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行き先とナンパとメイドさん

 



『そういえば、メサル、ティム。黒いほうのヴェールについてるスキルなんだけどさ』


 冒険者組合で熊さん以外の、ゴブリンとかウルフとかの素材を売り払って施設を出たところでふと思い立った。

 今つけている白いヴェールに記されているのは情報隠蔽で、黒いヴェールの方は情報遮断になっていたと思うのだ。

 今日のダイアリー担当はメサルで、ティムは私の肩の上、サビクは相変わらず私の首に巻き付いている。


『ええと、そうですね。情報隠蔽の方は、外部からの看破系スキルを防ぐようです。情報遮断ですが、こちらはそもそも看破の対象にすらする事が出来なくなります。ヴェールを纏っている間は、ヴェールを境に空間が断絶している……と言いましょうか』

『ミラちゃんがそこに居るのはわかるんだけど、誰が居るのかとかどんな人なのかとか、印象にも残らなくなるの。それで、すぐに忘れちゃう。そんな感じ!』

『ただし、戦闘行為などを行っている場合は遮断能力は低下するようですね。それでも、情報隠蔽よりも強力な力は発揮するようです』


 思った以上に凄い効果だったっぽい?

 忘れられた神様がくれた装備だけに、関連する力が強化されたのだろうか。

 聖女として活動しないときとか、一人で行動する時とか好きなことしたい時にはこっちの黒い方をつけている方がいいかもしれないね。


『例えばさ、黒いヴェールをつけてるときに会って会話した人に後日白いヴェールつけてる時に会ったりしたら、その人は同一人物だって理解できるの?』

『たぶんだけど、無理だと思う。ミラちゃんが自分からばらしたりしない限りは結びつけるのはできないんじゃないかな』

『神装とはそういった物でございます。ですので、名乗る名前も別の物にすると良いかもしれませんね』


 えっちい黒の祭服はともかく、こっちは随分と有用な物を貰ったんだなーとひとりごちる。

 冒険者組合を出て辿り着いたのは街の中央広場。

 女神像の周囲に転移で姿を現すプレイヤーや、露店を開いている人々。

 女神像からは西以外の全ての門に転移出来るというのは昨日とーま君から教えて貰った。

 最初のうちは歩いて覚えた方がいいけど、急いでいる時とかには使うといいってね。


「さて、それじゃあどこに行こうかな?」


 精霊語で話すのをやめて、女神像を見上げて佇む。

 前回とーま君と行った東に行くか、他の方角を見に行くかの話だ。

 東ではある程度進むまではあの熊さん以上の敵は現れないらしいから、少し物足りなく感じてしまう。

 となると北か西になるのだが、北の豚さんは加速キックで一撃だというのは判明してしまっているのである。

 でも、西は一番強いらしいんだよね。


『ミラ様。夜になると活動するモンスターも変化しますから、再度東を進んでみるのもよろしいかと』

『東には交易を主にしてる港町があるらしいし、何か面白いものあるかも!』


 成る程。

 時間帯でモンスターが変わるというのは面白いね。

 今は夕方で、もう数時間もすれば暗くなる頃だろう。

 もしかしたら、パワーアップした熊さんとかもいるかもしれない。


「それじゃあ、また東に行ってみようかな」

『……あの、ミラ様? 気のせいかもしれませんが、今とても嫌な予感がしたのですが?』

『ミラちゃん、トーマクンさんの狼達が居なくても熊さん倒せるのー?』

「うん? まあ、あの熊さんくらいなら時間はかかるけど倒せるんじゃない? 結局一回も攻撃受けなかったしねー」


 言いながら女神像に触れて、東門へ行くことを願う。

 足元から光が溢れて、一瞬の暗転の後に違う景色が視界に飛び込んだ。

 そこは門の近くにある小さな広場で、転移者に危険がないように用意された空間らしい。

 突然道の真ん中に現れても通行人が困ってしまうもんね。


「人が多いねぇ」


 さっさと広場を出て門へ向かおう。

 広場の出口付近にはたくさんのプレイヤーが集まっていて、パーティーの募集とかをしているらしい。

 私みたいな初期装備をしたままの人たちや、きちんとした装備を纏ったベータプレイヤーらしき獣人さん。

 生憎私は知らない人とパーティーを組むのはご遠慮願うので、その集団は素通りして広場を出る。



「ねえねえ、そこの君。初心者だろ、良かったら俺のパーティーに入らない?」


 ふと影が差して、立ち止まる。

 ヴェールで顔を隠しながら見上げてみると、私の進路を塞ぐように立つ一人のプレイヤーらしき男性。

 とーま君より背の高い男の人で、金ぴかの髪に碧眼。

 頭の上には獣の耳は見当たらないけど、何の獣人だろうね。

 さて、パーティーがどうとか言われていたっけ。


「私に、なにか?」

