取引と契約とデイウォーカー
という訳で、とーまくんとスヴィータを引き連れ、ノアさんに見送られながら冒険者組合へやってきた。
流石に馬車で乗り付けるのはあれなので徒歩で、服装は黒のドレスに白のヴェール。
外出する時はこれが基本のスタイルになりそうだなーとかどうでもいいことを考えながらスヴィータを先頭に組合の建物へ。
「そういえば二人は正規冒険者にはなってるの?」
「ぼくはなっていますよ」
「私も正規でございますね」
「ポーションの納品もカードでやればいいのかなあ?」
「ああ、それならカウンターに行った方がいいですよ。評価点の上がりがいいですからね」
「三十程残して納品するのがよろしいかと」
ざわざわと喧騒に溢れる建物の中。
組合のカウンターにはそれぞれ列が出来ていて、その中から買い取りのカウンターを探す。
ちらちらと視線を感じるが、これはまだ許容範囲内だ、絡まれない限りはスルーでいいだろう。
とーまくんとスヴィータと連れ立って、見つけた買い取りカウンターの列に加わる。
並ぶのは私一人でいいと思うのだが聞き入れて貰えず、かと言って代わりに並んで貰おうとしてもそれはダメらしい。
「おや、そこにいるのはミラ様じゃないかい?」
「あら、お久しぶりです、カグラ様」
「トーマ、君も居るんだね。そっちのメイドさんははじめましてかな?」
「どうも、カグラ総長。表に出てくるなんて珍しいですね」
「お嬢様のメイド、スヴィータでございます。以後お見知りおきを」
もう少しで私たちの番だなーって時に声をかけられる。
一瞬で頭の中を聖女モードに切り替えてそちらを向けば、そこに居たのはカグラさん。
以前組合に来たときに出会った、冒険者組合総長……トーマ君曰く、プレイヤー間ではギルマスと呼ばれているらしい。
カグラさんに手招きされたので、後ろの人に順番を譲って列を抜ける。
喧騒と視線が増した気がするが、まあいいか。
「今日はどうしたんだい? 狩りの帰りには見えないね」
「ええ、ポーションが不足していると聞きましたので。お母様にも薦められて、こちらに納品に参りました」
「ほう、ポーションを? それは助かるね……物を見せてもらっても?」
「素人の作ですが」
列から抜けた後はカグラさんについて備え付けのテーブルへ。
私だけが座らされ、とーまくんとスヴィータが私の両脇を固める。
その正面にカグラさんが腰を下ろし、インベントリから取り出したポーションを一つ手渡した。
「ほう……これは。何本ある?」
「HPポーションが三十、MPポーションが二十、キュアポーションが十ありますね」
自分用にMPポーションを多目に残しておいて、残りの数を伝える。
しかし、これだけ人数がいるとたったこれっぽっちのポーションじゃ全然間に合わないんじゃないかなあ。
「素人作と言ったが、これを作ったのは?」
「私です」
「そうか……ふむ、よし。私の部屋に来てくれ、そっちで話そう。そこの二人もいいかい?」
「ええ、構いません」
「ここよりは安全でしょうし、いいですよ」
「妙な気はおこしませんよう」
手渡したポーションをじーっと見てから、その一本を懐にいれつつカグラさんが立ち上がり、提案する。
一瞬、彼女の目線が私達の背後……冒険者達のたむろするスペースを一瞥して眼光を走らせたのを見逃さなかった。
前回みたいに変な奴が出てくる事を警戒したのだろうか?
別にポーションの納品くらいこの場で済ませてもよさそうに思うのだけど。
カグラさんが職員を一人呼びつけ、一言二言言葉を告げた後、そのまま組合の奥にある総長の部屋までついていく。
そしてまた、いつかのようにカグラさんと対面してソファに腰を下ろした。
「全て買い取ろう。高品質のポーションは特に不足しているからね、大歓迎さ」
「流通のほうはまだ戻ってないんですか?」
「ああ、徐々に戻ってはいるんだがね。錬金術師の量産した普通品質のポーションは入ってくるが、高品質のは調薬での手作業だからね……薬師の数も少ないし、需要に供給が追い付いていないのが現状さ」
「というと、さっき組合にたむろしてた連中は……」
「ポーション待ちの奴らさ。一般店舗のポーション入荷はまだ限度があるからね……そうでなくても荒っぽい連中で、中には入店禁止を通告されたバカどももいる」
「成る程。確かに、そんな中でポーションの取引なんてできませんね」
ううん?
