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第十話「人造人間タイガー」

アドリブって楽しいです。

 〜面会のあらすじ〜


「面会時間は分かっていますね、山下さん」

「……ええ、分かっています。30分だけですよね?」

 念のため医師から確認をされたが、そんなことは分かっている。——会えるのは30分だけ。だから、ちゃんと伝えないと。


 ——部屋に入る。……彼女がいた。以前より大分と痩せてしまったが、紛れもなく彼女だ。

「……よ、よぉ。その、元気か?」

「……もう、病人に言うことなの、それ?」

「め、面目ねえ……」

 俺がおろおろしていると、突然彼女が笑い出した。

「……なんだよ」

「だって……元助ったら今にも泣きそうなんだもん。それが可笑しくって……っく、あはははは!」

「うるせえなぁ! 俺は本気でお前のこと心配してんだぞ!? それを————」

 そこまで言ったあたりで、彼女は急に真剣な表情になった。

「……それで、今日は何?」

「……あ、ああ」

 そうだ。こいつだって分かっているんだ。あまり無駄話をしている時間はないということを。

「……お前さ、明日手術だろ? だからさ、ちょっとだけ面白い話をだな」

「……勇気づけてくれてんの?」

「……ま、まあ、そういうことだ」

 少しだけ……いや、ものすごく顔が熱くなる。俺は本気でこいつのことが好きなんだ。どうしようもなく、本気で。

 ……だから、余計に不安になる。俺なんかの言葉で、こいつに勇気を与えられるのかと。俺なんかが、こいつのそばにいていいのかと。


「……ねえ元助。……私ね、さっきまでとっても不安だったの」

「——————え」

「でもね、あんたが来てくれた途端、それはどっかに行っちゃったの」

「————————」

 頭の中が真っ白になる。今は、何も考えられない。……けれど、それでも、彼女の言葉だけはしっかりと聞き取れる。

「——私ね。あんたがいてくれたらそれでいいの。あんたの言葉がすべてなの。勇気をいっぱい私にくれるの。…………だからさ、自信もって話してよ。きっと、笑顔になれる。勇気も持てる……ね?」

 最後の問いは、俺に向けられたものだ。気丈に振る舞っている彼女が、俺を頼っている。正直、こんなに嬉しいことはない。

 ……だから。その思いに応えないと。

「————ああ。とっておきの面白い話をしてやる。よーく耳かっぽじって聞けよ?」

「うん、ひとことも、聞き逃さないよ」

「よし、それじゃあ話すぞ」

 きっとこの話なら、こいつを笑顔にしてやれる。こいつに勇気をあげられる。

 だって、他ならぬ彼女がそう言っているのだから。

 ————よし、じゃあ話そうか。




「あのチェリーボーイが宇宙さんと子作りだってよ」




「余計なお世話だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 第十話「人造人間タイガー」


 思わず叫んだ。だって長いもの。長い上に余計なお世話だもの。なんなの今のあらすじ。ここまで俺を煽ってきたあらすじなかったよ? 中々に手の込んだ煽りだったよ? しかもしっかり前回までのあらすじまでちゃんとやりやがったよ? 非の打ち所がなかったよ?

「いやあったわ。うざかったわ。これだけで充分俺の勝ちだ」

 もうこれで納得しとくしかない。じゃないと胃がもたん。

「ちなみにこの後山下さんの彼女さんは無事手術に成功、二人は幸せなキスをしてエンドロール。でもエンドロールが下りても二人の物語は続くっつー寸法です。いやーよかったですね。おめでたい!」

「ああそうだな。全くもってめでたいなお前の頭は」

「うわーダーリンひどいですー。父さま母さまの前ですらそんなテンションだなんてー。でもまあそこに私は惚れたわけでして」

 思いっきりカウンター決めたつもりだったが、なんかむしろ元気になっている宇宙さん。くそうざい。

 ……まあそれはともかく。

「……で、家業なの? その、子作り」

「だってそりゃあ私たち新しい宇宙作んなきゃダメなんで」

「……………………」

 スケールでかい。……いや、スケールでかいのにはもう慣れた。問題はそこじゃない。

 スケールでかいはずなのに、なぜか身近なんだ。宇宙を創造する。うん、そこはいい。さすが宇宙、スケール違うねえ、で済む。


 ……子作りって何?


 子作りってなんなんですか。急にリアリティーで出してよ。なんなのホントにさ。


「いやー大変なんですよー。どこの宇宙の住人か知りませんけど、『世界を、救う。————アイツを、救う』とかなんとか言っちゃって並行宇宙を創造しやがったんですよぅ。……いやまあ愛って大事ですけどね、宇宙増やす側としては大変なんですよー?」

