から順番にカウントダウンが開始する。
「ちょうどいいので、ぼくが何故魔王って呼ばれるのか見せてあげますね、ミラさん」
「それは私も気になっていましたので、期待させてもらいましょうか」
「つまり、とーまくんの本気ってこと? じゃあ私もはりきっちゃおうかな!」
「お嬢様、口調が戻っておりますよ」
とーまくんが弓を、スヴィータが刀を。
私も腰から二本の短剣を引き抜き、逆手に握る。
向こうのパーティーも観念したのか、リーダーの男性が大きな盾を、後は両手で握る大きな剣だったり、槍だったり。前衛三人、後衛三人という構成のようだ。
「お嬢様、前には出られませんよう」
「そうですね、ミラさんは援護をお願いします。まあ――」
残り十秒になったところでとーまくんの足元の影が広がると、もはや見慣れた四匹の狼達が飛び出した。
私を一番後ろにしてとーまくんとスヴィータが立ち、その前に狼達が並ぶ。
そして、残りが五秒になって、三秒になり、向こうのパーティーも臨戦態勢に入ったところで。
「ミラさんの手を煩わせるまでもありませんけどね。喧嘩を売る相手は選ばないとどうなるかを教えてあげましょう。ていうか、ぼくに勝てると思ってるのも少しムカつくんで」
「神剣抜刀。お嬢様の直衛は任せますよ、騎士トーマ」
「神剣抜刀。前衛は任せますよ、騎士スヴィータ。……ヴォルフ、手加減は無しだ。殺れ」
ヴォルフの遠吠えと共に、三匹が続いて吠える。
ぞわりと背筋を走る悪寒のようなもの。
とーまくんの影から現れた四匹の狼たち。さらにその影から、結界を埋め尽くさんとする程の無数の狼が溢れだしてくる。
その全てが黒くて、次から次へと飛び出しては整列していく。
ザ・ナンバー・オブ・ザ・ビーストだっけ。とーまくんの言った通りなら、合計で四百四十四匹の狼が居る事になるのかな。
スヴィータがその中の一匹の背中に飛び乗って、新しい方の刀を手に鯉口を切る。
「とーまくんとーまくん、私、前衛……」
「我慢してください。あり得ないとは思いますが、万が一敵が来たら殺ってもいいですからね」
「とーまくんはどうするの?」
「勿論、自分の仕事をしますよ」
カウントがゼロになりスヴィータを背にのせた子を含めた大量の狼が一斉に地面を蹴る。
向こうも盾持ちが前に出て、後衛が弓を構えたり、魔法を唱え始めたりして、狼達を迎撃しようと身構えていく。
とーまくんはいつものように弓を構えて、何もない場所に不可視の何かをつがえる。
うっすらと細長い何かが見えたところで、両腕のガントレットから伸びている六十センチ程の刃が気になった。
「とーまくんとーまくん、そのガントレットの剣、邪魔じゃないの?」
「ああ、いいんですよ。これ、矢ですから」
とーまくんの握る弓は少し上方を狙い、弦が弾かれると同時に刃が光を帯びる。
弓を構えている方の腕の刃の尖端からは無数の光線が放たれて、放物線を描くように飛んでいって向こうの陣地に降り注いでいく。
「魔力矢の完全上位ですね。これ、近接戦闘でも剣として使えるんで、うん、今まで以上に負ける気がしませんよ」
遠くから悲鳴が聞こえたのはたぶん気のせい。
……わたしホントに何もしなくてよさそうな気がするなあ。
ホーリーライトでも撃っとこうかな。
主人公含めて血の気が多い奴しかいない気がするのはきっと気のせい