さっき組合に居た何人かはポーションが欲しくてたむろしてたなら、そのまま売ってあげればよかったのでは?
「お嬢様。品質の低い物ならまだしも、高品質のポーションを個人で作成できる薬師は現状それほど多くなく、薬師が作成できるポーションの個数も限られております」
「え、うん」
「世の中の人間が全てそうとは言いませんが、自分中心にしか物事を考えられない人間と言うものは存在します。あのままあの場でポーションの取引を行っていれば、まず間違いなく自分に全て売れだの、自分にポーションを作れだのと口にする輩が現れていたと思われます」
「その通りだ。我々組合としても、貴重な薬師は庇護する義務があるからね。ただでさえ巷で人気の次期聖女様だ、何かあったら私の首が飛んじまう」
ふうむ、成る程。
確かに、一人に全部売れとか言われても無理だし、その取引を見てた人が後からやってくるかもしれないって事かな?
その為にこうやって、一般の冒険者が立ち入れない場所に案内したって事かな。
……うん? それこそ最初からカードを使っていればよかったんじゃ?
「とりあえず全部出してもらっていいかい?」
「ん、これだけだよ。もう少しあるけど、それは自分達で使う用」
「どれもいい感じだね……うんうん。これらを定期的に納品するのは可能かい?」
「作るだけなら可能だけど、素材が集まるかどうかかなあ?」
「ふむ……ポーション素材の収集依頼を少し力を入れておこう。素材はこちらから提供するなら、作成、納品は可能かい?」
「うん、素材を用意してもらえるなら作れるよ」
「それじゃあ、商談と行こう。まず、今回のポーションの買い取りの値段からだが――」
「ミラさん」
「お嬢様」
「「ここはお任せください」」
「え、あ、うん……よろしく?」
この後めちゃくちゃ白熱した値段交渉やらその後の契約についての話し合いが行われたそうな。
……私? サビク達と遊んでいたよ。
*
「いい取引が出来たよ……うん、トーマ、スヴィータ、覚えとけよお前ら」
「今のぼくは神殿騎士トーマですからね。主優先ですよ、優先」
「メイドですので以下略」
尻尾の毛までむしられたような顔をしたカグラさんに見送られて、総長の部屋を出る。
代金と今後の契約書を持ってきた職員さんに案内して貰って建物を後にした。
今回はあの二人組は居なかったね。
「次からは人を使って持っていって貰ったらいいんだっけ?」
「ええ、そうしたら組合のミラさんの口座に振り込まれる手筈です。素材は聖区へ届けてくれるので、それを使ってポーションを作成、納品。数の指定はありませんので、完成したポーションをある程度纏めて納品すれば大丈夫です」
「りょーかいだよとーまくん。この後のエスコートは任せるよ」
「そうですね、それじゃあ北にでも行きましょうか。あそこならぼくがいれば危険はないと思いますし……あ、でも、この前みたいに勝手にうろうろしてボスにちょっかいかけるのは勘弁してください」
「お嬢様? その話、詳しくお聞かせ願えますか?」
後ろからがっしりと肩を掴まれる。
メサルとティムは既にダイアリーに入り込んでいるのでスヴィータの手に潰されるなんて事はなかった。
プレイヤーから触ろうとするとスピリアはすり抜けるらしいから実際に潰されたりはしないんだけどね。
それよりもスヴィータの視線が背中に突き刺さっていて怖いです。
『ミラ様、諦めてお説教されてくださいませ』
『熊さん強かったもんねー』
『ぴー?』
精霊たちは頼りにならなそうなので、とーまくんに視線を向ける。
黙って首を横に振られた。
くるりと私の身体が回転させられ、目の前にはスヴィータの真顔が。
「えーと、詩乃、さん?」
「お嬢様? ゆっくり、オハナシ、しましょうか?」
「ほ、ほら、あのときは私聖女とかじゃなかったから」
「問答無――」
「――アンデッドだ! まだ昼間だってのに、アンデッドが出やがった! しかも大群だ、総長!」
スヴィータの言葉を遮るように響いたのは騒がしい数人の足音と、誰かの叫び声。
そして、すぐそばにあった組合の扉が勢いよく開かれる音だった。
カグラさんお久