「……待って。それで並行宇宙どうなったの?」

「それなんですよぅ。とりあえず時間止めてたんですけど、解決法が見つからなくて何度か再構成したんですよぅ……」

「……何を?」

「……え? 何って、宇宙ですけど」

「アッハイ」

「○ッガイ?」

「ううんアッハイ……じゃなくて。いろいろ言ってたけど、何度も宇宙終わってたのってそういう理由だったの?」

 スケールでかいのもやっぱヤバイわくそ。

「そういうことですねー。まあですから、ダーリンが来てくれたのは本当に嬉しいんですよ? おかげで宇宙作れそうなんで」

「……それって義務感?」

 それもあるだろうけど、正直、それだけだとちょっとアレだな……うん、アレだ。アレなんだよ。

「……まあそういうのもありますよ。————けど、私、ダーリンのこと好きですから。こうして対等に接してくれますし、なんだかんだ言いつつも助けてくれますし……」

「————————」

 急にしおらしくなんなよな。またゲリラかよ。

「……だから、ダーリンさえよければ、一緒に、がんばってくれませんか?」

 やめろ。そのゲリラは俺に効く。やめてくれ。

「……ったく、しゃーねーな。やってやろうじゃねえか」

「ダーリン……! 大好きです、私……!!」

 抱きついてくる宇宙さん。

 ヤバイ。頭まっしろ。

「見てみなさい母さん。彼は相当なツンデレだよハハハ」

「ええホントね父さんオホホ」

 なぜか笑っておられるご両親。

「いやあ君の誠意はよくわかったよ。……娘を……グスッ……よろしく頼むよ」

「は……はい。こちらこそよろしくお願いします……」

 誠意も何も、子作りオッケー出しただけなんだけど、いいのかなそれで。

 ————と、父さまに肩をガシッと掴まれた。

「だがまあ試練は受けてもらう。それを突破できたら良しとする」

「あ、はい! な、なんでございましょうか!!?」

 見事テンパる俺。まあでも仕方ないよね。こわいもん。相手は宇宙さんの父親だもん。

 だからきっと試練というのもヘラクレスが与えられたという十二の試練のような壮絶な————


「えー、いまから君には娘と一緒にいろんな宇宙に行って、十二人の仲間を作ってきてもらいます」

「————————————え?」

 街コンかなんかですか、それ?

「それまで私が並行宇宙が生まれそうな宇宙の時間は止めておくから。2億年ぐらいは止められっから、リラックスして頑張るんば」

「————はい、頑張るんば……」

 やっぱりスケールでかいのかちいさいのかわからんな。

「じゃあ早速行きましょうダーリン!」

「お、おい! だからはえーって!」

 俺は叫ぶ。しかし、やはり宇宙さんの謎パワーによってどこかの宇宙に飛ばされたのだった。




「————リン、ダー————」

「う……ん、ここ、は」

 目がさめる。意識が戻る。そして目の前には。

「リ○ダリン○ー、リ○ダ○ンダリン○ーああ〜」

 俺の名ではなく、歌を熱唱している宇宙さんがいた。


「いや、ダーリンって言ってたんじゃないんかい」

 寝起きだがしっかりつっこむ。それが俺の流儀である。

「リ○ダ○ンダー、リン……あいたっ!? もう、何するんですかダーリン!?」

「うるせえ。目覚ましか何かかそれは」

「ご名答!」

 ゲリラうぜえ。

「とにかく、ここはどこなんだ。お前宇宙なんだし教えてくれよ」

 それぐらいはなんとかしてもらわないとな。

「うーん、ダーリンもう私の家に入りましたから、そういう感覚次元はとっくに宇宙ですよ?」

「!?!?!?」

「いやそんなスパ○ボで人工知能搭載ユニットが破壊されたときみたいな声出さないでくださいよー」

「出てたのいまの!?」

「ええ、もうバッチリと。……だから言ったじゃないですか。感覚次元が宇宙レベルって」

「えーと、それってつまり、俺は常時翻訳機能付きコンニャクを摂取した状態というワケか?」

「まーそういうことです。さらに宇宙エディションなので、地図機能もインプットされています!」

 すげえ。何がすげえって、展開のごり押しっぷりがすげえ。

 というワケで、地形情報を確認する。

「どれどれ、ここは……『科学次元の地球、東雲財閥前』……」

「最初はダーリンの故郷、地球にしてみました! って言っても、ダーリンがいた宇宙よりさらに文明レベルが高いですけどね!」

 なんでお前がそんなにも自信たっぷりなんだ。

「つーか、どう考えてもお前の方がすごいだろ」

 当然だわな、宇宙だもん。

 だというのに。

「はわわわわ……急に褒めないでくださいよぉ……」

 それなのにものすごく照れる宇宙さん。超かわいい。

「いやなんつーか、お前さあ、アレだよな。意外とシャイだよな……って、忘れてた」

 そういや大事なことをまだ聞いていなかった。

「ふえぇ……どうしたんですかダーリン?」

「いや、お前の名前。まだ聞いてなかったなって」

「あ。ホントですねー」

「だろ? だから教えてくれよ」

 当然だわな。俺は覚えてないから仕方ないとして、こいつにはあるんだし。

「わかりました。じゃあ教えますね」

「もったいぶんなくていい! はやく!」

「人造人間タイガーだ」

「!?!?!?」

 またも人工知能と化す俺。まあしゃあないな。すごい名前だったんだもの。

「いや待ってダーリン! 今答えたのは私じゃないですって!」

「え?」

 そう言われて彼女の方を見ると、

「俺は。人造人間タイガーだ」

 いつの間にか変な輩が会話に参加していました。


 〜つづく〜


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