小部屋と親バカと調薬仕事
抵抗むなしく馬車に放り込まれ、テティスさんの店まで連行されて着せ替え人形になった。
着せ替え人形扱いは慣れているとは言え、現実でもゲームでも頻繁に味わうと言うのは流石に勘弁願いたいものだ。
今回も例に漏れずに護服で仕立てるとの事で、トーマ君ですら若干引いていた。
いやね、本当にいい値段するんだよね、これ。
今着てるテティスさんが仕立てた黒いドレスといい、ゲーム始めたてのぺーぺーじゃ逆立ちしても手を出せるような代物じゃあないとかなんとか。
「この装備があれば西の森も余裕そうですね……この騎士服も結構な性能してますけど、私用には出来ないですし」
「私のメイド服も護服でございますよ、トーマ様。ふふん、羨ましいでしょう」
「……ええ、正直羨ましいです。んー、神殿騎士の上の方目指してみようかな」
あれじゃないこうじゃないとあれこれしてる間に、あっという間に時間が過ぎた。
なんとかドレスを決めて、やる気に満ちたテティスさんに見送られてそのまま聖区へと帰宅した。
「ミラちゃん、また本の続きにするの?」
「うん、そうしようかな。あ、でも時間が怪しいから……お母様の予定は?」
「ふふふ、今日はもう予定はないの。それじゃあ、ゆっくりしてましょう?」
「お茶をご用意致しますね」
ログアウト予定の時間までノアさんとたわいない話をして、文字通りゆったりとした時間を過ごした。
ゲームなんだからレベル上げとか色々とした方がいいのかもしれないけれど、こうやってゆっくりした時間を過ごしていたっていいだろう。
なにやらワールドクエストとやらが進んでいるので、ずっとゆったりしている訳にもいかないだろうから、今だけの贅沢かもしれないからね。
「それじゃあ、お休みなさい、ミラちゃん」
「うん、お休み、お母様」
「私も、失礼致しますね、ノワイエ様」
「ええ、スヴィータもお疲れ様、今日もありがとう」
「勿体なきお言葉でございます」
ノアさんに見守られながらベッドに潜り込んで、ログアウトの準備をする。
王城からの呼び出しについては、次にこっちで目覚めた時に予定を伝える事にしておいた。
スヴィータも同様にログアウトの為に自室に戻り、部屋には私とノアさんに、精霊達。
『またねー、ミラちゃーん』
『お休みなさいませ、ミラ様』
『ぴ、みーりゃ、おやすみ!』
『うぇーい、魔女の弟子とか、やる、ねー。のあーが、なんか手配してたしー、次起きたら、小部屋見るといい、ぜー』
最後にシェラタンが不穏な事を言っていたが、そのままログアウト。
そういえば、スヴィータの精霊とはまだ会えてないなあ……ログアウトしたら、聞いてみようかな。
そんじゃ、おやすみー。
*
……で、翌日。
特に用事も無かったので日課を済ませていつもの時間にゲームにログイン。
現実のほうでの予定を確認し、こっちで王家に出向く日にち等も詩乃さんと擦り合わせておいたから問題はないだろう。
ぱちりと瞼を開けば、見慣れた景色。
身体を起こせば、ぴっと鳴きながらサビクが飛んでくる……なにしてんの、ティム。
『おはよーミラちゃん!』
『みーりゃ、おはよ!』
『おはようございます、ミラ様。今日の予定は如何しますか?』
サビクを持ち上げながら飛んできたティムを二人まとめて受け止めて、サビクはいつものポジションに。
遅れてメサルがやってきて、メサルティム揃ってから両肩に。
「今日は薬草の採集ついでにレベル上げとかしようと思ってるよ。あ、でも少しだけ本の続きを読んで行こうかな?」
『かしこまりました。先程までノワイエが居たのですが、人に呼ばれて退室して行きました』
「そっか。外に出るときはお母様に報告してからになるだろうし、その時に顔を見せに行こうか」
『ミラちゃんミラちゃん、ミラちゃんが寝てから人が沢山きてねー、小さなお部屋になんかいっぱい運び込んでたよー!』
「……そういえば、落ちる前にシェラタンが何か言ってたね。メサル、何か知ってる?」
『ノワイエが重度の親バカである証明がなされただけでございますね。ご自身でご確認ください』
「だいたい、予想はついちゃうけどねぇ」
ベッドから降りて自室へ戻る。
本棚が二つほど増えていて、そこに見覚えのない本とか昨日読む予定だった本とかがぎっしりと詰まっていたが、今はスルーして部屋にある出口ではない扉の一つへ向かう
