予定と秘薬と親バカ・極
「……ふう、こんなものかなあ?」
あれから二時間ほどポーション作成に時間を使ってひたすら量産してみた。
薬草と同品質のポーションはほぼ確実に作成できるようになっているけれど、これもアスクレピオスの称号とかの補正がかかってこそなのだろうか。
薬草の品質以上のポーションを作ったりは出来たりするのかな?
「お疲れ様です、ミラ様」
「ありがと、そっちはどう?」
「お弁当の準備も完了致しました。それではお茶に致しましょうか」
「そうだね。作ったポーションはインベントリにしまっておこう。メサル」
『かしこまりました』
完成した百本程度のポーションをインベントリに放り込み、機材の片付けをして小部屋の外へ。
錬金術を使えば、調薬の倍以上の量を作れるらしいというのはスヴィータ談だが、やはり品質は低いらしい。
普通のHPポーションの回復量は品質Cで最大HPの20%。それがC+になると22%、Bになると25%になる。
Aに至っては30%で、これは中級HPポーションの品質Cと同程度らしい。
私が量産したのは品質B+のポーションなので、回復量は27%……だと思っていたのだが、手元にあるのは回復量29%のポーションだった。
これも称号効果か何かなのだろうか?
「あら、ミラちゃん。そっちにいたのね?」
「お母様? おはようございます」
「ええ、おはようミラちゃん。お部屋は気に入ってくれたかしら?」
部屋に戻ると、ちょうど寝室へ続くドアから顔を出したノアさんと視線が合った。
どうやら寝室に居なかった私を捜しに来たのかな? スヴィータが予定を伝えに行った筈だけど、生産するとは言ってなかったもんね。
「ん、わざわざ用意してくれたんだね、ありがとう、お母様。素材までたくさん、助かります」
「おはようございます、ノワイエ様。ご一緒にお茶は如何でしょう?」
「ふふふ、他にも欲しいものや必要なものがあればちゃんと言ってね? それじゃあ、一緒させて貰おうかしら」
ソファまで移動して、スヴィータがお茶とケーキを用意する。
最早すっかり馴染んだ光景のように思えるね。
スヴィータの用意したケーキは現実で食べるものと同じくらい美味しくて、その再現率に驚かされる。
味覚や聴覚の再現に、風や空気の感じなど、この世界がゲームだと忘れそうになってしまうのは私がこういうゲームをやり慣れていないってだけが原因ではないと思う。
生産にしたって、スキルのレベルよりも重視されるのは個人の腕前……プレイヤースキルと言うものらしい。
そう考えるとニーナさんが調薬の師匠だというのも運が良かったのかな。
彼女のしていることをトレースしているだけだからね。
「ミラちゃんは、この後どうするの?」
「ああ、その事なんだけど。この作ったポーションとかどうしたらいいかなあ?」
「見せてくれる?」
話は変わって今後の予定にシフトする。
外にレベル上げしに行くのは決まってるんだけど、流石に百本ものポーションは必要ない。
スヴィータも言っていたし、どこかに納品するなりして役に立ててもらう方がいいかなとノアさんに尋ねてみた。
「流石ミラちゃんねぇ……今すぐにでも聖女交代できそうね。冒険者組合にでも持っていってあげたらどうかしら? あそこは特にポーションが不足してるみたいだから、喜ばれると思うわ。ちゃんと買い取って貰ってね?」
「冒険者組合ね……わかった。その後は外にレベル上げに行こうと思ってるんだけど、いいかな?」
「……必ずスヴィータと騎士トーマを連れていく事、二人の側を離れないこと、二人の指示には従うこと。決して無茶はしないで、不利だと思ったらすぐに逃げる事。夜になる前には帰ってくること、あとは……そうね、これを持っていきなさい」
「……これは?」
「リザレクトブレスポーション。死者蘇生の秘薬よ」
「いやいやいやいや」
なに取り出してくれちゃってるのこのお母様。
思わず手に取ってしまったけど、蘇生アイテムってかなり貴重なんじゃないの?
心なしかスヴィータも固まってるみたいだし、受け取ったらダメな奴だよね絶対。
「いい、ミラちゃん。貴方は祈り人である事は他の祈り人に隠していたいんでしょう? もし何か合ったときに貴方が普通に復活したりしたら、その時点でアウトなの。その点、それを……そうね、スヴィータ辺りに持たせておけば、言い訳にはなるでしょう? 何もないのが一番だけど、貴方は私の娘で次期聖女でもあるの。むしろ、何も備えをしていない方が不自然、わかる?」
「あー、うん、お母様の言うことは、わかる」
「だから、ちゃんと持っていってね。あ、でも誰かにあげたり見せたりしちゃダメよ? 製法についてはミラちゃんがもう少し成長したら教えてあげるからね」
「まってまってお母様一本はわかるけどふやさないでまって」
「スヴィータ、持っていきなさい。ミラちゃんもスヴィータの為に持っておきなさいね。ああ、組合に納品するのとは別に、ちゃんと自分の分のポーションは取っておくんですよ」
ノアさんが取り出した蘇生薬は合計四本。
私が手にしている一本を除いた三本をスヴィータがノアさんから受け取り、大事にインベントリにしまいこむ。
確かに、NPCは死んだらそれまでで、死に戻りなんて言葉は存在しない。
今まではなんとか切り抜けてこれているけれど、今後もそう上手くいくとは思っていない……けど、その事については意識していなかったのも事実だ。
きっと、私に渡したぶんはスヴィータに何かあった時にって事なんだろう。
本当に、ノアさんには頭が上がらないなぁ。
「それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。王城に伺う日程は向こうに伝えておいたから、返事が来たらまた教えるわね」
「ん、行ってきます。とーまくんを呼びにいかなくちゃいけないかな?」
「その必要はないわよ? 騎士トーマ、入室を許可します」
「は。失礼しますね、ミラさん」
「わ、とーまくん、いたの? なんで部屋の外に?」
「これでも護衛騎士ですしね。外に行くんですよね、任せてください」
ノアさんがこっちに来たときから部屋の外で待機していたらしい。
今のとーまくんはこの間の騎士服ではなく、いつもの黒いコート姿だった。
今日は騎士服じゃないのかと聞けば、個人でメインの武器やスキルがかわるから、騎士服の着用は義務じゃなくて公式な場や公務を行う時の正装として使うんだって。
「スヴィータ、彼にも一本預けておきなさい」
「かしこまりました。トーマ様、これを」
「はい? なんですかこれ……って、蘇生薬!?」
やっぱり、ぽんと出していいアイテムじゃなかったんじゃなかろうか。
とーまくん一瞬取り落としそうになったし、とーまくんが動揺してるところって珍しいね。
「騎士トーマ、私の娘を頼みましたよ」
「……わかりました、この命に代えてもお護り致します」
「スヴィータ、貴女も」
「勿論でございます」
レベル上げにいくだけで大袈裟だなあと思うことはない。
例え復活出来るとわかっていても、大事な人が死ぬと思えば平気でいられる筈がないんだ。
ノアさんはNPCで、聖女として、たくさんの人が死ぬのを見てきたんだと思うから。
そのなかには一人くらい、大事な人だっていたんだろう。
アリエティスの、お母様も含めてだ。
『いやいやー、これは、ただ親バカこじらせてるだけだ、ぜー?』
『救いようのない親バカでございますね』
『私もミラちゃんには死んでほしくないよー!』
『ぴ。ぶれすぽーしょん、つくる』
身も蓋もないなうちの精霊達は。
要人だからね、しかたないね。
しかたない、わかるね?