「おっ、声も可愛いね。その布外して顔も見せてくれると嬉しいな……ああ、自己紹介がまだだったね、俺はガイウス、ベータプレイヤーさ」

「はあ……? 祈り人が私になんの御用でしょうか……それと、申し訳ありませんが素顔を晒すのはご遠慮させていただきます。それでは」

「えっ、ちょ、待ってって」


 よそ行きモードを発動すると、肩のティムからブーイングが飛んでくる。

 どうにもティムはこの口調が好きじゃないらしい。

 理由を聞いたら、メサルが増えたみたいでやだーって言って、体当たりされていたのは記憶に新しいね。


「き、君、プレイヤーだよな? 女神像で転移してきたし……」

「それが、何か? 申し訳ありませんが、お仲間は他を当たられる事をお奨め致します。わたくし、先を急ぎますので」

「いやいやいや、NPCは像の転移とか出来ないから、プレイヤーだろ? なに、そういうロールプレイ? それならそれでいいしさ、それに、夜は危険だよ? 一人で出ていくなんて自殺行為、プレイヤーじゃないって言うならそれこそ俺としては見過ごせないっていうか?」


 ううん、しつこいなあ。

 ていうか、この男の視線はさっきからずっと私の胸にしか行ってないんだよね。

 チラチラ見られるのは不快だけど、凝視されるのも不快なんだけどな。

 バレてないと思ってるんだろうか……実に度し難い。

 全力疾走して振り切ってもいいんだけど、聖女してる時にはやりたくない……うん、自分で決めた事だけどめんどくさいね、これ。

 まあ、そういう制限つきで遊ぶのもそれはそれで楽しいだろうし続行するけれど。

 ノアさんの顔に泥塗りたくもないしね。


「東門って事は、港町の方に行くんだろ? 俺達も同じ方向だからさ、護衛してあげるよ」

「結構です。見ず知らずの方に預けられる命ではございませんので」


 そりゃ同じ方向じゃなかったらここには居ないでしょうともさと言ってあげたい。

 ううん、こうなるんだったら最初に精霊語でも使っておけばよかったかな。

 現実でもたまにナンパに合うのだが、母国語で話してやればあっという間に退散してくれるからね。

 今から精霊語使っても、話通じるってバレてるからなあ……本当に、どうしよう?


「ちょうど君で六人目なんだ。なに、僕はベータでも結構有名人だからさ、安心してくれよ」

「え、あのっ、痛っ」


 距離を詰めた男が私の手首を掴み、引っ張られる。

 咄嗟に空いた手でヴェールを抑えるが、相手の力が思いの外強い。

 彼が向かおうとしている先には四人の女性。

 女性の方はワンピースだったり軽装だったりで、初心者らしい。

 これ完全にであいちゅーとか言う奴ではなかろうか。

 こういったネットゲームには必ずと言っていい程であいちゅーとかいう人種が存在していて、やるゲームを間違えている脳みそ下半身な猿ばかりだから、出逢ったら即逃げるか通報してくださいねってとーま君が言ってた。

 よくよく見たら視界の隅にハラスメント警告を行いますか? とかってインフォメーションも表示されている。

 あー、でも私がプレイヤーだってバレたくはないんだよなぁ。


 ……どうしよ?


「その手を放しなさい、下郎。貴方ごときが触れてよい方ではありません」

「さべばっ!?」


 スカコーンと、気持ちのいい音が響いてナンパ男が吹き飛んだ。

 男の側頭部になにやら棒状の物が直撃したのが見えたが、中々いい音がしたね。

 ごろごろと地面を転がっていくナンパ男から、投擲主であろう声の聞こえた方へと視線を向ける。


 くるくると宙を舞い戻ってきた棒のようなものを、頭上に伸ばした手のひらで受け止めながら姿を見せたその人。

 カツカツと踵を鳴らし、私とナンパ男を遮るように立ったのは一人の白い髪のメイドさん。

 微かに痛む手首をなでつつ、その背中を見上げる。


「お待たせ致しました、お嬢様。お怪我はございませんか?」

「……ええ、ありがとう。大丈夫よ」

「後はこのスヴィータにお任せくださいませ」


 私が見間違える筈もない、スヴィータと名乗ったそのメイドさんは詩乃さんだった。

 最初に思うのが君も外見変えてないんだねとか。

 あと、そのメイド服と箒は一体? とか。

 ていうか、よく私の事わかったね、とか。


 視線は立ち上がりつつあるナンパ男へ向けながら、そんな事を考える。


「私がお嬢様の判別がつかないとお思いですか?」

 思わないから、心を読むのはやめようね。

「善処します」

 する気ないよね?

「心外でございますね」

 うん、間違いなく詩乃さんだ。







感想とか誤字報告とか評価とかありがとうございます。


イベントパート終わったから暫くは地味になりそうですね。

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