ティムに案内されたのは左側の小部屋。
恐る恐るドアノブを握り、開く。
目の前に現れたのは……想定通り。
「やっぱり、調薬用の機材類かー」
『キッチンや錬金台もありますね……ある程度の生産活動なら支障なく行えそうですね』
『ミラちゃーん、こっちには調薬関連の本とかもあるよー』
「至れり尽くせりって言葉があるけど、果たしてこの世界でこの言葉を使ってもいいのかなぁ」
「お嬢様の人徳でございます」
「おはよう、スヴィータ」
「はい、こちらではおはようございます。王家へ伺える日時は伝えておきました」
「ありがとう。それで、この部屋については何か知ってるのかな、スヴィータは」
「お嬢様が愛されておいでで何よりです」
いつの間にか後ろに控えていたスヴィータを連れて小部屋……とは言えない広さの部屋へ足を踏み入れる。
ニーナさんの工房で見たような調薬用の器具からキッチンに冷蔵庫、おおきな鍋に錬金台。
部屋にあるのは簡易的なキッチンだが、こっちにあるのは結構本格的なキッチンのようで、スヴィータの目が輝いているように見える。
私も料理は出来なくもないが、作ってもお菓子程度の物で本格的にはやったりしない。
将来の事を考えると今のうちに覚えておこうとも思うのだが、たぶん、スヴィータは着いてくるんだろうなあと思ってもいる。
「今日は素材の採集ついでにレベル上げとかしようと思ってたんだけど」
「薬草に魔霊草、カッセイタケ……あとはMPポーションとキュアポーションの素材でございますね」
「今ポーション不足で困ってるとか聞いた気がするんだけど」
「お嬢様がこれを使って高品質のポーションを納品すれば、ノワイエ様の評価もお嬢様の評価もうなぎ登りでございますね」
「その発想はいらなかったなあ……」
調薬用の作業場にあった箱を開けたら大量のポーション素材が詰まっていての会話である。
冷蔵庫を開ければ食材が詰まっているし、本当にどうしてくれようか。
今日の予定を考え直すべきか、予定通りレベルを上げに行くか……しかし、こうまで揃っていると、試してみたくもある。
『読書の時間を生産に充てては如何ですか、ミラ様』
『必要なのはもう覚えたんだし、本はゆっくりでもいいと思うよ!』
『おべんきょ! おくすり! おでかけ!』
「そうだねえ……それじゃあ、読書を生産にして、そのあと出掛けようか」
「お嬢様、こちらのキッチンを使用させていただいても?」
「スヴィータ、料理スキル取ってるの?」
「勿論でございます。というか、メイドスキルがございまして、それに統合されている形でございますね」
「成る程。うん、使っていいよ。使わないのも勿体ないしね」
「それでは、ケーキでも焼いておきますので、生産が終わったらお茶に致しましょう」
「うん、楽しみにしてる」
そういえば、とーま君から聞いたんだけど、東の港町との交流が復活したらしい。
アンデッドの脅威はあるんだけど、一番の原因が他にあったらしくて……なんだっけ? えりあぼすっていうのを討伐したパーティーがいて、そのパーティーが港町に到達した時点で何かイベントがあったらしい。
アンデッドは松明とかで馬車の周囲に火を用意することで街道を使うことが出来るようになって、食料品や素材などの流通が回復し始めたんだって。
ワールドクエストが控えているこのタイミングで流通が復活したのはいい事だし、えりあぼすは次に挑むパーティーからは弱体化して倒しやすくもなったのだとか。
えりあぼすってのはよくわかんないけど、倒さなきゃ通れない門番みたいなものだったのかな。
近いうちに東の商業区に行けば掘り出し物とかも見つかるかもだってさ。
「それじゃあまずは基本のHPポーションからだね。空のポーション瓶はどれくらいあるのかな? 水は……キッチンの水道よりもこの個別の水瓶を使ったほうが良さそうだね」
『瓶はいっぱいあるよー、この箱にたくさん入ってる!』
『ミラ様、ダイアリーでサポート致しますね。レシピ等記録してあります』
『ぴ! みーりゃ、ぶれす、ぽーしょん! つよい、よ!』
それじゃあ、軽く生産活動に励んでみましょうか。
カホレンジャーはさまざまな場面で過保護




